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第180話 大掃除仕事は終わっていない?

 再び護送されるようにレイヴンのメンバーに囲まれて、サンダーソードを伴い学院から王都屋敷へと帰った。

 そしてその晩は、お疲れさまということで皆で打ち上げだ。


 レイヴン全員が早朝から学院に行ってしまっていたので、ティモさんにお留守番をして貰っていたのだが、どうやら内心では彼も行きたかったみたいだね。

 探索と大掃除はどんな様子だったのか、何が起きてどんな闘いだったのか、熱心に聞いていた。俺が参加していたのには、何の疑問も持たなかったようだけど。

 やっぱりこういう場合のことも考えて、留守番の出来る門番さんとかを早く手当てしないといけないな。


 屋敷にストックしているワインや蜂蜜酒を充分に出して、サンダーソードの面々もしたたかに飲んでいた。

 俺も飲んでいいとエステルちゃんから許可が出てるから、いただきました。

 その夜は疲れているだろうと、ニックさんたちは騎士団王都屋敷分隊の宿舎に泊まって貰うことにしたので、心行くまで飲んでていいよ。



 レイヴンとサンダーソードの打ち上げはなかなか終わりそうもないので、俺はエステルちゃんに促されてほどよい頃合いで自分の部屋に引揚げた。


「ホントなら、お説教ですからね」

「えー、やっぱり」

「けれど、ザックさまがいなかったら、今日、特にあの別れの広間の闘いは、無事では済まなかった気がします。だから、お説教は保留です」


「カァカァ」

「ザックさまを連れて来たクロウちゃんも、一緒にお説教だったんですからね。でも、クロウちゃんも頑張りましたし。同じく保留です」

「カァ」


「さあ、明日はちゃんと朝ご飯を食べて、講義に間に合うように学院に行かないとですから、もうお休みくださいね」

「はい」「カァ」



 翌朝早く、今朝は日課の早駈けはお休みにしてエステルちゃんとふたり、それにクロウちゃんと朝ご飯をいただいた。

 皆はかなり遅くまで飲んでいたようで、まだ宿舎で寝ている。

 俺が朝が早いので、一緒に朝食のテーブルを囲まなくていいよって言っておいたからね。


 アデーレさんとエディットちゃんはこの後の皆の朝食の準備があるし、その時に一緒に食べるからと言うので、ふたりと1羽だけのテーブル。

 そう言えば、ふたりだけでの食事って意外と少ないんだよな。


「昨日は、ティモさんも行きたかったみたいだな。かなり残念そうだった」

「はい。でも、誰かがお留守番しないと、アデーレさんとエディットちゃんだけになっちゃいますし」

「ウォルターさんに相談するかな」


「ザックさま、お手紙を書いていただけますか?」

「うん、これからも何があるか分からないから、これ食べたら書くよ。それでクロウちゃんに、グリフィニアまで飛んで貰うかな。いい?」

「カァ」

「お願いしますね」



 朝食を終え、俺はヴィンス父さんとアン母さん、ヴァニー姉さんに宛てに、心配させない程度の近況を含めた手紙を1通、そしてウォルターさん宛にもう1通を手早く書き、クロウちゃんに託した。

 最高時速350キロほどで飛行するクロウちゃんなら、数時間あれば余裕で往復出来る。


 さて、それでは学院に行きますか。ちょっと急がないとね。

 俺の鎧装備は? え、洗うんですか。やっぱりちょっと臭いますか。だいたい、朝から完全武装で貴族屋敷街を走って行っちゃダメですよね。

 予備に屋敷に置いてあった学院の制服を着て、エステルちゃんに見送られ俺は玄関ホールを出た。



「お、ザック、おはよう。昨日はどうした」

「おはよう、ザックくん。何かあったの?」

「おはよう、です。どうしたですか?」


 クラスの専用講義室に入り、席に着くと、ライくん、ヴィオちゃん、カロちゃんが聞いて来た。

 昨日はいきなりお休みで屋敷に戻ったと聞かせれて、少々心配したそうだ。

 特に、何かを仕出かしたのではないかという方向で。そうですか。病気とかじゃなくね。


「いや、ちょっとグリフィニアからの連絡があってね」

「グリフィニアで、何かあった、です?」

「えーと、うちの騎士団関係のことでね。ちょっと分隊の皆と、相談することがあってさ」

「そう、ですか」「ふーん」


 カロちゃんは俺の言葉に、自分の地元でもあるグリフィニアで何かがあったのではないかと心配したが、騎士団関係ということでいちおう納得したようだ。

 ゴメンねウソで。仲の良いクラスメイトで同じ課外部部員のキミたちにも、さすがに言えないんだ。



 お昼休みには、学院生食堂で集まったブルクくんとルアちゃんにも急に休んだお詫びと理由を簡単に話して、4時限目の講義が終わった後には学院長室へと顔を出した。

 昨日一緒に地下洞窟の大掃除をしたイラリ先生、フィランダー先生、ウィルフレッド先生も既に来ていた。


「昨日は充分休めたかなー」

「あ、ありがとうございます。屋敷でゆっくりできました」


 ゆっくり打ち上げだったんだけどね。


「地下洞窟での大掃除の経過は、ざっとは昨日、先生方から聞いたわー。ぜんぶザックくんが指揮してくれたんですってね。お姉さんは感謝します。あらためてありがとう。ご苦労さまでした」

