第121話 部隊が動く
暫くして、エルメルさんも中継地点に戻って来た。
「エルメル兄、どうでしたか?」
「ヴィリムルは今のところ落ち着いていたよ。評議員のサムエルの話では、ボドツ公国部隊はヴィリムル攻略を目指したものではなく、威力偵察か挑発のための軍事行動と、都市長と評議員は見ている」
「挑発に乗らなければ衝突はないと?」
「そうだな。それに傭兵や冒険者を合わせても100人ぐらいの戦力では、都市城壁の中を固めるのがせいぜいだ」
「他の都市への援軍要請はしているんですか?」
「ええ、ヴィリムル側がボドツ公国部隊の接近を発見したのがやはり昨日で、駐屯を確認して今朝早くに、いちばん近くの同盟都市シャウロに馬を走らせたそうです」
「援軍は期待できますかね」
「直ぐには無理でしょうね。シャウロはヴィリムルよりも小さな都市で、常駐する戦力も少ない。シャウロ経由で同盟の中心都市のタリニアまで、馬を走らせることになるでしょう」
ヴィリムルからシャウロまでは、馬を酷使すれば3時間足らずで行けるそうだが、そこからタリニアまでは更に4時間近くはかかると言う。
本日中に報せが行って、そこから援軍の編成や準備を行っても、ヴィリムルへの到着は明後日以降になってしまうだろう。
それまで、ボドツ公国部隊が何もせず、じっとしているとは思えない。
俺たちはブルーノさんが見つけた、ボドツ公国部隊が遠目に見下ろせる場所へ移動することになった。
ブルーノさんにだいたいの位置関係を聞き、空間把握の能力を発動して確認しながらクロウちゃん先行させて飛ばす。
上空からボドツ公国部隊が見えた。
なるほど、数は200名ぐらいのようだ。馬が50頭ほど繋がれていて、あれが高速騎馬部隊だな。
残りは徒歩の兵と荷駄の部隊で、ティモさんの報告通り荷駄を積む馬車の数は少ない。
先ほどミルカさんたちが言っていたように、特に目立った動きはないようだ。
俺たちは各自の間隔を少し開け、周囲に注意を払いながら速歩で見張り位置へと向かった。
もちろん俺は、探査・空間検知を発動させながら移動している。
高台となっている森の中の緩やかな斜面を登り、やがてその場所に到着した。
高台の上も木々が立っているが、部隊の駐屯地が見える高台の縁に繋がる場所だ。
俺は直ぐさま、少し広めに目隠しの防御結界を張る。
それから8人が固まらないように気を配り、交替に高台の縁位置に移動して各々がボドツ公国部隊を確認した。
「どうやら、昼餉の準備をしているようでやすな」
「そうだね。僕たちもお昼をいただいておこうか」
「はーい」
昼食は、カーリ婆ちゃんと女子組3人が昨晩中に用意しておいたものだ。なかなか美味しいね。
クロウちゃんはなに? エステルちゃんからお水が貰いたいの? あー、あの甘露のチカラ水か。今日はこれからも飛んで貰わなきゃだから、少しあげてやって。
午後はここから、俺と女子組が部隊の見張りと周辺警戒だ。
クロウちゃんは違和感を感じないように、後方上空もしくは高い木の上に移動しながら待機させ、ときどき駐屯地の上空まで接近するようにする。
ファータ組とブルーノさんは、それぞれ散らばって近接の偵察に出た。
暫くそうやって偵察を行っていると、ジェルさんと駐屯地の見張りについていたライナさんが俺に近づいて来た。
「少し動きが出て来たようですよー」
「よし、見に行こう。エステルちゃんも」
「はい」
姿勢を低くしてジェルさんがいる場所まで行く。
なるほど、動きが慌ただしくなっているようだな。おそらく騎馬隊であろう50人ほどが集合しつつあり、歩兵部隊も集合するようだ。
俺は後方を飛んでいたクロウちゃんを、駐屯地の上空に移動させる。
「どうやら出撃準備のようだな」
「騎馬隊が50、歩兵部隊が100という感じですかねー」
「そうだな。残りの50ほどは残すのだろう」
「あ、ザックさま、あそこを見てください」
「ん、10人ほどが集まっているな。騎兵でも歩兵でもないな。よし、クロウちゃんをあの上に行かせよう」
その10人ほどが集まる上空にクロウちゃんを移動させ、視覚を同期させる。
人数は、12人か。うちふたりは、おそらくボドツ公国部隊の制服装備を着ている。
あとの10人は、なんとなく皆が黒っぽい装備だが、制服ではなくバラバラにも見える。傭兵かな。それにしては軽装備のようだ。
