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第147話 早速お説教をいただきました

「ザックさまは、剣術学特待生にもなった、ですか」

「にもって何? にもって、カロちゃん」

「先に魔法学特待生になってる、です」

「えー、そうなの。でもそうよねー」

「僕の前は、アン母さんなんだってさ」


 アン母さんのことはアビー姉ちゃんも知らなかったようで、4人は驚いていた。


「グリフィン家から、親子が続けて特待生なのね。ザックくんの魔法が凄いらしいのもそれで分かるけど、剣術は?」

「あー、うちの騎士団とか、みんな脳筋だし、その親玉の騎士団長は姉ちゃんの師匠だからね」

「ザックなんか、この子が3歳の時からわたしと稽古してるのよ。5歳からは騎士団の稽古に加わってるわ」

「…………」



「そうすると、ザックは魔法だけじゃなくて、剣術の講義も出なくても問題ないってことなのか」

「いや、剣術学中級は取ることになった」

「初等魔法学もアシスタント扱いで必須よね」

「あと、ウィルフレッド魔法学部長の中等魔法学も、出てくれって言われてる」

「それって、特待生の意味があるの? あんた、何やってるの」


 いや、俺が何やってるて言うより、周りがそうなるからさ。俺のせいじゃないと思うんだけど。



「やっぱり、エステルちゃんが側にいないと、たった2日でこうなるのね」

「そうかも、です」


「あのー、ザックくんの話題で良く名前が出る、そのエステルさんて、どういう人なんですか?」

「あー、やっぱり気になるわよねー。伯爵家の三女さんは」

「それ、なんか変な呼び名なんで、ヴィオでいいです」


「ああ、ごめんごめん、ヴィオちゃんね。それでエステルちゃんのことね。彼女は、まあ本当の素性はなんだか難しくて、わたしも何となくしか知らないんだけど。ザックが5歳の時から専属の侍女さんで、この子のお世話係で、それに護衛兼見張り役の子よ」


「護衛兼見張り役の侍女なんですか?」

「まあ、この子に護衛は必要ないから、主に見張りね。この子、騒ぎを引き寄せやすい体質だし」


 騒ぎを引き寄せやすい体質って、どんな体質だよ。まあ否定はしないけどさ。



「でも、ザックくんが5歳の時からの専属侍女だったら、その、結構年上ですよね」

「それがねー、あのひと、見た目はほとんど年を取らないのよ。今はわたしと同じくらい。そうよね、カロちゃん」

「はい、です。わたしが5歳の時に初めて会った時と、まったく変わらない、です」


「エルフなの?」

「エルフさんではない、です。ですよね?」

「うん、エルフじゃないよ。これ以上は、ちょっと秘密かな」


「それはいいのよ。うちの両親も養子にしようかって言うぐらい、まあザックとはセットね」

「クロウちゃんも、ですよね」

「そうそう、クロウちゃんも含めてセット」



「クロウちゃんって誰ですか?」

「クロウちゃんは、カラスさんです。でも、クロウちゃんて呼ばないと、本人から怒られます」

「カラスさん??」


「クロウちゃんは、ザックが3歳ぐらいの時から飼ってる、えーと、ペットのカラスね。すっごく頭が良くて、人の言葉が分かるカラス。本人は喋れないけど」

「でも、ザックさまやエステルさんとは、お話ししてます、です」

「だからこの子たち、ふたりと1羽でセットなのよ」

「????」



「それで、そのエステルさんとクロウちゃん、ですか。王都には来てないんですか?」

「そんな訳ないじゃない。エステルちゃんがこの子と離れる訳ないし、クロウちゃんも同じよ。エステルちゃんは、うちの王都屋敷の実質、女主人よね」

「へえー」


 本人は、女主人て呼ばれるのが表面的には嫌みたいだけどね。

 でも実質と言うか、そう公認されてるんだよな。


「エステルちゃんは、この学院を自由に出入りできる許可を貰ってるわよね」

「うん。だけど、まだ始まったばかりだからね。少し僕ひとりにしてみるみたいだよ」

「そうよねー。あんたも、いつまでも見張りがいないとダメとか、そんなんじゃ困るわよね。その辺はエステルちゃんにお任せだけど」


「ザックくんを一手に引き受けているエステルさんて人、なんだか凄い女性な気がして来たわ」

「そう、です。凄いと思いますです」


 女子が3人になると、会話が尽きないよね。そう思うよな、ライくん。

 て、なんだかさっきから、キミは静かにしてるよな。気持ちは分かるけど。



 それから暫く女子たちの会話は続き、そのうち折を見てうちの王都屋敷に皆で遊びに来ることになった。

 ライくんも来てよ。うちの屋敷は、ただでさえ女性比率が高いんだからさ。

 来てくれる? うん、ありがと。


「ザック、あんた、うちの研究会には、入らないわよね。無理矢理入れようかと思ったけど、剣術学特待生になっちゃったら、うちの上の総合剣術部からも声が掛かるか」

「まだ、どの課外部も覗いてないし、どんなのがあるか何も知らないしね。あ、そう言えば、学院生会に入れって、会長さんから誘われてたなー。保留にして貰ったけど」


「なになに、フェリシア会長から誘われてんの?」

「うん、会長室にも案内された」

「あんた、たった2日で何やってるのよ」

「えー、だって、何となくそういう流れになって」



「あの、フェリシア会長って、フォレスト公爵家の方ですよね」

「そうそう、さすがヴィオちゃんは良く知ってるわね。たしか、公爵家の長女よね。入学式で挨拶したから、みんなお顔は見たと思うけど、ほら、美女で才媛ってやつ」

「とてもお奇麗で気品のある方、でした」


 あなたたちは、フェリちゃんの本質をまだ見てないぞ。俺は初日で看破させられたけど。


「ザックは学院生会からも、もう目を付けられてるのか」

「いやいや、目を付けられてるとかじゃなくてさ。なんでも入試の首席は、学院生会に入るケースが多いんだって。それに課外部と重複しても構わないって、フェリさんが……」

「フェリさんだってぇぇ」


 女子3人が良く声が揃いますねー。


「いや、あの人がそう呼べって言うもんだから、つい」


「これは、エステルさんに報告する事案、です。アビーさま」

「そうよねー。エステルちゃんに知らせないと」

「なんだか、わたしもそう思うわ。なにせ公爵家令嬢だし、年上だし」



 フェリちゃんの話題を自ら出したのは、失策だったなー。

 変な風にこの女子たちからエステルちゃんに伝わると、なんか拙い気がする。

 あの人もうちの屋敷に遊びに来たいって言ってたから、いっそのこと一緒に呼んじゃうかな。

 そうすると更に面倒くさくなるか。こういう時に、相談相手のクロウちゃんがいないと辛いよね。


「ただそう呼びなさいって、会長から言われただけだからさ。えーと、どうせ今度の休みに屋敷に帰ったら、学院で何があったか全部エステルちゃんに報告しなきゃいけないし、それもちゃんと話すよ」

「そうね。まだたったの2日目でこれだから。あと8日間、どんなことが起こっても、全てエステルちゃんに話すのよ。いいこと」

「はい、姉ちゃん」



 結局、最後はアビー姉ちゃんからお説教をくらって、やっと開放されました。

 俺とライくんは、すっかり日が落ちた学院内をとぼとぼと、第7男子寮まで帰る。


「なんだか、ザックは大変なんだな」

「そう思うか」

「そう思う」


 ライくんがぽつりと、そんなことを言う。

 俺自身は、そんなに大変だとか思ったこと無いんだけど。傍から見るとそう見えるのかなー。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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