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第127話 グリフィニアのみなさん、行って来ます

 王都に出発の朝、屋敷の玄関ホールには見送りの大勢の人たちが集まってくれた。


 父さん母さんはもちろん、屋敷で働くみなさんが全員。

 騎士団からクレイグ騎士団長とネイサン副騎士団長。一緒に剣術の稽古を続けて来た騎士見習いの子たちは、玄関の外に来ているようだ。

 それから家庭教師のボドワン先生、そして筆頭内政官のオスニエルさんはじめ、内政官事務所の主立った人たちも来てくれている。


 俺はその人たちからの言葉を、ひとりひとり順番にいただく。


「ザカリー坊ちゃんのことは何も心配はしてませんが、揉め事に巻き込まれないか、それが心配です」

「ザカリー様、寂しいっす」


 ダレルさん、心配してくれてありがと。大丈夫だよ。それからトビーくん、あなたはもう大人なんだから、何をベソかいてるの。

 まぁ、俺が小さい時からのいちばん身近な友だちみたいなものだから、気持ちはとてもありがたいけど。



「ザック、くれぐれも、くれぐれも王都を騒がせるような無茶なことは、しないでくれよ。頼んだぞ」


 はい、ヴィンス父さんは、くれぐれもを2回言いました。


「ザック、あなたは何があっても大丈夫だと思うけど、このグリフィニアと違って王都にはいろんな人がいるし、味方は自分で作らないといけないわ。最大の味方は、今あなたの隣にいる人よ。エステルさん、この子のことをお願いしますね。クロウちゃんもね」

