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第115話 エルク狩りに行く

 翌日は早朝からエルク狩りに誘われていた。


 エルク、つまりヘラジカのことだね。前世の世界でも大きな角のある最大級のシカだが、こちらの世界のものもかなり大型らしい。

 この里では狩りを定期的に行っているそうで、狩ったエルクは食用の肉や鹿革、そして角も武器に加工するそうだ。

 なんでも金属製の投擲用ダガーと同じように、投擲武器の材料にするらしい。手裏剣みたいなものかな。


 俺たちレイヴンのメンバーが里長さとおさ屋敷前で待っていると、今日の狩りに連れて行ってくれる面々がやって来た。

 はい、見た目は全員お爺ちゃんです。



「おお、ザカリー様、方々、待たせたな。宴でもお会いしているが、わしはアルポ。今日の狩りのリーダー役じゃ。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 声がでかい。この里に来て、声のでかい爺さん言葉にはもう慣れたけどね。

 ミルカさんとかティモさんとか、現役で探索者の仕事をしている人たちは、仕事柄か凄くもの静かで落ち着いた話し振りだけど、引退すると声がでかくなるのだろうか。


 アルポさんは、あと5人の爺さんたちを牽き連れていた。

 実年齢はまったく分からないが、皆さん80歳ぐらいに見える。ファータ人の外見はそこで止まるのだそうだ。


 6人の爺さんたちは、それぞれ背に弓を背負い腰には刃物を携えている。

 これはファータの里で、だいたい皆さんがいつも身につけている片刃の腰鉈こしなたで、方形のブレードの刃長は30センチメートルぐらいと、長いのが特徴だ。

 本来、森の中で樹木のツル切りや草払いなど多目的に使うものだが、重量もあり充分に殺傷能力がある。


 このファータの腰鉈こしなたは、領都グリフィニアの武器店では見たことがなかったので、帰る時に買って行こうかな。

 エステルちゃん、買っていい?

