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第128話 王都へ

 王都フォルスまでの行程は、アン母さんの実家であるブライアント男爵家で1泊。そこから王都へ向かう街道を行く。


 フォルスを囲んでその周囲のエリアは王都圏と呼ばれ、王家の直轄領と3つの公爵家の領地で構成されている。

 セルティア王国の公爵家は、それぞれ王家に血の繋がる一族だ。

 古くから王家を支える重鎮として、その領地は王都を護る防壁のような位置づけになっているということだ。


 ただしそれぞれの領地面積は狭く、どの公爵領もうちのグリフィン子爵領と比べても面積、人口、経済ともに小規模で、従って公爵家が持っている武力も小さい。

 武力ではなく政治力で王家を支える家柄、と言った方がより正しい。


 爵位の違いはあっても、それなりの経済力と武力を保有している各地の領地貴族が、俺の前世で言えば大名のような軍事貴族だとすれば、3公爵家は純粋な貴族と言えるのかも知れない。

 ただし、キ素が濃く魔法のあるこの世界では、保有する武力が単純に兵の数で計れないのが難しいところだけどね。



 俺たちの行程の話に戻ると、ブライアント男爵領から王都に続く街道は、王都圏に入って王家の直轄領を通過するので、その中の町でもう1泊してから翌日に王都に到着する予定だ。


 俺は馬車の中で、ウォルターさんとそんな話をしながら過ごした。

 一方でエステルちゃんは、アビー姉ちゃんから王立学院での生活の様子を聞いている。

 ファータの里での少女期の訓練生活の後、12歳で探索者になった彼女にすれば、学生生活の話は何を聞いても新鮮なんだろうね。


「それで、学院の女子と男子は、授業以外で一緒に行動することとかあるんですか?」

「あー、エステルちゃんの興味というか心配というかは、そこよね。そうねー、授業以外だとやっぱり部活よね」

「部活?」

「部の活動って意味よ。王立学院には授業以外に、学生だけで運営されるいろんな課外部っていうのがあって、たいていの学生はどれかの課外部に所属するわけ」


「それって、冒険者パーティみたいなものですか?」

「そうね。冒険者のような4、5人のパーティやチームもあれば、もっと大人数のギルドっぽい課外部もあるわね」

「へー。その課外部にはどんなのがあるんですか? と言うか、アビーさまは何に入っているんです?」



「わたしは、総合剣術部傘下の強化剣術研究部よ」

「強化剣術研究部ですかー。なんだか名前だけ聞いても、アビーさまらしいですよね」

「あはは、そうねー、規模は小さいけど。でもヴァニー姉さんなんか、総合魔導研究部とダンス研究部のふたつに入ってたのよ」

「魔導研究とダンス研究ですか。こちらもヴァニーさまらしいですぅ」


「そうだわ。もしエステルちゃんに、学院を自由に出入りできる許可が下りたら、授業は難しいけど、ザックとどこかの課外部に入りなさい。たしか学院の許可があれば、外部の人も課外部の特別部員にはなれる筈よ」

「えー、そうなんですかー。そうなるといいですぅ。ねえ、ザックさま」

「え、あー、うん」

「もう、こっちのお話も聞いていてください」


 聞いてたけど。

 俺がちゃんと入学できて、ウォルターさんが学院出入りの許可を取って来て、それからどこかの課外部に俺が入ったとして、それからだよな。

 まぁ、課外部っていうのも楽しそうだ。

 それにしても、アビー姉ちゃんが所属している強化剣術研究部というのは、たぶん彼女がクレイグ騎士団長から教わっていた強化剣術を中心に研究する部活なんだろうね。



 そんな話をしているうちに何事も無く行程は消化されて、今晩宿泊させて貰うブライアント男爵家の屋敷に到着した。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが、俺たちを出迎えてくれる。


