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第105話 山あいの襲撃

 林の中のゆるゆるとした登り道はやがて、左手に谷川が流れ右手は木立の山という、本格的な山道へと変わって行った。

 登る角度も先ほどよりは少々急にはなって来たが、二頭立ての馬車を牽く騎士団の馬は頑健で走りも力強い。

 これまでに多くの荷馬車が往来して踏み固められて来た山道は、意外と走りやすかった。


 ブルーノさんから山賊の話が出てからは、クロウちゃんが偵察と警戒で上空を飛ぶ。

 俺は御者台から探査・空間検知の能力を発動してレーダーのように辺りを探っていたが、発動し続けていると疲れるので今はクロウちゃんに任せている。

 今のところ山道の周囲にいるのは、小動物か鹿ぐらいのようだ。



 途中で休憩を挟みながら、エイデン伯爵領の領都を出発し馬車を進めて4時間余り。

 上空のクロウちゃんから、警戒のアラートが伝わって来た。まだそれほど緊急度は高くないようだ。


 ん? なになに、右手の山林の中にいくつかの二足歩行の姿?

 俺もそちらの方向に探査・空間検知のレーダーを当てる。

 ゴブリンとかじゃないな。人間サイズが3つか。クロウちゃんに、索敵範囲を広げて貰う。

 ブルーノさんは先ほどから口を閉ざして、耳を澄ませているようだ。


「ブルーノさん。右手前方の山林の奥、まだ距離はあるけど、高い場所からこちらを窺っている人影があるようだよ。3人ぐらいらしい」

「クロウちゃんから連絡がありやしたか。この先の、少し広くなっている場所で、いちど馬車を停めていいでやすか?」


 山道には、往来の馬車がすれ違うために、ときどき道幅が広くなっている箇所がある。

 もう少し行くと、そういう場所があるようだ。



「ブルーノさん、休憩か?」

「山の空気が気持ちいいですねー」

「ちょっと偵察に出るので、ジェルさんかライナ、御者を替わって貰えやすか」


 馬車を降りて来た女子組にブルーノさんがそう小声で言い、3人に緊張が走る。


「何かあったか?」

「山林の奥の高い位置に、クロウちゃんが人影を見つけたそうでやす」

「そうか、では私が御者を替わろう」

「へい、頼みやす。そうしたら、少々休憩している感じでいてから馬車を出してください」


「わたしも偵察に出ましょうか?」

「いや、エステルさんはザカリー様のお側に」

「はい」


 みんながそのような打合せをしていると、上空のクロウちゃんからまた連絡が入る。

 なになに、ふんふん。


「ブルーノさん、おそらく3人の人影の後方に、それより多い人数がいるみたいだよ」

「すると、この上にいるのは見張りで、後ろに控えているのが本隊でやすな」

「兵隊ですかー?」

「いや、たぶん山賊でやしょう。では、ちょっと見て来やす」



 ブルーノさんが音も立てずに山林の中に姿を消す。

 俺たちは暫し休憩を装うことにした。


「山賊が出るのだな」

「ブルーノさんの話では、リガニア地方の紛争の影響で、賊が増えてるのじゃないかって」

「物騒ですねー」

「僕たちみたいに、周りを騎馬の護衛で固めていない単独の馬車は、格好の得物らしいよ」


「それは、怖いもの知らずですよー」

「怖いもの知らずって、どっちがだ?」

「山賊さんの方ですかぁ、ライナさん」

「そうそう」


 女子組3人が俺を見る。

 きみたちも可愛い顔してるけど、よっぽど怖い人なんだよ。山賊さんが勘違いすると可哀想だよね。


「ザックさま、なに考えてます?」

「いえ、何でもないですよ。ねえ、みんな対人戦闘の経験はあるの?」

「私たちは、賊の討伐も任務ですからな。多少は斬ったことが」

「賊を数人いっぺんに、土魔法で固めて土葬にしちゃったことがありますよー」

