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第142話 講義初日

 昨晩の新入生歓迎会は、結局ダラダラと続いてなんとなくお開きとなった。

 まあ、新しく寮に入った新入生たちとも話ができたし、上級生の先輩たちとも言葉を交わせたから良しとしよう。


 今日は講義の初日だ。午前は専用教室での必修科目で、午後から選択科目のオリエンテーションが始まる。

 昨日は入学式から始まって色々なことがあったけど、俺はいつものように早朝に目が覚めた。

 ん? クロウちゃんが寮に向かって飛んで来るね。窓を開けておいてあげよう。



「カァ、カァ」

 クロウちゃんが珍しくバサバサ、ドタッと音を立てて窓から入って来た。


「朝早くからどうしたの、クロウちゃん。その首から下げてる大きな荷物はなに?」

「カァカァ」

「え? エステルちゃんからの届け物だって?」


 以前から時々使用している連絡用の袋ではなく、それよりも大きな袋を首から下げている。

 まあカラスとしては小型のクロウだから、凄く大きいという訳ではないが、身体と比較するとかなりの大きさだ。



 その袋の中に入っていたのは、パンと焼いたヴルストやベーコン、チーズやサラダなどが詰められた容器。お弁当だね。

 ヴルストはつまりソーセージで、前世の世界でもギリシャ時代からのハムより古い歴史を持った保存・携行食だが、俺が茹でているよりも焼いたヴルストが好きなのを、エステルちゃんも良く知っている。

 カリカリに焼いたベーコンも好物だ。


『ザックさまへ

 クロウちゃんと相談して、ザックさまの朝食を毎朝お届けすることにしました。食堂とかのを食べるのもいいですけど、これなら朝の早駈け訓練とかのあとで、どこでも食べれるでしょ。

 ヴルスト、ベーコン、チーズなんかは昨日、商業街で美味しそうなのを見つけて、たくさん買って来ました。今日はいつもお食べになっている、焼いたヴルストとベーコンですけど、アデーレさんに教わっていろいろ工夫するつもりです。お料理ももっとお勉強しなきゃ。

 エステルより』



 エステルちゃん、ありがと。

 これから毎日の食事のことなどは、俺はあまり考えていなかったけど、彼女はちゃんと考えてくれていた。

 王都屋敷からこの部屋までは、クロウちゃんならあっと言う間に飛んで来れるので、容器を開けてみると、焼いたヴルストとベーコンがまだ温かい。そして、朝早くから俺の気持ちも温かくなる。


「クロウちゃん、重たかったんじゃない?」

「カァ」

「まあ、キミはそもそも式神だから、もっと重くて大きな荷物も運べそうだけどさ」

「カァカァ」

「え、なに、一緒に入っているお菓子は僕のだから、こっちの部屋に置いとけって? はいはい、わかりました」


 クロウちゃんはそう言うと、屋敷へと帰って行った。

 エステルちゃんに、俺が凄く喜んでいたってちゃんと伝えるんだよ。そういうの、大事だからね。カァ。分かってるって?



 さて今日9時からの1時限目は、クリスティアン先生の魔法学概論だ。

 その後もうひとつ、神話と歴史学概論の講義があって、それから各選択科目のオリエンテーション講義だ。


 1時限目までまだ時間があるので、学院内を少し走って来よう。

 グリフィニアにいた時は、実戦を想定した訓練用の簡易の軽装鎧を身に着けて走っていたが、ここでそれは目立ちそうなので、学院の訓練用上下だ。

 これは主に、剣術学の実地訓練の際に身につける衣装とのこと。


「おはようございます」

「あら、ずいぶん早いのね、ザカリー様は」

「ええ、少し走って来ようかと思って」

「へー、昨晩は皆と遅くまでダラダラ飲み食いしていたのに、感心感心」


 寮の管理人のブランカさんから声を掛けられ、俺は走り出す。

 学院の敷地はとても広いから、走りがいがあるよね。



 まだ朝が早いから、学院内を歩いている人はほとんどいない。

 あちらこちらに散在する、庭園の手入れ作業をしているらしい人をちらほら見かける。

 朝から働いている人もいるんだね。


 俺のクラスの専用教室もある講義棟がいくつも立っているエリアを巡り、図書館や入学式が行われた講堂などがあるエリア、剣術訓練場や魔法訓練場、総合競技場があるエリアを抜けて戻る。

