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第132話 大森林奥地での相談

 シルフェ様とケリュさんのご指示というかお誘いということで、父さん母さんやジェルさんたちにアラストル大森林に行くことを伝えた。


 父さんと母さんは知らないことだが、ジェルさんたちは大森林の奥地と言えばフェンリルのルーさんのところと分かるので、自分たちが同行出来ないのは仕方無いと渋々納得。

 人間がそこまで行くのをルーさんが禁止していると、うちの皆は知っている。


 レジナルド料理長とトビーくん、アデーレさんにはお願いして、昼食用の料理やお菓子を多めに用意して貰い、それは俺の無限インベントリに収納した。


 そして翌午前、グリフィニアにおけるドラゴン発着場所である子爵家専用訓練場から、クロウちゃんを頭の上に乗せたカリちゃん。続いてクバウナさん。そして、シルフェ様とケリュさん、シフォニナさん、エステルちゃんに俺を乗せたアルさんは飛び立った。



 ドラゴン的に言えば、アラストル大森林で水の精霊さんたちが棲む湧水地地帯は、歩いて数分的なご近所。

 大森林の上空にゆったりと飛び上がり、かなり遅い飛行速度ではあるものの、大森林奥地への入口となる開けた場所にあっという間に到着する。


 ここはルーさんと俺とで合意した、人間の冒険者が来ても良い最奥地点だ。

 ルーさんとの合意というのはもちろん伏せているけど、うちの騎士団へも通達し、冒険者ギルドへはそこまでなら子爵家としてもOKと俺から伝えてある。


 尤も日帰りでは行けず、野営を必要とするこの場所まで入るのは、冒険者ギルドとしてもまだ解禁していない。

 もし解禁した場合、うちのギルド所属の冒険者ならば現状はまず無いと思うが、この地点を野営拠点として更に奥地を目指す者やパーティが現れないとも限らない。


 その場合、厳格な境界を引くのか。境界を設定したとして、広大な大森林内でそんな線引きが機能するのか。

 そこら辺のところは俺にも直ぐには分からないし、まだ検討もされていない。


 これは、この奥地を知っている数少ない者のひとりであるブルーノさんと検討して、あらためて冒険者ギルドと協議しないといけませんな。

 その開けた場所に着陸したアルさんの背中から降りた俺は、周囲を見渡しながらそんなことが頭に浮かぶのだった。



 そこから更に奥地へと、今度は皆で地上を走って移動する。

 地上を走ってとは言っても、本当に両方の足で地面を蹴って走るのは俺とエステルちゃんと、それから何故かケリュさんだけだ。


 彼以外のシルフェ様たちは地上を走っているようで、じつは浮いて高速に移動している。

 まあクロウちゃんも今度は自分の翼で飛んでいるけどね。


「ケリュさんは飛ばないんですか?」

「地上の特に森においては、人の姿ならば2本の足で地面を踏みしめ、蹴って進む。それが我の流儀だ」


 狩猟や戦いを司る神様としては、そういうものなんですかね。

 それとこの大森林で初めて会ったとき以来、いまは滅多に見ることが無いけど、彼は地上世界だと超大型のエルクの姿に変身して移動するのだったよな。


「木の上を跳んで行きます?」

「おまえらの言う、なんだ、猿飛か。よし、そうするか」

「エステルちゃんも、いい?」

「久し振りですね。いいですよ」


 そこで3人は樹上の枝に跳び上がり、枝から枝へと猿飛で移動を開始した。するとそれにカリちゃんも加わって来る。


「(あの子たち、元気ね)」

「(森の中だと、活き活きとしていますよね)」

「(あなた、枝を折ったり、足を踏み外すんじゃないわよ)」

「(我を誰だと思っておるのだ)」


 俺たちが進む大森林は静かだ。たぶん、森の獣や魔獣なんかも、神様や精霊様、そして怖いドラゴンが高速で森の中を移動しているのを感知して、避難したか、どこかで身を潜めているのだろう。


