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第103話 水の精霊屋敷と王立共同馬場

 ナイアの森を走り、水の精霊屋敷に行ってニュムペ様をはじめ水の精霊さんたちの元気な姿を確認した。


 眷属であるユニコーンのアルケタスくんとキュティリアちゃんも来ており、アッタロスやバシレイオスさんたち二部族のユニコーンたちも皆息災とのこと。

 ナイアの森では平穏な日々が続いており、俺としてもひと安心だ。


「あとは、キミたちの結婚ですかな。ふたりのパピーが早く見たいな」

「(パピーって、確か子犬のことっすよね、クロウちゃん)」

「カァ」

「雰囲気、雰囲気。まあ、可愛い感じでいいじゃない」

「(可愛いのでいいかって、相変わらずテキトウだなぁ……。って、まだ結婚はしないっすからね)」


「まだって、ということは近い将来に、ということだよな」

「(おっと、かま掛けたっすか、ザカリー様は。それは順番的に、ザカリー様とエステル様のあとっすよ。ユニコーンは人間より寿命が長いっすからね)」

「カァカァカァ」

「(あ、そうっすね。エステル様も寿命が長いし、ザカリー様は……この人、人間やめてるからなぁ)」

「失礼な。これまでで、人間をやめたことなど、ありませんぞ」


「はいはい、あなたたち。そこでわちゃわちゃ騒いでないで、ちょっと早いけどお昼にしますよ」

「はいです」「カァ」「はいっす、エステル様」



 そんな感じでアルケタスくんとも旧交を温め、精霊屋敷の中の広間で持込んだ料理を賑やかにいただく。

 デザートには、今回もザックトルテを多めに持って来ていて、ニュムペ様たちに味わっていただいた。


「ドリュアさんの豆が手に入ったのですね」

「ええ。まだ、エルフからの本格的な輸入は、これからですけどね」

「ここでまた滞るようなら、ドリュアからもう一発、託宣だな」

「そうね。あの子にそうするよう言っておくわ」


 いやいや、そこのバカ夫婦、じゃなかった神様と風の精霊様ご夫妻は、余計なことはせんで良いですから。


「あ、そうだ、ニュムペ様」

「なんですか? ザックさん」

「帰るときに、池の湧水を汲んで行っていいですか?」

「ええ、それは良いですけど?」

「あれ用の水だな? ザック」

「この世界で最高の、清らかな水ですからね」


 アルさんの洞穴の甘露のチカラ水も良い水だが、あちらは清らかという以上にキ素含有量が多くて、そのまま飲むかエステルちゃん謹製の果実入り水とかにして、活力を取り戻すという用途が良い。まあ、エナジードリンクですな。


 ケリュさんが言ったあれ用とは、即ちカーファを淹れる用の水で、たぶんだけど此処の湧水が最適最高なのではないかと、先ほど思い付いた。

 なにせ、真性の水の精霊様のお膝元の水だからね。

 それに次ぐのがアラストル大森林の奥地の湧水で、あそこにも水の精霊さんたちの拠点がある。


「あれ用って?」

「やはりエルフの豆だが別の種類のもので、カーファ豆と言う。それも入手して、そちらはこのザックが飲み物にしたのだ。いささかクセの強いものだが、まあ我やアルは好きだな」

「ショコレトールと並んで、ザックさまの傑作じゃて」


 ケリュさんとアルさん、人間でいうとブルーノさんやユルヨ爺なんかが特にカーファを支持してくれている。

 女性たちはカーファオレにすれば好んでくれるんだけどね。

 この水の精霊屋敷はアルケタスくんを別にして女性ばかりなので、今回は淹れる道具を持って来なかったんだよな。


 それでニュムペ様たちには、エルフからカーファ豆を入手した経緯をお話しした。


 イオタ自治領のエルフが領長のオーサさんにも黙って、俺たちをカーファ豆で誤摩化そうとしたくだりにはニュムペ様もやれやれという顔をしたけど、その豆から飲み物に仕立てたのには興味を抱いたようだ。どうこう言って、水の精霊様だからね。


