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第177話 偵察と戦闘準備

 クロウちゃんにかけた魔法は、まさに先生方が入学式の時に目撃した、ブラックドラゴンのアルさんがよく使う姿隠しの黒魔法を基にしたものだ。

 先んじて修得したエステルちゃんに手伝って貰って、俺はその黒魔法に防御結界の呪法を組み合せて合成した。


 その魔法と呪法の合体版を、自分以外にかけるのはとても難しいのだけど、クロウちゃんは前世の呪法で生みだした式神で俺の分身みたいなものだからね。

 それでぶっつけ本番だったけど、なんとか成功させたという訳だ。


 この魔法を長時間維持するために、細くて強靭なキ素力のケーブルで繋げてある。

 200メートルぐらいは伸ばせるが、それが途切れないようにゆっくり飛ぶように指示して後を追った。

 クロウちゃんに伸びるリードを付けて、散歩してるみたいだよな。カァ。



 10分弱ほどゆっくりと進むと、クロウちゃんの視覚を通じて別れの広間の入口らしきものが見えて来た。

 通路は曲がり角になっていて、俺たち自身からは死角で見えない。

 曲がり角から入口までは100メートルぐらいか。

 そこまで到着すると先頭の俺は片手を擧げて合図し、全員を停止させた。


「イラリ先生、ブルーノさん、マリカさん」


 俺が囁き声で呼ぶと、3人は声を出さず移動の音も立てずに側に寄って来た。


「そろそろでやすか?」

「この角を曲がって少し行くと、広間の入口があります。別れの広間はそこですよね」

「はい、かなり昔の記憶ですが、確かそうでした」


 イラリ先生は長命のエルフさんだから、いったい何十年前にここを探索したのか分からないが、この辺りを憶えているようだ。


「クロウちゃんに探索して貰いますので、少々待機します。マリカさん、後ろの皆に伝えて来てくれますか」

「あいよ」


 マリカさんはまるで猫のように姿勢を低くして、音も出さずに素早く移動して行った。まるでと言うか、猫人族さんだけど。



「(キ素力ケーブルが切れちゃうと拙いから、その入口から100メートル以内の範囲で探索だよ)」

「(カァ)」


 クロウちゃんは、前々世の100メートルという単位は理解出来ないけど、イメージや感覚は共有している。

 その視覚を通じて見ていると、ごくゆっくりとしたスピードでクロウちゃんは広間の中に入り、直ぐに岩肌の天井近くまで上昇した。

 これまでのふたつの広間空間もそうだったけど、どこに光源があるのかは分からないが、通路と違って内部は意外と明るい。


 天井はやはり高くないな。建物の2階分より少々高いぐらいか。

 この高さだとあまり立体的には動けない。あとエステルちゃんの竜巻魔法とか、俺の大型の爆発系統の魔法は難しいな。



 クロウちゃんがホバリングしている6メートルほどの高さから、広間全体を見渡して貰う。

 天井が低いのに比べて、広さは結構あるね。

 アンデッドはどこだ? お、いたいた。


 こちら側の入口から右斜め前方の最奥に、壁を背にして1体がなんだか椅子のようなものに腰掛けている。

 その左右に距離を置いて2体づつが、うろうろと歩いて行ったり来たりしていた。

 合計5体。すべてレヴァナントだ。


 座ってじっとしているレヴァナントが、ひと際強そうだ。

 あとの4体は、先ほど俺が首を落としたやつ程度だろうか。武装や能力はどうだ。

 1体が弓矢の射手。もう1体が片手剣で、こいつは魔法剣士かな? カァ。そうらしいね。

 うろついているあとの2体は、両手剣の剣士だな。


 それで座っているやつは、大剣を側に立て掛けている。

 装備もボロボロだがヘルム無しの重装鎧だし、大剣使いの騎士のように見えるが、何だかそれだけじゃないみたいだよね。カァ。クロウちゃんもそんな気がするって。

 よし、だいたい分かった。ちょっと戻って来て。カァ。



 誰にも見えないけど、クロウちゃんが飛んで来て俺の頭の上に止まったので、「下がりましょう」とイラリ先生とブルーノさんに声を掛け、皆が待機する後方へと移動した。


「クロウちゃんは?」


