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第13話 式神を放つ

 さてそれでは、この世界で前世の呪法がじっさいに使えるか検証です。

 まずは式神でいこうかな。


 屋敷の図書室から子供向けの絵本を持ち出しているので、それをおとなしく読んでいるという体で自分の部屋にいる。

 侍女のシンディーちゃんが、「ザカリー様、絵本を読むんですか? わたしが読んでさしあげましょうか?」と言ってきたけど、「いいよ、今日は夏至の日だし、シンディーちゃんは自由にしていて」と、部屋から追い出した。



 ひとりになったところで絵本を開く。この世界のいろいろな生き物の姿が、子供向けに描かれている本だ。うーん、いろんな生き物がいるんだねー。

 クマやイノシシ、キツネ、トナカイなどと一緒に、ユニコーンとかアーバンクやバジリスク、うちの家名の由来にもなっているグリフォンもいる。あ、これはワイバーンだね。

 この世界にはドラゴンもいるそうなんだけど、単に生き物というよりは、人族や獣人族、エルフやドワーフといった者たちよりも上位の、ドラゴン族という存在として認識されているそうだ。

 もっとも、じっさいに見たことのある人はとても少ないらしいけど。

 鳥関係もいろいろいるねー。

 オウムやフクロウ、スズメとかヒバリ、シジュウカラ、キツツキなど良く知っている鳥もいれば、ルフという名の巨大なロック鳥やフレスベルグという大鷲、サンダーバードやフェニックスまで描かれている。


 いかんいかん、見入ってしまった。

 さて式神だ。何にしようかな、ということでクロウでいこう。小型のカラスだね。この鳥ならうちの庭園でもときどき見かけるし、誰も気にしない。

 まずは白い紙を用意する。前世で使っていた和紙より質は良くないが、まぁ大丈夫だろう。

 別にカラスのかたちに切ったりはしないよ。切り紙じゃないんだから。

 大きさもそれほど関係はないけど、とりあえずクロウと同じくらいの白い紙をテーブルの上に置く。


喼急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 気を高め、つまり自分の周りにある「キ素」を集め体内に循環させるように集約し、クロウの式神を放つイメージを構築しながら、前世で使われていた発動の呪文を唱える。

 呪法にある程度熟達していたときには、もう呪文を唱える必要はなかったんだけど、今回は異世界だし、3年振りだし、3歳児だし、念のため。

 やっぱりこの世界は、キ素が前の世界より多いのかもね。抑え気味にしたつもりだけど、思った以上に俺の体内にキ素が循環して暴れそうになるが、なんとか制御する。


 発動の呪文から一瞬間を置いて、ポンっと、いやポンて音はしないんだけど、これイメージね。まさにポンという感じで、テーブル上の白い紙が消え、真っ黒なクロウが出現する。


