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第161話 俺たちの部室

「いやー、相変わらず面白かったね、会長は。はははは」

「あの」

「教授や学院生の前だと、普段はあんなじゃないんだよ。僕だけの時は少し気が緩むみたいだけど、君がいると何故だかもっと緩むみたいだね。ずいぶんと気に入られたものだ」

「はあ」



 学院生会の事務室で総合武術部の新規登録を済ませ、部室の割当てもして貰った。

 登録後は特に難しいことは無いが、部員名簿の提出ぐらいかな。

 これは新年度が始まって新入生が入部するこの時期に、一斉に学院生会に提出される。あとは入退部があった際に、その都度更新する。


 それから、登録された課外部は課外部会というものに加入したことになり、年に何回か部長会があるそうだ。

 今年の課外部会の部会長は、総合魔導研究部のロズリーヌさんだとのこと。



 手続きや説明が終わって、総合武術部が使っていい部室の鍵が渡された。

 学院の事務方と学院生会、そしてその課外部の部長の三者が同じ鍵を預かっているが、普段はドアに鍵を掛ける部はほとんど無いそうだ。

 学院内は治安がいいし、それに部長が鍵を掛けてしまうと部員が部室に入れなくなってしまうからね。

 鍵を掛けるのは、夏期と冬期の長期休みの時だけらしい。


「それじゃついでだから、僕がその部室まで案内するよ」と、エルランド副会長がわざわざ俺を案内してくれた。

 どうやらふたりだけになって、大笑いをしたかったようだね。


「あれでも普段は公爵令嬢だから。頭の回転も早いし、社交的で、学院生と身分の分け隔てなく接し、それにもの凄い美人だ。だけどねぇ。なんでなんだろうね」

「あの素の姿を知っているのは」

「先輩には何人かいたかもだけど、今は僕ぐらいかな。それと君だね。君がいると、更にひどいみたいだな」



「さあ、ここだ。鍵が掛かっている筈だから、さっき渡した鍵で開けて中にどうぞ」

「はいっ」


 今日から総合武術部の部室となる部屋は、この学院の施設らしくなかなかの広さだった。

 学院生会室のように、いくつかの部屋に分かれてはいないけど、充分な広さを持ったワンルームだね。


 備え付けの家具としては、大きな会議テーブルと椅子、シンプルだけど快適そうな応接セット、戸棚などのキャビネットや本棚もいくつかある。

 それから部屋の奥の窓際近くには、大きなデスクと椅子があった。

 どれも年代物だけど、汚れた感じはしない。


 あと、小振りの水回り設備もあるから、お茶をいれるとかはできるようになっている。

 寮の部屋より遥かに広いから、ここで暮らせそうだよね。でもベッドがないか。

 ともかく、部員が20人以上になっても余裕で収容できそうだ。


「言っておくけど、多少の寝泊まりは大目に見るが、ここに住んじゃうのは厳禁だからね。それじゃ僕はこの辺で。総合武術部か、頑張ってくれたまえ、ザカリー君」


 そう言って、エルランドさんは部室を出て行った。



 これで、取りあえず学院での拠点が出来た。

 俺はデスクを前にして椅子に座り、これからの活動について考えを巡らす。

 まずは、部員みんなの可能性を引き出して実力アップだな。


 うちのクラスのライくん、ヴィオちゃん、カロちゃんには剣術の初歩を鍛えるか。

 カロちゃんは魔法もだね。

 そしてブルクくんとルアちゃんには、魔法をやらせてみないとだな。


 魔法の訓練は魔法訓練場じゃないと危険だから、剣術訓練場と1日ごとの交替で使わせて貰おう。

 まずは剣術の訓練には、ブルクくんとルアちゃんに指導側を手伝って貰って、逆に魔法の訓練ではライくんとヴィオちゃんに手伝って貰う感じかな。


 ともかく当初は、5人の初歩的な底上げに重点を置いて、そこからあの5人にどんな先が見えるかだよな。


 俺自身はどうしよう。

 俺の訓練に付いて来れるのは、やっぱり長年一緒に訓練をして来たエステルちゃんしかいないよな。

 当面は5人の訓練を主にして、そのうちエステルちゃんを呼ぼう。

 レイヴンのみんなも呼んじゃうか。闘う実力は、教授クラス以上だしね。


 さて、部員のみんなへのお披露目は明日にして、そろそろ寮に戻るかな。

 今日は疲れたし。主に精神的に。

