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第123話 黒く濁ったオーラを持つ男との闘い

 俺が全身に循環させた通常の人族を遥かに超えるキ素力が見えたのか、黒づくめでフードを目深に被った相手の男も用心したようだ。

 先ほどの、こんなガキは早くってしまえという勢いから、多少は冷静に闘う姿勢になっていた。


「ふふーん、人族のガキのくせに、えらい芸当ができるんだな。それともおまえは、人ではないのか」

「いや、まだ人はやめてませんよ」

「まぁどっちでもいい。これ以上、舐めた口をきく前に、さっさとおまえはヨムヘルの元へでも送ってやろう」


 月と冬の男神ヨムヘル様の元へか。なんだか寒そうだから、俺としては太陽と夏の女神アマラ様のところの方がいいかな。

 暖かそうだし、サクヤもホームステイしてたし、俺のことも知ってるらしいからね。



 あらためて、フード男も全身のキ素力を高める。

 前世の世界で言うところのオーラとして見れば、どす黒いオーラだな。

 ブラックドラゴンのアルさんのものが、鈍く美しく光る黒いオーラだとすれば、こいつのは黒く濁ったオーラだ。


 相手との距離はだいたい5メートル。お互い動けば数歩で間合いに入る。

 俺は、大典太光世おおてんたみつよ2尺1寸8分の剣先を天に上げ、八相に構えた。

 柄を握る両手からキ素力が更に刀に伝わり、大典太光世おおてんたみつよの刀身が七色の輝きを纏う。

 それを見てか、フード男は黒身の剣を片手持ちにして今にも斬り掛かるように持ち上げ、闘気を高めたようだ。

 そして目深に被ったフードの中で、ふたつの眼が赤く光る。やはりこいつは、人族じゃないな。



 かつて前世で、俺はひとりの師匠に教わったことがある。真の闘いに、やいばがぶつかる打ち合いは無いと。

 真の闘いでは、勝機は天の時、地の利、人の和にあり、それを得た者が一刀のもとで勝つ。

 つまり勝機とは、「時間と空間」と「魂」が一体となった時に存在するのであり、打ち合いとは、それが一体となっていないが故のプロセスでしかない。

「時空」と「魂」が一体となった真の闘いの一撃は、自ずから勝ちとなる。


 随分と久しぶりに大典太光世おおてんたみつよを構えたことで、そんな思いが下りて来て、俺の心を更に落ち着かせる。



「はあーっ」


 半開きに開いた口から、フード男がそんな声にならない闘気を洩らし、剣先を振り上げながら踏み込んで来る。

 こちらとの間合いに入った瞬間、フード男の振り下ろす黒い剣先がわずかに膨らんだように見えた。ヤバそうだ。

 刹那、俺は八相に構えたまま、縮地(真)で真後ろに数メートル移動する。


 ボムッ。

 黒い剣先が空を斬り、地面を叩いた、と同時にその地面で小さく黒い爆発が起きる。

 なんだあれは。

 爆発の衝撃波が外に広がらず、黒い爆発の内側へと収束したように感じた。

 あれでもし斬られていれば、あの爆発で斬られた箇所から肉体が吸い込まれて、ボロボロに崩れそうなイメージが浮かぶ。


 確か、超音速の燃焼現象を爆轟ばくごうとか言ったが、気体ではなくキ素で起こした爆轟ばくごうが、内側に収束、圧縮されて消えたようにも思える。

 ブラックホール爆発剣とか? いやいや、よく解んないよ。



「おいおい、なんだよそれ。瞬間的に後ろに逃げるとかよ」

「それは、こっちの台詞ですよ。なんですか、その爆発」

「ふん、これか。まあ俺たちの剣技には、よくあるものだ」

「そうですか、まあこっちも、よく使う体技ですよ」

「ほう、そうかよ」


 ここまでの相手の姿や動き、そして今の剣技で、俺はこのフード男があの3歳の時の夏至祭で事件を起こし、クレイグ騎士団長に倒された妖魔族と思しき者と同族、それもあれ以上の実力を持った者と確信した。