 やったーっ、成功だぁ! はい、この異世界でも式神、出せました。

 喜ぶ俺の顔を見て、式神のクロウちゃんは不思議そうに首を傾げている。

 それにしても、キ素を多く込め過ぎたかなぁ。見た感じ、ふつうのクロウと違和感ないかなぁ。頭からツノとか生えてないよね。

 と、しばらく色々な角度から観察していたのだが、クロウちゃんはもう飽きたのか欠伸をしていた。

 こいつ、前の世界での式神より知性が高いみたいだ。やはりキ素の質や濃さの違いか。

 まー、いいでしょ。キミが俺の式神第1号です。

 クロウちゃんは俺の顔を見て、ウンウンと頷いていた。



 それではお空に飛んでみましょう。

 クロウちゃんはカァとひと声鳴き、軽く翼を羽ばたかせると素早く窓から外へと飛び出す。

 俺の部屋は2階だから、あっという間に屋敷の上空まで舞い上がり、ある程度の高さでスピードを緩め、ゆっくりと旋回を始める。

 そうそう、視覚同期をします。クロウちゃんの視覚と俺の一部分の視覚を同期させる。

 俺の視覚で捉えている画像に、わかりやすく言うとワイプを嵌め込む感じだ。

 ワイプ画面は大きさを変えたり、場合によっては全画面にすることもできる。だけど式神が見ている視覚画像だから、全画面に同期すると酔ったりしちゃいそうだけどね。


 おおー、上空からうちの屋敷が俯瞰して眺められる。

 鳥なのでドローンのようには静止できないけど、クロウちゃんは下前方を見ながらゆっくりと旋回してくれているから、上空からの屋敷の全体像が良く見える。

 玄関ホールと大広間がある中央部分から、左右に対称にウィングが伸びる、マナーハウスやカントリーハウス風のそれなりに大きな建物だ。


 玄関前には馬車寄せがあり、その前方に庭師のダレルさんが管理している大きな庭園が広がる。

 そしてその庭園を左右から回り込むかたちで、馬車用のふたつの道が曲線を描いて伸び、正面の門へと繋がっている。

 庭園内にあるテラスに見えるのは、アン母さんとヴァニー姉さん、アビー姉ちゃんだな。ドナさんたち何人かの侍女さんもいて、お天気がいいからお茶でもしているのだろう。

 ふとアビーが上空を見上げる。あいつ妙に勘がいいからな、あぶないあぶない。


 屋敷の裏手にも少し小ぶりの庭園。こちらは前庭とは異なり、果樹などの樹木が多めだ。

 この庭園の隅にダレルさんの作業小屋が見え、その更に裏手にアビーが探してきて、先日から俺たちの秘密の剣の稽古場になっている空き地も見える。

 屋敷の向かって右側は大きな果樹園で、裏手の方まで伸びて広がっている。


 屋敷の左側ウィングからは通路が伸びていて、その先にあるのは騎士団の建物だ。

 ここには騎士団長のクレイグさんたちのオフィスや騎士団員の詰め所、そして娯楽室、食堂や風呂などがある。

 またこの建物とは別に、若い騎士団員のための独身寮もあるんだよね。

 この騎士団の建物と向かい合って、オスニエルさんたち内政官が働く建物があり、これらの建物からは領主館の通用門に道が繋がっている。

 また、騎士団の建物に隣接して訓練のためのグランドがあり、そして領主専用馬車のほか何台かの馬車のガレージや大きな馬小屋もこの一画にある。


 そしてこの領主館全体の後方には、領都グリフィニアの全体を囲む城壁。

 前にも話したかもだけど、特にこの領主館後方の城壁は堅牢に造られていて、それはその背後に広がる広大なアラストル大森林、そこに広範囲に棲むという魔物から領都グリフィニアを護るためだ。

 クロウちゃんをこの大森林の方へ飛ばしてみようかとも思ったけど、初の式神の飛行だし今回はやめておこう。

 替わりに街の方に飛ぶように指示を出す。


 夏至祭の2日目だし、今日も街は賑わっているなー。中央広場の屋台目当ての人出も多く、うん今日も踊っている人たちがたくさんいるんだね。

 この広場を中心に領主館に真っ直ぐ伸びる大通り、そしてYの字形に斜め左右に2本の通りが大森林側とは反対方向の城壁まで伸び、領都に入るためのふたつの大門に繋がっている。

 領都内は、この3本の通りで3つの区画に区分されているけど、区画によって特に極端な違いは無いそうだ。

 商店はそれぞれの大通りの両脇や、3区画を繋いで中程を円形に走る通り沿いにたくさん並んでいる。

 職人さんたちの工房が集まる一画とか、比較的大きめの屋敷が建つ一画などが多少特徴的らしいけど。


 上空からクロウちゃんの視覚で眺めて行くと、赤瓦の屋根の家々が陽光に映えて美しく並んでいる。ほとんどが2階建てという感じで、それぞれに小ぶりの庭がついている。

 人口は六千人くらいの中規模程度って、たしか聞いたことがあるな。それにしても美しい都市だね。

 おそらくはこれまで、領都に住む誰も見たことのない眺めを堪能する。

 自分の暮らす街が奇麗ってなんだか嬉しいよね。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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