「ザックさまはご存知ですけど、5歳から対人戦闘の訓練をしてますからぁ」


 やっぱり怖い女子たちでした。



 ほどよい休憩をした後、ジェルさんが御者になって馬車を出す。

 こちらの動きを伺っていた様子の見張り3人の姿が、移動を始めたようだ。

 俺は、その奥にいるらしい山賊の一団を警戒している、クロウちゃんの視覚を同期させる。

 あー、いるね。多いな、10人くらいか。見張りと合わせて13、4人ぐらい。あっちも移動を始めたな。


「ぜんぶで、10人以上はいるみたいだよ」

「そうですか。多いですね。おそらく最初は、矢を射かけて来ます」


 ジェルさんは落ち着いてそう言った。

 彼女が操る馬車は、スピードを緩めることなく山道を快走して行く。


 するといつの間にか、山賊が潜む山林とは反対側の馬車の横を、ブルーノさんが並走していた。

 そして、身を隠すように馬車の側面に足を掛けて飛び乗る。


「この先、右に大きくカーブしてから休息用の広場がありやす。山賊連中は、おそらくそこで襲って来やす。急カーブから広場までを見下ろす辺りに向かって、移動しやした」

「了解。では、その広場で馬車を停めます。ザカリー様、いいですか?」

「いいよ。中のふたりも聞こえたかな」


 馬車の中のふたりも了解したようだ。

 ブルーノさんは馬車から飛び降りると、再び山林へと姿を消す。



 俺はクロウちゃんの眼を通じて、上空からその広場を確認する。

 山道が右に急カーブし、馬車からはその先が死角になっている。

 山賊たちはそこを見下ろす場所に移動し、俺たちがカーブを曲がって広場に向かうその後方から、矢を射かけるつもりだろう。


「あの先を曲がると、後ろから矢が来ると思うよ」

「私もそう思います。カーブで馬車の速度が落ちた時が狙い目ですな」

「ジェルさん、落ち着いてるよね」

「この馬車は、弓矢ごときではびくともしませんよ。強力な魔法を撃たれると困りますが」


 そろそろ、馬車の周りに防御結界を張るか。それほど強力ではないが、矢ぐらいは防ぐ。

 奴らも、襲った後に馬車を牽いて行く思惑で馬は狙わないと思うが、流れ矢で傷つくのは嫌だしね。


「では、逆に速度を上げて曲がってみましょうかね」

「えー、大丈夫?」

「お任せください」



 ジェルさんが手綱を振る。

 ブルーノさんも上手いが、ジェルさんも馬を操るのが上手だよね。

 2頭の馬は速度を上げ、急カーブを目指して走る。すぐに眼の前だ。


 真っ直ぐ突っ込んでしまえば谷川に落ちるが、ジェルさんは2頭の馬を絶妙に制御して、スピードをそれほど落とさずにカーブを曲がり切ると、前方に見えた広場に馬車を走り込ませる。

 こちらの動きに慌てたように、後方の上方向から矢が飛んで来るが、馬車のスピードに合わせられず届かない。

 何本か、防御結界に弾かれたものもあったようだ。



 広場に突っ込むと、手綱が強く引かれ、ザザッと馬車が急停車した。

 停車と同時に馬車内のふたりが飛び出る。そして直ぐさま、矢が飛んで来た方向にライナさんが土魔法で一気に矢除けの土壁を立ち上げた。


 土壁がゴゴーっと次々に地面からせり上がる。

 それに合わせてエステルちゃんが、土壁の向こう側に遠隔竜巻魔法を発動し、局地的な暴風の渦を巻かせた。竜巻がちょっとでかい。


 もう、うちの女子組はやることが相変わらず派手ですー。

 なんだか暴風のうねり音の向うで、野太い悲鳴が聞こえるなぁ。山賊さんたちはどうなってますか?



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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