「そうなのですね。それはわたしも是非飲んでみたいですわ」

「次回に来るときには、淹れる道具を持って来ますよ」

「(僕も飲ませていただきたいっす)」

「(アルケタスったら。直ぐになんでも欲しがるんですよ)」

「まあいいけど、大丈夫かなぁ」

「(え? なんでっすか?)」


 クロウちゃんによると、中枢神経を刺激する作用のあるカフェインの効果が動物によっては異なるとかで、例えば犬などのペットにコーヒーを飲ませるのは厳禁なのだそうだ。


 それがユニコーンだと、どうなのかは分からないけどね。

 ちなみにショコレトールは、ザックトルテを食べても大丈夫だったみたい。

 あとカラス姿のクロウちゃんは、式神なので問題無いのですと。


 ◇◇◇◇◇◇


 水の精霊屋敷を囲む湧水地から、なんとも清冽な湧き水を汲ませていただいて、午後一にこの場を後にした。

 これから地下拠点に戻って、待って貰っている馬たちと馬車をピックアップし、そのあとは王都の都市城壁外にある王立共同馬場に向かう。


 共同馬場には、フォルくんとユディちゃんのついでと言うとその馬には申し訳無いが、ケリュさん用の馬も到着している筈なので、帰り道はケリュさんとそれからカリちゃんも同行して一緒だ。


 なおアルさんの場合は、人化しても強過ぎるドラゴンの存在感が消し切れておらず、彼が行ったら馬場がパニックになるのが目に浮かぶ。

 なので、クバウナさんと共にシルフェ様とシフォニナさんを乗せて先に屋敷に戻って行った。クロウちゃんも先に帰るのね。


 クバウナさんなら、かつて長年に渡り人間社会の中で暮らして居たことから大丈夫なのだと思うが、一緒に帰ったのはアルさんが拗ねるからじゃないかな、たぶん。


 それで馬車に乗るのは、ユディちゃんは御者台にフォルくんと並んで座ったので、ケリュさんとカリちゃんにあとはリーアさんの3人だ。

 と思ったが、ケリュさんが「帰りは我と交代しろ、ザック」と我侭なことを言う。

 揺れる馬車に閉じ込められるのが嫌なのだろう。それに帰りは交代とか、行きはアルさんの背中だったよね。


 これを聞いたエステルちゃんが、「そうしたら、青影をお願いしますね、ケリュさま」と彼女が譲って馬車の中に納まった。

 ほんと、出来た嫁ですわ。と言うか、放っておいたらずっと俺と言い合いをして、いつまでも出発出来ないからですな。


「さすがは、我の娘だ」と、轡を並べた我侭神サマがそんなことを言う。

 まあ、シルフェーダ様の生まれ変わりだからと言いたかったのだろうけど、いちおう設定はあなたの義妹ですからね。


「さすがは僕の嫁と言っておきましょう」

「おまえには勿体ない嫁だな」

「ふむ。そう言うケリュさんこそ、僕の義兄あにですか、それとも義父ちちですか」

「この際、どっちもだ」

「どっちでも、我侭には変わりないよな」

「おまえが譲らんからだろうが」

「いまから馬車に押し込めましょうかね」

「おお、出来るものなら、やってみるが良いて」

「ほう、言いましたね。なら、やって見せましょうか」


「(うるさいですよ。青影と黒影が驚くので、大人しく乗っててください)」

「はいです」「おう」


 エステルちゃんに念話で叱られました。そこまで聞いていた後ろのライナさんが大笑いしております。




 ナイア湖に繋がる道を北西に向かって戻り、南北に伸びる街道との合流地点である途中の小村を過ぎて王都方向へ北上。

 フォルス大門へと街道を左折する少し手前から左手に進むと、王立共同馬場への入口がある。


 位置的には王都の外側都市城壁である外リンクの南側にあり、その敷地はなかなかに広い。

 クロウちゃんによると王立学院の敷地の3つ分はあるらしいので、だいたい60ヘクタールぐらいではないかな。


 馬場の入口へ向かう道を進むと、正面には2階建て大きな建物がある。どうやらこの王立共同馬場の施設らしいが、ずいぶんと立派ですな。

「人間というのは、何かと大きな建物を造りたがる」とは、並んで進む青影の上のケリュさん。


 その俺たちにオネルさんが馬を寄せて来て、「正面が本部施設です。まあ、王家や貴族なんかも訪れますので、ご大層な建物ですよね」なのだそうだ。

 俺たちも貴族家なんだけど、そんなご大層な場所はいらないよな。


 馬車寄せに乗り入れると、直ぐに建物の中から此処の職員らしき人が何人か出て来て、その後ろにはソルディーニ商会王都支店長のマッティオさんも付いて来ていた。


「ザカリー様、エステル様、お忙しいところお越しいただきまして、ありがとうございます」

「いえ、僕らよりもマッティオさんの方がお忙しいのに、わざわざ待っていただいてすみません」


「それでは早速に。それとも少しご休憩されますか?」

「いや、うちの子たちも早く会いたくてうずうずしてますから、拝見いたしますよ」

「そうですわね、そうさせてくださいな。そうしたら、フォルくん、ユディちゃん」

「はいっ」


 乗って来た馬と馬車は、ここの職員さんたちが手早く所定の位置に移動させて預かっていてくれるそうなので、俺たちはマッティオさんの案内に従ってまずは建物の中に入る。

 いやあ内部も、馬場の施設とは思えないほどに豪華ですなぁ。


「ザカリー様方も良くご承知と思いますが、此処は王宮の待機施設と似たような場所なのですよ」


 なるほどね。王家や貴族家の人間が今日の俺たちみたいに、新しい馬や預けている自家の馬を見に来たり試し乗りをしたりもする場所なので、それなりの設備を備えているということか。


