クリスマス&年末年始番外編 冒険者のクリスマス(中編)
今回も番外編の続きです。
サンダーソードの面々と一緒に子爵館の門外で俺たちを待っていたのは、ライナさんが冒険者の時分に一緒にパーティを組んでいたエヴェリーナさんとセラフィーナさんだった。
おふたりは従姉妹の関係で、ライナさんも暮らしていたあのカリナおばさんの下宿に住んでいたのだよね。
カリナおばさんには、俺もこの夏の街歩きでライナさんに案内されてお会いしたことがある。
「エヴェちゃんとセラちゃんは、いつグリフィニアに来たのー?」
「おう、つい数日前だ」
「直ぐにライナちゃんに会いたかったのだけど、ずっと王都だって聞いたから」
「それで、冬至祭前には戻って来るだろうっていうんで、今日はニックに頼んでな」
アナスタシアホームへと向かいながら、3人は俺とエステルちゃんの後ろで話しながら歩いている。
一緒に歩くのを遠慮していたのだけど、ライナさんはふたりのことを俺たちにも知ってほしかったのだろう。一行の中に強引に引きずり込んでいた。
「おふたりはデルクセン領の冒険者さんなのよね?」
「あ、はい、エスエルさま。良くご存知で」
「うふふ。ライナさんから聞いたことがありましたからね」
「ほ、へ」
「エヴェちゃんは、なに変な声で返事してるのよー」
「だってライナ、エステルさまがわたしらのこと知ってるって。いまのグリフィニアの冒険者すべての姐さんだぞ」
「あら、そんな大層な」
俺も前にライナさんから聞いたことがある。
ライナさんが12歳になる前の年の暮れに、アルタヴィラ侯爵領からひとりでグリフィニアに来てお世話になったのがレティシアさんという女性剣士の冒険者で、冒険者登録をしてからはこのエヴェリーナさんとセラフィーナさんと4人の女性で暫く活動していたんだよな。
エヴェリーナさんとセラフィーナさんはデルクセン子爵領の出身だが、冒険者の本場はグリフィニアだということで、彼女らもかなり若いうちからこちらに来ていた。
やがて女性4人のパーティは解散し、ライナさんは騎士団に入団。ライナさんと同郷だったレティシアさんはアルタヴィラ侯爵領に帰郷し、エヴェリーナさんとセラフィーナさんもデルクセン子爵領に戻ったと聞いている。
「とは言っても、デルクセン領には大した冒険者も居ないし活動がしにくいからな。それでわたしらは、主に隣のケルボを拠点にしていたんだ」
「だからどちらかと言うと、これまではエイデン伯爵領の冒険者という感じなんですよ」
デルクセン子爵領は同じくアラストル大森林に接しているけど、大森林の資源活用に熱心では無いというか、冒険者の活動があまり活発では無いらしいと聞いている。
「それで、おふたりはまたグリフィニアで活動するの?」
「あ、ひゃい、若旦那さま」
「そこはまだ決めていないのですけれど、久し振りにグリフィニアで冬を過ごすのもいいかなって。それにライナちゃんにも会いたかったですし」
「そうなんだ。まあ僕らも当面はグリフィニアに居るし、子爵館に遊びに来てくださいよ」
「そんな、お屋敷に遊びに行くとか、無理ですよぉ」
「昔にライナさんと何回か来たこともあるでしょ」
「そうでしたな。私も憶えていますぞ」とダレルさんが話に加わった。
ライナさんが冒険者の時代には、わりとちょくちょくダレルさんのところに土魔法を習いに来ていて、レティシアさんやふたりも一緒だったことがあった。
そのときに俺も会ったことがあるよね。
「若旦那もまだちっちゃくて。ライナの魔法の練習を一緒に見てましたね」
「ちょうどわたしもグリフィニアに来た頃だわ」
「そうなんですか」
「あの当時はまだ、エステルさまのことを知らなかったけどねー」
「カァカァ」
俺が2歳から3歳当時のことだよな。
