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第171話 アンデッド掃除依頼とレイヴン参戦

 午後になってブルーノさんたちが屋敷に戻って来た。

 お昼はどうしたの? ギルド近くの冒険者さんが集まる大衆食堂で食べて来たんだ。ちょっと羨ましい。


「どうだった?」

「へい、話は聞いて来やしたよ」

「ザカリー様にも関係大有りでしたぜ」

「えー、そうなの?」


 ラウンジに、エステルちゃんやレイヴンの皆がまた集まる。

 俺にも関係大有りって、やっぱり?



「簡単に言うと、学院の敷地の地下に潜って、アンデッドの掃除って仕事でやすな」

「やはり学院の地下なのか。さっきザカリー様に、学院生の間でそんな噂話があるって聞いたところだ」

「その学院生には決して知られずに、アンデッド掃除をするって仕事でやすよ」


 ブルーノさんの言葉に、全員が俺の顔を見る。

 知られちゃいけない学院生が1名、ここにいるんですけど。聞いていていいのかな。


「ザカリー様は特待生だから、いいんじゃないのー」

「またライナさんは、いいかげんなこと言います」

「まあ、私たちはザカリー様の部下だから、秘密にはできないぞ」


 レイヴン女子組がそんなことを言うが、エステルちゃんは心配顔だ。

 たぶん、ちょっと角度の違う心配だね。例えば、俺がアンデッドの掃除に参加したいって言い出すとか、とか、とか。



 ニックさんたちサンダーソードにブルーノさんが付き添って、王都の冒険者ギルド長に面会し聞いて来た仕事の話は、次のようなものだ。


 王立学院の地下には噂通り地下洞窟が存在していて、学院の敷地内にその入口がある。

 この地下洞窟は、王都の中心部であることからその存在が秘匿されている。

 地下洞窟内には、これも噂通りアンデッドの存在が確認されている。

 通常は学院の冬の長期休み期間中に、王都の冒険者が地下洞窟内に入り、探索及びごく僅かだがアンデッドの掃除を請負っている。


 しかし今年は1月に掃除をしたにも関わらず、3月に学院の新学期が始まって念のため探索を行ってみると、例年よりアンデッドの数がかなり増えていたという。

 このままだと、夏休みより前に地上に溢れ出て来る危険性があると考え、急遽、大掃除が計画されたということだ。


 こういった大掃除は、何年か、または10何年かに1回は行われることがあり、その際は魔獣や魔物討伐に経験豊富なパーティを、他の冒険者ギルドから派遣して貰う。



「それで、グリフィニアの冒険者ギルドに依頼が来たという訳か」

「へい。それでグリフィニアに、2パーティを派遣してほしいと依頼したようでやすがね」

「それが、ニックさんたち、ひとつのパーティしか来てないってことだね。先方は何て言ってるの?」

「とても困ってやしたね」


「だから俺は言ってやったんだ。この王都には、俺たちやクリスたちと一緒に大森林の奥地を探索した、凄く強いパーティがじつはいるんですぜって」

「もぅ、ニックさんはなんてこと言うんですかぁ」

「あ、すんません、あねさん」

「ほら、ぜったいエステルのあねさんに怒られるって言っただろ、ニック」


 確かに以前、クリストフェルさんのブルーストームと、結果的に3パーティというかたちでアラストル大森林の奥地を探索したけどね。

 でも俺たちのレイヴンは、冒険者パーティじゃないから。騎士団員と侍女と子爵家の息子だから。


 エステルちゃんは頭を抱えている。

 ほかの女子組がちょっとワクワク顔になったのを、俺は見逃さなかったけど。


「ダメですよ、ザックさま。そんなに嬉しそうな顔しても」

「はい」「カァ」



「ブルーノさんが付いていて、どうしてそんなこと言わせるんですか。それでお話はどうなったんです?」

「申し訳ないでやす。思わずニックが言っちまったもので。ですが、それに向うのギルド長が食いつきやして」


 ブルーノさんは、ぜったいに面白がってるよね。

 でもエステルちゃんのカミナリが落ちたので、サンダーソードの面々は首を縮こまらせているし、ブルーノさんも神妙に話の経過を説明した。


