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第182話 屋敷の門番さん、遠方より来たる

 翌朝、起きて早々に、コツコツと寮の部屋の窓を叩く音がした。

 クロウちゃんだね。いつものエステルちゃんお手製朝食弁当だ。


「カァ、カァ」

「昨日はグリフィニアまで、ご苦労さんだったね。なに? お手紙を持って来たって?」

「カァ」



 手紙は2通。アン母さんからとウォルターさんからだ。

 早く読みたいし、今朝は学院内での早駈けは休んで、朝食をいただきながらにしましょうか。

 クロウちゃん、朝ご飯は? カァ。食べて来たから、お菓子をくれって? まあお駄賃にあげますか。


 母さんからは、突然届いた俺からの手紙に驚いたものの、王都屋敷の留守番や門番を必要としていて、そのお願いのためにという理由が分かって安心したと書かれている。


 俺が近況として知らせた、友だちができたこと、課外部を自分で創ったことなどにも、「良かったわね。もしかしたら友だちが出来なくてとか、ちょっと心配してました」と、とても喜んでくれていた。

 魔法学と剣術学の特待生になった件については、凄く吃驚したようだけどね。



 クロウちゃんによると、アン母さんが返事を書いている側に、ヴィンス父さんとヴァニー姉さんがいて、これを書け、あれを忘れるなと言い合っていたそうだ。

 アン母さんは、「もう、煩いわよー」と言いながらも、ニコニコしながら書いていたらしい。


 手紙の最後には、「くれぐれも、くれぐれも王都で騒ぎを起こさないように。何かあったら直ぐに、クロウちゃんにお手紙を届けて貰うように」といった意味のことが記されていた。

 これは父さんが無理に書かせたんだね。

 その文章の後に続けて、「でも、エステルさんと自由にしていいのよ」と加えられていたから、これは母さんの言葉だな。


 母さんは、俺宛とは別にエステルちゃん宛にも手紙を書いたそうだが、その内容はクロウちゃんも知らないそうだ。

 どうやら昨晩、ひとりでこっそり読んでいたらしい。



 ウォルターさんからの手紙には、留守番や門番をどうするかは任せてほしい、直ぐに手配しますと書かれていた。

 ウォルターさんがそう言うなら、任せて安心だ。と言うか、なんだかそれ以上のことを考えそうなので、そっちの方がちょっと心配だけどね。


 あとは、同じくウォルターさん宛にも書いた学院での近況報告には喜んでくれ、「騎士団王都屋敷分隊と探索者チーム王都分室は、ザカリー様直属の配下ですから、自由に動かしていただいて結構です」と、あらためて書かれていた。

 念を押すような文面だけど、これどういう意味だろ。


 それにしてもうちの人たちは、学院で俺には友だちとかが出来ないのでは、と心配していたみたいだな。

 確かに小さい頃から同年代の友だちがいなかったから、心配するのも分かるけどさ。でも領主貴族の子って、そういう点で不便なんだよね。




 それから俺は普段の学院生活に戻り、特にオイリ学院長からの呼び出しもなく、講義の受講と課外部活動をこなして次の2日休日となった。


 いつものように休日の前の晩に屋敷に戻り、まるまる2日をゆっくり過ごす。

 ちなみに俺が屋敷に帰るまでは、門の鍵はちゃんと開いてるよ。それにどこかで、ティモさんとか誰かが見張っているらしい。

 玄関ホールに入ると、ちゃんとエステルちゃんが迎えに出ているからね。



「お帰りなさいませ、ザックさま」

「うん、ただいま」

「お夕飯はどうしますか? それとも先にシャワーを浴びますか?」

「夕飯は食べて来たから、シャワーを浴びてのんびりしようかな」


 なんだこれ。前々世の家庭的な会話っぽいんですけど。

 でも前々世は死ぬまで独身で、前世はカタチだけ乱世の武家の棟梁のアレだから、正直、初めての経験なんだ。

 今世でまだ12歳だけど、こんな日常もまあいいか。



「明日の午前中に、サンダーソードのみなさんがご挨拶に来るそうです」

「そうなんだ。グリフィニアに帰るのかな」


「ええ、あれからいちどいらして、冒険者ギルドにお仕事の完了報告をして、たんまり報酬をいただいたので、少し王都で過ごしてから帰りますって言ってました。レイヴンの皆を誘って、飲みに行ってましたよ」


