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第16話 ゲームと盗み聞き

 さあみんなでゲームしましょ。


 俺の家でよくやるのはコリュードという名前のゲーム。

 これはたしか前の世界にあった、南米の古代アステカで遊ばれていたパトリ、インドのパチーシ、後世のイギリスのルードやドイツの「怒らないで」という変わった名称のボードゲームとよく似ているみたいだ。

 ふたりから4人まで遊べるゲームで、プレイヤーは十字形に配置された升目のそれぞれの頂点に陣取り、自軍陣地から出発して、サイコロを振って出た目でコマを進めながら一周し、再び自軍陣地にゴールするというもの。


 ようするに双六すごろくの原型で、俺がいた前世でも、ふたりで向かい合ってサイコロを振りコマを進める、盤双六がみやこの上流層で流行っていたな。

 俺もときどき小姓の万吉くんたちと遊んでいたし、山科おじさんも好きで遊びに来るとよく対戦したものだ。盤双六は、後のバックギャモンの原型なんだそうだよ。


 この世界のコリュードも、他のプレイヤーのコマがいる升目に自分が進めたコマが重なると、先にいたコマをその人の陣地まで戻すことができるのだけど、4つの持ちコマには「騎士」「戦士」とふたつの「兵士」という、異なる強さが設定されている。

 それで例えば、自分の兵士が他のプレイヤーの騎士に重なるなど、自分より強いコマに当たると、相手ではなく自分のコマを自軍陣地に戻さなければならない。

 また4人で遊ぶ場合には、ふたりずつの同盟を組んで戦うこともでき、サイコロの出目の運と戦略性が合わさったゲームになっているんだね。

 ちなみにコリュードという名前は、前の世界の言葉では「共謀」って意味だけど、こっちでもそんな感じ。


 さてじゃんけんの結果、俺はアビー姉ちゃんと組むことになったから、ヴァニー姉さん・カロちゃん同盟VSアビー・ザック同盟の戦いだ。

 順番にサイコロを振り、自分が選んだコマを升目に移して進めていくんだけど、アビーが「ザック、あんたなんで初めっから戦士を出してるのよー」とか、うるさい。

 いいの、俺は兵士を先に出すより戦士で戦いたいんだから。



 そんなことより、領主執務室での会話だ。

 ゲームが上の空にならないように気をつけながら、センサー兼中継アンテナ・式神のクロウちゃん経由で送られて来る室内の映像と会話を、視覚と聴覚にワイプ処理する。

 もう少し習熟すれば、思考の並列処理がもっとうまく出来るようになるんだけどね。


「それでは、先日の夏至祭で処分した黒マントに関して、ご報告を」

 騎士団長のクレイグさんだね。やっぱりあの事件についてだ。

「私からご説明させていただきます」

 クレイグさんの隣に副騎士団長のネイサンさんが立っていて、彼が説明するようだ。ネイサンさんは夏至祭の警備責任者だった。


「団長が処分したあの黒マントは、遺体の検分結果から、やはり妖魔族の魔人だったことが判明しております」

「ほぉー」と商業ギルド長のグエルリーノさんが声を漏らし、冒険者ギルド長のジェラードさんは、腕を組んで難しい顔で頷いているようだ。

 ヴィンス父さんとアン母さんは冷静さを保っているので、すでに全容は知っているのだろう。

 今日は、3人の主要ギルド長への報告会というところみたいだ。


「ということは、エンキワナ大陸から来たっちゅうことじゃろかね?」

 錬金術ギルド長のグットルムさんの質問に、ネイサンさんが「はい、おそらくは。そのように推測されます」と慎重に答えた。

「それで、その魔人が、このグリフィニアに何しに来たというんだ」と、ジェラードさん。

「それについては、あの黒マント以外にあと数人の不審な者たちが、この領都にいたことが確認されています」

「魔人はひとりではなかった、というわけじゃな」

「はい、その件は、ウォルターさんから」


 ん、ウォルターさん? 家令のウォルターさんも当然この場に控えている。

「では、私から。……配下の者の調べで、あの黒マントが中央広場に駆け込んだときに広場に2名、それ以外に周辺にやはり2名ほど潜んでいたことがわかっています。それらは、クレイグ団長があの者を斬り捨てたと同時に、姿を消しています」

 配下の調べって、あー、祭りから帰るときにウォルターさんの側にいた、なんだか存在が薄い感じがした小柄な人のことかな。

 あの人、ウォルターさんの配下なのか。ウォルターさんて、何者??


「つうことは、広場の顛末を見聞してたってことだな。つまり、プロチームってわけか」

 探索や工作のプロは必ず複数で行動する。何かあった際に誰かが報告のために帰還する必要があるからだ。全滅はプロには許されない。



「たぶん、ジェラードの言う通りだろう」

 それまで黙っていたヴィンス父さんが口を開いた。


「われわれの推測では、おそらくは祭りの最中に何かちょっとした騒ぎを起こそうとした、ということではないかと睨んでいる」

「それが、ひとり黒マントが先に警備兵に見つかってしまったと」

「それほどたいした工作ではなかったのでしょう。警備兵が最初に見つけたのは、中央広場から少し離れた大通りに出ていた屋台で、大声を上げて店の親父にいちゃもんをつけていたあの黒マントでした。どうやら、揉め事を起こして騒ぎを大きくしようとしていたようです。黒マントに同調して、口汚くヤジを飛ばしている者もいたとの証言もあります」

 と副騎士団長が説明する。

 そんなことが起きてたんだね。


「それが、想定していた以上に早くうちの警備兵が到着して、騎士と従士も駆けつけたものですから、騎士が声をかけた途端に中央広場に向けて駆け出したということです」

「騒ぎを起こして、治安状態やこちらの対応力を観察しようとしていたのではないかな」

「そういうことですか。祭りをぶち壊そうとしてたわけではないんですな」

 グエルリーノさんが、今さらながらに安堵の声を漏らした。

「いやいやグエル、これは手始めってやつだぜ」


 俺はサクヤから聞いていたから分かっていたけど、ジェラードさんの言うとおり、手始めってやつなのだ。


「そうだな。おそらくエンキワナの妖魔族は、このセルティア王国いやニンフル大陸に対して何かを目論んでいる。どんな目論みかはまだわからんが、それでたぶん、ティアマ海に面していて港のあるわが領に手を出したのだろう。ほんのちょっとした探りの手だろうけどね」

 父さんの言葉に、騎士団長がこう続けた。

「すでにこの件は王都に報告を送り、ほかにこのような事件が他領でも起きていないか問合せをしている。それから子爵様、奥様、騎士団、内政官が協議し、今後に備えるための対策の検討を始めているところだ」


「まずは、子爵領軍の整備だな。そのほかも含め、詳細な計画がまとまり次第また知らせるが、ジェラードのところをはじめ、各ギルドには今後いろいろと協力を仰ぎたい。なんだか俺は、とても嫌な予感がするんだよ」

 と、ヴィンス父さんが話を締めて頭を軽く下げた。


 これが今日、3ギルドの長を招いた目的だったんだね。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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