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第71話 今後の行動予定

 屋敷に帰った俺は、ミーティングのため王都屋敷メンバーの全員に集まって貰った。アルポさんとエルノさんにも門の鍵を閉めて参加して貰う。

 あと人外メンバーの方々も、いつものように午後のひとときをラウンジで過ごしているので、実質ミーティングに参加しているのと同じだから屋敷の全員が揃った訳だ。


 人間が15名に人外7名、式神1羽の22名に1羽だから、ゆったりした広さのラウンジのソファも満杯に近いよね。

 この人数が同時に座れるのはこことあとは食堂、それから大広間に椅子を並べればもちろん余裕だけど、まあミーティングの場所と言ったらラウンジです。



「全員揃ったな。それでは、王都屋敷及び調査外交局のミーティングを始める。今日の議題は今後の予定と各自の動き。それから加えて、本日、ザカリーさまが王宮で国王陛下と面談した際に出た話題に関するものだ」


 ミーティングはジェルさんが仕切るようになったので、以前みたいに俺が冒頭で話すよりも場が締まりますな。


「今後の予定と各自の動きは、国王との面談での話に関わると思われるので、まずはその内容をザカリーさまからご報告いただく。ではザカリーさま、お願いします」


「あー、ただいまご紹介に預かりましたザカリーです」

「ご紹介されなくても、みんなよーく知ってるんですけどー」

「結局、いつもの感じになりますよね」

「ザックさま」


「あー、こほん。えーと、先ほど王宮から帰って来まして。あ、そう言えば、僕らは昼食を国王さんのところでいただいたのだけど、ティモさんとフォルくんは? お昼は食べた?」

「あ、はい。ザカリーさまたちは宮殿でおそらくと思い、待機施設でいただきました」

「僕たちのお昼のことは、このタイミングで心配しなくても……」

「ティモさんがちゃんとしてくれてますので、話を進めてくださいね、ザックさま」「カァ」


「はいです。えーと、国王さんとの話はですね、直接に向うから何かをという風ではなくて、要するに北辺の状況や北方帝国、それからリガニア地方の紛争の現況に関して、情報を得たかったらしいのですな、これが」


「ほほう、北辺や北方帝国、リガニアの紛争、ですかな」

「そうなんだよね、ユルヨ爺。あと、これは面談の最後の方で分かったのだけど、王宮で宰相が置かれてから、内政面を宰相の仕事として、国王さんは外交と軍事を直接見ると、取りあえずそう分担したらしいのですよ」


「なるほどでやすな。とは言っても、内政は所詮、王都圏や旧家臣貴族の範囲。それ以外の北辺や南部貴族の領地は、どちらかと言えば外交に準ずると、そう解釈されやすね」


 ブルーノさんは良く分かっている。

 このことを国王さんから聞いた時に俺も直ぐに思ったけど、建国当初の家臣が治める王国中央部以外で後年に王国の一員となった北辺貴族や南部貴族への対応は、純粋な内政というよりは外交に近いんだよね。


 だから昨年に宰相となったジェイラス・フォレスト公爵の直下の宰相府は、王宮内政部との連携で仕事を行うのだろう。

 宰相府と王宮内政部のどちらが上位にあるのか、組織の位置付けとしてそこは微妙なところだけど、少なくとも王宮内政部長官は準男爵だから、必然的に公爵である宰相の下ということになる。


 それで国王は直接的に外交と軍事を指揮する立場を維持し、外交は当然に王宮外交部と王国内の領主貴族への対応を行う王宮内務部が。そして軍事面の統括は王宮騎士団が行うので、それらが国王の直下となる。


 まあこれまでも、王宮内務部長官のブランドンさんと王宮騎士団長のランドルフさんが国王の側近だったらしいし、俺との関係性からして今日の面談の場でのそのふたりの同席に違和感はなかった。

 でも、昨今の王宮内の位置付けにより、あのふたりが居たのはしっかり理由があった訳ですな。



 それからざっと、今日の面談で国王さんたちと話した内容を皆に伝えた。

 特にリガニア地方の紛争については、ファータの面々はもちろん北の里を知っているブルーノさんたちにも、それぞれに思うところがあったようだ。


「この国の国王があらためて関心を持つのは隣国として当然ではあるが、我らは北辺の一員として、ましてやファータとして、ここは情勢をしっかり掴む必要がありますのう。いやもちろん、里長さとおさの方でもその点に抜かりは無いと思いますがな」