 エステルちゃんが思わずそう声を出したが、俺の頭の上を見て安心した表情になった。

 見えるのか、見えなくても感じるのか、分かるんだね。さすがエステルちゃん。


「(大丈夫だったですか?)」

「(カァ、カァ)」

「(怖くなんかなかったよ、ですって? ホント?)」

「(カァ)」

「(そうでしょ。ホントはちょっと怖かったのね)」

「(カァカァ)」

「(ご褒美のお菓子はあとでですよ)」


 はい、ちょっと静かにしてね。俺の頭の中で会話が響くからね。



「広間の中をざっと探索しました」

「うむ」「おう」

「レヴァナントが5体です。スケルトンはいません」

「5体だけか。しかしぜんぶレヴァナントかよ」


「弓矢の射手が1体、両手剣の剣士が2体、それから先ほど僕が相手をしたと同じ魔法剣士と思われるものが1体」

「それで4体じゃな。して、あとの1体は?」

「ヘルム無し重装鎧装備の、大剣使いの騎士らしきレヴァナントです。しかしこいつは、おそらくかなり強い。それに何か、危険な能力か技を持っている気がします。何かは分からないけど」


「なんだか手強そうよねー。ザカリー様が魔法一発でなんとか出来ませんか」

「いや、それが広間は結構広いのだけど、天井が低いんだ。2階分少々ぐらいしかないかな。4体のレヴァナントは距離を空けて分散して、うろうろ動いている。だから広範囲に爆発を起こすやつを撃つと、なんだか天井が崩れ落ちそうでね」

「そうなのねー。ひとつひとつ倒すしかないかー」


「その強そうなのは、動いてないんですか?」

「それがオネルさん。そいつ、なんか椅子みたいのに座ってるんだ」

「座ってるんですか?」

「もしかしますと、上位種のレヴァナントナイトでしょうか。あるいは座っているということですと、レヴァナントジェネラルか。どちらにせよ、かなり厄介なアンデッドだと思われます」


 それまで黙って俺の話を聞いていたイラリ先生が、そう発言した。

 ナイトかジェネラルですか。強そうなお名前です。



「どうするんだ、ザック」

「そうですねえ」

「はい」ジェルさんが手を挙げる。

「ジェルさん、どうぞ」


「その座ってるのはザカリー様に倒して貰うとして、魔法剣士は私にらしてください」

「俺もそいつにしたかったが、ここはレディファーストでジェルの嬢ちゃんに譲るとして、じゃ俺は両手剣の剣士を貰うか」


 ジェルさんは、より強い相手と対したいようだ。

 それからフィランダー先生、それレディファーストの意味がちょっと違うと思いますけど。


 俺は全員の顔を見る。闘う気力は皆、萎えてはいないね。



「では、ジェルさんは魔法剣士を。ライナさん、サポートをお願いします。両手剣士の1体はフィランダー先生で。こちらのサポートはウィルフレッド先生にお願いできますか。

 もう1体の剣士はサンダーソードで当たってください。イラリ先生にサポートをお願いできれば。大丈夫ですか、ニックさん」

「おう、まかせてくれ」

「お手伝いしますよ」


「ありがとうございます。それで弓矢の射手はオネルさんとブルーノさんで、なんとかしていただけますか?」

「わかりました。ります」

「ご安心を、ザカリー様」


「それで、そのナイトだかジェネラルだかは、僕とエステルちゃんで片付けます。いいよね、エステルちゃん」

「はい、っちゃいましょう」


「今回は僕も、先ほどのように瞬殺は難しいかも知れません。弓矢と魔法の飛び道具を出しそうな相手を早く叩くために、まずは僕たちレイヴンが同時に突入。先生方とサンダーソードは、その後から続いてください。いいでしょうか」


「はいっ」「おう」「よしっ」



 戦闘の振分けは決めた。あとは闘うだけだ。

 姿隠しと防御結界の魔法をかけたままのクロウちゃんには、キ素力を多めに注入していったんキ素力ケーブルを切る。

 これで暫くは魔法が維持されているだろう。


 さてそれでは、突入のタイミングを計りましょうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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