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第162話 部室整備と王都屋敷への招待

 結局、今日と明日は部室の整備に充てることになった。


 まずは大掃除。いくら学院生会がしっかり管理していたとはいえ、使用していない部屋にはホコリが溜まる。

 俺たち男子組は、課外部棟に共用で備えられている掃除道具を借りて来て、掃除に取り掛かった。

 その間に女子3人は、学院生食堂の建物内にあるお店に買い出しに行った。日用品や雑貨はだいたい揃うそうだ。


「なあザック、おまえって掃除とかしたことあるのか?」

「えーと、自分でしたことないかな。ブルクくんは?」

「僕は貴族家と言っても、準男爵家ですからね。家の方針もあって、たいていのことは自分でします」

「うちもそうだな。僕は次男だし、兄貴はともかくとして。それにしてもザックは、子爵家の長男のくせに、やけに慣れてるなと思って」


 前々世では、独り住まいの冴えない独身男性でしたので、とか言えないよね。


「いや、見よう見真似だよ。腕さばきには自信があるしさ」

「剣術の達人なら、まあそうか」


 そんなことを話しながら掃除をしていると、誰かが音も無く部室に近づいて来る気配がする。この気配は。



「誰かいるー? お、掃除中なのね」

「出たな、姉ちゃん」

「出たってなによ。部室が決まったって言うから、見に来てあげたのに」

「うん、今日からここが僕たちの部室」


「なかなかいい部屋じゃない。カロちゃんたちは?」

「いま、買い出し中」

「そうかそうか、あの子たちがいれば安心ね。それで、この男子が」


「アビゲイル様ですか? ブルクハルト・オーレンドルフです」

「アビーでいいわよ。あなたが、お隣さんの辺境伯領のオーレンドルフ準男爵家ご長男ね。総合剣術部もうちの部もあなたを狙ってたけど、まあいいわ。ザックをよろしくお願いね」

