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第12話 この世界の魔法と前世の呪法

 今日は6月27日、この世界の夏至の日で夏至祭の2日目です。


 昨晩はたぶん若い人たちを中心に、夜遅くまで中央広場でたくさんの人たちが踊っていたのだろうね。警備をしていたわが領の騎士たち、警備兵、領兵のみなさんもご苦労さまでした。

 今日はその余韻を残しつつ、初夏の陽光を浴びてのんびりと休日を過ごすのが慣らいなのだそうだ。もちろん昨日に続いて、中央広場にはたくさんの屋台がでていて、多くの人々で賑わうのだろう。


 わが領主一家は、ヴィンス父さんは夏至祭の最高責任者としてお仕事らしいけど、そのほかは休日だ。

 姉さんたちも今日はお勉強や稽古はお休み。使用人のみなさんも昨日に続いて、交替でお祭りを楽しむため街に出かけるそうだ。

 それで俺はというと、幼児だから毎日休日なんだけど、朝はいつものように日の出とともに起き出して、身体づくりのために剣を構え振る基本の所作と歩法の訓練。誰にも見られないようにこっそりと、朝ご飯まで軽く身体を動かす。


 朝ご飯の前には、家族全員が揃って太陽と夏の女神アマラ様に、夏至の感謝のお祈りを捧げる。

 俺は「アマラ様、サクヤはバカだけど、あれで心の優しい良い女神です。ホームステイをお許しいただき、ありがとうございます。アホなことしでかしたら、遠慮なく叱ってやってください」と、実家の親の気持ちで感謝を捧げておいた。



 さて俺は今日から、この世界の魔法の研究でも始めようかな。

 じつはこれまでに、屋敷にある図書室に忍び込んでは、いろいろこの世界のことについて書かれている本を読んでいて、魔法についても少しは調べているんだよ。

 うちは子供が図書室に入っても別に怒られはしないけど、頻繁に図書室にいる3歳児ってもなんだから、目立たないようにこっそりとね。


 それでこの世界の魔法だ。

 なんでも貴族の場合は特にそうらしいけど、魔法の練習は満8歳から始めるのが決まりごとなのだそうだ。

 満8歳の年、つまり生まれて9年目が次の段階に成長するひとつの区切りの1年で、そこから魔法を使う存在へと新たに成長する準備を始めるということらしい。

 人は9年毎に区切りを迎え、次の段階へ進むというのがこの世界での考え方だ


 もっとも誰もが皆、強大な魔法を使えるわけではない。例えば戦闘に役立つレベルの魔法を使えるのは、ほんのひと握りだ。

 それでも一般のほとんどの人たちは、火をつけたり、ちょっと水を出したりといった、生活魔法と呼ばれるものが使えるのだそうだ。うちの侍女のシンディーちゃんだって、種火ぐらいは出せるらしい。

 庭師のダレルさんは、土魔法のかなりの熟達者だという。じっさいにちゃんと見たことはないけど。


 魔法の適正については、練習するなかでだんだん分かって行く。

 初めは四大元素、つまり火、水、土、風の各系統の魔法の練習をして、その過程でどの元素系統の発動が優れているかを判断する。

 そのうえで癒し系統の聖魔法や光魔法、あるいは空間魔法など、更に高度な魔法をごく一部の魔法適正の高い者が修得することになる。

 魔法適正を計測する魔道具なんて便利なものは、この世界には無いんだね。


 うちのヴァニー姉さんは、来年に満8歳だ。だからいよいよ、魔法の練習を始めることになる。

 ヴァニー姉さんを教えるのは、たぶんアン母さんなんだよね。

 ふつう貴族家では、子供が満8歳になるとお抱えの魔法使いか、お抱えがいない家は王都から魔法教師を雇うなどして教えるそうだ。

 だけどうちはアン母さんはああ見えて、なんでも魔法の天才少女だったらしい。家で魔法を使うことはほとんどないけど、癒しの聖魔法の天才なのだそうで、実家ではブライアント男爵家の聖少女とも呼ばれていたという。

