表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/1123

第172話 なし崩し参加

 エステルちゃんとレイヴンの皆が帰って来た。サンダーソードの面々も一緒だね。

 どうやら馬車に付き従って、走って来たようだ。

 エディットちゃんが、冷たい濡れ手拭を人数分持って来る。気が利く子だ。



「おかえり、どうだった?」

「ただいまですぅ。結局、向うの勢いに負けちゃいました」

「つまり?」

「つまり、わたしたちも討伐に参加することになりましたぁ。だって、誰も反対しないんだもん」


 レイヴンの皆は表立って嬉しそうに出来ず、バツが悪そうな表情をしている。

 ニックさんたちは恐縮しきりだ。


「具体的にはどうなるの?」

「一刻を争うと言うので、明後日の早朝、まだ夜が明けない時刻に、王立学院に集合となりました。正面の事務棟前に集まって、それから講堂内で打合せして、地下洞窟入口まで行くそうですぅ」


 学院生に見られないように、太陽が昇る前に行動する訳だな。

 講堂から講義棟なんかがあるエリアを通らず、敷地内の森がある方向に移動ということかな。



「サンダーソードとレイヴン以外は?」

「人数が多くなり過ぎると、洞窟内での討伐に支障をきたしやすので、どうやら王都のギルドから案内の冒険者なんかが、少人数付くみたいでやすな」

「まあ、それはそうだろうね。洞窟内の様子にもよるけど」


「言っておきますけど、今回はザックさまは、ちゃんとお勉強をしててくださいね」

「え? えーと、そうですねー、朝から講義がありますからねー」

「ちゃんとお勉強ですよ。勝手に自分で入口を見つけて、わたしたちが洞窟に入ったら、中からやあやあとお出迎えとか、絶対なしですよ」

「そ、そんなこと、しませんよー」


「ま、まあ、君たち頑張ってくれたまえ。君たちなら心配はないと思うが、くれぐれも気を抜かないように。サンダーソードの諸君には、もし不足する物とかあったら騎士団から支給するから。ジェルさん、お願いしますよ」