「はい、とても光栄ですが、ザックさんと知り合って、是非ともご一緒できればと」


「ザックとご一緒するのは、大変よ。ねえライくん」

「僕もまだ良く分かってませんが、想像はできます」

「今にきっと、たくさん体験するわ。楽しみにしててね」


 俺は別に、無理難題や災難を周囲にバラまいてる訳じゃないんだけどね。



「ただいまー。あ、アビーさま」

「アビーさま、ようこそ、です」

「お邪魔してるわよ」

「いま、お紅茶いれます、です」


 紅茶をいれる道具とか、カップなんかも買って来たんだね。

 そういう部の活動に必要な費用は、どうすればいんだろ。あとで姉ちゃんに聞いておこう。


「この子が?」

「あたし、ルアーナ・アマディです。アビゲイルさまですね」

「あなたもアビーでいいのよ。うちの出店に来てくれたそうね。その時、わたしがいなかったから、ザックに取られたわ」

「あ、すみません」

「冗談、冗談。いいのよ。剣術はザックが数段上だから」



 掃除もあらかた終わったし、カロちゃんたちが紅茶をいれてくれたから、アビー姉ちゃんも交えて休憩することにした。

 たいしたお菓子は売ってないってエステルちゃんが言ってたけど、まあまああるんだね、って、しっかりお菓子も買って来ている。


「それにしても、今年の1年生の剣術のトップふたりと魔法のトップふたりが、この部の部員になっちゃったのね」

「トップって、トップはザックくんですよ」

「ああ、この子は勘定に入れちゃダメな子だから。でも、カロちゃんは大丈夫?」


「わたし、頑張りたい、です」

「剣術はまだ見てないけど、魔法はなかなか適性が高そうだよ。たぶん、訓練すれば回復魔法が出来ると思う」

「はいっ、エステルさんの弟子にして貰います、です」


「へえー、そうなんだ。ザックが言うのなら間違いないか。エステルちゃんは母さんの弟子だから、それがいいかもね。そうして貰いなさい」

「エステルさんて、回復魔法ができるんですか?」

「ああ、風魔法使いで回復魔法もできるよ。剣はダガー使いだね」


「ザックくんの侍女さんなのよね?」

「ただの侍女さん、じゃないと思います、です」

「王都屋敷にいるジェルさんたちと、今もパーティ組んでるんだっけ」

「うん、オネルさんも入った」

「オネルヴァさんよね。そうなんだ」



「なになに、また更に、新しい女性の名前が登場したわよ」

「ザックくんの周りって、たくさん女性がいるの? それにパーティって何?」

「騎士団の方たち、ですよ」

「言っていい範囲で説明しときなさい。直ぐに顔を合わすだろうから」


「えーと、以前に僕が、冒険者ギルドのアラストル大森林探索に参加したことがあってね。その時に一緒に行った騎士団の護衛メンバーとエステルちゃんが、それ以来、レイヴンっていう名前のパーティとして、子爵家で公認されていて」


「ザックさん、アラストル大森林の探索に、行ったことがあるんですか」

「あの大森林よね。ザックくん、凄いのね。いつ行ったの?」

「えー、8歳の時かな」

「この子、5歳で初めて大森林に入ってるのよ」

「…………」


 ブルクくんとルアちゃんの故郷の領地は、それぞれアラストル大森林に接しているから、そこがどんな場所か、その恐ろしさも含めて子どもの時から聞いて来たそうだ。

 ブルクくんのキースリング辺境伯、ルアちゃんのエイデン伯爵領でも、騎士団や冒険者は大森林の浅いエリアには入るが、ふたりはまだ行ったことがないのだと言う。


 ふたりが代わるがわる話すのを聞いて、大森林から離れた領地のライくんとヴィオちゃんは、あまり実感が湧かないようだ。



「それで、エステルさんとその騎士団のお姉さん方が、ザックくんと冒険者みたいにパーティを組んでるってことなの?」

「ブルーノさんておじさんも、います」

「従騎士のジェルメールさんに、魔法使いの従士のライナさん、それから、新しく従騎士になったオネルヴァさんも最近、加わりました、です。みなさん、凄く美人さん」

「美人のお姉さんばかりなのね」


 ブルーノさんておじさんも、います。ティモさんも準構成員みたいなものかな。

 カロちゃんはこの前うちに来て、みんなと話してたから情報通だよね。


「ジェルさんもオネルさんも剣は凄いし、ライナさんは魔法の達人なんでしょ。この子たち、あのお姉さん方にも教わったらいいんじゃない」

「あー、それは僕も考えてた。なにしろ実戦経験が豊富だからね。でも、もう少し基礎を固めてからかな」

「そうか、それもそうね」


 あのお姉さん方は、実戦経験が豊富というだけじゃなくて、闘いではとっても怖いお姉さんだからね。

 初めからビビらせてもなんだし。



「そうだ、明後日の2日休みにこの子たち、うちの王都屋敷に来て貰ったら? エステルちゃんに早く会わせておかないと、あとが怖いわよ」

「わたし、エステルさんに会いたいから、行きたい、です」

「うん、わたしも会ってみたい。そのお姉さん方にも」

「あたしも行く。なんだか楽しそう」


 ライくんとブルクくんも喋っていいんだよ。なんだか静かになるよね。


「男子はどうする?」

「おう、行くぞ、なんだか面白そうだし」

「僕も行きますよ」


「よし、それじゃ決まりね。わたしもその日は帰るわ。2日目でいいかしら。1日目に押しかけると、エステルちゃんに怒られそうだから。みんな、それでいい?」

「はい」

「ザック、それでいいわよね。あんた、ちゃんとエステルちゃんに連絡しといて。クロウちゃんが伝書カラスで、しょっちゅう飛んで来てるんでしょ」

「いいよ、分かった」



 王都屋敷はこれまで常駐する者がいなかったから、アビー姉ちゃんはほとんど屋敷に戻ることがなかったみたいだ。

 エステルちゃんたちがいると、やっぱり違うよね。


 それにしても、伝書カラスってなんだ? 確かに手紙ばかりかお弁当も運ぶけど。

 それと、初めての2日休みの初日はやっぱり拙いか。俺もちょっとそんな気がするよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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