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第148話 課外部からの勧誘

 講義開始2日目。

 今日は実技系の選択科目も無いので、1日を講義棟で過ごした。

 特に困った出来事はなかったよ。学院に入学して連日そんなのがあっても疲れる。



 選択科目の受講は、5日間の1サイクルで10単位を取ればいい。

 4日間の午後2時限ずつと、5日目が午前午後の4時限分の計12枠があるが、その中に10科目を埋めればいい訳だ。

 埋めなかった2枠は自由時間になる。

 これに対して、選択できる講義数は全部で20種類だから、倍の数が用意されている。

 魔法学が初等と中等、剣術学が初級と中級と、それぞれ2講座があるのは、この世界らしいよね。


 更に魔法学の初等と剣術学の初級は人気があり、受講生も多くなるので、それぞれ別の教授で2講座ずつある。

 つまり初等魔法学は初日に俺が出席したジュディス先生の講義と、それとは別の日にクリスティアン先生の講義があり、剣術学初級はディルク先生とフィロメナ先生の講義が別々の日に設定されている。


 ちなみに2年生の魔法学は中等魔法学(2)と高等魔法学(1)、剣術学は剣術学中級(2)と剣術学上級(1)と、それぞれランクアップする。



 概論を学ぶその他の必須科目からは、神話と歴史学が神話学(1)と歴史学(1)と分かれてより専門的になり、地理と社会学も同様に地理学(1)と社会学(1)に分かれる。

 そのほかは、自然博物学(1)といった具合だ。


 これら必須科目で扱われない科目としては、音楽や美術学、詩文学の芸術系、軍事戦術学と内政学の軍事・政治系、それから商業学や鍛冶技術学、社交学なんていうのもある。

 それぞれが1年生では(1)で、(2)(3)(4)と4年生まで続く。



 学院に入学するにあたっては、ヴィンス父さんから軍事戦術学と内政学は選択しておけと言われた。

 俺もいちおう領主貴族の長男だからね。

 父さんに何かがあった場合には、子爵領の軍事と内政のトップに立たされてしまう。

 だから、きちんと学んでおけ、ということのようだ。

 ちゃんと選択しますよ。



 剣術学初級は無しとして、中級は取る約束をしちゃったし、初等魔法学はアシスタント扱いで出なきゃいけないし、これで中等魔法学を取らないと魔法学部長のウィルフレッド先生に何を言われるか分からない。

