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第124話 ファータの里に帰還する

 俺たちはその場で、状況の確認と今後の行動について軽く打合せを行い、ファータの里に戻ることにした。

 クロウちゃんも空から戻り、今は俺の頭の上で休憩している。


 ボドツ公国部隊の高速騎馬兵50と兵士100は、ヴィリムルに向けて進軍していたが、東門に到着する前にいったん停止し偵察兵を出していた。

 しかし、つい先刻に部隊が向く方向を変え、駐屯地に引上げたそうだ。

 この行動については、先行していた工作部隊のうち6名がその引上げ直前に戻って来て、ボドツ公国部隊に合流してから行われたのを、エルメルさんとティモさんが確認している。


 一方でミルカさんは、同じくボドツ公国部隊を追跡・観察していたのだが、ヴィリムルの方向で起きた大きな爆発音を聞いて、ひとりヴィリムルへと走った。

 その途中で、俺たちを追っていた工作部隊4名を発見して密かに追跡。

 そこにエルメルさんとティモさんも合流して、現在に至るという訳だ。



「いや、あの爆発音はもしやと思っていましたが。やはりザカリー様でしたか」

「そうなんだ。工作部隊がカギ縄を城壁に投げて、まさに壁を昇ろうとする直前のタイミングに、ザカリー様がいきなりぶちかましてな」

「いま壁を昇る、どうしましょうってタイミングで、いきなりドッカーンですよー」

「あれは早かったでやすな。それに火焔と音と爆風がもの凄かった」

「城壁に掛かっていた5本のカギ縄が、吹っ飛びましたー」


 そんな説明をジェルさんたちがする。それを聞いたエルメルさんたちは、あきれ顔で俺を見た。

 それからジェルさんが、追いかけて来た工作部隊のうち4人だけが俺たちを追い続け、残りは戻したというクラースさんが言った話をした。

 これはエルメルさんたちが観察した状況と一致する。


「たぶんボドツ公国の部隊は、もう行動を起こさないと僕は思うよ。だから僕たちはファータの里に戻ろう」

「そうですね。さっきのクラースという男が言ったという、今回の件が失敗ということなら、ボドツ公国部隊は引き返す可能性が高いですね。あの爆発で、ヴィリムル側も城壁全体での警戒を厳しく行うでしょうし」


 それからエルメルさんは、ティモさんに引き続きのボドツ公国部隊監視を指示し、そして自身は評議員のサムエルという人に現在の状況を説明するため、再度ヴィリムル内に入ることになった。

 俺たちレイヴンは、ミルカさんに先導されてファータの里に戻る。



「(エステルちゃん、大丈夫?)」

「(はい。でも、ちょっと怖かったです)」

「(さっきの闘いが?)」

「(あの妖魔族の男の剣から出た黒くて変な爆発が、ザックさまの身体をぐちゃぐちゃにするんじゃないかって、そう思っちゃって……)」

「(そうか)」


 里に向かって走りながら、エステルちゃんとそんな念話を交わす。

 彼女もそう感じたんだね。あの奇妙な黒い爆発は確かにとても危険だった。

 剣から起こった爆発は、飛ぶ訳でもなく規模もとても小さかった。

 しかし、少しでもあれに触れれば身体が爆発に吸い込まれて、エステルちゃんが言うようにぐちゃぐちゃになるイメージを俺も持った。


 妖魔族のことは俺はほとんど理解していないし、あんな危険な剣技など聞いたことも無い。

 グリフィニアに帰ったら、これはちゃんと父さんたちに報告しないといけないのだろうな。



 やがて、ファータの里を囲む霧の壁の中に入った。

 俺たちに近づくいくつかの気配を感じる。それは里の周囲を監視する爺さんたちだった。


「みな無事か? ご苦労じゃったな」

「話を直ぐにでも聞きたいところじゃが、まずは里長さとおさ屋敷に戻れ。わしらは後で聞く」

「わしたちは霧の壁までの警戒と、取決めたからの。もう少し周囲に出たいが仕方ない。まあ警戒は続けるぞい」


 さすがは元ベテラン探索者だ。爺さんたちは俺たちを護るように一緒に歩きながら、普段とは違っていたって冷静にそう話した。

 里に入る入口にも爺さんや婆さんたちが何人か立って、警戒を行っていた。

「お帰り」「無事じゃったな」「帰ってまずは休め」などと声を掛けてくれる。



 それから里長さとおさ屋敷に帰り着き、エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃんに出迎えられた。