 マッティオさんの説明では、そんな人たちが休憩するラウンジや個室、着替え用の部屋などもあり、ちょっとした飲食も出来るのだそうだ。

 あと王宮の待機施設と異なるのは、民間の主に商会関係者も取引で使うので、商談用の個室も利用出来るというところだね。


 俺たちはそういう施設を素通りして建物内を通り、馬場に直接出られるという裏手へと進んだ。



「ほほう、広いね」

「青々とした芝生が広がっていて、気持ちが良いですね」


 そうして屋外に出ると、そこは広々としたテラスのような木製床のデッキ。

 眼の前に広がるのは、この王立共同馬場の敷地内のほとんどを占めている馬場だった。


 手前の左手奥にはかなり大規模な厩舎の建物があり、何人かの厩務員らしき人が馬の世話をしている様子が垣間見える。

 眼前の馬場では、かなり遠方だけど何頭かの馬が自由に走り回っており、中には騎手を乗せて走っている馬もいた。


 一緒に付いて来ていた職員さんに「それではお願いします」とマッティオさんが声を掛けると、その職員さんは厩舎に走って行き、やがて厩務員たちに曳かれて3頭の馬がこちらにやって来る。


 それぞれに艶々とした毛並みが眩しい若駒だ。黒影たちと初めて会ったときのことを想い出します。


 1頭目はたぶん鹿毛かげという毛色で、全体的には暗めの赤褐色だが四肢が黒色だ。

 2頭目は青毛あおげなのかな。うちの黒鹿毛の黒影や青鹿毛の青影に少し似ているけど、黒影よりも更に青味を帯びた黒色に見える。

 そして3頭目は芦毛あしげだね。全体的に灰色っぽいが、たてがみは黒く、また胴体にもところどころに黒色が混ざっている。


「見事に3種類、違う毛色の馬たちだなぁ」

「ほんとですね。それに青影や黒影とも違います」


 もちろんジェルさんたちの馬にも鹿毛や青毛は居るけど、今回は敢えて前回購入時と違う毛色の馬をマッティオさんが探して来てくれたみたいだ。



「側に行ってみていいですか?」

「わたしも」

「ならば我もだ」


 3頭のうち2頭はフォルくんとユディちゃん用の馬だとは事前に伝えていたが、3頭目はとマッティオさんに聞かれたので、ついでにこの義兄あにのですと先ほど答えておいた。

「(ついで、とはなんだ)」「(あ、聞いてましたか)」「(まあ良い)」という念話のやりとりはともかく。


「そうしたら、みんなで行こうよ。いいですよね、マッティオさん」

「はい、もちろんですとも。ジェルさんやブルーノさんたちにも見ていただきたいですし」


 独立小隊メンバーは皆、騎馬の専門家だからね。


「ならば近くに行くぞ、フォル、ユディ」

「これは楽しみでやすな」

「はいっ」


 皆で揃ってデッキから芝生の上に降り、厩務員さんに手綱を持たれてこちらの方を見て立っている馬たちの方へと近づいて行く。


「もっと血気盛んな若い馬かと思ったが、どうやら大人しそうですな」

「あ、いや、ジェルさん。私が事前に確認したときには、ここまで大人しくは無かったような……」


「(ケリュさま、何かしてるー?)」

「(いや、我は普通にしているぞ、ライナさん)」

「(カリちゃんは?)」

「(師匠じゃあるまいし、何も漏れ出て無いですよぉ)」

「(ザカリーさまはー?)」

「(なんで僕にも聞くかなぁ)」


 いやあ、それぞれが自分じゃ無いとは言っても、神様とエンシェントドラゴンと、それからたぶん精霊化しているエステルちゃんも居るからね。


 あ、馬のキミたち、そこで3頭揃って一斉に頭を低くしなくても良いから。厩務員さんたちが吃驚するでしょうが。

 馬と会話出来るらしいクロウちゃんは居ないし、ケリュさんが彼らに何か言ってあげてくださいよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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