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第134話 試験のその後と合格発表

 我に返った先生たちが4人で集まって何ごとか相談し、これで試験は終了となった。


「あー、本日の魔法特技試験は終了だ。今日はこれで帰宅して良い。ジュディスが案内するので彼女に付いて行ってくれ。それからザカリー君は、ちょっと残って貰えるかな」



 俺を残して受験生は試験場を出て行った。驚いて膝をついちゃった女の子も大丈夫なようだね。ごめんね。


「ザカリー君、こっちに来てくれるかね」


 俺はクリスティアン先生の後に従って、この魔法訓練場の休憩場所のような所まで行った。

 お爺さんと美人のお姉さんも来ている。


「まずは自己紹介しておこうかの。わしはこの学院の魔法学部長で、王宮魔法顧問も兼任しているウィルフレッドじゃ」

「それで私が、学院長のオイリよ。オイリ・マルトラ。オイリちゃんて呼んでもいいわよ」


 爺さんが王宮魔法顧問を兼任している魔法学部長で、美人のお姉さんが学院長だった。

 エステルちゃんが先日会ったのが、この人という訳だね。

 エルフさんと言ってたし、エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃん、そしてウォルターさんやクレイグさんの古い知り合いだというから、うーん、年齢は不詳ということで。

 子爵領冒険者ギルドのエルミさんや、その妹でトップ冒険者のアウミさんに容貌や雰囲気は似ているけど、性格はだいぶ違うみたいだ。


「あ、魔法学部長と学院長さんでしたか。先日はうちのエステルが、とてもお世話になったみたいで」

「うんうん、あの子はとてもいいね。お姉さんは気に入りましたから、この学院を自由に出入りしていい許可を、あげちゃいました」

「はい、ありがとうございます。彼女もとっても喜んでいました」



「学院長、それより今の試験のことじゃ。のう、ザカリー君よ、伝聞や噂話は聞いておったが、君は凄いの」

「えー、僕だけ魔法を出してませんよ。試験はあれでいいんですか?」

「あのキ素力で魔法を発動したら、どうなるんじゃ。たしか火魔法でと言っておったが、あたり一面が火の海になるではないか」

「と言うか、爆発でこの建物が無くなっちゃうわよねー」


 オイリ学院長が、なんだか嬉しそうに明るくそんなことを言う。

 うちのライナさんもそうだけど、魔法に長けた女性って、こんな風に面白がる傾向があるよね。

 オイリさんもエルフだし、きっと魔法が得意なんだろうな。



「それで、僕の試験はどうなるのでしょうか」

「君の試験は、もうあれで充分じゃわい。魔法特技試験は参考点じゃから、筆記試験の結果を見ないと何とも言えないが、学院が君をみすみす手放す訳にはいかんじゃろて」

「そうよー。もう筆記で1点でも取っていれば合格よっ」

「いや、さすがに1点以上は取っていると、僕も思っているのですが」


「ヴィンスくんとアンちゃんの息子だから、どんな子が来るのかと思ってたけど、想像以上だったわよー。お姉ちゃんたちもなかなか優秀だけど、あなたは別物よねー。エステルちゃんも、ちょっと普通と違う感じの子だったし、ホントに楽しみだわー」


