第14話 式神をペットにしたらバレた
式神を放つのにも成功したので、今日はこのぐらいにしておこう。
それじゃ、クロウちゃんはご苦労さま。ダジャレじゃないよ。部屋に呼び戻したので、消すことにしよう。
すると、テーブルの上にいるクロウちゃんは首を横にブルブルさせる。え、なに、消されるのいやなの?
どうもこの世界で出現させた式神は、前にいた世界でのときよりも知能レベルが高いようだ。今度はコツコツとテーブル上を歩き回りながら、なにか思案しているようにも見える。
ときどき立ち止まってタメ息をつくのはやめなさい。
「仕方ないなぁ。それじゃしばらく、このまま出っぱなしでいいよ」
クロウちゃんはウンウンと頷いている。
「そうしたら名付けをしておくか」
式神への名付けは、術者とのより強い繋がりをもたらし、更に能力などの成長も期待できる。
「そうだなー、キミの名前は九郎ね」だから、クロウちゃんなんだけど。
名付けをすると、クロウちゃんの身体が一瞬ぼんやりと光に包まれる。そしてカァとひと声鳴き、嬉しそうに羽根をバサバサさせた。
「さて、クロウちゃんは出っぱなしになるわけだけだ。で、俺がこの部屋にいるときはここに居ていいんだけど、あ、もちろん俺ひとりだけのときね。それで、誰か他の人が来たら、どこかに飛んで遊びに行ってちょうだい」
「カァ!」
「あ、あと鳴き声は小さめにね」
コクンコクン。
「あ、それから、エサはいらないよね」
じーっ。
「えー、いるの?」
コクンコクン。
式神は本質的には生き物ではないので、食事やエサはいらない。エネルギー源としては、大気中を循環する「キ素」を体内に取り入れるのだ。
でもクロウちゃんは食べたいのね。仕方ないから厨房から何か貰ってこよう。なんだか鳥のエサではない気がする。
そういうわけで、夕食のデザートに出たハチミツ入りのブッセ風の焼き菓子を半分と、これじゃ足りなさそうだから、厨房に行ってアシスタントコックのトビーくんにおねだりしてクッキーを少し貰って来た。
「いっぺんにたくさん食べちゃダメですからね。それと僕があげたことはナイショですよ」
はい、分かってます。それと俺じゃなくて式神カラスが食べます。
クロウちゃんは美味しそうに、ブッセ半かけらとクッキーを食べる。
甘いものが好きみたいだね。
それからテーブルの上を居場所にしてると、コツコツと歩き回る音がちょっとうるさいので、俺のベッドの上に居ていいよと、とりあえず移動させる。
あ、ベッドの上にウンチしちゃダメだよ。クロウちゃんは俺の顔をジトーっと見てるけど、ダメだからね。って、式神だから排泄はしないか。
でもじっさいに食べたものはどうなるのだろう? 消化器官とかあるのかな??
さて寝床はどうしようか。
思いついて、部屋にある棚のいちばん上にタオルを敷き、それだけだと変だから、誕生日に貰った太陽と夏の女神アマラ様の小さな像をその上に飾る。
「サクヤだけじゃなくて、クロウちゃんもホームステイさせてください。たぶんサクヤよりも良い子です」
と、手を合わせてお願いしておく。
クロウちゃんも、小さく「カァ」と同意していた。
それでこのタオルの上を、とりあえずの寝床にします。
前いた世界のカラスよりもこの世界のクロウ、つまりハシバガラスはサイズが小さい。そのイメージでだいぶ小さなクロウとして出現させた式神だから、これで大丈夫でしょう。
そんなわけで俺は、この世界で初めて放った式神をこっそりペット化した。
こっそりした筈なんだけど、すぐに露見しました。
次の日、俺の部屋に来た侍女のシンディーちゃんが、棚の上のアマラ様の像と下に敷いたタオルを見つけた。
「なんですか、これ?」と聞いて来たので、「神棚?」と答えておいた。
「なんですか、神棚って?? アマラ様を祀ってるってことですか?」
と不審そうだったよ。まぁいいか。
クロウちゃんはこのとき、お空を飛んでいたのでセーフ。
数日たったある日、朝食を食べ終えて屋敷の2階にある領主家族用のラウンジでのんびりしていると、俺の部屋の方から「キャーっ!」という声がする。
それからバタバタバタと誰かが走る音。
「大変ですーっ、ザカリー様の部屋に真っ黒な鳥がいるんですー」
俺の部屋を掃除に来たシンディーちゃんの声だ。
そういえば、クロウちゃんに掃除の時間中は外で遊んで来るよう指示し忘れてた。
俺は急いで自分の部屋に行く。
慌てて部屋に入って来た俺を見て、クロウちゃんはベッドの上でキョトンと首を傾げている。あー、もう見つかっちゃったか。
するとシンディーちゃんに呼ばれて、家政婦長のコーデリアさん、それからアン母さんも俺の部屋にやって来た。後ろからヴァニー姉さんとアビー姉ちゃんもついて来ている。
一方クロウちゃんは、いつの間にかぴょんと俺の頭の上に乗ってるんだよね。
「ザカリー様、そのクロウはどうしたんですか?」
この中ではコーデリアさんがいちばん恐いんだよなー。怒られるなー。
「なんだか懐いたから、部屋に連れて来た、みたいな?」
「もー、ザカリー様はー」
シンディーちゃんがコーデリアさんの後ろから、俺の頭の上のクロウちゃんを恐る恐る見ながらもプンプンしている。
アン母さんはというと、クロウちゃんをじーっと見つめていた。
「ねぇ、ペットにしちゃダメかなー。とてもおとなしいんだよ」
「クロウをペットだなんて、奥様どうしますか?」
さっきからずっとクロウちゃんを観察していたアン母さんは、コーデリアさんの声に、
「ねぇザック、このクロウはどこから連れて来たのかな?」
と聞いてきた。
「えと、お庭で遊んでたら舞い降りて来て、それで仲良くなったから」
聖魔法の天才でかつて聖少女とも呼ばれていたアン母さんは、何かに感づいたようだ。
「ふーん、なんだか召還獣に似た感じがするんだけど、ちょっと違うような……危険はないみたいね。それにザックに良く懐いているわ。いいでしょ、飼ってもいいわよ。その代り、この鳥についてはザックが責任をぜんぶ負うのよ」
「はい!」
「ねえねえ、この鳥にもう名前つけたの?」
アビー姉ちゃんが近づいて来て触ろうとする。
「うん付けたよ。九郎だよ」
「なにそれ、この鳥はクロウって種類の鳥なんでしょ」
だからクロウちゃんは、九郎のクロウだよ。
それにしてもアン母さんは何を感づいたのかな。でもペットとして認知されたのなら隠さなくてもいいから、まーいいか。
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