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第163話 魔法学アドバイザー少年の魔法

 王立学院の講義が始まって10日目、5日間1サイクルがふた周りした。

 5日間サイクルの最終4時限目は、ウィルフレッド先生の中等魔法学講義だね。

 前回のオリエンテーション講義では16名いたが、さて何人になっただろうか。


 ライくんとヴィオちゃんはもちろん選択しているけど、俺を含めたこの3人のほかに、あと6人も受講している。全部で9人か。

 たった3人しかいない剣術学中級と比べると、ずいぶんと残ったものだ。



「よしよし、ザカリーも来たの。それでは、中等魔法学の講義を始めますぞ。この9名が今年の受講生じゃ。それから今日もクリスティアンとジュディスが見学というか、手伝いに来ておる」


 クリスティアン先生とジュディス先生が今回も来てるね。こっちも、このふたりはレギュラー?


「それから、魔法学特待生のザカリーは、この講義のアドバイザーになったので、教授と一緒に皆の手助けしますのじゃ。ザカリー、よろしくの」

「あ、はい」


 前回そんな話もありました。

 受講生たちの手助けをするのはぜんぜんいいけど、もうこの講義でも俺は魔法を撃たせて貰えないってことかなあ。

 えーと、と言うことは、俺は受講生の数に入ってないってことか。



「今日もまずは、短縮詠唱、無詠唱の訓練じゃ。前回で、短縮詠唱が出来るようになっておるのが3人。無詠唱に取組んでおるのが3人。それから無詠唱がなんとか出来るライムンドとヴィオレーヌじゃな」


「短縮詠唱のグループはクリスティアンが見てくれる。それから無詠唱グループはジュディスじゃ。それぞれに分かれて、訓練を始めなされ。あと、ザカリーはこっちじゃ」


 受講生は3人と5人に分かれて、それぞれ魔法発動に取組む。

 短縮詠唱グループは前回、発動までできている3人だから、より短い言葉で的確に安定して発動できるように習熟する必要があるね。

 無詠唱グループは、ライくんとヴィオちゃん以外はまだ出来ない。まずは発動させられるかだね。


 俺はウィルフレッド先生の側に行った。

 このパターンは、もう慣れましたよ。


「さて、ザカリー」

「なんですか?」

「今日はの、お主に見本を見せて貰いたいのじゃ」

「おっ、魔法を撃っていいんですか?」


「待て待て。前回、お主がやったあの複雑な7連の火球とか、ジュディスの講義でやったという、いちどに7人の首を落とすウィンドカッターとかではないぞ」

「もっと凄いのですか?」

「もっと凄いのを……。違う違う、凄くないのをじゃ」


「今回は受講生に、ふたつ見せてやってほしいのじゃ。まずひとつは、無詠唱の見本。それも発動を敵に悟らせないような、ごく自然な無詠唱じゃな」

「ああ、なるほど。まずは皆の目標となる見本ということですね」

「お主、そういう理解は正しくするのじゃな。そうじゃそうじゃ」



「もうひとつは、各自の適正になっとる四元素魔法以外の魔法じゃ」

「ああ、先生が前回に言っていた、四元素以外の適正も探り、他の魔法にも挑戦するという、今年のこの講義の目標ですね」


「本当に、話をしている分にはマトモなんじゃな、お主は。そうなのじゃ。つまり今年1年で、受講生が目指して貰いたい見本ということじゃの」

「それも大丈夫です。で、何をやって見せましょうかね。ライが雷魔法、ヴィオちゃんが氷魔法をできますが」


「そうじゃのう。雷魔法は風属性の派生魔法で、氷魔法は水魔法の派生魔法じゃな。それぞれ他の元素属性を補助属性にするのじゃが、ライムンドの雷は火属性を、ヴィオレーヌの氷は風属性を補助属性にしておるようじゃ」


 おお、さすがは魔法学部長の教授だ。

 ちゃんとライくんとヴィオちゃんの魔法を把握して、解説してくれている。

 先生の言う通り、ライくんの雷魔法は風属性に、ヴィオちゃんの氷魔法は水属性に比重が寄っているんだよね。



「それでは、えーと、火焔に包まれた複数の隕石を落とす、フレイムメテオなんかどうでしょう」

「…………」


「待て待て待てーい。火焔に包まれた複数の隕石を落とす、じゃとお。なんじゃ、そのフレイムメテオというのは」

「いえ、その説明の通りで。確か、古代魔法にあったものだそうで、隕石の土魔法とそれを包む火焔の火魔法を複合させて、それに落下速度を上げる重力魔法を補助として使います。あ、あと着地時点で爆発を起こして、火だるまの隕石が砕けて飛び散りますね。それが複数、次々に」