「いえ、ぜんぶ指揮だなんて。うちの騎士団員と冒険者の仕事ですから、当たり前のことです」


「まあ、昨日の朝、ザックが講堂で潜んでいなかったら、いったいどうなっていたのか。少なくとも、あんな短時間で別れの部屋までは行けなかっただろうな」

「そうじゃの。お主んとこのパーティは確かに強かったが、それもザカリーの指揮があってのことじゃった。のう、イラリ先生」


「はい。ザカリー君が指揮してくれなければ、おそらく別れの広間まで行けなかったと思います。もし行けても、中を覗いて撤退したでしょう」

「イラリ先生から、あのレヴァナントナイトだかのあれは聞いたが、何でも魔獣の咆哮とおまえが言っていたそうだな」


「ええ、僕が幼い頃にアラストル大森林で体験した魔獣カプロスの咆哮に、良く似ていましたので」

「待て待て待て、おまえ、幼い頃にアラストル大森林でって、いくつの時だ」

「あ、5歳かな」

「お主、5歳でアラストル大森林に行って、魔獣に出会でくわしてるのかの」


「えーと、騎士団見習いの大森林特別訓練に参加させて貰いまして」

「ほぉー」

「さすが、グリフィン子爵家だな。5歳の、それも子爵家の長男を、危険な大森林での訓練に参加させるのか。無茶をする。いや、ザックなら無茶じゃないのか」


 思い起こせば、無茶だったかな。あの時、良く父さん母さんが許してくれたよね。

 尤も、無理はしないが無茶はするのが俺の信条だ。自分で言うなって。すみません。



「話を戻しますが、その時、ザカリー君はカプロスに遭遇したと。それでその、魔獣の咆哮を見た訳ですね」

「おいおい、カプロスと言えばヘルボアってヤツだろ。危険度高ランクの魔獣と聞いてる」

「はい、村とかを襲うと壊滅するそうですね」

「壊滅するそうですねって、おまえ」


「私も昔、冒険者をしていた時代に、数回その姿を見たことがあります。でも直ぐに逃げましたよ。だからその咆哮というのは、見たことがない」

「どうやら、攻撃して怒らせると出すみたいですね。その時は知らなくて、迂闊に攻撃しちゃいまして」


「騎士団で攻撃したのか?」

「いえ、僕とエステルちゃんで。あとカプロスを見たのはブルーノさんだけですね。騎士団は見習いの子たち中心だったので、直ぐに退避させましたから」

「…………」


「おまえと、あのエステルさんだろ。それからブルーノさんか。おまえら、本当に凄いな」

「いえ、あの時は僕も幼かったですし、ちょっと攻撃してみたら咆哮を喰らいそうになって、エステルちゃんに援護されて逃げましたよ。それで隠れていたら、カプロスが森の奥に引揚げてくれたので、命拾いをしました」

「…………」


 本当はフェンリルのルーさんが現れたから、カプロスは逃げたんだけどね。

 それは言えないし、更に話が混乱する。



「それで、魔獣の咆哮というのは、つまり何なのじゃ。魔法ではないのか」

「ええ、凄く強大なキ素力を体内に循環させ、それを口から咆哮として吐き出すものだと僕は考えています。殺傷力と言うよりは、マトモに当たると吹っ飛ぶとか気絶するような力ですね」

「それと同じようなものを、あのレヴァナントナイトが放ったということじゃな」


「おまえんとこの冒険者がふたり、それでやられた訳か」

「でも比較的距離の近かったロブさんは倒れましたが、なんとか身を護って気絶には至りませんでした。それより遠くのセルマさんも逃げ遅れましたが、掠っただけで済みました。でも凄い衝撃だったようです」


 つまり、風魔法とかと異なって、衝撃波みたいな感じなんだよね。

 俺が近接で使える、キ素力を込めた掌底撃ちに威力的には似ているのかな。

 そう言えば、同じく咆哮が掠めた筈のニックさんが耐えたのは、俺に昔、掌底を撃たれた経験があったから、とか? そんなことないよね。

「ただ単純に、丈夫なだけさね」と言う、マリカさんの声が聞こえる。



「そんな、凶悪魔獣と同じ力を使えるレヴァナントが、この学院の敷地の地下にいたって訳ねー」

「そうだねオイリ。そのようなレヴァナントがまだ潜んでいるのか、それにどうして、アンデッドどもが増えていたのか、更に確認したいところですが」

「うーん、そうなんだけどねー」


 これは、このままで終わる感じじゃないよな。

 しかし、この王都のど真ん中、多くの学院生が学ぶ王立学院の地下というところが、なかなか難しいところだ。

 先生たちはそれぞれに、難しい顔になって考え込んでいた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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