 その王都にいるというのは、冒険者のパーティではなくグリフィン子爵領騎士団所属の騎士団員で、今は王都屋敷分隊として常駐しているという話を、いちおうはしたと言う。


「でも、自分が先方のギルド長と顔見知りってのが、裏目に出やしてね」

「と言うと?」

「自分が所属しているのなら、騎士団員のパーティでも是非とも探索と討伐をお願いしたい。指揮権限のある方に、なんとか了解を得て欲しい。今から他領の冒険者ギルドに依頼を出している時間の余裕がないし、このまま時を無駄にすると、大量のアンデッドが湧き出る危険性がある。そんな話になりやして」


 ブルーノさんて一流の冒険者だったから顔が広いし、業界の有名人だ。

 でも、グリフィン子爵領騎士団王都屋敷分隊の指揮権限がある方って、俺ですよね。確かそうですよね。



「それで、できれば直ぐにでも了解を得て貰って、顔合わせをさせてほしいってお願いされやしてね。リーダーが今ちょっと直ぐには会えないって、言ったんでやすが、サブリーダーやメンバーがいらっしゃるのなら、是非会いたいと懇願されやして」


 指揮権限がある方でリーダーって、俺ですよね。確かそうですよね。


「どうしやしょう、ザカリー様、エステルさん」

「よし、分かりました。これは言ってみればセルティア王立学院の危機であり、ひいては王都フォルスの危機でもあります。危機が直ぐそこにあるこの状況に、グリフィン家がひと肌脱がずにはおられません。また、我が領の冒険者ギルドに依頼された案件であり、それに対しての責任もあります。王都の冒険者ギルドの要請に応えましょう」


「もぅ、またぁ、ザックさまは」

「また、なんだか尤もらしいこと言ってるぞ」

「ザカリー様のあれが始まりましたよー」

「いつもこんな調子で始まる訳ですね」

「カァ」


 はい、女子組はちょっと煩いですよ。

 間違ったこと、俺言ってないよね。それに先方からのお願いだしさ。



「エステルさん、どうしやすか?」

「もぅ……。うー、仕方ないので、ザックさま抜きでいちどギルド長さんに会いに行きましょう。わたしも行きます。ザックさま抜きで。どうですか? ジェルさん、みなさん」

「そうだな。ザカリー様に行って貰う訳にはいかないから、そうするしかないな」

「そうねー」「そうですね」


「あ、ありがとうございます、エステルのあねさん、みなさん」


 サンダーソードは、そこで立ち上がって一斉に頭を下げなくていいからね。ちょうどエディットちゃんがお菓子を持って来たところだから、怖がるからね。


 それから、エステルちゃんは俺抜きって2回言いました。

 明日ならまだ休日だから、俺も行けるんだけど。カァカァ。え? そういうことじゃないの?


 結局、早い方がいいだろうということで、明日の午前中に冒険者ギルドに行くことになった。

 サンダーソードの皆は内リング外の市街地に宿を取っているそうで、このあとギルドに寄ってその旨を連絡すると言う。

 明日俺は? ダメ? そうですか、お留守番ですよね。カァ。



 翌朝、皆は王都の冒険者ギルドに出掛けて行った。

 エステルちゃんは、アン母さんから大量に貰っている娘時代の貴族子女の装いで、馬車に無理矢理乗せられていた。


 内リングの外に行くのだし、なんでも舐められちゃいけないとか、ジェルさんたちが説き伏せた結果だ。

 ブルーノさんが御者役で、ジェルさん、オネルさん、ライナさんがきちんとしたグリフィン子爵領騎士団の制服を着て騎乗で従う。

 ちょっと大袈裟かとも思ったが、子爵家の家人で王都屋敷の女主人と目されているのだから、こういう格式は必要なのだろう。


 それで俺は、居残りです。

 クロウちゃんはもちろん、ティモさんが残ってくれた。

 たぶん、俺ひとりを屋敷に置いとけないってことだよね。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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