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第160話 思わぬ助け

 その日は遅くなってしまったので寮に戻る。

 そして、翌日の4時限目講義の後、俺は何棟かある課外部棟のひとつに入り、学院生会の部屋の前に来た。


 ドアは閉まっていた。

 そのドア横には、『学院生会にご用件のある方は、お気軽にお入りください』と書かれた札が下がっている。

 お気軽にか。俺、お気軽な感じじゃないんだけどな。

 でも、中に入らないと始まらないよな。


 ドアノブに手を掛けようとした時、いきなり内側から開かれた。


「おっと、ごめん。ドアの直ぐ前に誰かが立っているとは思わなかった。ぶつからなかったかい?」

「ええ、大丈夫です」


 俺はドアの向うに人の気配を感じたと同時に、少し下がっていたからね。

 部屋から出て来たのは、上級生と思しき男子学院生だった。



「おや、君はたしか、1年生の首席のザカリー君では?」

「あ、はい。ザカリー・グリフィンです」

「ああ、やっぱり。不躾に聞いて悪かったね。僕は4年生のエルランド・ヘルクヴィスト。この学院生会の副会長だよ」


「こんにちは、エルランドさん。ヘルクヴィストと言うと」

「こんにちは。うん、ヘルクヴィスト子爵家の次男さ。君のことは、同じ子爵家ということもあって、そのうち話をしてみたいと思っていたんだよ。それが偶然にも、ここで会うとはね」

「そうですか」


 ヘルクヴィスト子爵家はもちろん領主貴族で、この王都の南、北方大山脈沿いに領地を持っている。

 山脈沿いの貴族領の領都は、どこも山脈越え街道の起点になっているから、彼のヘルクヴィスト子爵領も国境の領地ということだ。



「ここに立っているということは、学院生会に何か相談ごとかな? もし良かったら、僕が話を聞くよ」

「これからお出かけだったのでは?」

「いやなに、今日はヒマだから、ちょっと課外部の新入生勧誘の様子でも、覗きに行こうかと思ってね。別に、どうしてもということではないよ。さあ、中に入りたまえ」


 まあ良いタイミングだと考えて、俺はエルランド副会長に案内されて学院生会の部屋に入り、入って直ぐの会議室兼応接室のソファに座らされた。


 この副会長はフェリ会長と違って、なかなかまともな人物のようだね。

 いや、フェリちゃんも外面的にはかなりまともに見えるんだけどさ。


「それで、学院生会への用件は、何かな?」

「あ、はい。新しく課外部を創ろうと思いまして」

「へえー、入学して2週間目でもう創部か。さすがにザカリー君だね。詳しく聞こうか」



 これまでの経緯のあらましを俺は話した。

 総合剣術部と総合魔導研究部の双方の部長から勧誘され、部長同士の揉めごとに少々なったこと。

 俺がどちらかの部や他の部に入ると、今後も揉めごとが起きそうなこと。

 自分としては、剣術や魔法などを総合的に研究し訓練したいこと。

 それに1年生が5人賛同して、一緒に新たな部を創ろうという話になったこと。


 それで、既に総合剣術部と総合魔導研究部の部長さんとは合意が出来て、協力関係を持つということで応援して貰える話になったこと。

 学院長と剣術学部長、魔法学部長の先生にも話をし、顧問の先生も決まったこと。

 などなど。


「なるほどねぇ。この僅か数日で、良くそこまで話を進めたね。おそらく君のお姉さんも助けてくれたのだろうけど。総合武術部か。剣術や魔法とかをまとめて、武術と名付けたのか。なかなか面白そうだ」