「エステルちゃんも行ったの?」

「わたしも誘われたけど、ご遠慮して、ティモさんに行って貰いました。あの人たち、どこでも場所に構わず、姐御とかねえさんとか、わたしのこと呼びますし」

「ははは。もう諦めようよ」



「そう言えば、留守番や門番さんは、ウォルターさんが直ぐに手配してくれるそうだよ」

「そうですか、良かった。なら安心ですけど、ちょっと心配ですぅ」

「エステルちゃんもそう思う? 僕もだけど」

「きっと、良からぬことを考えてますよ」


「ところでエステルちゃんも、アン母さんからお手紙を貰ったんでしょ。なんて書いてあった?」

「えへへ、ナイショですぅ」

「そうですか」

「そうですぅ」



 翌朝、皆で朝食をいただいてのんびりしていると、サンダーソードの面々が屋敷にやって来た。

 それぞれが大きな荷物を背負っているので、これからグリフィニアに帰るのだろう。


「やあみんな、今回はご苦労さまでした」

「いやーザカリー様、お世話になっちまったのは俺たちばかりで」

「お陰さまで、5人揃って怪我も無く、グリフィニアに帰れますよ」

「お世話になりましたー」


「あのさ、今回、うちの皆が参加したのはギルド長に言ってもいいけど、僕のことはナイショだよ。冒険者仲間にもね」

「くれぐれも、お願いしますよ」

「分かってますよ、ザカリー様、姐御」

ねえさん、あたしが見張ってますから」


 いちばん危ないのは、リーダーのニックさんだけどな。まあ、ウワサ好きの冒険者だから、多少は諦めてるけどね。


 ニックさんたちは、うちの皆ともひとしきり言葉を交わし合って、元気に帰って行った。

 お土産持たせてる? 王都で売ってる、わりと高めのワインを1本ずつ持たせたのか。ありがとうね、エステルちゃん。



 その日の午後、これから何をしようかなって考えていると、ティモさんが慌ててやって来た。


「ザカリー様、大変です」

「どうしたティモさん、落ち着いて」


 普段は言葉少なで冷静沈着なティモさんだけど、その慌てぶりが珍しい。


「ミルカさんが馬で到着しまして」

「ミルカさんが来たんだ。いま馬屋かな。でもミルカさんが来て、どうしてそんなに慌ててるの?」

「それが、あとふたり」

「あとふたり?」


 その時、玄関ホールから声が聞こえて来た。なんだか大きな声だよなー。


「着いた着いた」

「着きましたの」

「ザカリー様、エステル嬢さん、お邪魔しますぞ」


 なんだか聞き覚えのあるあの声は。俺も思わず慌てて、ティモさんと玄関ホールに行く。

 2階からは、エステルちゃんが降りて来た。エディットちゃんも後を付いて来ている。



「ミルカさん、いらっしゃい。それからアルポさんと、えーとエルノさん、どうしたんですか?」


 ミルカさんと一緒に王都屋敷に来たのは、なんとファータの里のアルポさんとたしかエルノさんという、お爺ちゃんふたりだった。

 ふたりとも、ファータの里に行った時に一緒にエルク狩りをしたメンバーだよね。

 その横で、ミルカさんが苦笑いをしている。


「入学前以来ですね。お元気そうです。いや、今日はこのふたりの付き添いで」

「アルポさんとエルノさんの付き添い?」

「いやあ、1日でも早くと里から馬を飛ばして来たのじゃが、ザカリー様が屋敷に居られる日は決まっていると言うでな」


「それは、ご苦労さまでした。でも、なんで?」

「わしらで、このお屋敷を護るために決まっておりますわい」

「はあ」



「いえ、ウォルターさんのご指示で、こちらの門番と留守番役を兼ねた者を、里から出すことになりまして。それで直ぐに里に戻りましたら、またまた希望者が続出で。その日のうちに里長さとおさに決めて貰いまして、そうしたら直ぐに出発すると、このふたりが言うものですから」


「ミルカよ、何を言うておる。だいたいティモしかおらんということが、そもそも人員不足なのじゃ。騎士団のみなさんは、ザカリー様やエステル嬢さんの側に付いておらねばならんのじゃから、お屋敷の護り役は直ぐに必要になるわい」


 そう言うことか。しかし、相変わらず声がでかい。この爺さんたち、耳は凄くいい筈なんだけど。

 エステルちゃんも、いきなりのことにかなり吃驚している。エディットちゃんなんか、何が起きたのか理解不能のようだ。



「それは、遠い里からこんなに早く、ご苦労さまでした。いま、お茶をいれますから、ゆっくり休んで」

「いやいやエステル嬢さん、まずはお屋敷の確認じゃ。直ぐに配置に付くでの。なあエルノ」

「おうよ。位置取りを確認するのが仕事の第一じゃぞ。ティモよ、直ぐにお屋敷を案内しなされ」


 ふたりの爺さんは、思考と動きが停止しているティモさんを後ろから押すように、あっと言う間に出て行った。

 俺たちは、3人のその後ろ姿を呆気にとられながら見送る。

 まあ、いつもよりお疲れ気味のミルカさん。ちょっとあっちで座りましょうかね。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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