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第155話 いざ、剣術学中級の講義へ

 それから風魔法グループの5人は、素直に俺の話を聞いてくれるようになった。

 やっぱり見本を見せるのって大切だよね。

「あんなの見本じゃないでしょー」って声が、まだ聞こえて来る気がするけど。


 今日は5人にキ素力の循環から、単純に風を吹かせるだけの発動までをやって貰う。


「発動の詠唱はなんでもいいんだよ。強い風が起きて吹くイメージが、組立てられればいい。そうだなー、『風よ風よ我が風よ、穏やかなこの安寧の大地に一陣の風を起こし、あまた木々をなぎ倒すごとき猛威を持って吹きまくれ!』なんてどうかな」

「えー、長いっすよ、ザック先生」

「もういちどお願いします。覚えられませーん」


「長かったか、それじゃ『風よ、強く吹け』で」


「こんどは極端に短くなったわ」

「なんだかいいかげんなんじゃないか、ザック先生は」

「でもさっきのザック先生は、指を振っただけだったしよ」

「簡単な方がいいわよ」


「はい、そこー、こそこそ話してなーい。いきなり短縮は難しいけど、つまりはさっき僕が言った、『風よ風よ我が風よ、平穏を貪るこの大地に裁きの風を起こし、悪しき者どもをなぎ倒し、地に伏せさせるがごとき厳然たる猛威を持って吹きまくれ!』を頭の中にイメージして、声に出す言葉は『風よ、強く吹け』でいいんだ」


「さっきと詠唱が違くないか」

「ちょっと長くなった気がする」

「きっと、どんどん長くなるのよ、これ」

「いつから悪人を裁く話になったんだ?」



 仕方ないので俺は、みんなに両方の掌を胸の前に軽く出させ、その掌の直ぐ前から風が起きて前方に強く吹き出すイメージをして貰う。

 そしてなんとなくイメージ出来たところで、あらためてキ素力を循環させ、「風よ、強く吹け」と声に出して魔法の発動を行わせる。

 これまでも、少しの風であれば発動出来ている筈だから大丈夫だろう。


「おー、風が吹き出たぞ」

「こんな強い風を出したの、わたし初めて」

「こりゃ凄いぜ」

「風が見えるようだわー」


 この初等魔法学を受講している1年生たちは、要するに魔法適性は持っているものの、俺たち貴族のように8歳から魔法の師匠について、しっかりと教わっては来なかった子たちばかりだ。

 だいたい騎士爵や従士、一般の子が多い。

 あらためて初歩から学ぶ必要はあるけど、決して魔法の力が低い訳ではない。


 俺は彼らのキ素力を、しっかり見鬼の力で見ていてそれを知ったから、いきなり短縮詠唱から始めさせたのだ。

 魔法は想像力だ。想像し、イメージ化し、具体的な現象として組立てる。

 それができれば、あとは発動のポイントを作り点火させれば良い。



 今日はウィンドカッターは行わず、発動を安定させ、強風を遠くまで届かせる稽古までで終了した。

 ジュディス先生の火魔法グループと水魔法グループも、同じような感じだろう。

 先生は、ふたつのグループを直接指導しながら、俺たちの方もちゃんと見ていたようだ。

 主に俺がまた何かしないか心配で。


「ザカリー君、とりあえずありがとう。みんなうまく発動できてるみたいね」

「ええ、なんだか僕も楽しくなって来ましたよ」

「そう、それは良かった。あなた自身が極端なことしなければ、いい指導者になれるわ。次回もよろしくお願いね」


 受講生を解散させ、俺もジュディス先生と少し言葉を交わして引揚げる。

 カロちゃんが待っててくれた。


「ザックさま。わたしも、さっきのザックさまの魔法、みたいなの、出来ますか? いえ、したい、です」

「カロちゃんは水魔法だよね。今日はスプラッシュだっけ?」

「はい、アクアスプラッシュ。これは、いままでも稽古してたので」


 アクアスプラッシュ、つまり強い水しぶきを作り出して撃つ魔法だが、これを強力にすると、前々世にあった放水銃のように水流を絞り込んで威力を増したり、鞭のようにしならせて飛ばし、対象を打ってなぎ倒すことも出来る。