 だからこれで、もう5科目が埋まるでしょ。


 あとの5科目はどうしようかな。

 選択科目の神話学と歴史学、地理学と社会学は取りたいし、この世界固有の魔獣や魔物も研究対象に含まれる自然博物学も取りたいよね。概論だけじゃ物足りない。

 芸術系の科目や言語学、算数学の選択科目は置いとくかな。

 社交学はいらないとして、鍊金術学の選択科目や鍛冶技術学はちょっと興味があるけど。



 取る可能性のある科目は、講義が重なってしまう場合には半分の時間ずつ、オリエンテーション講義に出席することにする。


 男爵家の次男であるライくんも、やはり軍事戦術学と内政学は選択するように言われて来たそうだ。

 伯爵家三女のヴィオちゃんはわりと自由らしいけど、社交学はちゃんと取れと言われているそうで、凄く嫌がっている。

 カロちゃんはやっぱり商業学が必須で、あとは貴族との取引も多い大商会の娘さんらしく、社交学は取りなさいと言われているそうだ。


「ヴィオちゃん、一緒に社交学」

「うーん、カロちゃんが取るなら、一緒に取るかなぁ。嫌だけど。ザックくんとライくんもどう?」

「…………」



 今日は無事に4時限目まで過ごし、1年生の専門教室がある講義棟の前の広場で新入生勧誘が展開されている、課外部の出店を4人で覗いて廻ります。

 学院生のほとんどが、どこかの課外部に所属しているということだけど、ずいぶんたくさんあるよな。


「昨日も見て廻ったんでしょ。どこに入るか目星はあるのか?」

「そうだなー、昨日は少ししか廻らなかったけど。やっぱり魔法系かなー」

「わたしも魔法系にするか、どうしようか悩み中」


「カロちゃんは?」

「えーと、わたしも魔法をもっとお稽古したい、です、けど」

「けど?」

「剣術もしてみたい、です」

「そうなんだ」



「なになになに、カロちゃん、剣術したいの、したいの?」

「わっ」

「お、姉ちゃんがまた出た」

「なによザック、また出たって。それよりカロちゃん、聞こえたわよ、こっち来なさい」

「ふぇー」


「ザックよ、おまえのお姉さんて、耳良過ぎだな」

「目と耳がいいばかりか動物的カンが働き、足が速くて跳躍力もあり、おまけに大喰らい。なんかゴメン」

「グリフィン子爵家って、なんだか凄いな」



 カロちゃんが、突然背後から現れたアビー姉ちゃんに、ふぇーっと引っ張られて行った。

 ああ、姉ちゃんの、なんとか剣術なんとかの出店に近かったんだね。


「強化剣術研究部よっ。あんた、覚える気ないでしょ。まあ、あんたはいいわ。カロちゃん、ここに座りなさい。誰か、紅茶よっ」

「はいっ、部長」

「ささ、どうぞこちらへ」

「ほかの皆さんも、どうぞどうぞ」


 いつの間にか、ガタイのいい男子学院生が3人現れた。

 姉ちゃんが部長だったのか。するとこの、デカいが物腰が柔らかく、やたらに愛想のいい男子たちは部員さんか。

 カロちゃんをじつにスムーズに椅子に座らせたかと思うと、直ぐに別の部員が紅茶をいれて出す。

 俺たち3人も別の椅子に案内されて、やはり紅茶を振る舞われた。


 アビー姉ちゃんは、すかさずカロちゃんに部の説明を始める。

 何ここ、怪しい商品のセールスか宗教とかの勧誘? それともホストクラブかなんかなの?



「この研究部って、アビー姉ちゃんが部長なんですか?」

 俺たちの直ぐ横で、両手を後ろに回し直立不動で立つ男子部員さんに聞いてみた。


「お、これはこれは、もしかすると部長の弟さんのザカリーさんですか?」

「はい、そうですが」

「お噂はかねがね。はい。我が強化剣術研究部は、アビゲイル部長が昨年初めに、それまで所属していた総合剣術部から独立して、その傘下の研究部としておひとりで設立したものであります。そして我々も、アビゲイル部長の強いお気持ちとこころざしに賛同し、総合剣術部から移籍し、今日こんにちに至っております」


 姉ちゃんが創部したのか、偉いな、ってなんだかダメな感じがするのは、気のせいでしょうか。

 要するに、クレイグ騎士団長を師匠に、魔法があまり使えない姉ちゃんが鍛錬して来た、キ素力で強化する剣術を研究する課外部なんだろうけど。


「ザカリーさんがご入学されると聞き、我々部員はザカリーさんを我が部にお迎えすべきでは、とアビゲイル部長に進言しているところではあるのですが……」

「おーい、ザカリー・グリフィン君が来ていると聞いたが、ここにいるのか?」


 部員さんの話の途中で、それを遮るような大きな声が近づいて来た。

 なんだか、今日も厄介ごとが起きる匂いがするよ。



「アビゲイル部長、アビー」

「ああ、煩いわね。いま、可愛くて大切な新入生に説明をしているとこなのよ。あら、レオ部長なの? なによ」

「いや、アビー。きみの弟のザカリー君が来てると聞いてだな。おっ、君か?」

「いえ、こっちです」

「はい、僕がザカリー・グリフィンですが」


「おお、君がそうか。俺は総合剣術部部長のレオポルド・バルデムだ。よろしくな」

「はあ、どうも」

「アビー、弟くんを借りて行っていいか? ここは狭いしな」

「もう、部長の声は大きくて煩いから、自分のとこに行ってちょうだい。ザックはご自由にどうぞ」


「ということだ。さあ行こう」

「はあ、でも」


 俺はライくんとヴィオちゃんの方を見た。

 ふたりとも、手だけでどうぞどうぞと言うのはやめようね。

 仕方ないので椅子から立ち上がって、このひと際大柄の総合剣術部部長の背中の後を追う。



 なんの事はない、直ぐ隣が総合剣術部のスペースらしく、姉ちゃんの部よりも確かに広い。

 入学式以来、俺の顔は知られているだろうから、誰かが俺が隣に来ていることをこの部長に知らせたんだろうね。


「よしよし、そこに座れ、ザカリー君」

「はい、それではお言葉に甘えて」

「まずは、剣術学特待生、おめでとう。君のことは、いろいろと聞いているぞ」

「ありがとうございます」


「それで、俺が声を掛けた理由わけはもう分かってるよな」

「はあ」

「見事、何十年振りかの剣術学特待生になった君を、我が総合剣術部に迎え入れたい」


 課外部の出店見学に来た早々、やはりこうなりましたかー。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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