 うちのファータメンバーを代表するように、そうユルヨ爺が意見を述べた。


 つまりは、リガニア地方の南端に位置するファータの北の里にとっては他所よそごとではないし、里長さとおさであるエーリッキ爺ちゃんのもとで随時情勢の把握を行っている。


 だが昨今のボドツ公国による、リガニア都市同盟の中心都市タリニアへの集中攻勢と都市同盟各都市の疲弊状況から、隣国であるセルティア王国の国王が大きく関心を抱いているのが、今日の面談であらためて分かった。


 そして予測されるのは、いざタリニア陥落となった場合にはリガニア地方の力関係が劇的に変化し、ファータの北の里の安全が脅かされかねないこと。

 いや、傀儡国であるボドツ公国を通じて北方帝国の手が、ファータの本拠地に一挙に迫るということか。


 また、そこにセルティア王国がどう関与するのかはあくまで想像の範疇だが、少なくともエイデン伯爵領が潜在的敵国との国境の領となり、北辺としては辺境伯領とエイデン伯爵領とふたつの緊張した国境を抱えることになること。


 そしてこの未来は想像したくないけど、いざ戦争となった場合には、東と西のふたつの戦線で北辺の領主貴族家が先頭に立って戦わざるを得ないという、15年戦争当時よりも遥かに辛い状況に陥るということだ。


 国王さんとの話の中で俺の頭に浮かんだそういった事柄をユルヨ爺も直ぐに思考し、自分たちがファータであり、かつグリフィン子爵家の一員としての北辺の立場を持っていることを踏まえての、この意見だったと思う。



「要するにだ、座して待つよりも、里とはもちろん、それから若長んところやユリアナさんのところとも連携して、率先して対処せにゃならんということだな」

「探索もだが、先んじてボドツ公国に手痛い目を見せるというのもあるぞ」

「おうよエルノ。老い先短い里の爺婆で部隊を組んで、やつらの戦力を削いでおくか」


「アルポさんとエルノさんはもう、ダメですよ。ちゃんとザックさまの指揮のもとで動かないと」

「ははあ、それは当然ですがの、エステル嬢様」

「我らは統領の下知に従いますで」


 何かと物騒なアルポさんとエルノさんが何やら言っているけど、あと何十年も下手すれば100年ぐらいは元気そうな里の爺様や婆様が老い先短いとは、とても思えないよなぁ。

 それに、爺様と婆様だけで編成された特別戦闘工作部隊というのは、ちょっと怖い。


 だけど、里のエーリッキ爺ちゃんたちはもちろん、辺境伯家に居るエルメルさんやブライアント男爵家のユリアナさんたちと連携すべきなのはそうだよね。

 それから、どんな部隊構成はともかくとして、密かにボドツ公国の戦闘力を削ぐというのも、ちょっと考慮に値するかもですぜ。



「このような話をザカリーさまと国王陛下がされた訳だが、特にリガニア地方の紛争については今日明日の危機では無いにせよ、ユルヨ爺のご意見の通り我らとしては、情勢を正しく把握しておかねばならない案件だと認識している。それをすべて国王や王宮に伝えるかどうかは別としてだが……。そういうことでよろしいですね、ザカリーさま」

「はいです、ジェルさん」


「なので、そこを踏まえて、明日からの行動を決めたい。なお直近の予定としては、まず南方行きのあらましを、子爵さまにご報告しなければいけない。グリフィニアの拡張事業の進捗も併せて見なければなりませんな。あとは、ミラジェス王国のバルトロメオ・レンダーノ王太子が来月にはセルティア王立学院に留学して来られるので、ザカリーさまにお会いしたいとのご要望が来るだろうこと。それから、学院では課外部対抗戦が来月にはありましたな。あとは、エルフのイオタ自治領から、商業国連合セバリオ経由で試作用ショコレトール豆が届くのではないかということ……。そのぐらいでしょうか、ザカリーさま」

「はいです、ジェルさん」


「ザカリーさまは、ジェルちゃんの案件まとめをちゃんと聞いていたのかなー?」

「ちゃんと聞いてましたですよ、ライナさん」

「ほんとかなぁ」


 今はちゃんと聞いていたですよ。僕たちのこれからの行動予定を立てるのですからね。

 そうそう、これも付け加えて置かないとだ。


「あと、加えて言えば、ライナさんとオネルさんの騎士叙任をグリフィニアでも執り行わないとです、はい」

「おお、そうでしたな、ザカリーさま。それを挙げ忘れておりました」

「えー、もう済んでるわよー」

「グリフィニアででも、ですか?」


 騎士の叙任というのはこの世界では領主貴族の専権事項であって、うちで言えば子爵たるヴィンス父さんが行うものだ。

 南方への旅の前にここ王都屋敷で行った叙任式は、父さんが認め俺が代理として行ったもので、どういう型式を採るかはともかくとして、正式にはグリフィニアで子爵様から叙任されなければいけません。