エステルちゃんは探索者の見習いとしてグリフィニアに来ていて、それからクロウちゃんがこの世界に生まれて、夏至祭の事件なんかがあって。
確かその翌年には、ライナさんは冒険者を辞めて一般公募を始めた騎士団にブルーノさんと入団し、その更に翌年に俺は騎士団見習いの訓練で初めて大森林に足を踏み入れた。
思い出してみると、この世界でのいろいろな始まりの時期だったのかも知れない。
まあ俺自身はまだ幼児だったので、始まりと言えば始まりなのですけどね。
大勢で賑やかに話しながら街を歩き、アナスタシアホームが付設されているグリフィニアの祭祀の社に着いた。
まずはいつものように社の本殿の方で神々に年の終わりの挨拶をして、それからグラウンドの迷路の補修とか大掃除の手伝いにパーティーの準備だね。
もちろん子供たちとも遊びますよ。
祭祀の社はどの街でもそうだけど、本殿の建物内に神々を祀るいくつもの祠があって、その中心はもちろん太陽と夏の女神のアマラ様と、月と冬の男神であるヨムヘル様の二柱だ。
本殿内の正面にあるその二柱の神の祠の前に全員が並んで頭を下げ、思い思いに語り掛けたり何かを願ったりする。
まあうちの王都屋敷メンバーに関しては、神様関係はちょっとと言うかだいぶ特殊なので、何かを願うというよりはご挨拶とこの1年間の御礼というところでしょうか。
「(あ、出て来なくていいですからね。もう直ぐに冬至祭ですし)」
「(むむ、出なくて良いのか? 冬は俺の担当なのだがな)」
「(あなたったら、ザックたちも大勢で来ているんだし、ここの社の者たちも居るのですから、普通にしてなさい)」
「(しかしな、アマラ。ザックも学院を卒業したのだから、お祝いをせねばならんだろ)」
「(それはそうですけど、また別の機会にしましょ)」
「(そうか? そうだな)」
あー、案の定、聞こえてはいけない声が頭の中に響いて来たのだけど、いきなり姿を現さなくて良かったですよ。
おそらくいまの声が聞こえたのは、エステルちゃんとカリちゃん、それからクロウちゃんぐらいだろうな。
今日はニックさんたちも一緒に祈っているし、俺たちの後ろには社長のギヨームさんやリリアーヌさんら巫女さんたちも控えていますからね。
そんなこの世界の最高神おふたりと言いますか、どちらかと言うと何かと世話を焼きたがるこの世界での里親夫婦の頭の中の声が収まったので、あらためて俺は学院を卒業してこれから社会人として歩むことを報告し、この1年間見護っていただいた御礼を心の中で伝えた。
「(この4年間ご苦労さまでした。これからの長い人生の始まり、あなたらしくゆっくりと歩みなさい。そして、エステルと周りのみなさんと仲良くね)」
「(何があっても我らがいつも見護っておるからな。何も心配することは無いぞ。あらためて、ケリュやシルフェたちにも頼んでおくしな)」
はい、ありがとうございます。
年を越せば俺も16歳。29歳までしか生きられなかった前世や前々世だったら、もう人生の半分以上の年月を過ごしてしまった訳だけど、今世ではもう少し長くは大丈夫だろうと、俺自身もそう思っていますよ。
エステルちゃんやカリちゃんにも何か言葉を掛けていただいたのかもだけど、その声は俺には聞こえて来なかった。
アマラ様とヨムヘル様への挨拶を終えて、そのヨムヘル様の隣から続くかたちで祀られている祠にも頭を下げる。
この3つの祠はヨムヘル様を長とするこの世界の武神三神のもので、特にセルティア王国での北辺の武闘派貴族と良く言われるグリフィン子爵領では、最高神に継いで尊崇されている神様ですな。
この辺の神様の祠の並びについては、その地方地方で異なるらしいけど、うちやキースリン辺境伯領、ブライアント男爵領では武神三神が特に大切にされているそうだ。