「…………」


 これは、ブラックドラゴンのアルさんに教えて貰った。

 なんでも遥か古代の、ドラゴン族も巻き込まれた戦争で使われた魔法だそうで、四元素魔法を複合させた、強大で派手な魔法の見本と言われているそうだ。主にドラゴン界隈で。


 俺の場合は、発動寸前で止めて結果は見鬼の力でイメージ化するシミュレーション発動で訓練しているが、いちどアルさんに荒涼とした僻地に連れて行って貰って、実際に発動訓練をしたことがある。

 あ、口が滑ってつい言っちゃったけど、ここじゃ発動出来ないか。



「そんなものが本当に出来るとして、もしそれをやったら、この魔法訓練場が壊滅するじゃろうがー。いや、学院や王都の危機じゃー」

「あー、そうですね。つい口が滑って」


「だいたいなんで、そんな魔法が出来ると言うのじゃ。誰に教われば、そんなものが出来るようになるのじゃ」

「それは、その、秘密ということで。先生、誰にも言わないでくださいね」

「そんなもの、誰にも言えんわい」



「もっと普通のはないんじゃろか」

「それなら、泥池を出しましょう。いや、泥濘ぬかるみぐらいで。土魔法と水魔法の複合魔法です」

「ん? 泥濘ぬかるみか。なるほどな。罠系統の魔法としても有効なものじゃな。今年の受講生には、土魔法が出来る者がおらんし、おそらく見たことがないじゃろ。それならば良いか」



 ようやく、ウィルフレッド先生との相談がまとまった。長かったな。

 あっちでは受講生たちが、短縮詠唱、無詠唱の魔法発動訓練を続けている。

 みんな頑張ってるね。ウィルフレッド先生と俺はその様子を暫く見守る。


「ようし、やめじゃ。短縮詠唱グループは、だいぶ安定して来たようじゃな。無詠唱の方は、ようやく出来るようになりそうか。もうひと息じゃ」


「それでは、今日の実地訓練はこのぐらいにして、これからザカリーに見本を見せて貰うことにする。見本はふたつじゃ。まずは無詠唱発動の見本じゃな。頼むぞ、ザカリー」

「はい、それでは」



 全員が俺を注視しているなか、ウィルフレッド先生の側から皆が訓練している方へと、軽いジョギング程度の速度で走る。

 受講生たちに近づいたその瞬間、俺の身体の横から3つの小さな火球が空中に浮かんで、ほんの少しずつの時間差で的に向かって飛び、当たるとごく小さな爆発を連続して起こした。


 その間、俺は走り続けているままで、声はもちろん出さず何の動作もしていない。

 うちのライナさんもよくやるが、彼女は向かって来る敵の方に走り出しながら、いきなり地面にでっかい穴を開けたりするよね。

 こういった、身体を動かしている途中で無詠唱での魔法が撃てないと、切羽詰まった闘いでは使い物にならない。


「どうじゃ? ザカリーは、走りながら無詠唱で動作無しに、3連続の火球魔法を発動しよった。皆には、こんな魔法発動を目指してほしいのじゃ」



「では、次にやって貰うのは、2種類の四元素魔法を複合したものじゃ。説明は見てからじゃな。ザカリー、お願いする」

「分かりました」


 俺は集まった受講生たちの前に立つと、的が立つ方向に空いた空間の地面に向かって、軽く右掌を出す。

 手を前に出す必要はないけど、これは今から魔法を発動させますよ、というサインだね。


 すると、硬く固められた魔法訓練場の地面が緩むように少し波打ち、そこに地面の下から水がじわじわとゆっくり湧き出して広がる。

 直ぐに緩んだ土と湧き出した水が混ざり合い、泥濘ぬかるみとなって広がった。



「これは、土魔法と水魔法を複合させた、泥濘ぬかるみの罠を作る魔法じゃな。今年の受講生で土魔法を出来る者はおらんが、このように土魔法は、罠を作ったり防御を行うのに適した魔法じゃ。ザカリーはそれに水魔法を掛け合わせた訳じゃな」


「それほど深い泥濘ぬかるみにはしないと聞いておるが、ザカリー、これはどのくらいじゃ?」

「深くはないですよ。例えば、はいっ」


 俺は土魔法で、土を凝縮して細長く伸ばした2メートルほどの棒を作り出す。ちょっと長過ぎたけどいいか。

 そしてそれを、泥濘ぬかるみに近寄って投げ、垂直に突き刺した。

 まあ、突き刺さる感じで、あれっ?


 長さ2メートルの土棒は、ズブズブズブと沈んで行き、やがて泥濘ぬかるみの中に消えて行く。消えてからもまだズブズブ、音がするね。



「深い……。どこまで潜るのかの。皆、近寄るな。落ちたら死による」

「そうみたいですねぇ」

「その、これは、元の地面に戻してくれますじゃろか?」

「はい、もちろん」


 後片付けや後始末は、慣れてますよ。俺の得意技と言ってもいいですよー。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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