「はいっ」

「カァ」


 俺の隣に立っているのはエステルちゃんだ。クロウちゃんは変わらず頭の上にいるけど。



「父さん、母さん、みなさん、ありがとう。王都に行って来ます。なるべくみなさんを心配させないよう、王都と王立学院でいろいろなことに触れて成長して来ます」

「ザック、なるべくじゃなくて、くれぐれもだ」

「大丈夫だよ、父さん」

「わたしが付いていますから、ご安心ください」

「カァ、カァ」


「父さん、2年間はあたしが同じ学院にいて、しっかり見張ってるから大丈夫よ」

「そ、そうだな。アビーとザックだと余計心配なのだが……。エステルさん、頼むぞ」

「なによ、それ」

「子爵さま、おまかせください」



 心配合戦がいつまでも終わらないので、俺はそそくさと出発することにした。

 玄関前の馬車寄せには、2頭立ての子爵家の馬車と護衛の騎士団が控えている。

 騎乗が8名。御者役はいつものようにブルーノさんだ。

 今回の隊長はメルヴィン騎士で、ジェルさんとライナさんのレイヴンメンバーももちろん加わっている。


 それから、あれ、エンシオ・ラハトマー騎士じゃなくて、オネルヴァさんがいるんだね。

 オネルヴァさんは、騎士見習い時代に俺と一緒に朝稽古をしていたお姉さんで、エンシオさんの娘さんだ。

 つい先ごろ、彼女は目出たく従士から従騎士エスクワイアになった。


「ザカリー様、今回の護衛はエンシオ・ラハトマー隊長の指示で、オネルヴァ従騎士を加えることになりました」


 メルヴィンさんが、そう俺に声を掛けてきて教えてくれた。


「わかりました。みなさん、よろしくお願いします。それでは出発しましょう」


 俺とエステルちゃんが揃って見送りの皆に頭を下げ、馬車に乗り込む。

 同乗するのはアビー姉ちゃんとウォルターさんだ。



 大勢の人たちに見送られて、俺たち一行は屋敷前の庭園を大きく回り込み、領主館の正門を出る。

 夏休みと冬休みの年に2回は帰るとはいえ、この屋敷を離れて初めて暮らすのだ。

 俺は前々世で、大学時代にひとり暮らしを始めた時のことを思い出す。


 肉体年齢はあの時よりまだずっと子どもだけど、両親をはじめ俺を囲んでくれている人たちが多い分、心の内の感慨は前々世よりも大きいみたいだ。

 俺は、なんとなく目頭が熱くなるのを感じていた。

 馬車内も、そんな俺の様子を見てか暫くは誰も何も言わず、それぞれが窓の外を眺めている。



 馬車は領主館の正門前から続くグリフィン大通りを行き、中央広場を巡って領都の南門へと向かうサウス大通りへと入る。


「あんたはホントに、誰からも心配だけしかされないのね」

「えー、そうかな」

「わたしがいつも付いていて、これですからね。寮に入っておひとりになったら、どうなるのでしょうかね」

「エステルちゃんの言う通りよね。女子寮と男子寮は少し離れてるし、そこまではわたしも監視できないわ」



 もうすぐ、冒険者ギルドがあるアナスタシア通りとの交差点だな。

 おや、人だかりがあるよ。


「メルヴィンさん」

「なんですか、ザカリー様」

 メルヴィンさんが馬を寄せて来た。


「冒険者ギルドの前で、少し停まって貰っていいかな」

「あー、あれですね。わかりました」



 俺たちの一行は、どうやら冒険者さんたちが集まっているギルドの正面玄関の前で、いったん停止した。

 俺はエステルちゃんと馬車を降りる。


 そこには冒険者ギルド長のジェラードさんとエルミさん、それからアラストル大森林探索で一緒だったブルーストームとサンダーソードのメンバーをはじめ、たくさんの顔見知りの冒険者さんたちが集まっていた。


「今日出発とウォルターさんから聞いていたんでな、声を掛けたらこんなに集まっちまったよ」

「ザカリー様が王都に行くっていうんで、是非ともお見送りさせて貰おうと思って」

「ザカリー様がいなくなっちまうと、グリフィニアも寂しくなるぜ」


 ジェラードさん、そしてブルーストームのクリストフェルさんとサンダーソードのニックさんが、そう声を掛けてくれる。


「ありがとう、みんな。頑張って合格して、王立学院に入学して、夏至祭には帰って来るからね」


「レイヴン・ザックの旦那、頑張ってください」

「旦那なら王都でもどこでも大丈夫でさ」

「わたしもザカリー様に付いて、王都に行きたいわー」

「姉御も王都住まいになるんですってね」

「寂しくなるよなー」

「俺らも王都のギルドに移籍するかね」

「それ、いい案かもだぜ。なあみんな」

「おう、そうだ。旦那と姉御に付いて行こう」


「おまえらー、ごちゃごちゃうるさいぞー」

 最後にギルド長の一喝が飛んで、ようやく静かになった。


「みなさんは、大森林がすぐ隣にあるここ、グリフィニアに無くてはならない人たちだから、どうかこの街で頑張ってください。僕からのお願いだよ」

「へい」「わかりましたぜ」「安心して行って来てくだせえ、旦那、姉御」



 冒険者さんたちにも見送られて、俺たちの一行は再び走り出す。


「あんたたち、冒険者には人気があるわよね。あんた、将来は冒険者の親分サンとかになるの?」


 馬車の中からこの様子を眺めていたアビー姉ちゃんが、馬車に乗って座席に座り直した俺にそんなことを言う。冒険者の親分サンて何だ。

 いや、なぜだか知らないけど、いつの間にか俺とエステルちゃんがあんな風に扱われているだけだから。

 ウォルターさんは素知らぬ振りをしながら、口元だけ笑っていた。



 そして俺たちの乗る馬車は、父さんの方針の通り、ちゃんと一般の人びとに混ざり順番を守って南門を通過するために待機する。

 それでも、俺が乗っているのに気づいた誰かが、「王都に行かれるザカリー様の馬車だ。おい、前を空けろ、空けろ。王立学院入学の門出だ」と、前に並ぶ馬車に声を掛け、どんどん馬車を脇に寄せて俺たちを通す。


「みなさん、ありがとう。行って来ます!」


 俺は窓から上半身を出して、大きく手を振る。

 南門前にいる人たちも、笑顔で手を振ってくれる。

 さあ、本当にいよいよ出発だ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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