第174話 アンデッド大掃除に突入
通路は広くなったが、確かにカーブや曲がり角があり見通しがきかない。
繋ぎの大広間まで行ったことのあるフィランダー先生とウィルフレッド先生を先頭に、俺たちレイヴン、そしてサンダーソードの順で緩やかな二列縦隊を組み、周囲に注意を払いながら進む。
5分ほど進んだところで、前方から誰かが音も立てずに戻って来た。マリカさんだね。
猫みたいにしなやかな動きだ、ってマリカさんは猫人族でした。
「ここから5分の曲がり角で、スケルトンを発見したよ。確認したのは3体。イラリ先生とブルーノさんは隠れて待機してる。クロウちゃんは更に先行したわ」
「わかったマリカさん。おーいニックさん」
「おう、なんすか」
後ろから俺の小さな呼び声を聞いてニックさんが来たので、マリカさんの報告を伝えた。
「よし、そいつらは俺たちが始末します。おいっ」
「頼むね。僕たちは直ぐ後ろを詰める」
「了解ですぜ」
ニックさんがサンダーソードのメンバーに声を掛け、マリカさんと5人で慎重に先に進んで行った。
先生ふたりとレイヴンは、俺が合図し少しタイミングを開けて後を追う。
先行するパーティの戦闘の邪魔にならないように、ここは少々間隔を取らなければいけない。
「冒険者はザックの指揮に従うんだな」
「それは、うちの領の冒険者だからな」
「ザカリー様は冒険者の若親分で、エステルさんは姐さんなんですよー。ふたつ名はレイヴンザック、大鴉のザックねー」
「…………」
ライナさん、誤解を招くような表現は控えるように。
いや、うちの冒険者から旦那とか若とか、そうも呼ばれてるけどさ。
俺ってその前に、いちおう領主の長男だから。
やがて前方から戦闘音がする。始まったな。
サンダーソードは剣士が3人なので、それぞれがスケルトンに相対しているのだろう。
後詰めで到着すると、大剣使いのニックさんが1体のスケルトンをバラバラにしたところで、両手剣のロブさんと細剣二刀流のエスピノさんが、それぞれマリカさんとセルマさんに援護されながらスケルトンと闘っていた。
どちらのスケルトンも両手剣を握っていて、人間の剣士と同じような動きだ。
ニックさんがバラバラにしたのは、弓が地面に転がっているから射手だね。
先にニックさんが突っ込んで、厄介な弓をまず潰したという訳だ。
やがて、ロブさんが肩口から斬り込み、一方でエスピノさんは二刀で数回斬り刻んで、どちらもスケルトン剣士を打ち倒した。
大森林に一緒に行った時よりも皆、技量が上がってるようで心強い。
「ご苦労さん。みんな強いね」
「ほんとだぜ。なかなかのものだ」
「いやー、ザカリー様に見られてると思うと、お恥ずかしい限りで」
「イラリ先生、これって復活とかしないんですか?」
「良く分かってないんですよ。バラバラになったスケルトンが、また組み上がるのかどうかも。ですね、ウィルフレッド先生」
「そうじゃな。なにせ、スケルトンを飼って観察もできないしの。しかし、定期調査をしとる冒険者の話だと、以前に討伐された骨が残っている場合もあるが、消えて無くなってることも多いそうじゃ」
その時、先行して飛んで行ったクロウちゃんから通信が来た。俺は念話に切り換える。
これでエステルちゃんも聞けるよね。
「(どう?)」
「(カァ、カァ)」
「(繋ぎの大広間に入ったのか。見つかってないよね?)」
「(カァ)」
「(はいはい、キミなら大丈夫ですよね。で、何体いる?)」
「(カァカァ、カァ)」
「(えー、そんなにいるんですかぁ)」
「(骨が14体と、ガリガリに痩せた変なのが4体か。それってレヴァナントだよね)」
「(カァ、カァ)」
「(たぶんそうって。そのなかに弓矢使いと、なんだか魔法が使えそうなのもいるのか)」
俺はエステルちゃんと顔を見合わせた。
数も多いし、レヴァナントが4体混ざっている。射手もそうだが、魔法使いがいるのは厄介だな。
