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第113話 アルさんとルーさんのことなど

「ええ、アラストル大森林で二度ほどお会いして」


 俺は、5歳の時と8歳の時の大森林行きと、それぞれで神獣フェンリルのルーさんと会った話を簡単に説明する。

 ブラックドラゴンのアルさんは、凶悪魔獣のカプロスと遭遇した時のことや、大森林探索の時にベースキャンプを襲って来たハイウルフと森オオカミの一群を倒した話を面白そうに聞いていた。

 しかし、その後に再会したルーさんの話になると、途端に機嫌が悪くなった。


「ホント、あやつは生意気じゃ。何を偉そうに忠告とかしおって」

「はぁ」


 偉そうに忠告したと言うか、太陽と夏の女神のアマラ様から俺のことは聞いているってことと、時間は沢山あるので急ぐな、無茶をするなという助言を貰ったんだよね。

 あとエステルちゃんには、できるだけ俺の側に居ろって言ってたな。



「アルさんは、ルーさんと仲悪いの?」

「ん、いや、なに。仲が悪いとかではないんじゃが、反りが合わないというかの」

「ふーん」

「あいつ、強面じゃしな。話し方もぶっきらぼうじゃし」

「たしかに、初めてお会いしたときは、すっごく怖かったですぅ」


 いやいや、アルさんだって見た目強面だし、ふつうの人が初めて会ったら絶対にちびると思うよ。


「それにあやつは、いちおう神獣じゃから、アマラ様とかと直接に話したりするからの。そんな話をするのが、どうも鼻につくのじゃわい」

「ドラゴン族は、神様とお話ができたりするんですか?」

「そうじゃな、金竜さんなら、ときどき話をしているみたいじゃぞ」

「アルさんは?」

「わしか? わしはたまにじゃ」



「あやつがザックさまに、偉そうに忠告やら助言やらだけするのなら、わしは家来にでもなってザックさまの面倒を見てやるわい。うんそうじゃ、そうしよう。エステルちゃんが侍女でお世話係なら、わしも家来でお世話係になるぞ」


「いやいやいや。いきなり家来はないでしょ。まずはお友だちから」

「そうよアルさん。お友だちから始めるのが大切ですよ」

「カァ、カァ」

「そうかの。そこの式神とやらのカラスも、そう思うかの」

「カァカァ」

「おお、クロウちゃんて呼んでほしいのか。わかったわかった」


 アルさんは、クロウちゃんの言うことがふつうに分かるんだね。遠方から俺たちに呼び掛けができるんだから、それもそうか。

 それにしても何を言い出すのだろうね、このドラゴンさんは。



「では、今すぐに家来になるのは我慢するがの、ザックさまに何かあってわしの助けが必要な時は、どこにでも飛んで行くぞ」

「そうですか、ありがとう」

「そうじゃ、ザックさまが呼びかけたら、わしに届くようにしておこう」

「はい」


「声を出さずに、わしに何か言ってみてくれんかの」

「(聞こえますか? こんな感じかな)」

「おお、良く聞こえるわい。というか、なんとも強い念話じゃ」

「はい、はーい。わたしも、わたしも」


 エステルちゃんもやってみたくて、手を挙げた。


「エステルちゃんもじゃな。よいぞ。ほい、話してみ」

「(アルさん、聞こえますかー?)」

「(よいよい、エステルちゃんのも聞こえるぞ)」

「(ホントだ。今まではなんとなくだったけど、はっきり分かりますぅ)」


 俺もエステルちゃんとアルさんの念話というのか、その通信内容がちゃんと聞こえたよ。

 ということは、俺と彼女の間でも通信ができるのだろうけど、まあ暫くは黙っていよう。

 そのことを言うと、しょっちゅう通信して来そうだからね。



「ねえ、エステルちゃん。ずいぶんと長い時間ここにいるけど、里の方で心配してないかな」


 もう、かなりの時間をここで過ごしてしまっている。

 レイヴンのメンバーや里の人たちは、俺たちが早駈けに出てからなかなか帰って来ないので、心配をしているのではないだろうか。


「そうですね、長居をしてしまいました。でも大丈夫ですよ。ね、アルさん」

「ふほほ、ザックさま、心配はいらんぞ。ファータの里の境界の洞穴と、このアルさんの洞穴は、時間と空間が多少歪んだかたちで繋がっておると言ったじゃろ。それにわしは、ベテランのブラックドラゴンじゃぞ。そんなこともあろうかと、時間魔法で流れを変えておるわい」