なかでもふたり、フードまで被って全身黒ずくめの者もいるが、あれは。
10人のうちのひとりがボドツ公国部隊の制服装備と何事か話していたが、やがて話終わったのか、合図をすると12人の者たちが駐屯地から出て行った。
先行部隊としてヴィリムルに行くのだろうか。何か胸騒ぎがするぞ。
「ザカリー様、みなさん、こちらへ来てください」
誰かが来たなと思っていたら、俺の直ぐ後ろにミルカさんが近づいていて、小さな声でそう声を掛けてきた。
エルメルさんも戻って来ている。
「ザック様たちも見張られていましたが、やつらが動きます。われらは先回りしてヴィリムルに向かいますが」
「では、僕たちも行きましょう」
「はい。ですが、まだブルーノさんが戻っていませんので、ブルーノさんと合流したら、距離を取って来てください。ボドツ公国部隊には、決して接近しないようにお願いします」
「わかりました。そうします」
そう打合せすると、エルメルさんとミルカさんは高台を下りて行った。
ティモさんは、どこかで部隊を見張っているのだろう。
「先に出たあの者たちは何だろうな」
「なんだか、わたしたちファータの者に近い匂いを感じましたよ」
「えー、そうすると探索部隊ですかー?」
「いや、と言うより、工作部隊じゃないかな」
「わたしもザックさまの言う通りな気がします」
俺はクロウちゃんに、彼らの後を追わせている。
感づかれないように、かなり高く飛ばせているので様子が見にくいが、速歩でするすると森の中を移動しているようだ。
その時、ブルーノさんが現れた。
「ザカリー様、あいつらを見やしたか?」
「先行した10人だね」
「あれは、工作部隊でやすね。それも、どこか北の国から来たような……。で、追いやすよね」
「うん。エルメルさんたちはヴィリムルに先回りして、僕たちはブルーノさんを待っていた」
ブルーノさんもそう思ったか。俺もなんとなくそんな気がしていた。
だいいち、兵士とは明らかに雰囲気の異なる、あのような工作部隊がボドツ公国にいるとは思えない。
俺が記憶と直感で思ったのは、前世の世界で敵地工作や攪乱を得意としていた甲賀の連中に似ていることだ。
つまり、雇われたか派遣されて来た工作のプロの匂いだ。エステルちゃんやブルーノさんも、そんな匂いを感じたのだろう。
直ぐさま撤収移動が出来るようにしていたので、俺たちは有無を言うこと無く出発した。
ブルーノさんが、先行する工作部隊らしき連中との距離感を計りながら、レイヴンメンバーの先頭を進む。
この速度ならば、30分もすればヴィリムルに接近するのではないだろうか。
あいつらが何か工作活動をするのなら、見つからずに城壁を越えるかしてヴィリムル内に入らなければならない。
その場合、俺たちはどうするかな。
おそらくエルメルさんが、都市内に入って評議員とかに報せるのだろうが、攪乱工作と時を合わせてボドツ公国の高速騎馬部隊が現れ、内と外の双方からの攻撃に曝される可能性があるよね。
「(ザックさま、ザックさま、手出しはなしですからね)」
「(えー、エステルちゃん、僕に直接、念話ができちゃったんだー)」
「(えへへ、できちゃいました。アルさん経由じゃなくて、ザックさまに直接できないか、いろいろキ素力とか、捻ってたんですぅ)」
ブラックドラゴンのアルさんに教わってから、ふたりの間でも念話ができる可能性があることは、暫くは黙ってようと思ってたけど。
気がついちゃったんですね。でも、捻ったらできるようになるのか。
「(なるべく、手は出さないと言うことで)」
「(なるべくじゃなくて、ダメです。じゃないと、お説教です)」
「(はい……)」
「(カァ)」
あ、クロウちゃんもこの念話の通信チャンネルに入って来れるんだね。凄いねキミたち。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。
彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。
ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。
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