 これ全部、シンディーちゃん情報だよ。この辺のことは、そのうち直接本人からちゃんと聞いてみたいな。



 さて俺は、まだ母さんから教えて貰えなさそうなので、独力で研究するしかないね。まずは前世で使っていた呪法の検証だ。

 前に生きていた世界では、主に陰陽師の呪法がこの世界で言う魔法ということになるのだろう。陰陽道は古代から続いて来たもので、10世紀に最盛期を迎えていた。

 俺のいた16世紀はそのピークからかなり過ぎていたのだが、それでも力のある陰陽師がちゃんと存在していて、俺はある陰陽師からいくつかの呪法を伝授されている。


 呪法とは、簡単に言えば「呪」つまり言葉に力を与えて、何かを実現させる術法だ。

 それが願いでも呪いでも、呪という言葉で世界の中に存在する或る力の要素を集めて行使する。

 その力の要素というのが、ダメ女神のサクヤが教えてくれたところの「キ素」というものらしい。「エーテル」と呼んでも「マナ」でも「魔素」でも良いみたいだけどね。


 それで言葉は、呪の力を高めるために「呪文」にする。

 例えば陰陽師が用いる「喼急如律令きゅうきゅうにょりつりょう」という呪文は、意訳すれば「急いで術法に従って実行しろ」という意味で、つまり術法の発動呪文というわけだ。

 ということで、呪法の呪は魔法における詠唱呪文と同じと言っていいのかな。


 ただ呪や呪文は、必ずしも口から発して音にする必要はない。

 言葉はイメージとか想像力とか思いとかを凝縮して、伝達するために法則化したものだし、それらにうまく力が与えられればいいわけだからね。

 だから、ぼんやりとしたイメージだったものを言葉として凝縮し、呪にする。それを音にするのは、発動の力を与えやすくするためのものだ。



 俺が前世で使っていた呪法は、まずは「式」を放つもの、いわゆる「式神」だ。

 紙を形代にして、虫や鳥、小動物などの式神として出現させる。戦闘力は少ないが、自分の知覚と同調させることでセンサーや監視カメラみたに使う。

 鳥なら追跡や上空から俯瞰するドローンといったところだよね。

 妖魔、こちらで言うところの魔物を屈服させ、式にすることもできる。

 更により高度の呪法としては、戦闘に向いた精霊や下級神を召還して式神にするものもあるが、そこまで試みたことはなかったな。


 あるとき、やってみようかと思っていたところサクヤが来て「下級神なんて召還しない方がいいわよー。だいたい乱暴なヤツが多いし、コントロールするの大変よー」と、ひとまずは止められた。

 ホントはあいつ、下級とはいえ他の神を使役するのがイヤだったのかもね。「神サマはわたしひとりでオッケー」とか言ってた。だいたいおまえ、戦闘向きじゃないだろ。


 式神はまあ、使役魔法や召還魔法というやつと同じと考えていいだろう。


 それから「九字」を切って行う呪法。

 九字とは「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」というもの。「臨める兵、闘う者、皆、陣を列ね、前に在り」という意味の9つの言葉でできた呪文で、シンプルに言えば、発動すれば敵の攻撃から自分を護れる防御の呪法というわけだ。

 9つの言葉を唱えることによって、戦いの前に力を集中させる精神統一に使うこともできる。

 この九字による防御の呪法をより高度化すると、「結界構築」の呪法へと発展させることができるんだよね。


 俺には前世で転生特典として与えられていた、探査・空間検知・空間把握という空間系の能力があったから、九字による防御の呪法を空間把握と組み合せて四方を囲む防御結界として構築することに成功した。

 また探査・空間検知を発動しながら防御結界を維持することで、遠くから近づく敵を事前に察知しながら、更に結界内の自分の姿や気配を悟らせない呪法まで高めることができた。

 別に結界内で自分を透明化とかするわけじゃないよ。

 あくまで結界の外から悟らせない、つまりたとえ見られてしまったとしても、「あれ、誰かいたような気がしたけど、いないよねー」とか、見たという感覚を覚えさせないというものだ。

 自分のまわりの「キ素」をコントロールして、「気配」を隠しながら防御するということだね。


 前世で使えていた呪法はこんなとこかなー。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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