 いや、この世界に武術という言葉や位置づけが無いだけで、前世から持って来たものなんですけどね。



「いいね。入って早々の1年生が創る総合武術部。学院生会も応援するよ」

「ありがとうございます」

「それで今日ここに来たのは、根回しも終わったので課外部登録に、ということかな?」

「はい、それもそうなんですが、もうひとつ最後の根回しが……」


「ああ、そうか、分かった。あの人だね」

「はい、その人です」

「入学式の日以来、なんだか事あるごとに、あの人の口から君の名前が出るそうだよ。確かに、自分だけ知らなかったとなると」

「エルランドさんもそう思いますか?」

「そうだねぇ」


 この人、同じ領主貴族家出身の4年生で副会長をやってるだけあって、フェリ会長の実態を把握しているみたいだな。

 なんだか、凄く安心感が湧いて来た。


「よし、その根回しに僕も付き合おう。なんだか面白そうだし」

「え?」

「いや、君には災難と言うか、何というか。ゴメン、つい口が滑った。ははは」

「勘弁してください」

「でも、僕が一緒にいれば、そんなに無茶なことは言わないと思うよ。たぶん今は、会長室にいる筈だから、さあ行こう」



 エルランドさんが会長室のドアをノックすると、「はい、誰? 入っていいわよ」というフェリちゃんの声が中から聞こえた。ああ、いるね。


「あら、副会長、なにかご用? あ、ザ、ザッ、ザッカリーくうんじゃないの」

「失礼しますよ会長。ザカリー君が会長にお話があるとかで」

「なんで副会長が? まあいいわ、いらっしゃい、よく来たわね。別に待ってた訳じゃないんだから。えーと、こんな感じでいいのかしら」


 こいつ、ザック君て呼ぼうとして、副会長がいることに気がついて言い直したな。ザッカリーって誰だよ。

 お座りなさいな、とソファに座らされると、エルランドさんがしれっと俺の隣に座った。

 フェリちゃんも反対側の俺の隣に座ろうとしたけど、「もうっ」とか言って正面に座る。

 3人で並んで座ったら、おかしいでしょ。



「それでお話って、何かな? ザカリー君は1年A組のクラス委員になったのだから、ここにはいつでも、ひとりで来ていいのよ。というか、ひとりで来なさいね。わたしは待ってる訳じゃないけど、歓迎はしてもいいんだからね。えーと……」


「会長、ザカリー君の話を聞いてあげてください」

「ええ、ええ、そうね。別に凄く聞きたい訳じゃないけど、聞いてあげてもいいのよ。わたしにお話なのよね。でも、わたしにだけのお話じゃないのかしら」


 こいつ、侍女さんに助言されたという、ツンデレとかをやってみたいんじゃないか。

 なんだか言ってることが変だけど。


 俺は副会長に話した話を、フェリちゃんにもういちど話す。

 エルランドさんは、まるで今初めて聞いたような感じで一緒に聞いていた。この人、なかなか役者だよね。



「そういう訳で、これはやっぱりフェリシアさんに、ちゃんと僕からお話しておかないといけないかなと。いろいろとお世話になっていますし、きっと味方になっていただけると思いましたので」


「そ、そう。なるほどね。あなたは今年の新入生のなかでも逸材だから、自分で課外部を創部したいというのは頷けるわ。ええ、ええ、わたしは、いつでもザカリー君の味方よ。そうに決まってるじゃない。ここにひとりで来れば、もっとお世話してもいいんだからね」

「ゴホン、エヘン」


「あ、副会長、いたのね。そう言えば、あなたはどうして、ザカリー君と一緒に来たの?」

「いや、そこで偶々会いましてね。会長にお話があると言うので、ご案内したまでで」

「そうなの? まあいいわ。いきなりひとりでは、難しいわよね。年下だもの。そうそう、クラス委員で課外部の部長というのは、いいかもだわ。これで、わたしが会ってもいい理由がふたつになったってことよね。そうか、そういうことね」



「ザカリー君。君は果敢にも入学した早々、課外部を創部したい訳だ。これは学院生会も、しっかり応援しないといけないな。そうですよね、会長」

「え? ええそうよ。わたしが応援します。えーと、別に応援してあげないこともないんだからね」


「では早速、登録手続きと部室の割当てを決めましょう。ザカリー君、会の事務室に行こう。会長、お忙しいところ、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ええ、ええ、いいのよ。もう行くの? あの、もう少し……」

「ありがとうございました」


 副会長がうまく話を切ってくれた。感謝します。

 今にも大笑いしそうな彼は、早くこの部屋を出たいみたいだけどさ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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