 女子寮がある方は、いえいえ近づきませんでしたよ。

 でも、学院内のだいたいの配置は頭に入ったな。


 寮に戻ってシャワーを浴び、自分の部屋でエステルちゃんの朝食弁当をいただいてから制服に着替える。

 今朝の早駈けは、走るコースの下見みたいなものだったから、明日は朝食弁当と飲み物を入れた水筒を無限インベントリに収めて走って、どこか別のところで食べるかな。

 でも手ぶらからの、いきなり朝食を出して食べるのを誰かに見られたら、それはそれでまた煩いよな。



「おはよう」「おはよう」「おはよう、です」


 1年A組の専用教室に入ると、さすがに初日の今日は皆早くから来ていたようだ。

 俺は結構ぎりぎりだった。


「ザック、おはよう。どうした、昨晩の歓迎会で寝坊でもしたか」

「いや、朝から走って来て。学院内を走るのが初めてだから、ちょっと時間配分が狂ってね」

「ザックさまは、やっぱり走る、ですね」

「やっぱりって、いつも朝走るの?」


「ザックさまが、朝早く走るのは、領都でも有名、です」

「へー」


 教室内でどこに座るかは自由なので、ライくん、ヴィオちゃん、カロちゃんが固まって座っているところの空いた席に座ると、ライくんが声を掛けてきた。

 彼とは昨晩の寮の歓迎会の時に、君付とかはいらないよね、と話している。


 幼少の頃から領主館の敷地内を走って来たけど、最近は領主館を出て早朝のグリフィニアの街にも足を伸ばしていたんだ。

 エステルちゃんが用事の無い時は一緒に走るが、彼女は午前中の早い時間に俺関係や屋敷の仕事を片付けるので、クロウちゃんを空に飛ばせて俺ひとりも多かった。

 ファータの里に旅して以降は、うちの両親も領都内なら許してくれるようになったんだよね。

 それにしても、領都で有名だったのか。



「講義を始めるぞ。みんな静かにしろ」


 クリスティアン先生が入って来てそう言い、教室内が静かになる。


「それでは魔法学概論の講義を始めるが、その前に今週の君たちの行動のおさらいをする。今日は私の講義の後、2時限目は神話と歴史学概論だ。4日間の午前中は、毎日2時限ずつ必須科目で、午後の2時限は選択科目。5日目は午前午後とも選択科目になる。ここまではいいかな」


「今日から5日間の選択科目の講義は、自由出席だからな。どの講義に出席してもいいし、途中で退席して別の講義に行ってもいい。だがこの5日間で、これから受講する選択科目を選んで、必ず5日目の夕方までに提出すること。いいな」



 9時から始まる1時限は1時間の講義で、30分のインターバルがあって10時30分から2時限目が始まる。

 2時限目と3時限目の間は昼休みで1時間30分あり、13時から3時限目。

 午前と同じく30分のインターバルで、14時30分から4時限目があり15時30分に終了する。


 インターバルの30分や昼休みの1時間30分は、ずいぶんと余裕があるように思えるが、これは広い敷地に講義施設が点在するこの学院ならではのものだ。

 また、講義は15時30分に終了するものの、ほとんどの学院生が課外部での活動を夕方から夜まで行うので、じつはなかなか忙しい。


 この5日間のサイクルを10日間、2回続けて、ようやく2日間の休日となる訳だ。



 また4日間の午前中にこの教室で行われる8つの必須科目は、入試科目6科目に2科目が加えられている。

 つまり、魔法学概論、神話と歴史学概論、地理と社会学概論、自然博物学概論、算数学概論、言語学概論に、剣術学概論と鍊金術学概論を加えた8科目だ。


 剣術はすべての子が学んでいる訳ではないし、鍊金術はなおさらだが、この学院では概論を必須科目にしている。

 闘いが身近にある世界の剣術。そして、鍊金術は言ってみればこの世界の科学みたいなものだからね。



 さて、学院での初めての講義も楽しみだが、午後からの選択科目のオリエンテーション講義は楽しみだ。

 何を受けに行こうかな、って今日は決まってるんだけどさ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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