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第119話 救出作戦開始

各地点の距離と位置関係を調整しています。

あと、ここまでで、リーアさんが居るのを外してしまっていました。ごめんなさい、リーアさん。


 救出作戦の実行は本日の夕暮れ時、人の顔が判別しにくいという所謂“そ彼”時とした。

 夏至を過ぎたこの時季だと、日没は21時半ぐらいですかね。この世界は1日が27時間と長いし、なかなか陽が落ちない。


 野営拠点を設けた森はタリニアの西方で、ボドツ公国の前線砦や駐屯地はタリニアから東北東方向。

 前線砦までは直線で40キロというところだが、巡回をしている傭兵部隊に見つからないようにタリニアを迂回して行く必要があるので、もう少し距離がある。


 もちろん部隊全員で走って行くのだけど、爺様婆様チームは大丈夫ですか?

 若い衆よりも、よっぽど速く長く走れるから心配するな、ですか。そうですか。

 ソフィちゃんも里での修行で長距離走には慣れているよね。

 学院生時代のわたしとは別人に生まれ変わっているのであります、ですか。そうですね。


 アルさんとクバウナさんも走って行くのだけど。ああ、重力魔法で浮きながら地上を滑るように進むんですね。カリちゃんと一緒ですね。

 ケリュさんは……心配するのも無駄か。


「おまえは、いちいち全員の心配をするのだな。まあ我が心配されたのは何百年振りか」

「義兄上については、これっぽっちも心配してません」

「我にも少しぐらいは気を遣え」

「現場で余計なことをしないかと、そこは心配ですけどね」

「手出しはせんと言っただろうが」

「それじゃ、遠くから観ているということですか?」

「ふふふ。まあザックの近くでな」


 あ、この神様、俺とカリちゃんと一緒に潜入する気満々ですぞ。


「はいはい、そこでふたりで言い合ってないで、そろそろ出発の頃合いですよ」

「はいです」「おう」


 放っておくと、いつまでもつまらない言い合いをするのが分かっているエステルちゃんが呼びに来ました。


「皆、準備は良いな? 先導はティモさん、頼む」

「承知」

「ならば出発する」

「はーい」「行きやすか」「遅れるな、若い衆」「走るぞい」


 ジェル隊長の出発の合図に、適度に気の抜けた声で皆が応え、俺たちはヤルマリさん救出作戦へと向かった。




 森を抜けるまでは密集隊形で進み、草原地帯に出てからはティモさんを先頭に散開して走る。


 俺とエステルちゃんを中央に人外メンバーがその近くを進み、王都屋敷メンバーがその前後、そして探索部隊メンバーが前後左右に散らばっている。

 彼らは偵察と探索が本職なので、傭兵部隊などの何者かがこちらに気付く前に先に察知するだろう。


 上空ではクロウちゃんが、地上の俺たちの周囲を常時警戒しながら飛んでいる。

 まあ俺も探査の力を発動し続けて、念のために警戒しておきますか。


 都市城壁と防護柵に囲まれたタリニアの街を大きく迂回して過ぎれば、ボドツ公国の前線砦まではあと40キロ足らずだ。

 前々世で言えばフルマラソンよりも少し短く、東京駅から横浜の外れまで走って行くことになるが、この部隊のメンバーならば問題無い。


 マラソンのトップランナーなら休み無く走って2時間強ですかね。

 俺たちは途中で何度か小休止を入れるつもりなので、3時間ほどで現地に到着する予定にしている。



 探索部隊のティモさんチームと辺境伯チームが合流場所としている地点へと到着した。

 ティモさんによると左右の前方に在る前線砦までは、それぞれおよそ1万ポードの距離、つまりだいたい3キロメートルというところだ。


 ここまでの道程では、途中でタリニアに戻ると思われる傭兵部隊の1部隊を察知した。

 かなり離れた場所を移動していたので、もちろんこちらに気付くことは無かったが、それでも念のためにその場で待機してやり過ごす。


 俺の探査ではやはり20名ほどの小隊で、移動の様子から密集してのんびり歩いているのが分かる。

 今日のボドツ公国側の偵察部隊は、前線砦に引っ込んで出撃してはいないだろうから、遭遇戦なども起きなかったのでは無いかな。


「ああやって毎日交代で、小規模な部隊を出しているんだね」

「どちらかが大規模な攻勢を仕掛けない限り、タリニアとその砦との間の狭い地域の取り合いでやすな。それで、少しずつでも互いに敵を減らす、そんな日々でやしょうね」

いくさって、時間と労力と生命が削られるよね」

「でやすね」


 そう話すブルーノさんが最終盤で戦地に赴いた15年戦争も、その名の通り15年間に渡るいくさだったし、それで言えば俺の前世などは、11歳で名目上のトップにさせられてから29歳で弑逆されるまで、ずっとそんな日々だったのですな。


