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第141話 入寮しました

 セルティア王立学院は全寮制だ。

 クラスや講義、課外部などはもちろん男女共学だが、寮だけは男子寮と女子寮に分かれている。


 男女比はだいたい半々なので、全学院生480名の半数のおよそ240名ずつとなる。

 男子寮はひとつの建物に30名が暮らし、第1男子寮から第8男子寮までの8つがある。これは女子寮も同じだ。

 ひとつの寮は学年もクラスも混ぜられていて、寮内では上級生が下級生の面倒を見るのが伝統となっている。


 俺が入寮したのは第7男子寮。

 ブランカさんは、この第7男子寮の管理人でお世話係だ。


「今日からよろしくお願いします。ブランカさん」

「はい、よろしくお願いしますね、ザカリー様」



 俺が暮らす部屋は先日下見をしているので、もう分かっている。

 生活に必要な物は、ウォルターさんやエステルちゃんが手配して既に部屋に運び入れてある。

 ここで4年間暮らすのか。

 2週間にいちどの休日は王都屋敷、夏期休みと冬期休みはグリフィニアに帰るとはいえ、今日からこの部屋がメインの居住場所になる。


「朝昼晩のお食事は、学院生食堂やそのほかのレストランでお食べいただいてもいいですし、何かお買いになって来て、寮の食堂やお部屋で食べてもいいですよ。ただし寮に備え付けの物をお使いになった場合は、洗い物や片付けはご自分でお願いします。厨房もあるので、料理をしようと思えばできますよ」


 貴族家出身の学院生も多いので、基本はすべて自分でしなければいけない生活に、慣れなければならないのだろうね。

 かく言う俺も、自分の身の回りのことを自分だけでするのは、40年以上振りだ。魂年齢的にだけど。


「洗濯はお受けしますので、決められた日に出してください。下働きが行いますので、まとめてでお願いします。あとお掃除は、寮生のお部屋以外はこれも下働きがしますが、お部屋の中はご自分で」


 男女合わせて16もの寮があるし、食堂そのほかの多くの施設が学院内にあって、結構な人数の人たちが働いている。

 だから学費はそれなりに高額で、貴族や騎士爵の子息子女、裕福な一般の人たちの子どもしか通えないのは、この世界的には致し方ない。

 特段に優秀な一般の子は、その地の領主貴族などが支援して負担するそうだけどね。



「それから、今晩は新入生歓迎会がありますので、夜の19時に1階の集会部屋に集合だそうです。特別に食べ物も用意されています。いえ、集会部屋と言っていますが、まあ団欒のためのラウンジで、普段の夜なんかはみなさん、そこで意味もなくダラダラ過ごしてますよ」


 寮の歓迎会があるのか。そう言えばそんなことを聞いていたな。

 俺はそれまで特にすることもなかったので、部屋に届いている荷物を片付けながら午後の時間を過ごす。



 コンコン、コンコンと窓から音がする。

 クロウちゃんだよね。キミは念話ができるんだから、なんで話して来ないの。そうなら窓を開けといたのに。

 え、学院初日だからちょっと遠慮したの? そんなの初めてだよね。キミも少し大人になったんだね。カァ。


 クロウちゃんが来たので、夕方までは一緒に部屋で過ごした。

 エステルちゃんたちはどうしてる? 今日は入学式の後、皆で商業街に遊びに行ったんだ。

 それから屋敷に戻ったので、クロウちゃんは俺のところに遊びに来た訳か。カァカァ。


 学院内でクロウちゃんが俺と一緒にいるのを、学院長に認めて貰わないといけないな。

 ペットとかはどうなっているのだろうか。ペットじゃなくて式神だけど。

 学院長はクロウちゃんともう会ってるから、大丈夫な気がする。


 そうこうしているうちに夕方になってきた。

 カァカァ。もうお屋敷に帰る? お腹が空いたのか。今ここには食べる物がないものな。

 今度来る時は、エステルちゃんにお菓子を連絡袋に入れて貰って、下げて来なさい。え、少ししか入らない? しょうがないから俺の方でも用意しておくよ。



 クロウちゃんが帰って暫くして、新入生歓迎会の時間になったので、俺は寮の集会室に行った。

 三々五々、この寮で暮らす学院生が集まって来る。

 男子寮だから当たり前だけど、男ばかりが30人。むさい。


「みんな集まったか? 新入生は揃ったな。諸君たちと顔を合わせるのは初めてだが、僕がこの第7男子寮の寮長をしている、テオドゥロ・エスコバルだ。学院の4年生。普段はテオドゥロ、またはテオさんでもいいぞ」