「えー」

「ですかね」

「ライナ、オネル。正式には、いまザカリーさまがご説明された通りだ。今回のグリフィニア滞在は短期間になりそうなので、帰ったら直ぐにお願いせんとだな、うむ」


「面倒臭くない? ジェルちゃん」

「面倒とかどうとかではないぞ、ライナ。オネルもそう心得ておけよ」

「わたしはザカリーさまに叙任されれば、それでもういいんだけどなー」

「わたしもですけど、わかりました」


「グリフィニアのみなさんにも、ふたりが騎士になったことをちゃんとお見せしないとですからね」

「はーい、エステルさま」



 それから皆で意見を出し合いながら、近々の行動予定を決めて行った。


 まず今回は全員でグリフィニアに戻るのではなく、帰郷する者と王都屋敷で留守を守る者とに分ける。

 これは先ほどジェルさんも言ったように、グリフィニアに滞在する期間が短期間になる予定だからね。


 それでグリフィニアでは父さんたちへの南方への旅の報告、ライナさんとオネルさんの騎士叙任関係、それから国王さんとの話を受けたリガニア紛争関係についての父さんたちとの協議などだね。


 それに関しては、ファータ北の里のエーリッキ爺ちゃんや辺境伯家のエルメルさん、ブライアント男爵家のユリアナさんらとの連携も、ミルカさんと相談する必要がある。

 まあこれはファータの今後の動きであると同時に、その本家であるシルフェーダ家内のことでもあるよな。


 一方の王都では、ファータの連絡網を通じてリガニア紛争関係や北方帝国に関する情報収集をあらためて行う予定だ。

 あと王家や王宮関係、商業国連合の駐王都連絡事務所、それから学院辺りからも連絡が来るかもしれないので、それを受取る者が王都屋敷に居ないといけない。


 それらを踏まえて今回はアデーレさんとエディットちゃん、シモーネちゃんには王都に残って貰い、シルフェ様たち人外組もカリちゃん以外は居残り組だ。

 尤も人外組は、短期間内での馬車を使ったグリフィニアとの往復がどうも単に面倒臭い、というのもあるようですな。


「そうしやしたら、ユルヨ爺とアルポさん、エルノさんと自分の年寄り組で留守を預かるということで、よろしいでやすな?」

「そうだねブルーノさん。お願いします」


 ブルーノさんが留守番役のヘッドで、ユルヨ爺たちは王都での情報収集をしてくれることになった。

「まずは探索と情報の集約が主になるだろうて、現場近くは現役に任せて、後方での仕事は我ら年寄りがしましょうかの」ということだそうだ。


 従ってグリフィニアに戻るのは、俺とエステルちゃんとカリちゃん。隊長のジェルさんに、グリフィニアでも騎士叙任を受けるライナさんとオネルさん。場合によっては北の里まで走って貰うこともあるティモさんとリーアさん。そしてフォルくん、ユディちゃんにクロウちゃんとなった。



 このミーティングのやり取りを聞いていたシルフェ様たちは、特に何か意見を言うことはなかった。

 リガニア紛争など人間社会の争い事には、直接関与しない方々だからね。


 とは言え、情勢の進捗によっては自分の眷属一族であるファータに危機を及ぼす可能性もあるので、シルフェ様は「いざとなったら頼りなさい」と言い、ケリュさんは「我もその紛争とやらを、いちど見に行くかな」などと言っていた。

 地上世界に下りている武神としては、この世界の変動に繋がるような種は見ておきたいということかも知れない。


 あとアルさんが、「ティモさんがファータの里に走るなら、わしが乗せて行ってやろうかのう」と言ってくれたけど、当のティモさんは「あ、いえ、その、自分の足で……」と、もごもご返事をしていた。

 ティモさんはいちどアルさんの背中に乗ってから、どうも苦手にしているんだよね。その横でリーアさんは、首をぷるぷる横に振っておりました。



 ともかくも明日は準備に当て、明後日に帰郷メンバーは出発。いつも通りブライアント男爵お爺ちゃんのところに立寄り、お爺ちゃんとも相談をする予定だ。

 グリフィニアでの滞在予定は二週間ほどかな。来月の半ばぐらいには王都に戻る予定となったのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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