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第188話 クロウちゃんとの相談

 学院長室での話し合いで、随分と時間が経ってしまった。総合武術部の部活も、もうそろそろ終わる頃合いだね。

 地下洞窟の件を頭の中で整理したいので、今日の訓練を行っている剣術訓練場には行かずに、学生食堂に寄って食事してから寮に戻ろうかな。


 そう言えば、いつも利用しているこの食堂でひとりで食事するのは滅多にないな。

 たいていはうちの部員たちと一緒だけど、まあたまにはいいでしょ。

 そんなことを思って夕食を食べ始めながら、頭を地下洞窟へと切り換える。



 再度の探索か。この前は『始まりの広間』から『繋ぎの大広間』、そして『別れの広間』と名付けられている3つの広間のような空間を辿った。

 アンデッドがいたのは繋ぎの大広間の手前の通路からで、大広間に入って大量のスケルトンと4体のレヴァナントを掃討。


 そして次の別れの広間で、4体のレヴァナントと1体のレヴァナントナイトと闘った。

 俺が倒したやつは先生方の検証の結果、ジェネラルではなくナイトと判断したようだね。

 つまりその先には、レヴァナントナイトとともにレヴァナントジェネラルが控えている可能性もある訳だね。


 ナイトが複数いて、更にジェネラルが存在する場合、レイヴンだけで倒すことができるだろうか。

 ナイトと真っ向から闘えるのはジェルさん、そしてエステルちゃんぐらいか。

 ただし、援護や遊撃は付けなければ厳しいかな。レイヴンにティモさんも加わって貰って、3人ひと組で2チームか。何体出現するかがまったく分からないけど、こいつはなかなか大変だぞ。