 4年生だから、今年15歳になるぐらいの年齢だと思うけど、なかなか大人びた感じの少年というよりもう青年だね。

 家名持ちだけど領主貴族家にエスコバルはないから、準男爵家か騎士爵家、あるいは民間の古い家柄かな。

 彼を筆頭に上級生が23名。そして俺たち新入生が7名だ。



「今晩は歓迎会だから、ブランカさんに許可を貰ってミードと食べ物を用意したぞ。ミードはそれほど多くないがな」

「おーっ」


 上級生の皆さんから声が上がる。

 ミードはつまり蜂蜜酒だね。前世でも世界最古のお酒とも言われているが、こちらの世界でもワインと並んでポピュラーな飲み物だ。

 ちなみに去年の冬至祭のパーティー以来、ワインとミードは飲んでいいと許可を貰いました。主にエステルちゃんから。


「それでは、初めに自己紹介だ。まずは新入生からだな。今年はこの第7男子寮に、首席を迎えたぞ。君からだザカリー君」

「あ、はい。入学式ではちゃんと挨拶が出来ませんでしたが。グリフィニアから来ました、ザカリー・グリフィンです。ザックと呼んでいただいて結構です。よろしくお願いします」

「君のことは、もう学院中が知っていると思うが、よろしくな、ザック君。よし次だ」


 やっぱり俺がいちばんにやらされるけど、まあ仕方ないか。

 それにしても寮長のテオさんは、なかなか男前な感じだね。


 それから新入生たちが順番に自己紹介をする。

 あ、俺のクラスのライムンド・モンタネールくんもこの寮生だよ。


「ライムンド・モンタネールです。ライでいいです。ザックくんとは同じクラスで、魔法特技試験でも一緒で。彼が何か仕出かさないよう、見張りは僕にお任せください」

「よし、頼むぞー」「君に任せたっ」


 寮生みんなには受けていたが、どうして誰もが俺が何か仕出かすと思うのかね。キミは男子版エステルちゃんかね。



「それじゃ、まずは乾杯だ。皆でこの第7男子寮を盛り上げて行こう。乾杯っ!」

「おーっ」「かんぱーい」


 全員の自己紹介が終わって乾杯のあとは、飲み食いをしながらダラダラ話すだけだ。

「いつも意味もなく、ダラダラ過ごしてますよ」とブランカさんが言っていたが、まあその通りなんだろうね。

 この世界の人は、12歳ぐらいから働きにも出るし大人扱いで、ワインやミードも良く飲んでいるから、多少のアルコールではあまり酔うということもない。


「学院長に呼ばれて、大丈夫だったのか?」

「ああ、ぜんぜん大丈夫。特にどうのこうのはなかったよ」

「ザック君は心臓が強そうだよな」

「いやいや、それほどでも。まあ飲みたまえ食べたまえ」

「なんだか、同い年とは思えない瞬間があるよね」


 俺が学院長室に呼ばれたのを知っているライくんと、そんな話をしていると、テオさんが俺たちのところに来た。



「ザック君、ライ君、楽しんでいるかい」

「あ、はい」


「あの、ザック君。入学式の時のことはザック君には何も聞かないようにと、学院会の会長名で各寮長宛に通知が来たんだ。ひとりの学院生、それも新入生の名前を出して会長名で通知が来たのは、僕が知る限り初めてだよ。それから、たぶん僕宛だけだと思うけど、ザック君は第7男子寮だから彼をお願いね、と会長の追伸が書いてあった。まあそういう内容だったから、あえて何も聞かないが」

「はあ」


 なに大袈裟に通知なんか出してるんすかね、フェリ会長は。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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