「つまり、ここと外とでは時の流れが異なっていると」

「そうじゃそうじゃ、やはりザックさまにはすぐに分かるの」


 四元素ドラゴンは、火、水、風、地それぞれの元素魔法しか使えないが、五色ドラゴンは得意不得意があるにせよ、それ以上に多様な魔法が使えるのだそうだ。

 ベテランのブラックドラゴンのアルさんは、時間や重力を操る魔法が得意だと言う。

 それ以外にも黒魔法として即死魔法とか、あらゆるものを飲み込んで消えるブラックホール魔法などが使えるらしい。

 今度、俺に教えてくれるんだって。怖いなぁ。



 ということで、そろそろファータの里に帰ることにしました。

 でも、ここから里にどうやって帰るのかなぁ。


「なごり惜しいが、帰るのか。では、わしがいつものように送って進ぜようかの」

「お願いしまーす」

「アルさんが送ってくれるんだ」

「そうじゃ。ここから自力で帰るのは、なかなか大変じゃからの」


 アルさんはそう言って、蹲っていた姿勢を更に低くした。


「ザカリーさま。乗りますよ」

「なるほど、背中に乗せて貰うわけか」


 エステルちゃんが慣れた様子で、アルさんの巨大な身体を足場にして、ぴょんと背中に乗った。

 それじゃ俺も乗らせて貰いましょうか。そして、一気にジャンプして背中に飛び乗る。


「ザカリーさまは、アルさんの首の後ろあたりに、しっかりと掴まってください。わたしは……ザックさまの背中。えへへへ」


 なんだか後ろから変な笑い声が聞こえるけど、無視しよう。

 と思ったら、エステルちゃんが俺の胴に片手を回して、背中にぴったりと貼付いた。

 もう一方の手では、クロウちゃんを抱きかかえている。


 彼女も軽装鎧装備を着てるんだけど、金属入りの革製で強度は高いとは言え、意外と柔らかい材質で、背中に大きなのがふたつ当たるんですけど。

 でも、エステルちゃんの温もりが伝わって来て、なんだか気持ちが落ち着く。



「しっかり掴まったかの。ほいじゃ、行くぞい」


 アルさんは巨体を回れ右して、彼が先ほどやって来た方向へと進み出した。

 洞穴内の地上を進んでいるのに、そのスピードは徐々に早くなる。


「相変わらず早いですぅ」

 俺の背中に貼付いてるエステルちゃんの声が、耳のすぐ後ろから聞こえる。


「走る音もしないし、これは」

「どうじゃ、早いじゃろ。まぁ、重さを操る魔法の応用じゃて」


 そうか、重さを操る魔法つまり重力魔法を使って音もなく走っているのか。俺の縮地にも近いのかな。

 やがて前方に、洞窟の出口と思しき光が見えて来た。


「出たらすぐ飛ぶぞい。しっかり掴まっていなされよ」

「はーい」

 機嫌良く返事をしているエステルちゃんは、俺に抱きついているんだけどね。



 洞穴の外の明るい光に飛び込んだと同時に、アルさんは急角度で上昇する。

 こちら側の洞穴の入口は、高い山に囲まれた峡谷の絶壁に開いていたんだな。ということは、北方山脈のどこかだろうか。

 そしてあっと言う間に高度を上げて水平飛行に移る。

 背中に乗る俺たちに飛行中の強風が当たらず、普通に呼吸ができるのも空間魔法によるものなのかな。


 アルさんはもの凄いスピードで飛び続けた。

 飛ぶ速度と時間からも、あの絶壁の入口がファータの里からかなりの距離にあったことが分かる。

 その距離感や太陽の位置から、北方山脈のかなり北側、俺たちが越えて来た峠のある場所よりも高い山々が連なるあたりを、俺はなんとなく推測した。


「さあ、着いた着いた。ここで降りて、いつものように走って帰るのじゃ」

「うん、アルさん、ありがとですぅ」

「また会いましょう。アルさん」

「なにかあったら、遠慮なくわしを呼ぶんじゃぞ。なにも無くても呼んでいいがの」


 地上に下りてから暫く地上をするすると進んだアルさんは、歩みを止めて俺たちにそう言った。

 里を囲む霧の外側だが、ここからは走ってすぐに境界の洞穴の入口まで行けるそうだ。


 それじゃ里に帰ろうか。ファータの訓練場を出てから、こちらではどのぐらいの時間が経過してるんだろうね。

 時計を持つことのないこの世界では、正確な時刻を知ることができない。

 まあ戻れば、なんとなく分かるでしょ。

 俺とエステルちゃんは、走る足を速めるのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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[気になる点] 「つまり、ここの時間の流れを遅くしていると」 これ、逆じゃないですか? ここの時間を遅くすると、外ではあっという間に時間が流れるのでは?
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