 それからジュディス先生もこの場に来て、先生たち4人でひとしきり盛り上がった後、やっと俺は開放された。



 馬車を停めている広場に戻ると、そこで待っていたのはうちの馬車とレイヴンのメンバーだけだった。

 受験生とその付き添いは、もう全員引揚げたんだね。


「あー、やっと戻って来ましたー」


 エステルちゃんが凄い勢いで走って来て、俺に抱きつく。

 クロウちゃんも勢い良く飛んで、俺の頭の上に着地する。

 遅れてレイヴンメンバーも駆け寄って来た。


「遅かったですぅ。心配で心配で、もう」

「カァカァ」


 ほらほら、泣かない。帰るよ。

 俺たちは、とりあえず屋敷に帰ることにした。



「それでどうなったんですか? と言うか、何があったんですかー」

「筆記試験は何の問題も無くできたんだけど、そのあとの魔法特技試験で……」


 屋敷に帰り着いて馬車や馬の片付けが終わった後、ラウンジでひと息つきながら、魔法特技試験での出来事を皆に話す。


「あー、それで七色に光った訳ですねー」

「あの時と同じか。あれは吃驚するな」

「それと比べものにならないほど、七色の光が広がっていやしたよ」


「あのー、あの時の七色の光って?」

「そうかー、オネルさんは知らないのよねー」

「ザックさまが必要以上にキ素力を出すと、七色に光るんですよぅ」


「えーと、必要以上とかじゃないと思うんだけど」

「火球魔法とかは、必要以上ですよねー」

「そうそう、無駄にでかくて危険だ」


 必要以上とか、無駄にでかいとかじゃないと思うんだけどな。

 エステルちゃんは、うちの子爵家魔法訓練場で七色のキ素力を昔からよく見てるし、ジェルさんたちもファータの里に行った時、あの妖魔族との闘いで目撃してるんだよね。


「それで学院長さんが、筆記で1点でも取れば合格だって言うし」

「怪我の功名ですぅ」

「転んだ拍子に宝を見つける、というやつだな」

「罠に嵌って命を拾う、ってことでやすかね」


 怪我もしてないし、転んでも罠に嵌ってもいないのだけど。



 まあとにかく、俺の入学試験は終了した。

 結果発表は明後日。馬車を停めた広場の事務棟前に貼り出されるそうだ。


 今日は500人ぐらいが受験したとのこと。学院の1学年の定員は120名なので、4倍ほどの倍率になる。

 事前に書類選考で篩い落とされているので、本当はかなりの倍率になるみたいだけどね。



 ウォルターさんは、結果発表を見てグリフィニアに帰るという。

 今回は馬車も馬もすべてこの屋敷に残して行くので、馬車を雇って帰るそうだ。

 護衛はいなくて大丈夫なのかなと思っていたら、翌朝、屋敷にミルカさんがいつの間にか来ていて、ウォルターさん、ティモさん、それからブルーノさんと話をしていた。


「あれ、ミルカさん、いらしていたんですか。お久しぶりです」

「ザカリー様、お久しぶりですね。昨日は入学試験、ご苦労様でした。聞きましたよ。早速やらかしたそうで」

「そうですよぅ。叔父さん、聞いてください。あれほど子爵さまから、くれぐれもと言われていたのに」


「でも、何も壊さなかったんだから」

「あれを見てびっくりして、貧血みたいに倒れた女の子がいたんでしょ。受験生に何してるんですか」

「いや、あれは申し訳なかった」


「だから魔法じゃなくて、剣術にしとけば良かったんですぅ」

「いやいや、ザカリー様が剣術試験で受けてたら、もっと酷いことになってたかもだよ」

「それもそうなんですけど」



「まあ、済んでしまったことだし。それでミルカさんは、王都でお仕事?」

「ええ、ティモにこの王都分室を任せるので、打合せと確認と。あとは、ウォルターさんをグリフィニアまで送って行きますよ。ザカリー様とエステルの顔も見ておきたかったですしね」


 本当にいつもミルカさんには頭が下がる。

 そんなミルカさんの話を聞きながら、ウォルターさんはニコニコしていた。


「ウォルターさんの護衛に、騎士団分隊の誰かを付ける?」

「いえ、お気持ちは嬉しいですが、遠慮しておきますよ。そうですな、では男爵様のところまで、ティモをお借りしましょうかな」

「そうだね。じゃティモさん、お願いできる?」

「承知」


 ミルカさんは馬で王都に来たので騎乗で。それで馬車と馬だけを借りて、ティモさんが御者をする。

 ウォルターさんをお爺ちゃんの男爵領まで送って行き、ティモさんはその馬車で帰って来ることになった。

 男爵領からグリフィニアまでは、お爺ちゃんのところの馬車で送って貰うそうだ。



 翌々日、俺たちは2台の馬車を連ねて、全員揃って学院に行く。

 広場にはアビー姉ちゃんが待っていた。


「あんた、聞いたわよ。ウワサは学院生にも回ってるわ」

「もうアビーさま、聞いてください」

「王都に来て何日もしないのに早速だから、エステルちゃんも大変よね」

「それよりも、合格発表を見に行こうよ」


 それから皆で、貼り出された合格発表を見に行く。

 これで落ちてたら、何を言われるかだよねー。



「どこどこ、ザックの名前、ちゃんとある?」

「えと、えと、あ、ありましたー。いちばん最初ですぅ」

「あれって、トップてことじゃない。あんた、首席?」

「首席って、いちばん上ってことですかぁ。やりましたぁ」

「さすが、ザカリー様だ」

「あんなことがあったのに、凄いですねー」

「ほんとだ、1点どころじゃなかった訳ですね」


 もう、うちの女子組が大騒ぎだ。


 俺はウォルターさんの方をなんとなく見る。

 ウォルターさんは大きく頷き、これまでに見たことのないような満面の笑顔になった。

 そして俺に向かって一礼すると、ミルカさんとティモさんを伴って馬車の方に歩いて行くのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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