第151話 やっと魔法を撃たせて貰いました
俺が今現在、どんな魔法ができるかって?
種類的に言えば、火、水、風、土の四大元素の魔法はもちろん、ライくんの雷、ヴィオちゃんの氷もできる。
これらは、四元素の組み合わせ派生系統だからね。
それ以外だと、重力魔法、それから黒魔法が少し出来るようになった。
そう、ブラックドラゴンのアルさんの得意魔法だ。
ファータの里に行って、アルさんの洞穴で会った時に教えて貰う約束をして、じつはその後、何回かアルさんとは会っているんだよね。
これについては、また別の機会にしよう。
だから、アルさんが空を飛ぶ時に良く使う姿隠しの魔法なんかは、俺も使える。
重力魔法による浮遊や飛行、それから時間魔法はまだまだ難しいな。
特に、体術の縮地と重力魔法を組み合せることを考えているけど、これは暫く先だ。
あと教えて貰ったのが、即死魔法。
黒魔法のある意味、究極技らしいけど、うまく発動するかどうか試すことがだいたいできません。試す度に誰か死にます。
エステルちゃんも教わっていたけど、なるべく使わないでください。
それから魔法ではないが、前世から引き継いでいる結界の呪法と式神の呪法。
結界の呪法は、俺が持っている固有能力の探査・空間検知・空間把握との組み合わせだけど、更にアルさんから教わった魔法を合わせることで、かなり強力かつ広範囲になっている。
式神の呪法は、昔にクロウちゃんを出して以来、使ってません。これはこれで、また研究しようかな。
俺だけの固有能力で言うと、いちばん良く使うのが見鬼の力。それから無限インベントリに何でもコピー再生する写しの力だよね。
無限インベントリはそう頻繁に活用出来ていないし、写しはほとんど使っていないから、これも研究課題だな。
「おーい、ザカリー、聞いてるかの」
「あ、はい」
「今、おぬしが魔法学特待生になったことを、皆に説明したところじゃが。まあ良いわい」
「ではこれから、実技指導も交えながら講義を始めて行きますぞ。まずは皆の魔法発動の確認じゃが、先ほど質問した短縮詠唱、無詠唱についても取組んで貰うからの」
「魔法の発動は、実際に起こそうとするものを頭の中で組立てて、キ素力の力によって実現させること、というのは皆もこれまで教わって来たじゃろ。つまり魔法の発動能力とは、イメージ能力じゃ。詠唱は、その組立てをスムーズに行う助けをするのであって、必ずしも必要とするものではない。ここまではいいかの」
「実際に攻撃魔法を使用することになった場合、的確なタイミングを捉え、素早く、かつ確実に発動せねばならぬ。そうしないと、求める効果を発揮することはできんし、場合によってはタイミングが遅れ、逆に攻撃を受けてしまう危険があるのじゃ」
「であるから諸君らには、無詠唱発動に是非とも取組んでほしいのじゃ。それではこれから、皆には順番に最も得意とする魔法を発動して貰うことにする。その際、短縮詠唱がまだ出来ない者は短縮に、短縮は出来るが無詠唱が出来ない者は、無詠唱発動を試みて貰いますぞ。これは試験ではないから、失敗しても良いでな」
「あー、それからザカリーは、わしのところに来い」
「えー、またですか」
「またですかとは何じゃ?」
「あ、いや、剣術学中級の時もそうだったので」
「ごちゃごちゃ言わんで良い」
「はい」
俺はウィルフレッド先生の横に立つ。
俺を除く16名の受講生たちは、順番に的に向かって魔法を撃つことになった。
土魔法で強化された土壁を背にして、的が7つ並んでいる。
この魔法訓練場は、うちの子爵家魔法訓練場と比べてかなり広いので、的までの距離は30メートルほどあるかな。それでも空間的にはまだかなり余裕がある
入試の特技試験の時には、もっと的に近づいて15メートルぐらいの距離から撃ったが、この中等魔法学講義では倍の距離を使う。
まずは、短縮詠唱を試みる受講生たちが魔法を撃つ。
「火球よ出て、行け!」とか、「風よ、鋭く切り裂け!」とか、「水よ、球になって飛べ!」などと、短い詠唱で発動させる。
この言葉でなければ、とは別に決まっていないんだよね。短く、かつ自分にとって的確でさえあればいい。
次は、無詠唱挑戦グループだ。
こちらの方は、ちょっと苦労しているみたいだね。
「ふん」とか「むん」などと、言葉にならない声を吐き出して魔法を発動させようとするが、なかなかうまく行かない。
「よしよし、今日の講義でまだ出来なくてもええぞ。これから出来るように学ぶのじゃ。まずは短縮で撃ちなされ」
結局、無詠唱で発動出来たのは、初めから修得済みのヴィオちゃんとライくんだけだった。
キミたち、優秀なんだね。「ふん」とか「むん」とかは言ってたけど。
今さらだけど、無詠唱発動って難しいんだな。
「それでは、そろそろ講義終了の時間じゃから」
「あのー、僕は」
「ザカリー、やるのかの? その、小さく小さく、できますじゃろか」
なんで最後の方は小声なんだ。
「凄く小さくしますから。まだ学院に来て、1回も魔法を撃ってませんし」
「そ、そうかの。では、やってみなされ」
なんで俺もコソコソ話なんだ。
俺は受講生たちが魔法を発動させていた位置に行って、正面の的を見る。
的は7つ並んでるよね。
魔法は小さく小さくだよね。速く鋭くはいいんだよね。
心配そうに見ている先生方の方に、俺はニコっと笑顔を向ける。
その俺の笑顔を見て、ますます心配そうな顔をしないでください。
「行きますよ」
「…………」
シュパッ、シュパッ、シュパッ、シュパッ、シュパッ、シュパッ、シュパッ。
7つの小さな火球が次々に撃ち出される。
それはもの凄いスピードで飛び、ズバン、ズバン、ズバン、ズバン、ズバン、ズバン、ズバンと右の的から順番に命中して、ごく小さな爆発を等間隔で起こした。
全弾命中です。後ろの土壁も壊してませんよー。的は粉々だけど。
暫く、魔法訓練場を静寂が支配しています。
どでかい火焔も爆発音も出さなかったし、問題ないよね。
先生方の方を見ると、3人とも口が半開きみたいで何も言ってくれないので、仕方なく俺はウィルフレッド先生の側に歩いて行く。
「小さく小さく、しました」
「お、おう、そのようじゃの」
「そろそろ講義終了の時間ですよ」
「う、うむ、わかった」
「今日の講義は、これで終了じゃ。わしの講義を受けたい者は、選択科目の書類に記入して提出するのじゃぞ。それでは解散」
「では僕もこれで」
「ザカリーは、ちょっと残ってくれんかの」
「あ、はい」
俺を待ってこちらを見ていたヴィオちゃんとライくんの方を向くと、様子を察したのか胸の前で小さく手を振って魔法訓練場を出て行った。
カロちゃんと選択科目の相談をしようと待ち合わせしてるし、俺も一緒に行きたいのだけどな。
再び魔法訓練場の休憩所ですね。2回目ですからね。
「いやー、見事だったわよねー。ねえウィルフレッド先生」
「あ、うん、そうじゃの。じつに見事な7連撃ちじゃった」
「と言うか、火球魔法の7連撃ちなんて、初めて見たわよ」
「私も初めて見た。それに凄い速さで正確だったな」
オイリ学院長と3人の魔法学教授が、そんなことを話し合いながら俺の方を見る。
そうか、7連は初めて見たのか。たぶん10連ぐらいまでは出来るんだけど、とりあえず言わないでおこうかな。
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