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第139話 学院長室に呼び出されて

 クリスティアン先生と学院長室に行くと、オイリ学院長に加え魔法学部長のウィルフレッド先生と魔法学教授のジュディス先生、剣術学部長のフィランダー先生と、先日の先生方が揃っていた。

 ちなみにジュディス先生はC組の担任で、そちらもホームルームを終えて駆けつけたようだ。


「もうお昼だから、ランチに行きましょ。今日は特別にお姉さんが奢っちゃいます」


 連れて行かれたのは、学院長室や教授たちの部屋がある教授棟に付属したレストランの個室だ。

 このレストランは先生方の専用で、基本的には学院生は利用できない。

 初日からランチがここでいいのかな。



「ここ、わりと美味しいのよー。学院生食堂ほどボリュームはないけどね」

「わしは、あそこだと量があり過ぎるわい」

「俺はここだと、逆に少なすぎるがな」


 先生たちは、学院生食堂もよく利用するそうだ。

 肉体派おじさんのフィランダー先生は、まあそうだろうね。


 注文を終え料理が来ると、暫くは学院内のことを俺に教えてくれたり、他愛もない話題など、皆誰も入学式のことについては触れなかった。

 そして食後の紅茶が来る頃に、ウィルフレッド先生が口を開く。



「さて、今日起きたことじゃが、あれはドラゴンで間違いないの」

「どう見てもドラゴンよねー。それもとても大きな」

「俺は初めてドラゴンを見たが、あんな風に悠然と空を飛ぶんだな」

「話だけ少し聞きましたが、ドラゴンがこの学院に飛んで来たのですか?」

「私も見たかったわ」


 クリスティアン先生とジュディス先生は講堂内にいて、アルさんを見ていない。

 外に出て来たのは学院長とここにいるふたりの学部長、それから学院生会会長さんだけだ。


「それでザックくんは、新入生代表挨拶を途中でほうり出して、いちばん先に外に出ちゃった訳だけど。いろいろ聞かせてくれるかなあ」

「あ、それについては申し訳ありませんでした」

「挨拶が中途半端に終わっちゃったのは、まあいいんだけど、それよりもあのドラゴンのこと、何か知ってるのかな」


「その前に、ザカリーが目で追えない早さで講堂の出口まで行ったのも、俺は凄く気になるぞ」

「まあそれもそうじゃが、まずはドラゴンじゃ」


 そうですよねー。

 学院長に呼ばれたのはその話なので、どう説明しようか考えていたのだが、アルさんのことはうちの父さんや母さんにも、今のところナイショにしているんだよね。



「えーとですね。あれはつまり、ブラックドラゴンという種類のドラゴンですが……」

「お、そうか、それで」

「……それ以上は、えーと、秘密ですね」


 固唾を飲んで身を乗り出した全員が、椅子をガクッと鳴らした。


「えー、何かヒントはないのー?」

「僕はその、あのドラゴンの存在が感知できた、とそれだけ、言っておきましょう」

「それは、グリフィン子爵家の秘密とか、なのかの?」

「いえ、僕の秘密です。エステルちゃんは別にして、子爵家の誰にも秘密です」


「おいおい、あんな危険な存在がいきなり学院の空に現れて、ぜんぶ秘密とか、そりゃないだろ」

「そうじゃぞ、この王都の空にドラゴンが現れたなど、王国を揺るがしかねない出来事じゃ」

「あ、それについては大丈夫だと思いますよ。あのドラゴンが見えたのは、たぶん見つけた職員さんと、ここにいるお三方、それから学院生会の会長さんでしたっけ。それだけだと思います」


