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第153話 クラス委員

 ライくんとヴィオちゃんは、わりと良く似た育ち方をしている。

 共に魔法に才能のある片や男爵家の次男、もう片方は伯爵家の三女として、領主貴族家の中では比較的気楽な立場で、魔法に磨きをかけて来た。

 剣術については、この世界の貴族家の一員なのでいちおうは習ってはいたが、特に熱心に稽古をしていた訳ではない。


 そんなふたりが、魔法学特待生で剣術学特待生にもなった俺とクラスメイトで、身近な友だちになってしまった。

 入学早々、ずいぶんと刺激を受けたのだそうだ。

 魔法だけでもかなり差があるのに、剣術の方も凄いという存在に。



 今日の中等魔法学に出席した中でも、このふたりの実力は抜きん出ていると思う。

 おそらくこのまま力を伸ばせば、将来は一流の魔法使いになれる可能性がある。

 自分たちもそれぞれに自負があったのだろうが、それが俺の魔法を見てしまった。

 そして、話し合ったらしい。


 自分たちの魔法の力など、せいぜい子どもレベルの中で高い方というだけでは?

 なにか事があった時に、自分たちは闘えるのか?

 魔法だけ中途半端に優れていても、自分の身を守ることさえも出来なければ、結局役に立たないのでは?



 これらの疑問を持つのは、ある意味正しい。

 例えば、うちのレイヴンのライナさんでも、土魔法の達人なのに日々早駈けや体術の訓練を行い、身体能力を鍛えている。

 騎士団の従士だから当たり前ではあるのだけど、いざ戦闘という場面で動けない、闘えない魔法使いは、戦場外から魔法を撃つしかないのだ。


 そして、そんな魔法使いは真っ先に狙われ、潰される。

 貴重な魔法の使い手を護るためには、そこに戦力を割かなければならなくなる。

 一発逆転ができる大魔法使いならともかく、戦力が限られている場合には、却って足手まといになる可能性すらある。

 ましてや、少人数の戦闘単位で闘う場合には。


 だから、まだ12歳でこれからの伸びしろがある筈のふたりは、まずは自分の身を自分で守れるようにと、あらためて近接戦闘の剣術を学ぼうと思ったのだ。

 自領を護る責任がある領主貴族家の一員というのも、その思いにかなり影響しているかも知れない。

 それじゃ、カロちゃんは?


 個人的な思いはまだ良く分からないが、魔法にある程度の適性があり、剣術にもとても興味があって学び始めていた彼女が、どうやらライくんとヴィオちゃんの考えに賛同したようだね。

 本当のところどう考えているのか、今度エステルちゃんからでも聞いてみて貰おうかな。

 変な風に俺が誘導してしまっていたら、ご両親のグエルリーノさん、ラウレッタさんやソルディーニ商会に申し訳ないし。



「では、選択科目書類を提出に行こうか」

「おう、そうだな」

「やっぱり、社交学はとらなきゃダメかな」

「まだ言ってる。ヴィオちゃん、諦めるです」


 俺たちは事務棟で提出を終え、いよいよ明日から本格的な講義が始まる。

 これでようやく、落ち着いた学院生活が送れるだろう。


「明日は、朝一にホームルームだよな」

「え、そうか。1時限目の前の8時半からか」

「ザックさま、朝走ってて忘れないでください、です」

「なんでも、学院生会から話があるらしいわよ」


 ホームルームに学院生会が来るのか。

 ヴィオちゃんの情報では、1年生6クラスにそれぞれ学院生会メンバーを派遣して、何か話をするらしい。

 何だろうか? 何か嫌な予感がするのは俺だけだろうか。



 今朝は日課の早駈けを早めに切り上げ、エステルちゃん弁当を食べてA組の専用教室に駆けつける。

 なんとか間に合ったな。


 クリスティアン先生が、8時30分ちょうどに専用教室に入って来た。


「これから、10日間のなか日、5日サイクル2廻り目の1時限目前30分はホームルームになる。私も基本的には同席するが、ホームルームはクラスの皆が自主的に進める時間だ」