 そんな静けさに包まれたアラストル大森林の奥、広々と開けた湧水地地帯へと、程なくして到着した。




 いつもは呼ばないと出て来ないルーさんだが、今日はネリルさん以下のここに棲む水の精霊さんと一緒に姿を現して待っていた。

 それも今回は初めから、前回と同じく銀色の長い髪をなびかせた狼犬人族の宮廷魔導士にも見える人化した姿をしている。


 ルーさんにはケリュさんが事前に通信し、ネリルさんにはシルフェ様から風の便りを送っていたらしいので、俺たちの到着を待ってくれていたのだね。


「ケリュ様、シルフェ様、皆様方、ようこそお出でくださいました」

「お越しと聞いてお待ちしておりました。クバウナ、久し振りだな」

「ルーも元気そうね」


 10名の水の精霊さんたちが、清流のせせらぎのような涼しげな声で揃ってそう挨拶し、ルーさんはクバウナさんに声を掛けた。

 ルーさんとクバウナさんて、アルさんみたいに直ぐに言い争いをするような仲では無いみたいだね。


「ここら辺でいいよね」

「そうですね」

「そうしたら、カリちゃん」

「はーい」


 今日はカリちゃんのマジックバッグに野営用の椅子とテーブルを入れて来ているので、それを出しながら並べて行く。

 続いて紅茶を淹れる道具やお茶請けのお菓子だね。


 お湯はこの湧水地の清涼な水を野営用の魔導具コンロで沸かし、お菓子にはうちの謹製の干菓子類のほか、ミルクショコレトールも少し持って来ました。

 この湧水地地帯は、気温が真夏でもそれほど高く無くて過ごし易いので、ショコレトールも直ぐに溶けるとかは無いでしょう。


「アル、ショコレトールはあなたが先に食べないで、ネリルさんたちに食べて貰うのですからね。ルーもどう?」

「それはもちろんじゃがクバウナ、イヌッコロにはショコレトールを与えちゃいかんて、前にザックさまから聞いたぞ」


 ショコレトール大好きのアルさんにクバウナさんがひと言、釘を刺したのだけど、直ぐに余計なことを言う。

 ああ、以前にそんなことをアルさんに話したかもだよな。

 前々世の世界では、チョコレートに含まれるカフェインとテオブロミンという成分が犬に有害なので、食べさせてはいけないとかだった。カァ。


「ふふん、これはオオトカゲのジジイの好物か。残念ながらわたしは、ネリルたちのお菓子に先に手を出すほど、老いぼれてはおらんが」

「ルーさまもどうぞ」

「エステルに勧められたなら、いただかないとな。……ほう、これはなんとも」


「どうじゃ、美味かろう」

「ふむ」

「ザックさまが苦労して作ったものじゃ。素直に認めんかい」

「おぬしに言われなくても、美味いものは美味い」


 なんだか面倒臭いやりとりをしているのを他所に、普段は大人しい水の精霊さんたちはキャッキャ言いながらお菓子選びを楽しんで、ミルクショコレトールはあっという間に売切れていました。



「それでケリュ様、シルフェ様。本日いらしたのは、何か相談がおありとか」

「そうなのよ、ルー。少し説明して、ケリュ」

「おう」


 俺もエステルちゃんもクロウちゃんも、相談があるというだけで今日ルーさんを訪れた理由を聞いていないんだよね。


「じつはな、つい昨日、アレアウスから連絡が来た」

「アレアウス様からですか。確か、大陸の東から中央方向へ旅をされているとか」


 アレアウス様というのは、ケリュさん、ミネルミーナ様と同じく武神三神のおひとりだね。

 神話など人間の間で伝えられているのは、闘力と戦いの神だということ。つまり簡単に言えば脳筋の神様ですかね。

 しかし、そのアレアウス様も地上世界に降りて来ていて、大陸を旅しているのか。


「そうだ。それでアレアは、まず世界樹でドリュアに会って、エルフどもの自治領の様子を見た。まああいつの場合、人間の社会に紛れ込むとかは苦手だから、遠くから眺めるとか、樹木の精霊たちから様子を聞くとかだっただろうがな」

「アレア様ならば、そうでしょうな」


 アレアウス様ってそんな感じなんだね。

 世界樹がここアラストル大森林と同様に、天界と地上世界を繋ぐ場所だというのは俺も知っているけど、その麓にあるエルフのアルファ自治領を観察する目的で地上に降りたということか。