とは言っても、ヨムヘル様の隣にあるのが狩猟と戦いの神であるケリュネカルク様のもので、つまりケリュさんのなんですけどね。
それからあとの二神は、闘力と戦いの神であるアレアウス様と知略と戦いの神であるミネルミーナ様だ。
「(と言うことで、いまはグリフィニアの祭祀の社に来てるのですけど、ケリュさんは妖精の森? ちゃんと大人しくしてます?)」
「(お、ザックか。我はシルフェの屋敷だ。それは大人しくせざるを得んだろうが。いまはアルと、その、なんだ、飲んでおるだけだしな)」
「(あー、そうですか。まあ、ほどほどに。シルフェ様やアルさんたちにもよろしくです)」
「(おお、わかったぞ。ん? 誰って、ザックだよ、ザック。いま、グリフィニアの祭祀の社なんだと。ああ、わかったわかった、伝えて置くって。年が明けたらグリフィニアに行くって、予定通りだろ。はいはい、それでも伝えるから)」
ケリュさんと話してるの、シルフェ様ですかね。
どうも年末に郷里の親とかに電話して、その電話口でおふくろがなんだかんだ言っているみたいな感じだよな。
もう切りますよ。それじゃ、妖精の森での冬至の祭祀はちゃんとやってくださいね。
あとは精霊の祠にもちゃんとお参りをしてと。
風の精霊のシルフェ様と水の精霊のニュムペ様、それから樹木の精霊のドリュア様。
まだ会ったことが無いけど、火の精霊のサラマンドラ様と土の精霊のグノモス様の祠にもご挨拶をしておきましょう。魔法だと火魔法と土魔法でお世話になっているしね。
「さすがザカリーの若旦那たちだと、神様へのお祈りも長ぇーんだな」
「それはニック、若旦那たちはわたしら庶民とは違うのさね」
「ははは。庶民とかどうとかは関係無いんだけどさ、マリカさん」
「うちのひとって、神様にもご迷惑をお掛けする可能性が高いでしょ」
「あ、なるほどなぁ」
何がなるほどと納得されたのかは分からないけど、どうもひと言だけのご挨拶で済まないのですよ。
「さて、神様へのご挨拶と御礼も終わったことだし、例年通り作業を始めますよ。みんないいかな?」
「はーい」
「そうしたら、よろしいですか? ギヨームさん」
「はい。毎年ありがとうございます、ザカリー様、エステル様、皆様。子供たちも待っておりますし、お任せいたします」
祭祀の社の本殿から外に出てアナスタシアホームの玄関口に行くと、ホームの子供たちが勢揃いして待っていてくれた。
俺たちが姿を現すと、男の子たちがぴょんぴょん跳ねたり、女の子たちも両手を高く振ったりして全身で喜びを表現してくれる。
「ザカリーさまぁ」「エステルさまぁ」
「おう、みんな元気そうだね」
「今年も来ましたよ」
女の子たちは直ぐにエステルちゃんの側に走って来て、順番に抱きついたりしている。
男の子はさすがに恥ずかしいのかそういうスキンシップはしないけど、それでも遅れて寄って来た。
「お、でっけぇおじさんが居るぞ」
「なんだなんだ」
「ダレルさんと同じっくらいでっけぇぞ」
「この人ら、初めて」
「冒険者かな」
でっけぇおじさんと言われたニックさんをはじめサンダーソードの面々は、わらわらと近づいて来た子供たちに指で突つかれたりしてちょっと当惑していたりする。
「はいはい、あんたたちー、まずは整列よー」
「はーい、ライナ姉さん」
「並んで並んで。みんな、ザカリーさまとエステルさまにご挨拶は終わったー?」
「はーい、ご挨拶しましたー」
「そうしたら、まずはお仕事を振り分けるわよー。女の子たちはそっちのジェルお姉さんとオネルお姉さんのところに集合っ。ダレルさんがお部屋にツリーを立ててくれるから、飾り付けを一緒にするわよー」
「はーい」
「男の子はブルーノおじさんとティモお兄さんのところね。グラウンドの迷路の補修のお仕事よー」
「はい」「おう」
ライナさんが良く通る声を出して子供たちの仕事を振り分ける。
