第133話 魔法特技試験の予測されたやらかし
名前を呼ばれて、最後の組の10名が魔法試験場へと向かう。
引率されて到着したのは、うちの子爵家専用魔法訓練場を何倍かに大きくしたような場所だった。
屋根のある屋内部分と、オープンエアの屋外部分とが半々ぐらいで繋がって一体空間になっており、雨天等でも使用できる構造だ。
屋内部分には観客席も設置されているので、模擬魔法戦闘とかの試合でも行うこともあるのかな。
試験場には男性と女性がひとりずつ、あと少し離れてお年寄りの男性と凄く美人のお姉さんの、計4人が俺たちを待っていた。
「よし、これで最後の組だな。受験生はこっちに集まってくれ。私は本学院の魔法学教授のクリスティアン、こちらは同じくジュディスだ。本日の魔法特技試験の試験官を務める」
「よろしくね」
「では早速、試験を始める。手順はいたって簡単だ。試験はひとりずつ行う。名前を呼ばれたらこの位置に立ち、まずはキ素力を循環させろ。そして自分が良いと思ったタイミングで、あちらの的に向けて魔法を発動させればいい。魔法は攻撃魔法ならどの魔法でも良い」
「回復魔法で試験を受けたい場合には、自分の番になったら申し出ろ。キ素力循環から発動まで、焦ることはない。ゆっくりでいいぞ。呪文は詠唱しても、無詠唱でもどちらでも可とする。以上だ。何か質問はあるか?」
「質問は無いようだな。それでは、名前を呼ばれた者はこちらに来い」
「クリス、ほら」
「え、あ、そうか。えーと、ザカリー・グリフィンはいるか? いたら手を挙げろ」
試験官のクリスティアン先生が、なぜか俺の名前を呼んで手を挙げろと言う。
なんだろうね。俺は手を挙げる。
「お、君か。君は受験番号としてはこの中で4番目なのだが、少し理由があって最後に試験をして貰う。単に順番が変わるだけだ。いいかな」
「わかりました」
俺以外の9人の受験生が、先生の言葉で俺の顔をちらちら見るが、直ぐに自分の試験に集中するために前を向いた。
「それでは、ライムンド・モンタネール。こちらへ」
「はいっ」
トップバッターはライムンドという少年だ。姓からするとモンタネール男爵家の関連かな。
「よし、はじめ」のクリスティアン先生の声で、ライムンドくんはキ素を集めてキ素力に変換し身体に循環させ始める。
俺は見鬼の力を使ってその様子を見ていた。
ふたりの試験官の先生も、じっとライムンドくんを見つめる。
なかなかいい感じだ。キ素力循環量も充分だろう。
そろそろと思ったところで、彼は両手を前に出した。
「雷よ穿て」
ショートワードの呪文か。無詠唱でも発動できるけど、試験なので失敗しないように声に出したというところかな。
雷撃が伸ばした掌の先から生まれ、バリバリと音を立てながら的へと向かい、見事直撃した。
威力もそれなりにあるが、離れた対象に当てる正確性が難しい雷撃魔法を、うまく発動させている。
「よし、なかなかいいぞ。それでは元の場所に下がって待て。では次だ。ヴィオレーヌ・セリュジエ、こちらに」
こんどは女の子だ。セリュジエ姓だから彼女も貴族で、セリュジエ伯爵の関連だろうか。
ヴィオレーヌちゃんも同じくキ素力を循環させて行く。なかなか強いぞ。
「むっ」
彼女は声を出さずに、力を込めてキ素力を思いっきり放出するように魔法を発動させた。
氷の大釘、つまりアイススパイクだ。
それも1本ではなく、2本のアイススパイクが高速で的に向かって飛び、続けて突き刺さった。
氷魔法のような単体で物質化する魔法を二連で飛ばすのは、基になるキ素力の量や強さはもちろん技術も必要になる。
「よし、素晴らしいアイススパイクだ。それでは次」
それから、あとの7人が次々に実技を行ったが、魔法を発動させることはできるものの技術もパワーもそこそこで、初めのライムンドくんとヴィオレーヌちゃんのふたりが、この中では抜きん出ていた。
