第138話 初めてのホームルーム
「とにかく、入学式の途中だから、話はあとでよ。みんな中に入ってー」
オイリ学院長が比較的に冷静に、外に出た皆を講堂の中に戻す。
職員さんの報せと俺が俊速で外に出たのを見て、学院長と魔法学、剣術学の学部長さんと、学院生の代表として学院生会会長さんだけが出て来たそうだ。
「外でちょっと突発的なことが起きましたが、もう収まりましたので、安心していいですよー。でも、入学式はこれで終わりにしまーす。学院生たちは教室へ。新入生は、これからクラスごとに名前を呼び上げますから、担任の先生のところに集合してくださーい」
学院長が入学式の終了を告げ、来賓など出席くださった皆さんもそれぞれ引揚げた。
「(エステルちゃん、エステルちゃん。うちのみんなには上手く言っといてね)」
「(はい、そうします。ザックさま、それじゃ頑張ってくださいね。お休みの日には、ちゃんとお屋敷に帰って来てくださいよ)」
「(うん、ちゃんと帰るよ。屋敷の方はよろしくね)」
「(はい)」
エステルちゃんは念話が終わると、大きく両手を上に伸ばして振り、講堂を出て行った。
俺の名前は最初に呼ばれたようだが、A組で担任はクリスティアン先生と分かっているので、先生のところに遅れて行く。
「よし、ザカリー君も来たな。ここに集まって貰った君たちがA組だ。それでは、まずはA組の専用教室に行くぞ。私に付いて来てくれ」
クリスティアン先生はそう言うと、俺の側に来て「あとで学院長室に行くぞ。その時に声をかけるから」と小さく囁いた。
俺たちA組は、クリスティアン先生に引率されて構内を歩き、ひとつの建物の中に入る。
それから暫く歩いて、1年A組と札の下がった教室へと入った。
「それでは、皆はどの席でもいいから自由に座ってくれ。席は特に決まっていない」
専用教室というのは、ホームルームやそのクラスだけを対象にした必須科目の授業の時に使用される教室だ。
王立学院では、1年生の時から必須科目よりも選択科目の方が多い。俺が特待生になった魔法学も、魔法学概論の授業のみが必須科目で、それ以外はすべて選択科目になる。
1年A組の学院生は20名。1学年が120名だから、6クラスあることになる。
必ずしも、入学試験の成績順にクラス分けがされている訳ではなく、ある程度バランスも考慮されているそうだが、首席はA組に入るのが伝統なのだと、先に学院に来た時に聞いた。
「この教室は、君たちの専用教室で、10日に1回のホームルームと必須科目の授業はここで行う。そのほかの時間でも、この教室は自由に使っていいぞ」
「それでは自己紹介をして行こうか。あらためてだが、私はこのクラスの担任を受け持つクリスティアンだ。魔法学の教授でもある。必須科目の魔法学概論は、私が教えることになるからな」
「では、前列の右に座っている君から、順番に自己紹介をしてくれ」
20名が順番に自己紹介をして行く。
入学試験の魔法特技試験で一緒だったライムンド・モンタネールくんとヴィオレーヌ・セリュジエちゃんがいる。
それからカロちゃんもいるよ。同じクラスになったんだね。
「よし、この20名が今日からクラスメイトだ。ともに学ぶ仲間として親しくなってほしい。それでは、これからの予定を話すぞ」
明日から5日間はオリエンテーションで、必須科目以外の選択科目の授業は、自由に見学することができる。
5日間授業を見学して、自分が学ぶ選択科目を選ぶ訳だ。
その間に決められた数を選んで登録し、次の5日間から本格的な授業が始まる。
俺の場合、魔法学関係は選んでも選ばなくてもいいと言われているが、いちおう授業は見学してみようかな。
「今日のこの後は、暫くすると職員が来て各自の寮に案内するから、それまでは自由時間だ。私も教室に残るので、質問がある者は来てくれ。あとはそれぞれが互いに自由に話して、親交の手始めにしてくれたまえ」
この学院は、学院長の方針により自由と自立性による成長を重んじるそうで、教授や職員はその手助けをするのが役目だそうだ。
「強制はなるべくせずに、良き導き手になれればいいかなー。難しいけどね」って学院長は言っていた。
480人の学院生が学ぶ小さな社会だから、なかなか難しいこともあるのだろうけどね。
「ザカリー様、同じクラスで、嬉しい、です」
カロちゃんがトコトコ俺のところに来た。初めから知り合いがいると安心だよね。
そこに、ライムンド・モンタネールくんとヴィオレーヌ・セリュジエちゃんが来る。
「ザカリー君、魔法特技試験で一緒だったヴィオレーヌよ。あの時は強烈だったわね」
「こんにちはザカリー君。同じくライムンドです。それに首席だなんて、凄いよねきみは」
「ふたりとも、あの時はビックリさせたみたいで悪かったね。あ、それから、この子はカロちゃんね。僕の幼馴染なんだ」
「カロリーナ、です。カロと呼んでくださいです」
「カロちゃんね。よろしくね。それじゃわたしのことは、ヴィオと呼んでね」
「僕はライでいいよ」
「それじゃ、僕はザックだ」
「はい。でも、ザカリー様のこと、エステルさんと同じように呼べない、です」
「今日からクラスメイトなんだから、ザックでいいよ。エステルちゃんもぜんぜん気にしないと思うよ」
「そ、そうですか。では、エステルさんと同じようにザックさまで」
「なになになに。エステルさんて、ザック君の何?」
「ザックさまがお小さい頃から、いつも一緒にいる方で、今は王都のお屋敷のお留守を、預かっていらっしゃいます」
「へー、ザック君にはそんな人がいるのね。へー」
ヴィオちゃんがひとりで感心して納得してるけど、まあ放って置こう。
それから4人で、お互いのことなどを話した。
ヴィオちゃんはやはり、セリュジエ伯爵家の娘さんで三女だそうだ。それからライくんはモンタネール男爵家の次男。
このA組に、領主貴族家の子息子女は俺を入れてこの3人だけで、あとは準男爵家と騎士爵家の子、それから一般の家の子だ。
騎士爵家の子はジェルさんやオネルさんのように、小さい頃から騎士団に入るケースが多いので、わりと人数は少ない。
ヴィオちゃんもライくんも魔法特技試験で一緒だったし、それに同じ領主貴族家ということで、まずは俺のところに来たようだね。
「ほかのみんなも、ザック君と話したがってると思うわよ。なにしろ首席だし、それにいろいろね」
「そうだよ。さっきの入学式で、突然何が起こったのかも聞きたいし」
「わたしも、です」
「その話は、このあと学院長に呼ばれてるから、それからだね」
「なんだか大変なんだな、ザック君も」
そんなことを話していると、教室のドアが開いて学院の職員さんがふたり入って来た。
「それじゃ、今日はこれで終了だ。男子と女子に分かれて、職員に案内して貰ってくれ。明日の朝、1時限目はここに集合。遅刻するなよ。以上だ」
クリスティアン先生が皆にそう言うと、俺の方に向かって合図をした。
俺だけ皆とは別に学院長室に行くんだよね。
「エステルさんや、それから護衛のジェルメールさんか。彼女らは、君のことをさすがに良く分かっているな。入学式で何かが起こる訳がないと、侮っていた私たちの知らない世界が、まだまだあったようだよ」
「は、はあ」
確かに、この世界には吃驚することが多いと思うけど、そうそう起きる訳ではないですよ。
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