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第158話 根回しに動く

 その日の夜、寮の自室で総合武術部を創部するにあたっての俺の考えや、今日みんなで話し合ったことを整理して紙にまとめた。

 まあ、簡単な企画書だ。こういうのは前々世での経験が活かせるよね。


 そして次の日。

 4時限目の講義が終わったあと、俺は1年生各組の専門教室がある講義棟の前庭広場でまだ展開されている、課外部の新入生勧誘の出店へと行った。

 目立たないように、ひとりでこっそりと。


 えーと、なんとか剣術なんとかの出店は、あそこら辺だよね。

 お、いたいた、やたら愛想のいい部員さんのひとり。

 俺は他の課外部の出店の陰から、その人に向かって手招きをする。



「これはこれは、ザカリーさんじゃないですか。どうしてこんなところに」

「しーっ、僕があそこに近づくと、隣の部のでっかい人に見つかるから」

「は、はあ」


「ねえ、アビー姉ちゃんはいます?」

「ああ、部長はおりますよ。ささ、どうぞどうぞ」

「ちょっとここまで、呼んで来て貰えないでしょうか」

「良いですが。少々お待ちください」


 陰に隠れて別方向を向いていると、直ぐにアビー姉ちゃんが足音も立てずにやって来て、俺の背後に立った。あんたはネコ科の猛獣ですか。


「なによザック。どうしたの?」

「しっ、静かに。ちょっと姉ちゃんに話があってさ」

「話って何よ。まあいいけど」

「ここでは何ですから、学院生食堂にでもご一緒に」

「なによ、気持ち悪いわね。ちょっと待ってて、部員に断って来るから」



「いや、じつはね、姉ちゃんに相談したいことがあって」

「珍しいわね、あんたが相談ごとなんて。なんだかヤバいこと? あんた、また何かした? 何か揉み消すとか?」

「違うよ」


「ほら、この前、課外部の件で、ちょっと揉めごとがあったでしょ」

「ああ、あの部長ふたりの件ね」

「あんな感じじゃ、もう僕、どの課外部も入り辛いじゃない」

「まあそうね。それにあんた、どうせどこにも入らないんでしょ」


「それでさ、いっそのこと自分で創ろうかと思って。それなら誰からも文句がないでしょ」

「なるほどね。あんたもいちおう考えるのね」

「そこで、自ら課外部を創部した姉ちゃんですよ。経験者に聞こうと思って」

「ああ、そういうこと」



 創ろうとしている総合武術部の概要や、友だち5人が入りたいと言ってる話を姉ちゃんに聞かせる。


「カロちゃんはともかく、あとの4人は、今年の1年生ではあんたを別にして、魔法と剣術のトップと目される子じゃない。ヴィオちゃんとライくんだけじゃなくて、剣術の方のふたりも、わたしも知ってるし、それに全員貴族家の子よね」