 黒魔法と空間魔法の応用で、アルさんは自分の姿を隠して飛んでいる筈だ。そうでなければ、この王都上空に気軽に来ることはない。

 上位存在の五色ドラゴンは、それぞれ自分たちが得意な魔法でこの姿隠しができると前にアルさんから聞いた。

 それが、滅多にドラゴンを見ることの出来ない要因のひとつなのだ。



「それは、どういうことなんだ?」

「ドラゴンは魔法で姿を隠すことができる、とだけ言っておきます」

「姿隠しの魔法じゃな」

「はい、これ以上はご勘弁を願います」

「そうかー、それじゃ目撃者は口止めしておかないとよねー。ちょっとごめんなさい」


 オイリ学院長はそう言うと席を立って個室の外に出て、少し経ってから戻って来た。


「目撃した職員やこの話を聞いた者が、外部に漏らさないように指示したわよ。あと、フェリシアちゃんは探しに行って貰ったわ」


 フェリシアちゃんと言うのは、学院生会の会長さんのことだ。確かフェリシア・フォレスト。フォレスト公爵家の関係かな。



「もう少しヒントはないかのう」

「そうねー。どうして今日の入学式、それもザックくんが新入生挨拶をしている時に、あのドラゴンが現れたのか。それから、それをなぜザックくんが感知できて、秘密にするほどそれ以上に、まだいろいろ知っていそうなのか。お姉さんは疑問だらけよー」


「えーと、そうですねえ。まー、入学のお祝いとかかな」

「????」


 本当は、俺とエステルちゃんが王都にいるのに気がついて、出て来ちゃったんだけどね。

 王都に来て学院に入学したのは、アルさんも知らなかったし。



「まあ今日のところはいいわ。ザックくんはこれから4年間、この学院にいるのだし、おいおいゆっくりお話しましょうか」


 オイリ学院長の眼が、キラリと光った気がした。

 これから4年間の学院生活が不安だなー。


「それじゃ、俺の最初の疑問だ。あの凄い速度の移動はなんだ」

「あー、あれはうちの護衛たちで知っている者もいるから、まあいいかな。あれは縮地もどき、という高速移動の体術です」

「魔法ではないのかの」


「厳密には魔法ではなく、体術ですね。キ素力を結構使いますけど、魔法に変換して発動している訳ではないので、やはり体術です」

「体術なのか。おまえのお姉ちゃんが研究会で強化剣術をやっているが、それに近いのか? 俺もあれはできるがな」

「ああ、根元は同じですね。ただ縮地は、そうですね、まあ俺のオリジナルと言うことで」



「さっきおまえはその、縮地もどき、と言ったな。とすると、もどきじゃないものがあるということか」

「あるかないか、ということでしたら、ありますよ」

「それは、例えば俺の剣術の講義の時にでも、見せて貰うことはできるのか?」


「そうですねー。僕も、いざという時にしか出しませんし。それに学院生たちの前では、ちょっと」

「それもそうか。では、教授だけの時に頼むよ。あの速度は、そうだな、体術と言うなら画期的な技だ」


 そんな訳で、なんとなく縮地を実演して見せる約束を、フィランダー先生とさせられてしまった。

 まあ、アルさんの話から逸れたことだし、そのぐらいならいいでしょ。

 その時、レストランの個室のドアがコンコンと叩かれた。



「フェリちゃんかなー? 入っていいわよ」

「はい、失礼します」


 そう声がして入って来たのは、学院生会会長のフェリシア・フォレストさんだった。

 部屋に入って一礼し、テーブルを囲んで座っている面々を確認する。俺がいるのを見て、少し驚いた顔をした。


「フェリちゃん、急に呼び出してごめんね」

「いえ大丈夫です。今日は入学式ですから、講義ありませんので」

「フェリちゃんとザックくんは、顔は合わせたわよね。こちらは新入生首席の、グリフィン子爵家のザカリーくんよ。ザックくん、この子は4年生のフェリシア・フォレストさん。今年から学院生会会長をして貰っている、フォレスト公爵家の長女さんよー」


 俺たちは貴族の子息子女らしく、あらためて挨拶を交わす。

 でもフェリシアさんは俺に何か言いたそうで、じっとこちらを見続けていた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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