 まあ早くタリニアに帰還して、酒でも食事でも何でも楽しんで、1日の疲れを癒してください。



 さて、時刻は20時半ぐらいでしょうか。陽がずいぶんと傾いて来て、救出作戦実行の頃合いも近づいている。

 この合流地点に到着して直ぐにひとり先行して走って行ったリリアさんが、やがて見張りで貼付いていたクイスマさんを伴って戻って来た。


 リリアさんから概略は聞いていると思うけど、彼には少し何か食べて貰って、あらためて救出作戦の詳細を伝える。

 あ、ここに揃ったメンバーに驚くのは後にしましょうね。


「作戦開始はただいまより30分後。潜入チームとエステルさまたちは砦の裏手に移動。陽動部隊はこのまま前進し、所定の位置に到着後、ライナの魔法攻撃をもって作戦開始とする。陽動作戦の始まりは、ザカリーさまならばご自分で分かると思うが、いちおう空で監視役に付くクロウちゃん経由で報せて貰う。以上、よろしいか」


「はいです」「はーい」「おう」「カァ」


「各自、気を引き締めて行動せよ。では出発する」


 ジェル隊長が作戦開始の手順を確認し、出発を告げた。

 ちなみに陽動作戦の方は、この世界の常套的な戦法に倣って初手の魔法攻撃を作戦開始の合図とすることにしたので、ライナさんの魔法攻撃が端緒となる。


 とは言っても、彼女が例えば土魔法でストーンジャベリンなどを何発か撃ち込むと、それだけで敵方の前線砦などは崩壊し兼ねないので、敢えて苦手なファイアーボールを放つそうだ。

 火魔法だと、この夕暮れ時にはいかにもの攻撃らしく派手派手しいからね。


 そのライナさんの魔法攻撃を合図に、ソフィちゃんとフォルくん、ユディちゃんも緩めのファイアーボールを撃ち込む。

 この4人の魔法攻撃だけで戦闘は方が付いてしまいそうだが、今回はそれでは困るし傭兵部隊程度の戦闘力を偽装しなければいけないので、あくまで緩く威力をかなり落とした攻撃ですね。


 そのあとは部隊全員で矢を射掛ける。弓矢は何故か全員分を揃えていて、オネルさんがマジックバッグに入れて持って来ていた。

 いつ何どきでも戦闘が行えるように、通常武器は多めに揃えて入れてあるんです、なのですと。


 そうして、もし敵方が砦から出撃してくれば、ジェルさんとオネルさんを中心に緩く乱戦に持込む予定だ。

 出来る限り相手の生命は奪わずに、その場で動けなくして砦に戻れないようにする程度に留める。


 この乱戦状態が、ソフィちゃんたち経験の少ない若者メンバーにはいちばん難しいと思われるが、そこはミルカさんとそれからブルーノさんが上手くコントロールしてくれる筈だ。

 その後方からアルさんとクバウナさんも観ていてくれるので、まあ大丈夫でしょう。


「(で、やっぱりケリュさまはこっちなんですね)」

「(それはそうだろ。我ならば姿を消すのも、何処に潜入するのも自由自在だ)」

「(ケリュさまが、いちばん救出したいんですね)」

「(あ、いや、救出はザックで充分だ。でもまあ、シルフェと我の眷属だからな)」


 陽動攻撃部隊と別れ、クイスマさんとリリアさんの先導により並んで走る俺とエステルちゃんの後ろで、滑るように移動しながらケリュさんとカリちゃんが念話でそんな会話をしている。

 それを聞いて俺とエステルちゃんは、走りながら顔を見合わせて微笑み合った。




 紛争の最前線地域であるこの辺りは、草原とその各所に点在する小さな林が混ざり合ったような環境の場所だ。

 ティモさんチームと辺境伯チームも、そんな林に観測拠点を設けて潜伏していた訳だね。


 尤もどちらのチームとも、左右に2キロ弱ほど離れて構築されたボドツ公国の前線砦近くの1ヶ所の林に留まり続けるのでなく、時間を区切って別の林へと移動しながら観測を続けて来たという。

 それを何十日も行っているのだから、ファータの探索者の根気と忍耐力には頭が下がる。


 そうして、辺境伯チーム側の観測拠点のひとつに俺たちは到着した。

 2つのうちのタリニア側から見て左側、つまり北北西側に位置する前線砦の裏側近くだね。


 夕陽はかなり傾き、やがて遠くの大地の向うに落ちて行こうとしていた。


「砦の裏側出入り口はあそこか。なるほど、跳び超えられる高さだね」

「ザックさまなら、砦のどこからでも跳び越えられると思いますけどね」


 キミもね、カリちゃん。そしてエステルちゃんもだけど。

 おまけに姿隠しの魔法で見えなくするので、どこから潜入しても良いのだけど、今から行う潜入はいちおう、ヤルマリさんとクイスマさんが辿った経路をなぞろうと考えている。


 砦内部の様子は分からないが、落ち着いて静かそうに感じられる。

 ただ、砦をぐるりと巡って囲む防壁の上部通路には、巡回する監視兵が多いように思えた。



「はい、長官。今朝方未明、外に出ていた1部隊が戻り、その後、後方の駐屯地から交代と思われる1部隊が入りました。それからは、いつも以上に監視兵が増強されています。また、本日はどの部隊も出撃していません」