 それって先年の、牛の魔物であるアステリオスと配下のゴズの軍団による襲撃に関係があるですかね。


「エルフの街は、ザックたちが訪れて以後、特に異変は起きていない。我も昨年にシルフェと世界樹に行ったが、まあ平穏であった」

「ドリュアさんには、何かあったら直ぐに報せなさいって言ってあるし、あれ以降は何も無いみたいね」


「アレアはそのあと大陸を西へと移動し、金竜のところに寄ってから山脈伝いに東へ戻り、グノモスのもとへと行った」

「グノモス殿のところですか。ドワーフの王国ですな」


 先日に、ファータの里の祭祀のやしろでアマラ様とヨムヘル様とお会いした際にも名前の出た、土の真性の精霊のグノモス様のことだね。


 この御方は、ニンフル大陸の中央部を東西に横たわるニンフル大山脈の東端にある大火山の南側に棲んで居ると、以前に聞いたよな。

 そしてその大火山には、真性の火の精霊であるサラマンドラ様が居られると。


 ドワーフ族は、シルフェ様におけるファータ族、ドリュア様におけるエルフ族と同様に精霊族の一族で、土の精霊であるグノモス様の眷属だ。

 そして、グノモス様の拠点にはドワーフ族の故郷があるというのも聞いたことがあるけど、そこはドワーフの王国ということなのか。



「それでだな、アレアからの連絡では、どうやらそのドワーフの王国でもごく最近になって、魔物軍団の襲撃があったそうなのだ」

「ほう……。やはり、アステリオスですか。交戦は?」

「かなり交戦したようだ。しかしドワーフ族は強いからな。なんとか撃退は出来たようだが、詳細までは我も聞いていない」


 エルフのアルファ自治領襲撃の際は様子見程度で引揚げたと、俺もエルフたちから直接聞いたけど、今回のドワーフ族への襲撃では本格的な交戦があったらしい。

 しかし双方の戦力や被害の程度などの詳細は、アレアウス様からの一報だけではまだ分からないとのことだ。


 そして、アレアウス様がそのドワーフの王国に、というかグノモス様の拠点に到着したときには、魔物軍団が引揚げたあとだった。


「ごく最近の出来ごとなのですね。アレアウス様が近づいたので、魔物どもは撤退した、ということもありますな」

「そうかも知れんが、そこは何とも言えぬ」


 武神のひとりが接近しているのを知れば、魔物軍団も引揚げるか。

 交戦の推移や状況は確認出来ていないらしく、まあその辺はケリュさんの言葉のように何とも言えないところだ。


「ついてはだ。アレアとグノモスを呼んで、詳しく聞こうと思っておる」

「呼んで、というと、こちらにですかな? グノモス殿は来ますでしょうかね」

「まあ、ミネルに呼びに行かせるつもりだがな」

「ははあ、ミネルミーナ様ですか。すると転移で」


「そうだ。ミネルとは先日も会っていてだな……。まあそれはいいか。グノモスが来ないと言うのならばそれは仕方無いが、アレアは呼び寄せる」

「サラとグノモスは出不精で、特にサラって、人間が多い大陸の西には来たがらないのよね」


 火の精霊様と土の精霊様はそんな風なんだ。

 シルフェ様の言った出不精というのは結果的にで、つまり人間、とりわけ人族の人口が多いこちら方面に来るのが嫌だ、ということではないだろうか。

 そんな点でも、何かと人間と関わることの多いシルフェ様とは折り合いが悪いのかもしれないな。



 まあそれはともかくとして、ドワーフの王国を攻めたという魔物軍団の件だ。

 これには初めて聞いた俺もエステルちゃんも酷く驚いた。

 人間の紛争絡みの件が取りあえずひと段落したと思ったら、こんどは精霊のお膝元に攻め込む魔物軍団ですか。


 ナイアの森での水の精霊ニュムペ様の眷属であるユニコーン、世界樹の麓での樹木の精霊ドリュア様の眷属であるエルフのアルファ自治領、そして土の精霊グノモス様の眷属であるドワーフの王国への攻撃。


 3年前から今日に至る年月での、精霊の眷属への攻撃ということになる。

 火の精霊サラマンドラ様にはまとまった眷属は居ないらしいので、この攻撃が続くと、次は風の精霊シルフェ様の眷属であるファータの里、ということになるではないですか。

 これはいよいよ、近い将来に一大事になるかもですぞ。


「それでだな、その場にルー、おまえも同席していてほしいのだ」

「アレア様とグノモス殿を呼び寄せるのは、この大森林でも良いのですか?」


「いや、我らも程なくしてザックたちと共に王都屋敷へと戻るだろうから、出来ればあちらでだな」

「そこにわたしも来いと」


 ははあ、うちの王都屋敷でですか。たぶん転移で来るのだろうからミネルミーナ様も一緒で、武神三神が揃うですか。

 アラストル大森林から出るのを嫌うルーさんは、ちょっと嫌そうな顔をした。

 でもまあ確かに、数日のうちに王都へ戻ろうかと思っていたので、それに人外メンバーもくっ付いて来るから、あっちの方が良いとは思うのですけどね。


「それに……」と、続けて何かを言おうとしたケリュさんは、そこでなんとなく口籠った。


「それに、何ですか?」

「先日、アマラ様とヨムヘル様と話してだな……。そこで、あの御二方が地上世界に降りてザックのところに来たいという話に、その、なってな」

「はあぁぁっ?」


 いつも冷静沈着で強面のルーさんが、「はあぁぁっ?」と聞いたことのない素っ頓狂な声を出した。


「どういうことだ、ザック」

「いやあ、どういうことだって、僕に聞かれてもですねぇ」


 取りあえず口に出したケリュさんと俺は、ルーさんの困惑した視線を受けて、互いに何とも言えない表情で顔を見合わせるのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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