そして、ようやく巡って来ました俺の番。よしよし、皆の度肝でも抜いてあげましょうか。
「それでは、本日の魔法試験の最後だ。ザカリー・グリフィン、こちらに」
「はいっ」
俺は呼ばれて所定の位置に立つ。
「ザカリー・グリフィン。えーと、何の魔法を発動するつもりかな?」
「え? あの、そうですね。火魔法系がわりと得意ですので、火球ですかね」
「火球か、そうか……」
クリスティアン先生がなぜだか俺だけにそう質問して、答えを聞くとジュディス先生の顔を見て、それから少し離れた場所にいるお年寄りと美人のお姉さんの方を見た。
「クリスっ。あのね……」
「うん、そうだな。わかった」
ジュディス先生がクリスティアン先生の耳元に顔を近づけて、何かコソコソ話している。
「あ、いや、待たせたな。君のことは事前に少々聞いていてね。ほら、お姉さんたちとか。それに、お母さんがアナスタシア様だしな。風の噂も聞こえて来ているし」
姉さんたちは、何を告げ口したのかな。アン母さんは確かに、天才魔法・元少女だけど。
それに風の噂って、なんだろ。
「でだ、まずはキ素力循環だけで、いったん止めてくれないかな。初めにそこだけ見たいんだ」
先生たちは、キ素力循環を見ることができるんだね。さすがは学院の魔法学教授だ。
「あ、わかりました」
「思いっきりでいいぞい」
「その、思いっきりで、いいそうだ」
今の声は、あっちにいる爺さんか。まあいいでしょ。
俺は、母さんが言うところの準備運動、つまりキ素を集めて身体の中に取り込んで練り込み、キ素力化して循環させる動作を行う。
普段はまったく必要としないのだけど、思いっきり、という声が掛かったので、母さんの推奨通り両手を軽く前に出す。
みるみる、この試験場中のキ素が俺に向かって飛び込んで来る。空気を吸い込んで真空にするように、辺りのキ素密度が薄くなっていることだろう。
ちらと俺を見つめる先生たちの顔を見ると、なんだか顔色が変わっている。
受験生の少年少女たちからも、息苦しくなっているような呼吸音が聞こえて来る。
別に酸素を薄くしている訳じゃないけど、魔法が得意な子たちだから、見えないにしてもキ素密度が薄くなるのがなんとなく分かって、息苦しさを感じているのかもね。
では、このぐらいにしておこうか。
俺は大量に取り込んだキ素を、高速で練り込みキ素力として全身に循環させる。
「ああー」「なになになに」「おー」「きゃー」
あ、俺がある一定量以上、キ素力を循環させると、誰でも見ることのできる七色の光を発して膨れ上がるのを忘れていました。
俺を核にして試験場内に七色の光がどんどん広がって行く。
今日はいつもより多めに光らせてます。広い試験場内いっぱいに七色が広がってますよ。って、やり過ぎたかな。
そりゃ、先生たちばかりか、受験生の子たちにも見えちゃうよね。
まあ、やっちまったのは仕方ない。
「わかった、わかった、思いっきりと言ったわしが悪かった。もう収めてくれんか、頼む」
爺さんからそんな声が飛んで来たので、俺はキ素力を少しずつ大気に溶かすように霧散させる。
ああ、朝礼で貧血になったみたいに、膝をついちゃっている女の子もいるよ。
ごめんね、怖かったかな、悪かった。
試験場内は、誰も声を発すことが出来ないみたいだ。静けさだけが続く。
「(ザックさまー。なにかやりましたねー。建物がある方で、七色の光が空に広がるのが見えましたよー)」
エステルちゃんのいる所からも見えたのか。そうか、この試験会場は半分屋外だった。
「(えー、なにも壊してないから大丈夫だよ)」
「(そうですかぁ? こっちでは、何があったんだとかザワザワしてますぅ。ライナさんが、あれは絶対ザックさまだって)」
「(うーん、まあ僕なんだけど)」
「(もう、ザックさまはー)」
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