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第175話 大掃除戦

 そいつは繋ぎの大広間のいちばん奥にいた。

 うごめく18体のアンデッドのボスか。まあ、せいぜい小ボスってところだな。

 縮地もどきの超高速で一直線に突っ込む俺を、他のアンデッドは捉えることすら出来ない。


 クロウちゃんが言うところの、ガリガリに痩せた変なのの目の前にあっと言う間に到着した。こいつ、魔法剣士かな。

 ボロボロの鎧装備を身に付け、古びた片手剣を右手に持つそのレヴァナントは、いち早く突入した俺に気がつき、慌てて左手を前に出して何かの魔法を撃とうとするが、もう間に合わないよ。


 俺は、念のために魔法防御盾の結界を前方に発動すると同時に、通常時の愛剣にしているダマスカス鋼の片手剣を、レヴァナントの首に目がけて横薙ぎに振る。


 そいつの乾涸びた首が飛び、どす黒い血潮が飛び散った。ばっちい。

 魔法防御盾の結界を張ってて良かったな。強くないけど物理防御もするから、血がかからなくて済んだよ。

 首が無くなったレヴァナントは崩れ落ちるように両膝をつき、動かなくなった。



 その時、左右で魔法の着弾音がした。

 ウィルフレッド先生、イラリ先生、セルマさんの3人が同時に、スケルトンの弓矢の射手目がけて放った魔法だ。


 おそらくウィルフレッド先生が雷撃、イラリ先生がアイススパイク、セルマさんが火球だね。

 打合せした訳じゃないだろうけど、3人がそれぞれ別の魔法を一撃、二撃、三撃と間を置かず続けて撃っている。

 3体のスケルトン射手は、これも慌てた感じで矢を放つが、その三撃ですべてバラバラになった。


「うおーっ」「おおーっ」


 俺が魔法剣士レヴァナントの首を刎ね、こちらの3人が魔法を放つと同時に、フィランダー先生を先頭にジェルさん、オネルさんとエステルちゃん、ブルーノさんとライナさん、そしてニックさんたちが突入する。

 直ぐさま、それぞれが闘う相手を見定め、繋ぎの大広間の広い空間内で乱戦が始まった。



 残る3体のレヴァナントは大剣を持った剣士だね。

 フィランダー先生とジェルさんはふたりともレヴァナントと1対1、オネルさんは3体目のレヴァナントの正面に相対し、エステルちゃんはその横に回り込んだ。


「(エステルちゃん、エステルちゃん)」

「(な、なんですかぁ。この忙しい時にぃ)」

「(斬ると、ばっちくてどす黒い血が飛ぶから、気をつけてねー)」

「(ええーっ!)」


 愛用のロングダガーで横から斬り掛かろうとしていたエステルちゃんは、俺の念話を聞くと、直ぐさま後ろに跳んで距離を取り、投擲用ダガーを4本ほどレヴァナントの全身に撃ち込んだ。

 頭、胴体、腰と、キレイに縦に一直線で突き刺さってますねー。

 ロングとは言え、刀身の短いダガーで接近して斬ると、ばっちいのがかかりますますからねー。


 それで、よろけたレヴァナントの隙を見て、オネルさんが斜め振り下ろしと胴への横薙ぎの得意の二連撃で斬り、相手は倒れた。



 ジェルさんはどうかな?

 ファータの里行き以来、何かを開眼しようとしている彼女は、大振りに大剣を振り下ろす相手の動きを見切りながら静かに剣を構えている。


 大剣を振ろうとしたレヴァナントの肩口に、横合いから1本の矢が刺さる。

 ブルーノさんだね。よし、そこだ。


 矢によって力なくぶれた大剣の軌道を見定め、横に僅かに移動して躱したジェルさんは、「ふんっ」という気合いがここまで聞こえるかのように、高く掲げた自らの剣を袈裟に斬り下ろし、直ぐにそのまま後ろに跳んだ。