 前回と同じように、ウィルフレッド先生とフィランダー先生は参加するだろうか。

 このふたりにイラリ先生が加わって同じく3人のチームを組めば、ナイトでも充分倒せると思うが、さて果たして。

 アンデッド大掃除という公認された仕事ならともかく、王宮魔法顧問を兼任するウィルフレッド先生と元王宮騎士団騎士のフィランダー先生が参加出来るのかは分からない。



 独り夕食を終え、寮に戻る道すがらも考える。


 問題なのは、別れの広間から異なる入口の道が3本伸びていること。

 どれが正解なのか、どれも正解なのか。それぞれがどこに続いているのか。行けばどこかで合流するのか。それともどれかはトラップなのか、行き止まりなのか。


 更に問題なのは、どの通路の先にも俺の探査を阻害する何かがあるということだ。

 誰も探索をしたことがないという別れの広間の先がまったく不明のなかで、これだけは確実だ。

 つまり、俺の固有能力である探査や空間検知を妨げる、強力な何かが存在しているということかな。



「おかえりなさい。おや、ザカリー様おひとりかい」

「あ、ブランカさん、ただいま」


 寮を管理しているブランカさんと入口で出会った。


「なんだね、珍しく難しそうな顔して。なにか悩みごとでもあるのかい」

「いえ、悩みというほどではないんですけど」

「それでも、ひとりで考えるより誰かに相談すると、いい考えが浮かぶこともあるのよ。たとえ、その相談相手が解決してくれなくても」


「ああ、そうですよね」

「誰も相談相手いなかったら、私が相手になりますよ。まあ、助けにはならないかもだけどね」

「ブランカさん、ありがとう。その時は、ぜひお願いします」

「あいよ」


 そうだよね。誰かと話すことで、すべきことや解決への筋道が見えて来る場合もある。

 ありがとうございます、ブランカさん。



 部屋に戻った俺は、相談相手にクロウちゃんを呼ぶことにした。

 クロウちゃんは屋敷にいるかな。

 この学院の寮から屋敷までは約1キロメートル。式神で俺の分身みたいな存在であるクロウちゃんなら、どんなに離れていても通信や感覚を繋げることができる。


 じっさい以前、まだグリフィニアにいた頃にクロウちゃんを王都に行かせて、300キロも離れた距離で視覚画像を繋げたことがある。

 あれはヴァニー姉さんが学院に入学した時だよな。

 ただ当時見えたのは、解像度のそれほど良くない断片的な画像だったけどね。


 あと、ブラックドラゴンのアルさんから教わった念話はまた別だ。

 これはこの世界の魔法だし、会話という形態で双方向のやりとりをするので、俺とクロウちゃんの間でも現状はせいぜい数百メートルぐらいが限界だ。

 これはエステルちゃんとの間でもそうだね。


 だから、俺とクロウちゃんだけが繋げられる通信で、ちょっと相談ごとがあるから寮に来て、という思念を送る。

 あ、話したいだけだから、エステルちゃんに心配させないようにね、というような意味の意識も付け加えて送った。

 直ぐにクロウちゃんから、了解を意味する思念が返って来た。



 部屋の窓を開けておくと、暫くして羽ばたき音も無くクロウちゃんが飛び込んで来た。


「ちゃんとエステルちゃんに、心配しないでって言って来た?」

「カァ」

「え、袋? ああ、お菓子を持たされて来たのか」


 首から下げている袋が膨らんでいると思ったら、お菓子がたくさん詰められている。お茶請けですね。では、お紅茶でもいれましょう。カァ。



「いや、話と言うのはさ。地下洞窟の件なんだよ」

「カァ、カァ」

「いや、進展があったというより、今日、オイリ学院長とイラリ先生のエルフコンビに呼ばれて、話し合ったんだ」


 今日の話し合いの内容を、自分の頭でも整理する意味合いも含め話して聞かせる。

 クロウちゃんは、その幾分長い話を黙って聞いていた。お菓子を食べながらだけど。

 ほら、俺のベッドの上で食べるのはいいけど、こぼさないでくださいな。


「そんな感じ。どう思う?」

「カァカァ」

「地下洞窟、いや地下墓所か。それについて、まだ分からないことが多すぎるよ、か。そうだよね」


「カァ、カァ」

「それに、現在の王家側の考えがどうなのか。そうか、そうだな。キミは良いところに気がついた」

「カァ」


 ミルカさんから聞いた話と、今日のイラリ先生たちの話を総合すると、あのアンデッドはワイアット・フォルサイス初代王が地下墓所まで建設して葬り封じた、部族王マルカルサス一族とその兵士たちで間違いない。

 レヴァナントが騎士や戦士で、スケルトンは一般の兵士といったところか。


 現在の王家は、当然にそれを承知しているだろうし、深く追求するなということだとすると、臭い物には蓋をしておきたいのだろう。じっさいひどく臭いのだけど。カァ。


 だけど、ただそれだけなのだろうか。

 800年もの間、そうして来たとは言え、何かの理由で現在アンデッドの動きが活発になっている。

 王家はそれでも、蓋をして洩れ出た物だけの対処で済まそうとしているのだろうか。

 そこが分からない。



「どちらにしろ、直ぐに探索行動をするのは危険だな」

「カァ」

「これについて、やはりもっと情報収集をする必要があるよな。地下墓所内部とアンデッドの戦力、それから現在の王家の考えか」

「カァ」


「アルさんにも聞いてみようと考えてるんだけど、キミはどう思う?」

「カァカァ」

「そうだよね、あのドラゴン、人族のことにあまり関心がないからなー。でも、なにか知ってる気がするんだ」


「カァ」

「クロウちゃんが呼びに行ってくれるって? じゃ、そうして貰おうかな」

「カァ」


「いや、今からはまずいでしょ。まず、どこに来て貰うかだけど。あの地下洞窟の入口があった、大岩の辺りがいいのじゃないかと思うんだ。誰も近寄らせない森の中だし、ちょっと開けた場所があったよね」

「カァ」


「うん、明日の夜なんかどうだろ。クロウちゃんは悪いけど、夕ご飯を早めに貰ってから呼びに行ってくれる? あ、エステルちゃんには事情を簡単に書くから、持って行って」

「カァカァ」


「エステルちゃんも来たがるだろうけど、夜の学院内だし、明日は我慢して貰うよ。情報を聞くだけだし、そこんとこ、キミからも彼女にちゃんと話して」

「カァ、カァ」

「分かってるって、ちゃんとお手紙にも書きますよ」



 それから俺はエステルちゃんにお手紙を書いて、クロウちゃんが首から下げたカラの袋に入れた。


 あと、王家については、ブルーノさんとティモさんに相談だな。探索者チーム王都屋敷分室に動いて貰うしか、今のところ思いつかない。

 ウィルフレッド先生を通じて探るという手もありそうだけど、こちらは慎重を要するな。



 クロウちゃんはひとしきり自分が持って来たお菓子を食べ、ファータから来た爺さんふたりの様子などを話した後、屋敷へと帰って行った。


 さて、明日はアルさんだ。ちゃんと誰にも見られないように来てくれるよね。

 ところであのドラゴン、明日は洞穴にいるのかな。ちょっと思念を飛ばしてみよう。凄く遠いけど。


 ちょっと話したいことがあるから、明日の夕方頃にクロウちゃんに迎えに行かせる旨を、キ素力を混ぜた思念の塊に凝縮して小さく固め、窓を大きく開けてアルさんの洞穴方向に俺は撃ち出した。

 たぶん音速を何倍か超えて飛ぶよ。


 すると少し経って、凄い勢いの思念が俺にぶち当たって来る。オッケーだと。

 俺の撃ち出したものを逆に辿って飛んで来た、この思念の塊。普通の人間がマトモに当たったら死にますよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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