「おお、よく来たな、アビー、ザック。エステルさんもいらっしゃい。クロウちゃんも来たか。よしよし、入れ入れ」

「アビー、ザック、エステルさん、それからクロウちゃんも、よく来たわね。ウォルターさんもご苦労さま」


「ザックは、あれ以来か。また身長が伸びたな。それにしてもエステルさんは、ぜんぜん変わらんのう。まるでアビーと姉妹のようじゃな。よしよし、それでいい、それでいい」


 お爺ちゃんが、またひとりでなんだか納得している。

 俺が前にここに来たのは、ファータの里からの帰路だから一昨年以来だね。

 確かに肉体的な成長期なだけあって、俺の身長もおそらく160センチは超えたのではないかな。父さんもでっかいしね。

 一方でエステルちゃんは、外見年齢が15歳で止まったままだから、今年14歳のアビー姉ちゃんとほとんど同じくらいにも見える。

 ホントウの年齢は、知ってるけど秘密だよ。カァ、カァ。


「(ザックさまは、クロウちゃんと何話してるんですか)」

「(いえ、なんでもないです)」

「(カァ)」



「今回は、ほかの侍女を連れて来ていないようだし、晩飯はエステルさんも一緒でいいのじゃろ? のう、ウォルター」

「はい、それで結構です、男爵様」

「もうそのつもりで、晩餐の準備をさせてますからね」


「よしよし。ヴァニーが卒業してしまったからの。年に2回、孫娘に会うのが楽しみじゃったが、今度はエステルが代りに孫になったわい。エステルと呼んでいいじゃろ?」

「ありがとうございます。はい、わたしのことはそう呼んでください」


 お爺ちゃんとお婆ちゃんは、本当に嬉しそうだった。



 それから晩ご飯の席では、俺の入学試験の話よりも、エステルちゃんが子爵家の王都屋敷に常駐になった話で盛り上がる。


「そうかそうか。それは良い決定じゃ。たしか今までは、どこかの商会に管理を頼んでいたのじゃったな」

「ええ、これまで王都屋敷を使用するのは、子爵様が王都に行かれた時以外では、ヴァネッサ様とアビゲイル様の入学試験の時ぐらいでしたから」


「そうじゃの。じゃが、これから4年間はエステルがそこに住むとして、アビーとザックは寮住まいなのじゃろ。貴族屋敷地区じゃからまあ治安はいいが、エステルひとりだけでいいのかの」

「それについては、クレイグ騎士団長とも相談しまして、良い計画があります。子爵様にも了承をいただきましたし」



「僕もエステルちゃんも聞いてないけど、どんな計画なの?」

「詳しくは、王都に着いてからということで。まあ、男爵様のご質問ですから少々申し上げますと、今回から子爵家騎士団の人員を少しばかり、王都屋敷に常駐派遣するということです」


「なるほどの。少数の武官を常駐させている貴族屋敷ならいくらでもあるから、それは良い方策じゃの。それで、エステルに侍女は付けんのかの?」

「えー、男爵さま。わたしが侍女ですよ。侍女に侍女は付きませんよぅ」

「まあ、それは時期尚早ですから、常駐させる騎士団員を女性中心にしますよ。あとは管理を依頼している商会に、屋敷の掃除と食事や洗濯などの世話ができる人員を派遣させることになります」


 何が時期尚早かは不明だけど、女性中心の騎士団員を王都屋敷に常駐派遣で、もうだいたい分かったよ。

 おそらく、あの人たちのことだよね。


 でも、確かにエステルちゃんが王都屋敷にひとり住まいは寂しいけど、その理由だけで騎士団員を常駐させる訳じゃない気がする。目的がほかにもありそうだ。

 安全面だけで言えば、彼女は本来探索者だし、闘えばそこらの誰よりも強いからね。

 家令だけど子爵家探索者チームの元締めでもあるウォルターさんと、クレイグ騎士団長が相談したという計画だから、きっといろんな思惑も含まれている筈だ。



 翌朝、ブライアント男爵家を出発した俺たちの一行は、その後も順調に行程をこなし、王都直轄領に入って直ぐの町でもう1泊した後、いよいよ王都フォルスに近づいた。

 街道を往来する馬や馬車、人の数も格段に増える。


 王都近郊の町や村を過ぎ、現在は冬なので作物は育っていないが、おそらく実り豊かであろう田園地帯の向うに、王都を囲む都市城壁が見えて来た。

 それは外部を威圧するような巨大な高さのものではないが、左右に広がる城壁がどこまでも続いているかのように思える。



「あの壁の中に、それはおっきい街があるのよ」

「学院もお屋敷も、それから王さまの住むお城も、あの中にあるんですよね」

「そうそう、うちの領都よりも何倍も大きな街よ。今日からザックもエステルちゃんも、あの中で暮らすの」

「はい、とても楽しみですー。ねえ、ザックさま」


 セルティア王国最大の都市フォルスか。これから4年間は、ここが俺たちの居場所になるんだ。

 俺の隣で馬車の窓から顔を出して、徐々に近づいて来る都市城壁を飽くこと無く眺め続ける、エステルちゃんのその興奮を身近に感じながら、俺も同じように気持ちが高揚してくるのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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[気になる点] ザックのエステルちゃんへの気持ちはいつ明確になるのか気になるところ。 ザックはエステルがウザくないんですかねー。 フツーにモテる男性なら明確に好きでもない女に彼女気取り未満?の範囲とは…
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