「それで今朝は1回目ということなので、学院生会の上級生が来て進行してくれることになっている。それでは入りたまえ」

「クリスティアン先生、ありがとうございます。それでは失礼します」


 女子学院生の声がして、3人の上級生が教室に入って来た。

 嫌な予感が当たりました。



「みなさん、おはようございます。もう私のことはご存知かと思いますが、学院生会会長のフェリシア・フォレストです。今朝は1年生のそれぞれのクラスに、学院生会のメンバーがお邪魔していますが、このA組は私が担当させて貰いますね」


 フェリちゃんがニコッと笑顔を浮かべて挨拶した。こういう時は、本当にしっかりしてるんだよね。

 この笑顔と堂々とした物腰に騙されてはいけない。

 それから、俺を見つけてチラチラ目線を送るのは、やめて貰えないでしょうか。


「それで、ホームルームのお時間をいただいた理由ですが、まずは学院生会について皆さんにご理解いただくためです。学院生会は、セルティア王立学院創立以来の長い伝統を持ち、特に現在のオイリ学院長のもとにあっては、学院生の自主的で実りある学院生活の柱となるべく、様々な活動を行っています」


 フェリ会長はそれから、学院生会の主な活動について説明する。

 学院生の日常に関係することから、秋の総合戦技大会をメインにした学院祭まで、確かにいろいろとやることがあるんだな。



「学院生会では、1年生の皆さんも是非とも会に入って、一緒に活動をしていただきたいところですが……。今日お邪魔したのは、各クラスを代表して学院生会を繋ぐ役割をして貰う、クラス委員を決めていただくためです」


 そこでまた、俺の方をあらためて見ないでくださいね。


「いえ、クラス委員と言っても、それほど大袈裟なものではないですよ。学院生会が各クラスとのやりとりや連絡をする際に、その窓口となっていただく方ですね。あとは、クラスから何か学院生会に相談することなどがあった場合、クラス委員が代表して来ていただければいいのです」


「よろしいでしょうか。では、どなたか我こそはという人はいませんか? クラス委員をやってみたいという人は手を挙げてください。……いらっしゃいませんか?」


「手が挙がらないようですね。今日この場で決めなくても、次回のホームルームまでに決めて、お知らせいただければいいのですが。ただ、私からひとつアドバイスをしますと、例年、入試で首席になった方は、学院生会に所属していただくか、少なくともクラス委員になっていただくのが恒例ではあります。えーと、確かこのA組に首席の方がいらっしゃいましたよね」


 クラスの全員が俺の顔を見る。

 フェリ会長、確かいらっしゃいましたよね、とか態とらしいんですけど。

 最初から決めていたな。



「そうそう、首席はザカリー・グリフィン君ですよね。そちらに座っていらっしゃいましたね。どうですか、みなさん。ザカリー・グリフィン君になっていただきませんか? いや、それは違うとか、私がなります、という方がいましたら、手を挙げてください」


「誰からも手が挙がりませんね。では、1年A組のクラス委員は、ザカリー・グリフィン君ということで。よろしいでしょうか、よろしいですね。では、拍手!」


 パチパチパチと、フェリちゃんの勢いに押されて、クラスの皆が拍手する。


「あのー、僕の意志とか、意見とかは……」

「私も会長として、今年の首席であり、かつグリフィン子爵家ご長男のザカリー君に、このA組のクラス委員になっていただいて、とても嬉しく思います。これからよろしくお願いしますね」

「あのー」


「各クラスの委員が決まりましたら、またあらためてご連絡します。本日は貴重なホームルームのお時間を拝借し、ありがとうございました。クリスティアン先生、ありがとうございます。それでは失礼します。これから楽しく有意義な学院生活を、皆で創って行きましょう」


 フェリ会長たちは、あっと言う間に教室を出て行ってしまった。

 クラスの皆は、呆気に取られている。

 クリスティアン先生もポカンとして、暫く言葉が出ない。



「えーと、ザカリー。まあなんだ、君もいろいろあって大変だろうが、うちのクラスの代表として、頼むな。それでは1時限目の時間になったし、気を取り直して講義を始めるぞ」


 俺の関係者がよく言う、災難や危険を引き寄せる体質って、やっぱりそうなんだろうか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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