簡単に言えば女の子たちと女性陣はホームのリビングでツリーや部屋の飾り付けを行い、パーティーの準備。男の子と男性陣は外で遊び場の掃除や手入れだ。
「ああやって、ライナちゃんが仕切るんですね」
「まあそうなんだよね」
護衛とか戦闘行動とかはジェルさんで外交面はオネルさん、こういう場面ではライナさんだよな。
「ほら、エヴェちゃんとセラちゃんもこっちに来てー」
「あ、はい」
「わたしは外で力しごとじゃなくていいのか?」
「なに言ってるの。エヴェちゃんも女の子でしょー」
「お、おう」
セラフィーナさんはブルーノさんやマリカさんと同じ斥候職の冒険者で、見た目も細身で女性らしく撓やかそうな身のこなしをしている。
一方でエヴェリーナさんは戦士で色々な近接武器を使いこなすが、格闘術が最も得意なのだそうだ。
見た目も女性にしては大柄で、結構な筋肉を身に纏っていそうだよね。
そんなふたりはライナさんに呼ばれて、ホームの建物の中へと入って行った。
さて、室内の飾り付けはライナさんたちに任せて、こちらは男性陣で作業をしますかね。
いつものメンバーのブルーノさんとティモさん、フォルくんに、サンダーソードの男性3人だ。
ちなみにクロウちゃんはホームの男の子たちに構われている。
「俺たちはどうすれば?」
「あっちのダレルの荷車に補修の材料や道具が積んでやすから、こちらに牽いて来てくださいや。ダレルもツリーを立てたら来やすが」
「へい」
こちらの仕切りはブルーノさんだね。
その彼の号令で男の子たちも集合して作業を開始した。
「ねえ、ブルーノさん」
「なんでやすか? ザカリー様」
「エヴェリーナさんとセラフィーナさんて、またこっちで冒険者をする感じなのかな?」
「さて、どうでやすかね」
作業が始まって俺もブルーノさんと手を動かしながら、そんなことを聞いてみた。
ブルーノさんも、ライナさんが冒険者だった当時はグリフィニアのトップ冒険者パーティであるクリストフェルさんたちのブルーストームの一員で、もちろん彼女らのことも良く知っている。
「ただ、この夏頃に耳にした話でやすと、あのふたりが組んでいたパーティのひとりが大森林で亡くなったとかで、それでパーティも解散したらしいのでやすよ」
「そうなんだ。それは大変だったんだろうな」
「まあ、そういうことも込みの冒険者稼業でやすが」
今年の夏にブルーノさんが伝え聞いた話によると、先ほども彼女ら自身が言っていたように、近年はエイデン伯爵領のケルボの町を拠点にして活動を行っていたそうだ。
ケルボと言えばルアちゃんの地元で、お父上のコルネリオ・アマディ準男爵が治めている町だよね。
俺たちも以前にファータの里に行く途中で立ち寄ったことがあり、ここグリフィニアと同じくアラストル大森林の傍らで栄えている町だ。
当然に冒険者の活動も盛んで、あの町の経済を支えている。
「あのふたりなら、それで冒険者を廃業して、ということも無いでやしょうが……。にしても仲間が眼の前で死ぬというのは、大きな出来事でやすから」
「眼の前で、なんだね」
「詳しくは分かりやせんが、そう伝え聞こえて来やした」
今日顔を会わせてそんな素振りはまったく見せなかったけど、そうだとしたらかなりのショックだったのでは無いかな。
幸いなことに、この世界で生まれてから俺にはそんな経験はまだ無いけれど、前世では何度も俺の眼の前で長く共にした者たちが命を無くし、そして最後の最後の闘いではほぼ全滅した。
そんな記憶も頭の片隅に過りながら、俺はたぶん賑やかに飾り付けを楽しんでいるだろうアナスタシアホームの建物の方に目をやるのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。