「クロウちゃんからの連絡がありやしたか?」
「うん、繋ぎの大広間にスケルトン14体と、レヴァナントらしきものが4体。弓矢使いと、もしかしたら魔法が使えるやつが混じっているみたい」
「それは、ちょっと面倒くさいでやすな」
俺とエステルちゃんが急に黙り込み、お互いに表情を変えたのを見てブルーノさんがそう聞いて来た。
レイヴンのメンバーにはいつものことだが、ほかの皆はキョトンとしている。
まあニックさんたちはなんとなく分かっているが、先生方3人は訝しげだね。
「ちょっと自分から先生方にいいでやすか?」
「ええ、何ですか? ブルーノさん」
「ここら辺りから、自分たち、特にザカリー様の言うことすることは、ここだけの秘密にしてほしいんでやす。ニックたちも分かっていやすな」
「お、おう」「へい」「もちろんよ」
「それって、グリフィン子爵家の秘密ってことじゃろか?」
「そう捉えていただいて結構でやす。それで、クロウちゃんの先行探索によると、スケルトン14体、レヴァナントらしきもの4体。弓矢使いと、もしかしたら魔法使いがいると、ザカリー様がおっしゃっていやす」
「な、なんだと。アンデッドが全部で18体。レヴァナントが4体もいるのかよ」
「弓矢ばかりでなく、魔法使いもいるのじゃと」
「これは、予想以上に厄介です。レヴァナントが、どのぐらいの強さかも分かりませんし」
こちらは総勢14名。向こうの方が若干、数が多いから心配するよね。
「どうする、ザカリー様」
「そうだな。僕とジェルさん、それからフィランダー先生がそれぞれレヴァナント。あとの1体は、エステルちゃんとオネルさんで当たって。ブルーノさんとライナさんは、ジェルさんとフィランダー先生を援護だね。イラリ先生とウィルフレッド先生とサンダーソードは、出来るだけスケルトンを始末してください」
「はい」「おう」「わかった」
「(クロウちゃん、クロウちゃん、魔法が使えるやつ、特定出来た?)」
「(カァカァ)」
「(よし、ガリガリに痩せた変なののうちの1体だけだね。弓矢はいくつ?)」
「(カァ)」
「(骨が3体ね。オッケー)」
「弓矢の射手はスケルトンの3体。ウィルフレッド先生、イラリ先生、セルマさん、まずこいつらを魔法で潰してください。サンダーソードはそれを見て突っ込んで」
「そ、そうか。よしわかったのじゃ」
「了解です」
「わかったわ」「おう」
「魔法が使えるのは、レヴァナントの1体。これは特定したので、僕が行きます。ほかの皆は僕の動きを見て、他のレヴァナントに向かってください。いいですか」
「お、おうよ。でもよ、なんでもう特定出来てるんだ?」
「秘密でやすよ」
「お、おう」
「では行きます。皆、慎重に。イラリ先生、ブルーノさん、マリカさん、先導を」
3人は声を出さずに移動を開始した。その後ろを、全員が無言で続く。
10分弱ほど、速度を上げずに慎重に進む。
前方でブルーノさんが片手を挙げた。繋ぎの大広間の入口に着いたようだ。
皆をその位置で待機させ、俺はひとり進んでブルーノさんの後ろに近づく。
大広間の入口が見えたので、そこから中を探査する。クロウちゃんの視覚も使って全体を俯瞰した。
あー、うようよいるねー。
「(魔法が使えるレヴァナントって、どいつ?)」
「(カァ)」
「(ああ、いちばん奥にいるこいつね、わかった)」
クロウちゃんの視線がそのレヴァナントを捉え、俺はその画像と空間把握で姿と位置を確認した。
「(エステルちゃん、合図したら僕がまず突っ込むから、みんなに合図して)」
「(了解です)」
「ブルーノさん、行きます」
「わかりやした。ご武運を」
「(エステルちゃん、行くよっ)」
「(はいっ)」
念話と同時に俺は、縮地もどきの超高速移動で繋ぎの大広間の奥へと突入した。
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