「うん、できると思うよ。スプラッシュだけでも、じつは凄く強力なものにできるし」

「そう、ですか。わたし、ザックさまに教えてほしい、です」

「いいよ。それにカロちゃんは、そうだなあ、回復魔法もできるかも」

「えっ! そうなんですか? わたし、回復魔法、覚えたい!」



「回復魔法は、エステルちゃんがうちの母さんに教わって来て、かなり出来るようになってるから、こんど彼女に教わるといいよ」

「はい! エステルさんに師匠になって貰いたい、ですっ!」


 回復魔法は、水魔法と風魔法をベースに複合させて発展させると、より強力なものになる。

 エステルちゃんはファータ人固有の強い風魔法適性を持っているが、じつは俺と同じように全適性の持ち主だ。

 本人はまったく自覚がないけど。


 そんな自覚もなく回復魔法ができるようになったり、おまけにブラックドラゴンのアルさんから黒魔法の即死魔法まで教わってるんだから、ある意味怖いよね。

 あなたは、生と死の両方を左右する存在になろうとしてるのですか。



 次の4時限目は選択科目が別なので、途中でカロちゃんとは別れる。

 俺は剣術学中級だ。

 カロちゃんはヴィオちゃんと合流して、例の社交学の講義だね。ヴィオちゃん、逃亡してないよな。

 ライくんは、何だっけ? 聞いたけど忘れた。


 剣術訓練場に着き、更衣室で訓練装備に着替えて訓練場内に入る。

 そう言えば、正規の受講生は何人になったんだろ。


 フィランダー先生と、それからディルク先生、フィロメナ先生もいるな。

 受講生は、っと、2人いるじゃない。俺ひとりじゃなくて良かった。


「お、ザカリー来たな。もう全員揃ってるぞ」

「あ、はい。遅刻じゃないですよね」

「うむ、まだ定刻ではないから大丈夫だ。よし、ザカリーが来たから、早速始めるぞ。今年の1学年剣術学中級の講義は、この6人で行う」


 この講義の教授であるフィランダー先生はともかく、ディルク先生とフィロメナ先生がなんで6人の数の中に入ってるんですかね。


「人数は少ないが、その分、密度の濃い講義が出来るというものだ。よし、まずはあらためて、受講生は自己紹介をしてくれ。ザカリーからな」

「A組のザカリー・グリフィンです。今日から1年間、よろしくお願いします」

「ふたりとも知っているだろうが、ザカリーは剣術学特待生になった」


「僕は、ブルクハルト・オーレンドルフです。B組です」

「あたしは、ルアーナ・アマディよ。E組ね」


 このふたり、前回のオリエンテーション講義にいたっけ? なんだか初めて顔を合わせた気がする。



「あらかじめザカリーに言っておくとな、このふたりは前回の講義には出ていない。俺の講義を取るつもりもあったが、他の講義を見に行っていたそうだ。それで、ザカリーがこの講義を取るんで、そっちはやめてこっちに来てくれた。しかしふたりとも、剣術はしっかり学んで来ているぞ」


「はい、僕はキースリング辺境伯領のオーレンドルフ準男爵家長男で、小さい頃から辺境伯騎士団で剣術の訓練をして来ています。よろしくお願いします、ザカリー様」

「あたしは、エイデン伯爵領のアマディ準男爵家次女よ。同じくエイデン伯爵家騎士団で剣術をやって来たわ。よろしくね、ザカリー様」


「そうですか。僕のことはザックでいいよ」

「それでは、僕はブルクで」

「じゃ、あたしはルアね」


 ふたりとも準男爵家の子息子女で、おまけにどちらも国境に接しているキースリング辺境伯領とエイデン伯爵領だ。

 エイデン伯爵領は、ファータの里に行った時に行き帰りと領都で宿泊している。ナイショだけどね。


 その国境の領地の騎士団で、どちらも子どもの時から剣術の訓練をして来たのか。

 これは楽しみだな。



「なあ、俺もザックって呼んでいいか?」

「わたしも」

「では、はばかりながら私も」


「え? 別にいいですよ。では、フィランダー先生のことは、フィラン先生と呼びましょうか?」

「おまっ、それは勘弁してくれ」

「いいんじゃないの、部長のこと学院長もフィランちゃんて呼んでるし」


 まあ冗談ですよ。剣術学部長をからかうのはそこそこにして、さあ講義を始めましょうか。

 って、それはそこでフィロメナ先生と言い合っている、フィランちゃんのお仕事だよね。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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