「おうおう、帰ったか。ザック様もエステルも、皆さんも無事じゃな」

「まずはお茶でも飲んで、休憩しなされや」


 帰って来た孫たちを迎えるような温かい言葉と表情に、それまで張りつめていた緊張が緩むのを感じる。ほかの皆も、それは同じだったようだ。


 それからカーリ婆ちゃんが紅茶を用意してくれ、エステルちゃんがお菓子をまた広げて、俺たちは一服する。

 ミルカさんとジェルさんが、早朝からの長かった1日に起きたことを補足し合いながら話した。


 工作部隊がカギ縄をヴィリムル都市城壁に投げ、壁を越えようとしたところで話を止め、ジェルさんが俺の顔を見る。

 俺は頷いた。エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃんには、ちゃんと報告しておいた方が良いと思ったからだ。


 都市城壁に火球を撃った話から後は、爺ちゃんと婆ちゃんは言葉も無く驚き続けるばかりだった。

 しかし、俺が倒した相手がエンキワナ大陸から来た妖魔族だったのでは、と俺が考えているというところで、エーリッキ爺ちゃんは目を見張り、そして深く考え込んでいるようだった。



「北方帝国の探索工作部隊がリガニア地方に入り込んで、それにエンキワナの妖魔族らしき者がいたという報告は、昨年にミルカから聞いておった。しかしその妖魔族が、わしらの里の近くまで来ておったとはな」

「その妖魔族を、ザック様が倒したのね」

「はい。しかし、かなり深く斬りましたが、命を断ったかどうかは確認できませんでした。果たして人族とかと同じように、あれで死ぬのかどうかも不明でしたし。それに、工作部隊の者が背負って帰ったので」


「そうじゃったか。それはわしにも正確には分からんな。ザック様のところの騎士団長の方が、詳しいかも知れんの」

「そうですね、クレイグさんが以前に妖魔族を斬って、騎士団が回収していますし。ジェルさんたちは何か知ってる?」

「ああ、7年前の話ですね。あの時は私も騎士団に入ったばかりで、確かブルーノもライナもまだ入団していなかった筈だな」

「自分もライナも、まだ騎士団にはいやせんでしたので、詳細は知りやせんね」


 レイヴンの女子組は3人とも歳が同じぐらいなので、あの夏至祭事件の時は皆13歳か。

 エステルちゃんは探索者になって、グリフィン子爵領に来てから間もなくだ。

 ジェルさんは騎士爵家から騎士団に入ったばかりで、ブルーノさんはまだ冒険者。ライナさんのことはちゃんと聞いてないけど、たぶん彼女も冒険者だった筈だ。


 まあ妖魔族については、クレイグさんやウォルターさんが詳しいだろうから、これも帰ったら彼らときちんと話すしかないだろうね。



 エーリッキ爺ちゃんとカーリ婆ちゃんへのひと通りの報告が終わって、ミルカさんは監視を続けているティモさんのところへ再び行った。本当にご苦労さまです。

 エーリッキ爺ちゃんは里の長老たちを招集して、今の話を報告し協議を行うということで、俺たちレイヴンは別の部屋でゆっくりすることにした。


「ザカリー様、聞きたいことが山ほどあるのだが」

「そうですよー。城壁に撃った火球魔法から、そのあとのいろいろ」

「ですよねー」


「その前に、少しお説教です」

「えー、だってエステルちゃん。っちゃっていいって許可が出たから」

「それじゃありません。城壁にいきなりどでかい火球魔法を撃った件です」

「あー、あれは許可が出てませんでしたよねー」

「そうだな、いきなりだった」

「カァカァ」


 それで、女子組3人から暫くお小言をいただきました。

 だって一刻を争っていたんだよ。

 あのまま傍観していたら、工作部隊がヴィリムルの街に潜入して何をしたか分からないし、そのうちボドツ公国部隊と呼応して、死傷者がたくさん出たかもだよ。


 あ、それは理解してくれているんだ。

 そうじゃなくて、火球魔法を撃つのひと言もなく、いきなり撃ったからですか。

 火焔と爆発音の想像以上の大きさに、ホントに吃驚したですか。

 そうですか。それは申し訳なかったです。


 俺が火球魔法を発動すると、ほぼお説教なんだよね。何故だろうな。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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