「あー、そうなるか」

「ほかの部もあの子たちを狙ってるみたいだから、あんた、恨まれるわよ」


 気がついたら俺の近くにいたんだから、仕方ないよな。

 皆が俺と一緒に課外部をやりたいって言ってるし。


「姉ちゃん、頼むよ。どうすればいいかな」

「そうねー。やっぱり後ろ盾が必要かしら。そうなると、あのふたりよね。あんた、ちょっとここで待ってなさい」


 アビー姉ちゃんは席を立つと、ビューッと消えて行った。

 後ろ盾ね。まあ学院生480名の小さな社会だから、そういうのも必要なのかな。

 暫くひとりで考えごとをしていると、程なくして姉ちゃんが戻って来た。

 あのふたりを伴って。



「おお、ザカリー君ではないか、ようやく我が部に入るのを決めてくれたか」

「ザカリー君こんにちはー。ロズ姉さん待ってたわ。さあ今から部室に行きましょ」

「もう相変わらず煩いわっ。静かになさいっ」

「はい」「はい」


「今日はね、弟からおふたりに相談というか、お願いがあるのよ。ザック、さっきわたしにした話を、この部長さんたちに話してあげて」

「うん、わかった」


 それで俺は、姉ちゃんが連れて来た総合剣術部のレオポルド部長と、総合魔導研究部のロズリーヌ部長に、俺が創ろうと考えている総合武術部について説明する。

 途中途中でふたりが口を挟もうとしたが、アビー姉ちゃんがその都度睨んで静かにさせてくれた。



「なるほどな。君が言ってる趣旨はなんとなく理解した。じつに君らしい考えだな」

「魔法と剣術を極めるだけじゃなくて、いろいろな闘う技術も研究するのね。なんだかロマンよね」

「おふたりに分かっていただいて、とても嬉しいです」


「それで、俺たちに相談ってなんだ? どちらかに入部させるのは諦めて、新しい課外部を創るのを認めろってことだろ」

「入学したばかりの1年生とは言ってもザカリー君だし、それに学院生が課外部を新たに創部するのを、反対することはできないわ」

「そうなんだけど、それ以上に部長たちには、ザックの新しい課外部の後ろ盾になって貰いたいのよ」


「そりゃいいけど、どうしてだ? 確かに、剣術と魔法の両方に関わるから、俺たちだけどよ」

「アビーちゃんが付いてるなら、もうそれで充分な気がするけど」

「それがさ、ザックが創る課外部に、入るのを決めている子たちなんだけど」


 姉ちゃんが5人の名前を口に出すと、ふたりの部長の表情が若干変化した。



「ブルクハルト君とルアーナ君は、俺のところにほしいんだがな」

「ヴィオちゃんはわたしのとこのお嬢だし、ライムンド君も凄く優秀だって聞いてるのよね」

「そうでしょ。おふたりなら、そう言うわよね。ほかの部でも、そう思うところもあるかもだし。でもその子たち、ザックと新しい課外部を一緒に創りたいって意志があるそうだし。そこで後ろ盾な訳よ」


「つまり、どういうことだ。俺たちの部が後ろ盾になって、先に関係を作っておけってことか?」

「そうそう」

「まったく無関係じゃなくて、直接に入部しなくても、関係を持っておけばって考えね」

「そうすれば、ザックもその子たちも、総合剣術部と総合魔導研究部の関係者ってことになるでしょ。それで手を打ちなさいな。ザックもそれでいいわよね」


「うん、それで充分だよ、姉ちゃん。それに、僕が課外部を創っても、人数を増やすとかどこからか引き抜くとかは、考えてないですし」

「そうか、分かった。我が部は後ろ盾になろう」

「うちもいいわ。後ろ盾にもなるし、兄弟姉妹部として一緒に活動ができるなら、もっといいわよね」

「おお、そうか。我が部もそうするぞ」



 それから、3人の先輩の助言を得ながら、具体的に新たな課外部を創る相談となった。


「事務手続きは大丈夫として、あんたが創るんだから学院長と、それから剣術学部長と魔術学部長の先生には、話を通しておきなさい。顧問の教授もいちおう必要だわ」

「それからあとは学院生会ね。部室も必要だから。課外部部室の管理は学院生会なのよ。普通は会長に話す必要はないけど、なんだかザカリー君は、しておいた方がいい気がする。わたしのカンだけど」


「フェリシア会長か。俺、ちょっとあいつ、苦手なんだよな」

「得意な人なんて、そんなにいないわよ」


 はい、俺も苦手かもです。でもロズリーヌ部長のカンは、当たってる気が俺もしますよ。

 後々で彼女が知ると、何を言い出すか分からない。

 フェリちゃんには、俺がひとりで話に行かなきゃダメだよなー。



「フェリシア会長には、あんたひとりで話に行きなさいよ。知り合いになったんでしょ」

「君は、あいつともう知り合いになってるのか」

「へえー、そうなの。でもザカリー君は首席だし、そりゃ目は付けられるわよね」


「もう目を付けられているらしいのよ、この子」

「そうか、頑張れよ」

「あー、はい」


 何を頑張ればいいか分からないけど、まあ頑張りますよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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