 でもその前に、姉ちゃんと二大課外部の出店を廻って、報告と訓練場の使用について話して来なくちゃだ。

 さあ、もうひと仕事するか。



 翌日のお昼休み。いつもの4人に、ブルクくんとルアちゃんも合流した。


「みなさんにご報告します。関係各所への根回し、及び新課外部創部の登録手続きを終えました」


「おいおい、ホントかよ」

「さすがというか、ザックくん、素早いわねー」

「凄い、です、ザックさま」

「おととい昨日で、ぜんぶ済ませたんですか?」

「行動力、あるのねー。びっくり」


 5人とも大喜びだ。お昼を食べながら乾杯。ジュースとか水だけど。

 皆が落ち着いたところで、決まったことをざっくり説明する。


「へえー、あのイラリ先生がねー」

「学院の二大課外部と学院長、教授方が応援してくれるんですね」

「学院生会におひとりで行って、話した、ですか?」

「なになに、フェリシア会長とふたりだけで話したの?」

「あーいや、副会長が付き添ってくれたんだ」


 そこで女子たちが「ふー」とか、安堵の吐息をつくのはやめて貰えませんかね。



「エルランド副会長は、なかなかいい人でね。登録手続きや部室の割当てなんかも、面倒見てくれたんだ」

「部室、もう決まったのぉ! 見たい見たい、行ってみたい」

「あたしも、あたしも」


 部室は、4時限目が終了したあとに案内するつもりだったけど、お昼休み時間もまだあるし、じゃあ今から行くか。

 それで俺は、5人を引き連れて課外部棟へ行くことにした。


 何棟かあるうちの第3課外部棟の2階。ここに、総合武術部に割当てられた部室がある。


「さあ、ここだよ。どうぞ、入って入って」

「おっ、広いな」

「広いですね。ゆったりしている」

「ここが、わたしたちの部室なのね」

「居心地良さそう」

「なんだか、ワクワクして来た、です」


 みんな気に入ってくれたようだ。良かったね。

 それで、講義終了後ここに集合することにして、ひとまず解散した。



 放課後の部室。なんだか甘酸っぱい響きだよね。

 俺にとっては、前々世の遠い遠い過去の記憶だ。ふたつ合わせて58年の人生の中で、僅か数年だけの記憶なのに、不意に鮮やかに蘇るものだよな。


「ザックくん、なに物思いに耽ってるの? 全員集まってるわよ」

「え? あ、はい」


「えー、みなさん、ご苦労さまです。こうして無事、僕たちの新しい課外部、総合武術部がスタートできることとなりました。今日はその記念すべき第1日目として、これからの活動方針や具体的な活動について、みなさんと話し合いたいと思います」


「ザックって、時々そういう話し方になるよな」

「そうなの?」

「なんだか堅苦しいと言うか、おっさん臭いと言うか」

「ごめん、小さい時からの癖でつい」

「あなた、小さい時からそんな話し方してたの?」



 気を取り直して、ミーティングを進めましょう。

 俺は昨日考えていた当面の訓練方針を皆に話す。

 剣術と魔法の訓練を1日ずつ交替で行い、まずは全員の基礎的な実力アップを目指す。

 どうかな。


「なるほどね。お互いに不足している部分を、協力し合いながら伸ばす訳ね」

「いいんじゃないか。僕も早く剣術を伸ばしたいし。逆に魔法訓練は協力するぜ」

「ほかのみんなも、いいかな?」

「はい」「いいわよ」「いい、です」


「訓練は全面的にザックくんに従うわ。でもそれは、休日明けからで」

「休日明けから?」


「今日と明日は、この部室をもっと快適なお部屋にしましょうよ」

「それ、あたしも賛成」

「はい、です。いろいろ揃えないと」

「じゃ、まずは買い出しね。カロちゃん、ルアちゃん、何買おうか。わたしたちでリスト作るから、男子はちょっと待ってて」



「えーと」

「ザックよ」

「なんだ、ライ」

「いいから黙っとけ。逆らうな」

「僕も、その方がいいと思いますよ」


 なんだか、俺が思っていた総合武術部の初日と、ちょっと違う気がするんだけど。

 まあ、こういう時に変に逆らっちゃいけないのは、小さい頃から分かってますよ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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