「ええ、心得ています」

「ありがとうございます、ザカリー様」


「なんだか怪しいわよねー。ああいう風にマトモな発言をする時が、いちばん怪しいのよ」

「だんだん私も分かって来ました。怪しい時ほど、発言が大人びて来ます」

「エステルさんがいちばん分かってるから、先に釘を刺すのよねー」

「でも、その刺した釘を気がついたら抜いてるのが、ザカリー様だな」


 そこの女子組、コソコソ話でもなんでもない声の大きさで話さないように。



 そしてその日になりました。

 まだ夜も明けぬ暗いうちに、俺は起き出した。

 窓をコンコンと叩く音がする。クロウちゃん、今朝は随分と早いね。カァ。


 いつものようにエステルちゃん弁当を持って来てくれたんだけど、学院に出掛ける前に用意したんだよな。

 お手紙も入っている。


「ザックさまへ

 今朝は例の件で屋敷を出るのが早いから、みんなでいただいた朝食と同じね。

 ちゃんとおとなしくお勉強ですよ。心配しないでくださいね。

 エステル」


 さて今朝は特別に、お弁当持参で日課の早駈けに行きますか。

 クロウちゃんも一緒に行く? カァ。

 どうしてそんなフル装備を着ているかって? はて、どうしてでしょう。

 なぜだか、いつもの学院の練習着じゃなくて、真っ黒の戦闘装備で身を包んじゃったなー。



 俺はこっそり寮を出ると軽く学院内を走り、なんとなく講堂の方に来てしまったので、やはりなんとなく中に忍び込んでしまった。

 外もまだ暗いし、講堂の中も真っ暗だよね。探査と空間把握を発動してと。

 さて、朝食弁当でも食べようかな。


 暫くして、10数人がこの講堂内に無言で入って来るのが、探査に引っかかった。

 見鬼の力も合わせて発動しているので、その人数がそれぞれ身体から発するキ素力のオーラが、サーマルカメラの映像のように見えますね。

 普段から俺がよく知っているオーラです。


「誰か潜んでいやすよ」

「え?」「なにっ」「誰?」

「この感じ、わたし分かりました。ほんとに、もう、やっぱり。それに、お弁当を食べた匂いもしますぅ」


 その時、講堂内の灯りが点った。

 俺はまだ、なんとなく物陰に潜んでいるんだけど。



「そこに潜んでいる、わたしのよーく知っている人、いいから出て来てください。怒りませんからぁ。お茶ありますよ」

「はーい」


 仕方ないので姿を現す。高い天井のどこかに隠れていたクロウちゃんも、バサバサと下りて来て俺の頭の上にとまった。

 うちのレイヴンの皆は、やっぱりねという顔をしている。

 後から続いて来たサンダーソードの5人に、それから良く知る人たちの顔があった。


「いやー、バレました。さすがはブルーノさんとエステルちゃん。あらためて尊敬します。お茶をありがとう」

「もう、何を言ってるんだか。わたし、おとなしくお勉強て言いましたよね。お手紙にも書きましたよね。それが、このふたりは。おまけに、しっかりフル装備だし」

「はい、すみません」「カァ」


「まあまあ、エステルちゃん。その辺にしといてあげなさいな。来ちゃったものは仕方ないしねー」

「だって、学院長さま」

「まあ、ザックくんは特待生だから。それに、あなたたちのリーダーなんでしょー」


「ほらねー、特待生って結構効いてるわよー」

「あれ、ライナさんの言う通りです」

「リーダーで私たちの上司っていうのも事実だしな」



「時間もないし、みなさんにざっと説明して、洞窟入口に向かうわよー。今日の大掃除に参加して貰うのは、グリフィニアから来て貰った、冒険者パーティのサンダーソードのみなさんと、それから急遽参加することになったレイヴンのみなさん」


「王都からは、冒険者に参加させることも考えたんだけどー、昨日ギルド長から子爵家のレイヴンが加わるって聞いたから、それは取消しにして貰って、学院から案内を出すことにしましたー」


「で、一緒に洞窟内に入るのは、魔法学部長で王宮魔法顧問のウィルフレッド先生、剣術学部長で元王宮騎士団騎士のフィランダー先生、それから洞窟内に詳しくて元一流冒険者でもあるイラリ先生。このベテランたちを揃えたから、冒険者ギルドには断りを入れて、学院が直接手を出すことにしたの。最強のメンバーよー」


 それでこの人たちがいるんだね。

 王都の冒険者さんの実力は知らないけど、確かにこの面々なら頼りになるよな。

 フィランダー先生は元王宮騎士団の騎士なのか。なんとなく納得だ。



「つうことだ、よろしく頼むな、ザック」

「わしもまだまだ動けるでな、足手まといにならんように頑張るぞ、ザカリー」

「よろしくお願いしますね、ザカリー君」


「もぅ、なんで先生方も、ザックさまがリーダーで参加するのが、前提なんですかぁ」

「でもよエステルさん、ザックがこの中じゃ最強なんだろ。俺もそう思うがよ」

「わしも今から楽しみじゃぞ」


「これで寮に帰れって言ったら、先回りしてひとりで洞窟内を片付けちゃいそうよねー。わたしの責任で許可するから、参加させてあげなさいな。今日はお家の事情で、講義をお休みするってことにしとくわ。ね、エステルちゃん」

「うー、学院長さまがそう言うなら、仕方ないですぅ」

「やったー」「カァ」


「その代わり、酷く無茶なことしたら、お説教100倍ですからね」

「はい」「カァ」



 もう夜が明けかかってきたので、一行は急いでその洞窟入口があるという学院内の森に向かう。

 そのエリアに向かう途中、『学院長の許可無く立ち入りを禁じる』の立て札が立てられていた。

 特に柵や門などがある訳ではないが、木々が濃く立ち、無闇に立ち入るのが憚れるような雰囲気だ。


「ここよー。この大きな岩の陰」


 学院内の起伏のほとんどない森の奥に、巨大な岩がぽつんと地面から顔を出していた。

 その岩を回り込んで近寄ってみると、ひっそりと人がひとり通れるぐらいの裂け目が口を開けている。

 近くで注意深く探らないと、見逃してしまいそうな入口だった。



「では入りますよ」

「よし、行くぞ。みんな、俺たちに続いてくれ」

「おう」「はい」


 イラリ先生を先頭に、フィランダー先生、ウィルフレッド先生が裂け目から中に入り、サンダーソードのメンバーがそれに続く。

 そしてレイヴンの5人が順番に中に入った。エステルちゃんがクロウちゃんを抱いて入り、俺はしんがりだ。


「ザックくん、大掃除もお願いなんだけどー、行けるとこまで、行ってみてほしいの」

「え?」

「あなたなら、なんだか出来る気がして。ほら、みんなが待ってるわよー。行ってらっしゃい。気をつけてねー」


 そんなオイリ学院長の言葉を背に、俺は洞窟の中に入るのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