第136話 新入生代表挨拶をすることになりました
「話が後先になっちゃったから、ちゃんと説明するわよ。ザックくんは筆記試験が受験生の中の最高得点で、特技試験は0点でしたー」
「もう、ザックさまはー」
「おいおい、0点なのか」
思わず、うちのふたりから声が出る。
そうだよね、魔法を撃ってないのだから点数はゼロなのか。
「エステルちゃんもジェルちゃんも叱らないでねー。特技試験が0点というのは、つまり評価不能ということで。まあ私は、100点満点で599点でいいんじゃないか、って言ったんだけど」
「100点満点で599点はないじゃろ」
「それだったら、筆記試験の必要がないぜ」
「だってー、筆記で1点でも取れば合格って、ザックくんに言っちゃったし」
「グリフィン家の息子が、1点しか取れない訳はないじゃろが」
筆記試験が6科目で、各100点の合わせて600点が満点だ。
特技試験が参考点とは言え599点になれば、筆記が1点でも合わせて600点。
まあ、あまり現実的な話じゃないけどね。
「それはともかく、ザックくんの筆記試験結果は589点で最高点でしたー。これでもう首席決定。それで参考点の特技試験なんだけど、あえて評価はしない、と言うかできないということで。その代わり、ウィルフレッド魔法学部長の提案で、ザックくんを魔法学特待生とすることに決定しましたー」
「あの、魔法学特待生とは、どういうものなのですか?」
「それは、この学院で魔法学を教える必要がない学院生に与えるものじゃな。魔法学についてはすべて単位免除となり、授業は出ても出なくてもどちらでも良い」
「そんな制度があるんですね」
「特待生になる者は滅多におらんわい。ここ数十年では、君のお母さんのアナスタシアだけじゃ」
うちのアン母さんも魔法学特待生だったのか。なにせ、天才魔法・元少女だもんね。
「アンちゃんも凄かったわよねー。回復魔法に関しては、当時の先生たちがアンちゃんに教わってたわ」
「へー、そうなんですか」
「ここにいるクリスやジュディが教わった回復魔法も、元はアナスタシアじゃよ。この学院の教授になってほしかったのじゃが、ヴィンスとグリフィン家が攫って行ってしまったわい」
「私は1学年上でしたが、彼女から直接教わりましたよ」
クリスティアン先生は母さんの1年先輩か。
魔法学の先生や上級生に教えるなんて、どんな学院生だったのだろうね。
「剣術の方が得意だとすると、剣術学の特待生にもしないといけなくなるな。しかし、俺や剣術学のほかの先生たちが見てからだが」
「そうねー。剣術学特待生も、ずいぶんと出ていないわね。わたしも授業を見学に行くわ」
「あの、ザカリー様が真面目にやると、怪我人が出る怖れがありますので、回復魔法の出来る人をご用意いただいた方が」
「…………」
「それで話を戻すと、つまりザックくんは首席合格でかつ、魔法学特待生になったってこと。今日あなたを呼んだのは、それをあらかじめ伝えるのと、それから入学式で新入生の代表挨拶をしてほしいのよ」
やっぱり来ました、新入生代表挨拶。
「あの、それは危険とかは」
「入学式の挨拶で、危険はないわよ、エステルちゃん」
「いや、その、エステルさんは、入学式会場にいる皆さんに危険がという意味で……」
「おい従騎士の嬢ちゃん、こいつはそんなに危険人物なのか?」
「いえいえ、僕はいたって常識のある普通の少年ですよ」
「いや、ザカリー様の付近では、ことあるごとに、吃驚するようなことが起きがちなのでな」
「カァカァ」
俺は歩く地雷ですか。
記憶のある魂年齢で、70年にもなる大人ですよ。クロウちゃんもジェルさんに同意してるけどさ。
「そのカラスも」「カァ」「カラスじゃなくて、クロウちゃんと呼ばないと怒られますぅ」
「そ、そうか。そのクロウちゃんも何か言っているみたいだが、入学式で吃驚するような事態は起きないだろうし、万が一に何かがあっても、学院には剣術と魔法のエキスパートが揃っているんだ。ふたりとも安心してくれ」
結局、俺が新入生代表挨拶をするのは決定で話は終わり、クリスティアン先生とジュディス先生にその後、学院内を案内して貰った。
エステルちゃんが前に報告してくれた通り、学院内は広くて各施設がゆったりと配置されている。
中でも大きなものとしては、魔法特技試験を受けた魔法訓練場と、それから同じぐらいの規模の剣術訓練場。そして、そのふたつよりも大きな総合競技場がある。
総合競技場はつまりスタジアムで、魔法と剣術以外の身体を動かす訓練に使われるほか、年に1回、秋に総合戦技大会が開かれる。
これは学院生たちが剣・魔・体を競う大会で、クラス対抗のチーム戦が主となるのだそうだ。
この総合戦技大会をメインに学院祭が開かれて、すべての課外部が発表会や催し物を行うので、まあ体育祭と文化祭が一緒になったものだね。
俺が入学したら、自分のクラスが使うという教室も見せて貰った。
と言うことは、どのクラスに入るかはもう決まっているんだよね。その点を先生たちに聞いてみる。
「そうね、新入生全員のクラスはもう決まってるわよ。ザカリー君には言ってもいいんじゃない。ねえクリス」
「そうだな。君は首席なので、クラスはA組だ。そして今年の担任は、私だな」
「クリスティアン先生が僕のクラスの担任ですか。それは、あらためてよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
それから、エステルちゃんが前にお昼をいただいた学院生食堂で昼食を食べる。
そうだね、なかなかボリュームがあって美味しいランチだ。
食堂はとても広くて、全学院生480名を収容できる席数があるそうだ。またここ以外にも小規模なレストランやカフェがいくつかあるという。
昼食後は俺が入る寮の部屋も確認させて貰って、学院をあとにした。
「少しお買い物をして行きましょうよ、ザックさま。いいですか、ジェルさん」
「遅くなると皆が心配するが、少しだけならいいだろう。ザカリー様はいいですか」
と言いながらも、ジェルさんも行く気満々なので、逆らうことはできません。
それから、商業街であれやこれやとお店を1時間ほど見て回り、やっと屋敷へ帰り着きました。
「お帰りなさい、時間がかかりましたね」
「学院内も案内して貰ったのでな。それから、ちょっと商業街にも寄って」
「あー、商業街にも行ったんですかー、ズルいですよー」
「わたしが行きたいって、言っちゃったから。こんどはみんなで行きましょうよ」
若い女性が4人に増えたから、騒々しさが増し増しだよね。
あれ、もうひとり少女がいるけど。
「こんにちは、です。ザカリー様」
「あ、カロちゃん、いらっしゃい。合格おめでとう」
カロちゃんが訪ねて来ていた。
商会の馬車で送って来て貰ったそうだ。帰り頃にまた迎えに来てくれるという。
「カロちゃん、こんにちは。よくいらっしゃいましたね」
「エステルさん、お邪魔してますです」
「お屋敷の中に入りましょ。お菓子なんかも買って来たから、一緒にいただきましょうね」
「はい、です」
女性が5人になりました。仕方ないから少し付き合いますか。
えーと、ブルーノさんはいないの? ティモさんは?
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