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第122話 工作活動を思わず未然に妨害

 工作部隊と思われる一団を追っている俺たちは、都市城壁に囲まれたヴィリムルの北側方向に向かっていた。

 ヴィリムルには東と西が街道に続く大きな門があり、北と南には人のみが通行できる小振りの出入り門があるのみだと聞いている。

 彼らはそこを破るのか、それともどうやって街の中に入るつもりだろう。


 やがて森が終わり、平地にヴィリムルの都市城壁が見えて来た。

 俺たちは木立が途切れる手前で、いったん身を潜める。

 城壁はそれほど高くはないな。4、5メートルほどだろうか。あれなら俺やエステルちゃんは直ぐに越えられる。


 城壁の上は通路になっているのだろうが、巡回する警備兵の姿は今はまだ多くないようだ。

 そのうち、ボドツ公国部隊接近の報せがもたらされれば、警戒する兵の数を増やすだろうが、おそらく東側に集中するだろうな。



「ブルーノ、やつらはどこにいる?」

「ジェルさん、あちらでやすよ。壁にへばり付いていやす」

「あれはカギ縄ですよー。あ、5人が同時に投げました」

「壁を越えて中に入ってしまうな」


 よし。では当てないように、それっ。ドッコーン。


 一刻を争うので、殺傷力は低めにして火焔と爆発音を大きくするイメージで、俺は火球の魔法をいきなり発動して、やつらが投げたカギ縄の横あたりの城壁めがけてぶっ放した。

 あの人たちには、ちゃんと当たらないようにしたよ。


 突如起こったどでかい火焔と爆発音に驚き、工作部隊の10人は一斉に身を低くして辺りを伺っている。



「あ、いきなりやりましたね。ザックさまはー、もう。ちょっと目を離すとー」

「凄い爆発でやしたなー」

「大森林の時より大きいぞ」

「あれって、あいつらに直接ぶつけたら、それでもう終わりですよねー」


 いやいや、殺傷力は低くした花火みたいなもんだから。直接ぶつければ、黒こげにはなるかもだけどさ。

 でも火焔と爆風で、カギ縄は5本とも吹き飛ばしたよね。


「見つかりやしたよ。どうしやす?」

「よし、林の中に逃げよう」

「逃げるんですねー」


 やつらのひとりが、火球が放たれた方向から俺たちを見つけたようで、こちらを指差している。

 どうやら向かって来るようだ。

 どうせ直ぐにでも、火焔と爆発音に驚いて都市城壁内から警備兵たちが来るだろうから、あそこには留まってはいられないだろうしね。



 俺たちはそそくさと森の中に4、500メートルほど撤退して、そこでまた身を潜めた。

 クロウちゃん、やつらはどんな感じ?

 散会しつつ真っ直ぐこっちに走っているのか。こちらを少数と見て、囲みを作るつもりだね。なかなか優秀だ。


「散開して追って来るようだから、もう少し森の中に引っ張ろう。ちょっと全速力」

「了解」


 俺たちは、5人のなかで足が遅めのジェルさんとライナさんの全速力に合わせながら、更に走る。

 木立がまばらになっている場所に出たので、そこで足を止めた。

 少し引き離したな。


「僕とエステルちゃんは、木の上に上がる。3人は間を空けて、森の中に身を潜めて」

「見つかったらどうします?」

「その場合は仕方ないから、闘うか。でもなるべく殺さないように。あとでヴィリムル側に発見させるのがいいだろう」

「はいっ」「了解」



 俺とエステルちゃんは、木立のまばらな空間を囲む背の高い木の上に、それぞれ別れて一気に昇った。

 ジェルさんたちは、既に森の中に身を潜ませている。


「(来るよ)」

「(見えました。4人です。残りは?)」

「(どうやら、あとの6人はいないな)」


 こういう時に念話は便利だよな。エステルちゃんはついさっき、出来るようになったんだけど。


 その4人が、するすると走り込んで来る。

 先頭の男が手を挙げて止まった。残りの3人も間隔を取って停止し、即座に辺りを窺う。

 わずかな気配を嗅ぎ取ったかな。

 でも、あのリーダーらしき男。たぶん、ボドツ公国部隊の駐屯地で制服兵士と話していた男だと思うけど、なんだか見たことがあるよね。


 3人が周囲の森を警戒しているなか、その男は不意に空を見上げて何かを探っているようだ。

 空? クロウちゃんか。



「そこの木の上にいるお人。下りて来ませんか」


 俺が見つかったのか。

 全員が散らばって隠れたので防御結界は張らなかったが、それでも良く見つけたね。


「(ダメですよ、ザックさま。我慢してください)」

「(でも、呼ばれたからなー)」


 俺は木の上から、その男の前方に距離を取ってストンと飛び降りた。

 周囲を伺っていた3人が身構える。


「ほう、まだ少年のようですが、あなたですね。大きな火魔法を城壁に当てたのは」

「…………」

「どうやら、何かの魔道具かなにかで顔を隠しているようですが。でも、随分と以前にお会いしたことがありますね。空にカラスを飛ばしているあなたと」

「たしか、クラースさんでしたっけ」


「はい、お久しぶりです。大きくなられましたな、ザカリー様」

「あの時の双子は、うちで元気にしていますよ」

「それは良かった。でも、私共の邪魔をするのは、これで二度目ですね、ザカリー様」

「たまたま、近くに来ていてね」

「たまたまですか。それは、そう聞いておきましょうか。私も、この辺りの森のどこかに、ザカリー様と親しい方たちがお住まいと、たまたま聞いたことがありましたな」


「(ザックさま、殺しましょう)」

「(大丈夫だよ。おそらくブラフだ。ファータの里の場所はバレてないよ)」


「あの火魔法一発で、今回の私共の仕事は失敗です。ここにいる以外の者は、もう撤退させましたから、ご安心ください。しかし、あれを誰がやったのか、確かめずにはおられませんでしたのでね。それにまた、邪魔をされると困りますので」

「おい、クラース。のんびり話している場合ではない。そのガキは俺がるぞ」


 クラースさんの後ろにいた、黒ずくめでフードを被った人物がいきなり全身にキ素力を高めると、刀身が黒く光る剣を抜いて前に出た。



「やれやれ、どうも貴方たちは、辛抱ということが苦手のようで」


 クラースさんはそう言いながら、ほかのふたりと共に少し後ろに下がった。

 確か、黒ずくめでフード姿はふたりいた筈だが、もうひとりは撤退したのかな。

 それはともかく、こいつだ。キ素力がやたら強いぞ。剣も含めて全身強化か。


 これは所謂いわゆる、仕方がないというケースでいいよね。

「(いいです。っちゃってください)」


 今出せる最大ではないが、それに近い量のキ素を俺は集めてキ素力に変換し、黒ずくめと同じく全身に纏う。

 こちらも真っ黒の装備なんだけど、全身が七色に輝いているかもね。

 そして、無限インベントリから、どれにしよう。やはり手に馴染んだこれだな。

 俺は、大典太光世おおてんたみつよ2尺1寸8分を抜き出し、それにもキ素力を纏わせた。


「おおー」


 クラースさんたち3人が驚き、思わず声を上げる。

 3人とも見る力があるのか。それとも出力の大きさから、七色のキ素力が見えてしまったのか。


 さて、エステルちゃんの許可も出たことだし、ちょっと本気で闘いますか。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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