 俺が監視の状況を含めて砦の今日の動きをクイスマさんに聞くと、そのように教えてくれた。つまり現在、砦内には100名程度の兵が詰めている。


「ヤルマリさんが連れ出されたとか、そんな動きも無いのね?」

「はい、エステル嬢様。ヤルマリ主任はまだ砦の外には出されていません。その代りに、同じく今朝方に、伝令と思われる兵が駐屯地方向に走り、また戻りました。おそらくですが、ヤルマリ主任の扱いについて、駐屯地の部隊本部の指示を受けたのでは無いかと」


「で、その後もヤルマリさんは動いていないと」

「部隊本部からの指示があったとしたら、砦に暫く留め置くということなのかしら」

「それはエステル、これは我の想像だが、たぶん明日にでもその部隊本部から、取り調べ担当の者が来るのだろうて」


「あとは、ヤルマリさんをどう処分するかは置いといて、駐屯地まで移送はしたく無いのかもしれないな」

「ザックさま、それはどうして?」


「ああ、それはカリちゃん。潜入した者、その技能のある者を、わざわざ本拠地まで連れて行くのはリスクを高めると、そう判断するんじゃないかな」

「加えて敢えて言えば、忍び込んだ者は下手に動かさず、その場で処理する。つまりそういうことだ」


 ケリュさんが言ったその場で処理とは、要するに情報を探りに忍び込んだ者から、逆に情報を引き出す期待は、ボドツ公国部隊側にはそれほど無い訳で。

 ならば、一定の尋問を行った上で殺してしまう、ということだ。


 これは俺の前世でも、捕らえた忍びの処置は基本的に同様だったし、仮にその忍びから逆に情報を引き出したとしても、それはこちらを攪乱する偽情報だったりするからだ。

 ならば、そんな潜入技能を持つ敵方の人間は、ひとりでも減らせる時に減らしてしまった方が良い。


「わたしたちファータの探索者は、どんなことがあっても口を割ることなど無いです」とはリーアさん。

 一方でカリちゃんは「狩りで、獲物は現場で解体処理する、みたいなことですかね」と呟いていたけど、ちょっと違うからね。


「ヤルマリさんが動かされてなくて、駐屯地からも尋問担当がまだ来てないとしたら、今日中に救出してしまわないといけないということね」

「そいうことだね」



 上空を飛ぶクロウちゃんから、陽動攻撃部隊が配置に着いたという連絡が入った。

 ジェル隊長以下の17名は、この前線砦の正面から少し距離を取った、やはり点在する林のひとつに到着した筈だ。


 陽が落ち始めて視界が悪くなった頃合いを見計らって、そこからわざと見つかるように出撃。そして、ライナさんのファイアーボールが着弾する距離まで前進し、魔法攻撃の狼煙を上げる。


 ちなみに彼女のストーンジャベリンだと、無駄に、じゃなくてかなりの長距離を飛翔させることが出来るのだけど、ファイアーボールはどのぐらい飛ぶんでしょうかね。

 本業の土魔法と、シルフェ様から加護をいただいている風魔法以外の四元素魔法適性は、子どもの頃から極めて微弱で遣いものにならないと、ライナさんはいつも言っているのだけど。


 そこのところを一緒に魔法訓練をしているカリちゃんに聞くと、「ライナ姉さんのファイアーボールですかぁ? ストーンジャベリンの半分より多いくらいですかねぇ。あ、飛んだとしても威力は低いですよ」と言っていた。


 前に南方への旅のときに、彼女が船上からストーンジャベリンを撃って直線軌道で300メートル以上は飛ばしていたけど、実戦だともっと飛距離を伸ばせるだろう。

 なので仮に400メートルとして、その半分とすると200メートルか。

 はっきり言って普通の魔導士なら充分な距離なんだけどね。


 ともかく初撃でそのファイアーボールを当てるので、砦まで200メートルぐらいには接近する。

 そして弓矢の有効射程も200から300メートル程度だから、そのぐらいの距離見当が実際的だ。


 カァカァカァ。そんなことを考えていると、クロウちゃんから陽動攻撃部隊が散開して前進したとの連絡が入った。それを此処の皆に伝える。


 続いてそれほど間を置かずに、ドッシャーンとファイアーボールが砦の防壁に着弾し、爆発した焔の光が広がるのが砦の向こう側に見えた。

 ちなみにドッシャーンはイメージですけど、あの焔の広がりってファイアーボールじゃなくて、エクスプロージョンじゃないの?


 その直後に砦内は俄に騒がしくなり、何人かの大声で叫ぶ声が聞こえて来る。


「始まったな」

「そうしたら、行きますか」

「らじゃー」


「ザックさま、救出だけですよ」

「らじゃー、であります」


 俺とカリちゃんとケリュさんの3人は、姿隠しの魔法を発動させると同時に砦裏の出入り口に向けて走り出すのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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