第145話 剣術学特待生試験
「全員の打込みが終わったな。君たちはそこで暫く休憩していろ。ベンチに座っていてもいいぞ。飲み水があるから、補給しろよ」
へたり込んでいた受講生たちは、全員がよろよろとベンチのある場所に行って、崩れるように座った。
初日からお疲れ。みんな頑張ったね。
「よし、ザカリー来い。ディルクとフィロメナも休憩して貰って、俺が打込みの相手をする」
「はい」
俺はフィランダー先生から多少距離を取って、両手剣の木剣を構えた。
これは普通に打込んでいたら、何回やらされるか分からないぞ。
先生の体力がどのくらいかは分からないが、相当あると見て、俺も自慢じゃないがへたり込んでる子たちとは比較にならない。
へたすると講義時間を遥かにオーバーして、日が暮れちゃうよ。
もう残り時間も少ないだろうし、ここはさっさと終わらせよう。あれも見たいって言ってたしね。
「じゃ、行きますよ」
「おお、いつでも来い」
俺はそのままの姿勢で少し後ろに下がり、更に距離を取る。
前方を見ると、フィランダー先生がグレートソードほどではないが、長めの両手剣の木剣を構え、どっしり立っている。
なんで学院の講義での打込みで、そこまで威圧感を出しますかね。
12歳の学院生だと、普通それだけで心が折れますよ。
では、こちらも少し力を開放して。
縮地もどき発動。
俊速のスピードで、いきなり間合いに入った俺に驚愕するフィランダー先生の顔を確認しながら、先生が構えている木剣を叩く。
先生の両手が一撃に耐えきれず、木剣が横に吹っ飛ぶ。
同時に俺は、返す剣で胴を打つ。あ、打っちゃった。
先生の身体がくの字に曲がった気がしたけど、気がしただけだよね。
寸止め忘れてただけですから。凄く丈夫そうに見えたし。
ディルク先生とフィロメナ先生が、慌てて駆け寄って来る。
オイリ学院長もなかなかの速さで駈けて来て、直ぐさまフィランダー先生に回復魔法を施した。
やはり学院長は魔法がかなり出来るんだな。
ベンチで休憩していた受講生たちも、なんだ何が起こった、という感じでザワザワしている。
「うぐっ、はあー」
「アバラは折れてないみたいよー。たぶんもう大丈夫」
「大丈夫ですか、部長」
「部長のそのごっつい身体でも、くの字に曲がるのね」
「お、おう。とりあえず、なんとか……。すまんが、大きな声がまだ出ないので、ディルク、講義は終わりにして、受講生たちを解散させて貰えんか」
「あ、はい、了解です」
ディルク先生が受講生たちのいるベンチの方に行って、今日の剣術学中級の講義はこれで終了であることと、正式に受講する場合は選択科目の提出書類に記入するように伝え、皆を解散させた。
では、俺も解散ということで、寮にでも帰りますかな。
「ザカリー、どこに行く。げほ、けほっ」
咳き込んで声もちゃんと出てないんだから、フィランダー先生はまだ喋らない方がいいですよ。
「いや、講義が終わったんで、寮にでも帰ろうかと」
「ザックくんは、ちょっと残っててー」
「はあ」
学院長にそう言われて、剣術訓練場の控室に引っ立てられました。
やはりそうなるか。
入試の特技試験の時、それから昨日に続いて今日だよね。なんだか毎日こんなことが続きそうなのは、気のせいかなー。
「部長、落ち着きましたか?」
「お、おう。もう大丈夫だ。学院長も回復魔法をありがとうよ」
「フィランちゃんは丈夫だから、多少のことじゃ壊れないわよねー」
「部長は、壊しても壊れない便利な身体です」
オイリ学院長はいつもこんな感じだけど、フィロメナ先生もなかなかだよな。
「さーて、さっきの出来事の振り返りだけどー。なんだか一瞬だったわよねー」
「ザカリー君が、後ろに移動して距離を取って、あっと思った途端に部長の前に到達。ほぼ同時に剣が振られて、部長の剣が吹っ飛び、返しで振られた剣が胴を捉えて、部長はくの字。でも惜しいことに、肋骨を折るまでには至らなかった。そんな経過ですかね」
「すべてが一瞬で終わりましたな」
「なんで、惜しいことになんだ、フィロメナ」
「…………」
「ザカリー、最初のあれはその、もどき、なのか?」
「ええ、もどき、ですね」
「つまり、もどきじゃないと、もっと速いということか?」
「そうですが、今はあの距離だとよっぽどでないと」
「なんですか? その、もどきとか、もどきじゃないとかは」
「ああ、フィロメナたちにはまだ説明していなかったな。ザカリー、いいか?」
「ええ、あの最初の前進移動は、縮地という体術の未完成版で、つまり縮地もどき、という訳です。もどきじゃない、は本物の縮地なのですが、まだ距離が短くて」
「魔法じゃなくて体術なのは、なんとなく感じたけど、あの動きでも完成版じゃないのね。凄いわ」
「瞬間移動の体術か。あれをやられると、こちらは先手を取れないな」
「体術だとすると、私でも出来るようになるのかしら」
仮に先手を取られても、縮地(真)で躱して後の先で剣を振るけどね。
フィロメナ先生もディルク先生も興味津々だ。
「その、もどきも凄かったが、直後の剣の振りも凄かった」
「そうよね。部長が何も出来ずに剣を飛ばされて、身体がくの字だもの。ねえ、部長はどうだったの?」
「ああ、迂闊にも、いきなりザカリーが間合いに現れたのに吃驚してしまって。あとは見ての通りだ。じつに的確に打たれた。おそらく胴を打った剣は、手加減されていたのだろうよ。俺もまだまだだな」
「はいはーい。先生方の振り返りと評価、解説はそんなところかしら。それでどうなの? フィランちゃん」
「剣術学特待生のことか?」
「そうよー、フィランちゃん」
オイリ学院長にフィランちゃんと呼ばれる度に、嫌そうな顔をする剣術学部長は置いといて、剣術学特待生か。
それの試験だとか言ってたな。
「そりゃ学院長よ。この俺が剣を飛ばされて、胴を打たれたんだ。本物の闘いなら、身体を真っ二つにされて、ここにはいないぜ。ザカリーを剣術学特待生にするしかないだろ」
「そうよねー。あなた、昨日は真剣でやってみようかな、とか言ってたわよねー。良かったわね木剣で。じゃ決まりね」
「お、おう」
「先生方おふたりも、いいわよね?」
「この結果で、ノーなんてありませんよ」
「私は、ザカリー君に剣を教えて貰うつもりだから、特待生じゃないと困るわ」
「じゃ決まり。ザックくんは魔法学特待生に続いて、剣術学特待生になることを、お姉さんは認めちゃいます」
「は、はい」
「後出しで悪いが、ひとつ条件がある」
「なによフィランちゃん。後出しはズルいわよ」
「いや、その、条件と言うかお願いだ。この剣術学中級の講義は出てほしい」
「いいですよ。と言うかもちろんです。僕も剣術の訓練を続けないといけませんし」
「そうか、頼むな」
「でも今日ので、選択する学院生がザックくんひとりだけだったら、どうするのー」
「私たちも参加しますから、大丈夫です。この時間は講義がないし。ね、ディルク先生」「そうですな」
教授3人と俺だけって、どんな講義なんだ??
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