 俺もフード男も、あらためてキ素力を全身に循環させて構え直す。

 さてどうするか。また逃げても、勝機は掴めないだろう。

 勝つためには、時間、空間、魂を一体化させる。


 お互いにゆっくりと前に踏み出した。おそらく、間合いに入る直前に動きが切り替わる。


 先ほどと同じ間合いに入るか入らないかの瞬間、また黒い剣先が膨らみ、腕を伸ばすように斬り下ろされた。

 こちらの刀は、まだ間合いの外だ。

 しかし俺はその一瞬に、今度はほんのわずかに縮地(真)で前方に距離を縮め、七色のキ素力で輝く大典太光世おおてんたみつよを斬り下ろす。


 同時に斬り下ろされた剣と刀は擦れ違い、そして黒く濁った剣は、俺の七色の刀に反発されたかのように軌道を逸らされた。

 一方で俺の大典太光世おおてんたみつよは、フード男の肩先から胸の中心部へと斬り下ろされたのだった。


 刀の切っ先が相手の身体を抜けたと同時に、俺は再び縮地(真)で後方数メートルに瞬間的に移動して殘心する。

 フード男の身体からは赤黒い血が噴き出し、そして身体を崩して膝をついた。



「動くなっ」


 ジェルさんと思しき良く通る声が響き、同時にどこからか、土魔法による複数の石つぶてが地面にばらばらと当たり、矢が飛ぶ。

 フード男が斬られたのを見て、クラースさんたち3人が動こうとしたのだ。


 更に樹上からダガーが撃たれて、3人の足元の地面に突き刺さる。それも四方から何本もだ。

 エステルちゃんの、風魔法によるダガー撃ちにしては数が多いな。

 ああ、エルメルさんたちが来たんだな。


 同時に、俺の後方からジェルさん、ブルーノさん、ライナさんが姿を現し、上からは俺の横にエステルちゃんがストンと飛び降りて来た。


「くっ、皆さんお揃いでしたか。アプサラの港以来ですね。それにどうやら、そのお嬢さんのお仲間がもっと木の上にいるようだ」

「そうかも、ですね。今日はこれでお終いにしましょう」

「それが良いようですな。またどこかで、お会いすることもあるでしょう、ザカリー様。おいっ」


 クラースさんが声を掛けると、ひとりが地面に崩れ落ちているフード男を肩に担ぎ、そして彼らは森の中へと消えた。

 俺たちはその姿を黙って見送る。俺たちもクラースさんたちを殺すために、ここに来た訳ではないからね。

 エステルちゃんの微かに震える温かい手が、俺の手をいつの間にか握っていた。



 暫くレイヴンのメンバーの間に無言の時間が流れる。

 森の中に消えたクラースさんたちの気配も消えた。

 そして四方の木の上から、エルメルさんたちファータの探索者3人が、音も無く飛び降りて現れた。


「凄い闘いでした。あれを一刀で倒すなんて」

「本当に凄かった。それから、今のクラースという男が、アプサラでザカリー様が双子を預かった、その相手ということですね」


 いつまでも続く無言の時を破るように、エルメルさんが口を開いた。

 それにミルカさんが言葉を繋ぐ。


「ええ、ミルカさんに調査をお願いしていた、北方帝国から来たというクラースさんです」

「つまり、あの工作部隊は北方帝国の者たちで、そのリーダーがあの男という訳ですか。それもザカリー様がご存知の」

「はい、エルメルさん。それに、僕が斬ったあのフードを被った黒づくめの男は、おそらくエンキワナ大陸の妖魔族だと思います」


「なんと、やはりそうですか。あいつだけ、他の3人とは気配が違っていましたので、人族ではないと思っていましたが、そうですか、妖魔族ですか」

「黒く濁った大量のキ素力や、フードの奥で光った赤い目。そしてあの、奇妙な爆発を起こす剣技。どれも初めて見たものですが、でもあの感じは、以前にグリフィニアの夏至祭に現れた妖魔族と思しき者と同族だと、僕は思いました」


 そこで再び沈黙がこの場を支配した。

 誰もがそれぞれに、俺が言ったことを頭の中に巡らせて考えているようだ。


 俺の手を握り続けている、エステルちゃんの力が少し強くなった。

 その彼女の顔を見ると、まるでまだ眼の前に、フードを被って黒い剣を構える妖魔族の男がいるかのように、じっとひとつの場所を睨み続けている。

 それから、顔を見た俺の視線に気がついたのか、その瞳から大粒の涙がみるみる溢れ出して来た。


「(エステルちゃん、さあ、里に帰ろ)」

「(はい)」


 俺の頭の中に直接聞こえたその返事も、念話なのになぜか涙声だった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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[気になる点] ファータの里が近くにあるんじゃないかと鎌をかけてきた上に、敵であることが明白な相手をほぼ確実に殺せる場面で、相手が逃げていくのを何もせずに見逃す理由がわからないので、とても気になります…
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