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第103話 国境の伯爵領へ

 今日の泊まりはデルクセン子爵領の領都だ。

 俺って、この世界で民間の宿屋に泊まるのが初めてなんだよね。

 前世でも置かれていた立場の関係上、宿屋に宿泊したことがなかったので、前々世以来だから、40年振りぐらいか。


 父さんと同じ子爵位の貴族の領都ということで、グリフィニアと同規模の街な感じかな。

 ブルーノさんが、今晩泊まる予定にしている宿屋へと馬車を進める。

 裕福な商人の子息という設定なので、到着した先はそれなりに高級な宿屋だった。


 先触れなどを事前に使いに出さない限り、この世界に予約などというシステムはない。

 ちょうど手頃な部屋がふた部屋空いていたようだ。



「きちんと役どころを守るなら、本来はザカリー様がエステルさんと一緒のお部屋で、自分ら冒険者役の護衛は、別に部屋を取るんでやすがね」


 え、そんな役どころだったっけ?


「えーと、僕も多感なお年頃なので……」

「はっはっは、今回も自分との相部屋で我慢しといてください」


 あっちでは女子組3人でお泊まりということで、こちらでこんな会話が交わされているとも知らず、相変わらずきゃっきゃと話していた。


 なお、クロウちゃんはうちの領都ならともかく、他領の宿屋で部屋には入れられないので、エステルちゃんが夜食とお菓子を出して、馬車の中でおとなしくしていて貰った。

 最近は忘れがちになるけど、キミは式神なんだから我慢しなさい。

「カァァ」



 高級宿のわりと良い部屋だったので、快適に眠ることができた。

 女子組は充分な睡眠をちゃんと取ったのかな。

 朝食の時も、エステルちゃんの特製ショートパンツがどうだったとか、どうやら昨晩の続きをしてたけどね。

 俺とブルーノさんは黙々と食事をします。


 さて、今日はデルクセン子爵領からエイデン伯爵領の領都に向けて馬車を走らせる。

 クロウちゃんは今朝まで馬車の中でおとなしくしていたが、とても寂しかったのか、いつものように空を飛ばずにエステルちゃんに抱かれている。


 とてもキレイ好きな式神カラスなので、屋敷では俺かエステルちゃんのどちらかがシャワーを浴びる時に、温水で身体を清める。

 昨晩は仕方なく、宿屋の馬屋にある井戸水の水場で洗ってあげたのだが、それも少し不満だったみたいだ。



 順調に田園地帯の街道を馬車は進み、無事にエイデン伯爵領の領都に到着した。

 今日も俺は、ほとんど御者台にいたよ。


 この領都は伯爵領なだけあって、さすがに大きな街だ。

 明日、俺たちが目指す北方山脈越えの街道の起点であり、リガニア地方との交易拠点、そして国境に接する領地の中心都市ということで、街に入るための多くの馬車や人が集まって来る。

 しかし、少し緊張感が漂っているようにも感じられる。

 昨年からのリガニア地方の紛争が飛び火して来るのを警戒し、領都内の警備も厳重のようだ。


 なので、領都を囲む城壁内に入るチェックも、かなり厳しく行われている。

 尤も俺たちの馬車が入るのはデルクセン子爵領側からの門なので、山脈越え街道側から入る門よりは緩いらしい。

 俺は領都に入るということで馬車の中にいるが、検問を待つ間にヒマなので、周囲からそんな会話を探査の能力で拾って聞いていた。



「ザックさま、やっと入れるようですよ」

「長かったねー」

「ザカリー様、わたしたちの番になったら馬車の中を覗かれると思われるので、なるべくお顔を見られないように」


 万一のチェックに備え、クロウちゃんは空を飛んで貰っている。

 カラスをいつも連れている少年というのが、意外と有名らしいからね。

 うちの領都ではほとんど皆が知っているけど、他領で誰も知らないとは限らない。


 馬車内をチェックする警備兵が近づいて来て、窓から中を除く。


「女性3名に、少年が1名だな。この少年がおまえたちのあるじか」

「はい、こちらふたりが護衛で、そちらの女性はお付きです」

「わかった。よし、行け」


 既にブルーノさんが申告している一行の人数と構成を確認するだけで、それ以上のチェックはないらしい。

 山脈越え街道側は不審と思われた場合には、馬車内のチェックもされるらしいから、こちら側はやはり多少は緩いのかもね。

 だが、門を護る警備兵の数は、かなり多く配置しているようだった。


「国境の領地だと大変だよね」

「うちは辺境伯領が間にありますからね」

「辺境伯領は、北方帝国に直接接してるから、もっと厳重なんだろうね」

「はい、私は以前にいちど騎士団の視察訪問で行きましたが、普段でもこれ以上に厳しかったです」


 ジェルさんは辺境伯領に行ったことがあるんだ。

 今は直接の目的はないけど、辺境伯領には行ってみたい気もする。



 城壁内は平穏だった。

 夕方遅めの到着だったし、門外でずいぶん待たされたからもう夜になろうとする頃だけど、人通りは意外と多い。


「普段から交易商人が多いと聞きますが、リガニア地方からの流入者が増えているそうだな」

「宿のお部屋は空いてますかねぇ」

「空いてなかったら、野営? 街の中で野営はできないか」


 女子組がそんな会話をしているうちに、ブルーノさんがとある宿の前に馬車を停めた。

 凄く立派な宿屋だね。前々世でいう高級ホテル?

 宿代が高そうだけど、エステルちゃんがかなりの旅費を預かっている筈だ。


「ここなら空いている筈でやす。いいでやすかね?」

「いいんじゃない」

「ふえー、お高そうですぅ」

「こんないい宿に泊まったことないわー」

「私もないぞ」



 ブルーノさんとエステルちゃんで、宿屋のカウンターに行く。

 フロントマンというかそういう感じの人と、カウンター越しに何ごとか話していたが、やがて俺たちのもとに戻って来た。


「ほとんどお部屋が埋まっていて、寝室がふたつで5人泊まれる、大きくてお高い部屋しか空いてませんでしたぁ」

「どこの宿屋も、いつも満室だそうでやすよ」

「そうなんだ、いいんじゃない」

「もぅ。ザックさまは、いいんじゃないしか言わないですから」


 そこしか空いてないんじゃ、仕方ないよね。

 部屋の準備ができたと言うので早速その部屋に行ってみると、あぁ、貴族を泊める贅沢な仕様のお部屋だよね。

 基本は貴族用だが、貴族の来訪者がない時は民間人も宿泊が可能なのだそうだ。



 前室として広いリビングがあり、そのリビングからふたつの寝室が繋がっている。

 どちらの寝室も広く、ベッドが3台づつ用意されていた。

 専用のバス、トイレもあるし、お茶の用意などができる準備室や大きなクローゼットも付いている。

 うちの屋敷は中身がいたって質素な造りなので、バス、トイレは別だが、来客用のうち1室だけこのぐらいの広さになっているぐらいだ。


「お屋敷の第1客室みたいですぅ」

「そうだね、なかなか広くていいなー」

「こんなお部屋に泊まるのって、生まれて初めてよ」

「うちみたいな騎士屋敷には、こんなに良い客室はないぞ」


 リビングも広いので大丈夫だろうと、俺はクロウちゃんをマントで隠して、馬車からこっそり連れて来た。

 今晩は馬車泊じゃなくて良かったね。カァ。でも静かに、だよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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