 え? 里長さとおさ屋敷に何本か使ってないのがあるから、貰ってくれるって? やった。



 一方、こちらのレイヴンの騎士団メンバー3人も弓を背負っている。

 ブルーノさんは自前のだけど、ジェルさんとライナさんはこれも里長さとおさ屋敷で備えていた弓を借りてきた。

 彼女らはもちろん騎士団で弓の訓練をしているので、わりと得意なのだそうだ。


 エステルちゃんは俺のお世話係と監視役に徹するみたいで、弓は使わないらしい。

 狩りに行くんだから、別に無茶なことをする要素はないと思うけど。

 俺は、愛用のダマスカス鋼ショートソードは腰に佩いているが、あとは手ぶらだ。

 無限インベントリには、前世の大弓とか伊賀の短弓なんかがある筈だけど、まさか出す訳にもいかないしね。



 それでは、元気いっぱいの爺さんたちに引率されて、エルク狩りに出発します。

 里を囲む霧の壁を抜けて、俺たちは森に入って行く。


 この森のエルクは体長が3メートル以上、体重も700キログラムを軽く越えるという大きなもので、1頭を狩ればそれで終了なのだそうだ。

 しかし、こちらの世界のエルクもとても用心深く、見つけるのが難しい。また、逃げ足もかなり速いという。

 1日かけて森の中で狩りを行っても、1頭も狩れなかったということもあるらしい。

 その場合は、ウサギなどの小動物で我慢するとのことだ。


 そんな話をアルポさんから聞きながら、森の中を探索する。

 アルポさん以外の5人の爺さんたちは、さすが元ベテランの探索者だけあって、連携を取りながらエルクの新しい足跡を探して森の中に散っている。


 ブルーノさんは暫く俺の側を歩いていたが、動きたくてむずむずしてきたのか、「自分もちょっと行って来やす」と森の中に消えて行った。

 昨日の午後は、ミルカさんと森に入っていたようなので、あの人のことだからこの森をかなり把握したのだろう。


 それじゃ俺も手伝うかな。と言ってもクロウちゃんだけどね。カァ。

 クロウちゃんは上空へと飛んで行った。



 暫くエルク探しを続けてだいぶ時間も経った頃、かなり広範囲に上空から地上を探索していたクロウちゃんから通信が入る。

 なになに、俺たちの右斜め前方、徒歩で30分ぐらいのところに大型のエルク発見か。

 視覚を同期させると、うん、巨大な角を生やしたでっかいエルクが1頭いるぞ。


「アルポさん、あちらの方向の徒歩30分あたりにエルクがいますよ」

「なに! ザカリー様のカラス、いや、クロウちゃんが見つけたかいの」

「はい」

「よし、まずこちらに集合じゃ」


 アルポさんが指を輪にして口に入れ、ピーっと指笛を吹く。

 すかさず5人の爺さんたちとブルーノさんが、音も立てずに次々に現れた。


「ザカリー様のクロウちゃんが、エルクを見つけたぞい。この方向に徒歩30分。皆、散開しつつ囲んで追うのじゃ」

「おうよ」



 エルポさんと俺たちを中央に、ブルーノさんを加えた6人が左右に3人ずつ散会して、エルクのいる方向に向かう。


 よし、俺も行くか。

 俺は、数歩の助走とともにシュンと飛び上がり、近くの高い樹木の枝に手を掛けると、その枝に飛び乗りざまに、その向うの木の枝に飛び移る。

 前世から10何年振りの猿飛だけど、大丈夫そうだな。


「あ、やられたっ」

 後方の地上からエステルちゃんの声が聞こえる。


 俺が慎重に木々の枝を飛び移りながら進むと、後ろから同じようにしてエステルちゃんが追いかけて来た。

 エステルちゃんも猿飛の術ができるんだね。なかなか上手い。


「もう、何も言わずに飛び出すのはダメですよぅ」

「ゴメン、ゴメン」



 徒歩30分の距離だから、猿飛で行けばあっと言う間だ。

 エルクがいた。上空からクロウちゃんの眼でも見たけど、肉眼で見てもかなり大型だね。


 旋回して飛んでいるクロウちゃんに皆をここまで誘導するように頼み、俺とエステルちゃんは枝の上に身を潜ませてエルクを見張る。

 まだ俺たちには気づかず、のんびりと草を食べているようだ。


 エルポさんたちが近づいたとクロウちゃんから連絡が入ったので、少し後方に戻って合流する。


「ザカリー様とエステルさんは、いつから人間を辞めたんですかー」

「いや、まだ人間だけど。それより、この前方にエルクがいるよ」

「よし、接近して弓じゃ」



 慎重にエルクが視認できる位置まで移動すると、一斉に矢が放たれた。

 散会している爺さんたちからも矢が飛ぶ。


「あ、逃げる」

「ライナ、壁っ」


 ジェルさんがすかさず指示を出し、矢が届く寸前に逃げ出したエルクの少し前方に、ライナさんが土魔法で土壁を立ち上げた。

 いつ見ても見事だよね。

 エルクは突如現れた障害物に驚き、衝突する前に急ブレーキを掛けて止まる。

 その刹那、ジェルさんが引き絞った弓から矢を放った。それと同時に、別の方向からも矢が飛ぶ。


 2本の矢はエルクの後頭部と頭部の横に同時に突き刺さり、エルクは前足を折って崩れる。

 俺は矢が放たれると同時に走り始め、エルクが足を折る瞬間に縮地もどきで間合いに入ると、ひゅんとエルクの首を斬り落とした。



 ファータの爺さんたちとレイヴンメンバーが、ばらばらと駆け寄って来た。


「ひゃー、嬢ちゃんたちも凄いが、ザカリー様は凄い剣技ですわいなー」

「エルク狩りとは、こんなにあっと言う間に終わるものじゃったじゃろうか」


 爺さんたちが口々にそんなことを言い、俺が落とした首の斬り口とか、頭部に突き刺さった2本の矢を確かめている。

 ジェルさんが放った矢は後頭部に刺さり、もう1本はブルーノさんが放ったものだったんだね。



 それから爺さんたちは、エルクの血抜きをしたり、里まで運搬するための簡易な馬橇ばそりのような道具を、周囲の木やツルであっという間に組立てていた。

 なにせ、首が落とされても体長が3メートルもある大物だ。かなりの重量がある。

 馬橇ばそりが出来上がると、全員でエルクの巨体をその上になんとか載せ、皆で交替しながら曳いて帰る。


 行きよりもかなりの時間をかけて里に帰り着くと、狩りの獲物を見に集まって来た里の爺さん婆さんたちから、大歓声が沸き起こったのだった。

 今日も宴会かな。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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