 肩からふたつに裂けたレヴァナントが、どうと倒れる。



「おーいザック、俺がヤツを倒したとこ、見てくれたかー」


 あ、すんません。見てませんでした。

 ライナさんが大量のストーンスパイクをぶち当て、よろめくそのレヴァナントにフィランダー先生が向かって行ったとこは確認したんだけどね。


「えーと、すみません、見てなくて」

「なんだよ、見てなかったのかよ」

「それよりもザカリー様、あっちはまだ終わってないわよー」


 サンダーソードは、ウィルフレッド先生たち魔法部隊に援護されて、前に出て来た5体のスケルトンを倒したところだった。

 まだ奥に6体か。ニックさんたちは良く闘っていたが、疲労してミスが出るのも困る。

 エステルちゃんに片付けて貰おう。



「エステルちゃん、竜巻お願い。奥の6体」

「あ、はいっ。みなさん奥に突っ込まないでくださいよー」


 その声が聞こえたかと思った途端、やや固まってこちらに剣を構えていた6体のスケルトンがいるど真ん中に、いきなり竜巻魔法が発動された。

 猛烈な風の渦巻きに6体が吸い込まれ、あっという間に高い天井の方へと急スピードで持ち上げられる。

 天井や周囲の壁に反射した暴風が、こちらにまで吹いて来る。


「もういいんじゃない」

「はーい」


 竜巻は突如、何も無かったかのように一瞬で消え去った。

 そして、巻き上げられた6体のスケルトンの骨が、上空からバラバラと降って来る。


「あらー、骨が雨みたいに降ってくるわー」

「これ片付けろって言われたら、ちょっと手間ですよね」

「でもスケルトンは血が出ないからいいぞ。レヴァナントは汚い血を振りまくからな」


「そう言えば、ザカリー様は言うまでもなくだけど、ジェルさんもオネルちゃんも返り血とか浴びてないのよねー。それに引き替えフィランダー先生は……」

「どす黒い血を浴びて、ちょっと汚いですね」

「なんだか匂いもな」


 うちの女子組が、闘いの緊張感などなかったかのように、のんびり話をしてる。

 でも確かに、フィランダー先生は接近して剣を振るったのだろうけど、ばっちいですよ。

 あ、それに気がついたイラリ先生が、浄化魔法らしき魔法をかけてあげてます。



 一方でエステルちゃんは、ウィルフレッド先生に捕まっていた。

 きっと今の竜巻魔法のことだよね。あの爺さん、魔法のこととなると煩いから、ちょっと助けに行ってあげよう。


「なあエステルさん。竜巻魔法はわしも知っている。だが、この大広間の奥に、それもスケルトンが固まっている場所にピンポイントで、詠唱もなしにあんなに無造作に発動したのを、わしは見たことがないぞ。あれは、アナスタシアが開発したという、遠隔魔法の応用じゃよな?」

「えとえと、あ、ザックさま」


 うちのエステルちゃんは、そういうの慣れてないんだから、怖がるから。

 俺が近づいて来たのを見て、エステルちゃんはホッとした顔をした。



「ウィルフレッド先生。まだ敵がいるかも知れない洞窟の中なので、魔法のことはまた後で。それに、うちにはいろいろと秘密もあると、理解してください」

「そ、そうじゃな。いや悪かったエステルさん。しかしいきなり、あんな竜巻魔法を見せられて、ちと興奮してしまったのじゃ。あんたは、ザカリーに並ぶ大魔法使いなのじゃな」


「そんなことないですよぅ。竜巻は、わたしの得意魔法ですので。それに、ザックさまに並ぶなんて、とんでもないですぅ」

「いやいや、さすがザカリーの身内じゃ。凄いな、お主のところは」

「それより、これからどうするか、ちょっと話し合いましょう。イラリ先生、フィランダー先生、おーいみんな、ちょっと集まってください」


 俺の呼び掛けで、全員が集まって来た。

 クロウちゃんもバサバサと上空から下りて来て、エステルちゃんの胸に納まる。

 今日は一貫して、キミはそこにいるつもりなんだね。



「さて、繋ぎの大広間の大掃除は、いちおう終わりました」

「地面は骨だらけだけどねー」

「レヴァナントの乾涸びた汚い死体も転がってます」

「大掃除が終わったら、もっと汚れてしまったって落ちか」


「はいはい、そこ、静かに」

「はーい」


「それで、先生方。どうしますか? 当初の目的はいちおう達成しましたけど」

「そうですね。冒険者ギルドを通じて出した依頼は、ザカリー君の言う通り、これで達成です」

「でもよ。ここに、こんなにアンデッドが集まっていたってことは、この奥はどうなっているんだか」

「そうじゃな、それを確かめずに戻るのは、ちとまずいの」


 イラリ先生からの答えを求めるために、俺は先生の顔を見た。


「初めにも言いましたが、私個人としては今回は、『別れの広間』まで行ってみたい。ザカリー君のお考えは、どうでしょうか」


 そう言えば、この洞窟に入る時にオイリ学院長も「行けるところまで行って」って言っていたな。

 うちのレイヴンの皆の顔を見ると、行きましょうとその表情が言っている。

 サンダーソードの面々は……。えーと、付き合わせることになるけど、ゴメンね。

 でもニックさんは、俺の視線を受け止めて大きく頷いた。


「よし行きましょう。これで引揚げるのは、ちょっと中途半端な気が僕もします。いいですか?」

「おう」「はいっ」「よっしゃあ」


 皆が大きな声で返事を返し、イラリ先生とブルーノさんがニッコリと微笑んだ。

 エステルちゃんはやれやれという顔をしてるけど、まあいつものことだからさ。

 さあ、小休止して、もっと奥に向かうとしますか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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