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第100話直前特別回 グリフィン子爵家のクリスマスツリー(後編)

「さて、倒れやしたが、こいつをどうやって運ぶんで?」

「それについては、ブルーノさん、ダレルさん。絶対に秘密を守って貰います」

「秘密でやすか?」

「今からのことは、何も見ていない。何も質問しない、喋らない」


 そして俺は、ふたりの返答を待たずに、10メートルもの長さと豊かな枝振りで横たわっているこの木を、無限インベントリの中に一瞬で収納した。


「消えた……」

 ふたりの大人がぽかんと口を開けている。


「これは……ザカリー様が? マジックバッグ??」

「何も見ていない、何も質問しない、喋らない」

「へ、へい」



 冬至祭イヴの前の深夜、屋敷前の表庭園内にあるテラスに4人の男たちプラス、エステルちゃんが集合する。クロウちゃんもいるけど。

 飾り付けをどうしても手伝うと彼女が言ったからだ。


 おしゃべりのトビーくんには無限インベントリを知られたくないので、ツリーを立てる予定地には庭園の草花や植木をダレルさんに一時的に移設して貰って空き地を作り、そこにアラストルトウヒを既に横たえてある。


「それじゃダレルさん、お願いします」

「わかりました、ザカリー坊ちゃん」


 ダレルさんが大量のキ素を集めてキ素力化し、魔法を発動させる。

 すると、予定地にツリーを立てる穴が空き、横たわっていた木が根元から穴に滑り込む。

 更に、土が木を押し立たせ、ついには直立させた。


「ふぇー、凄いですぅ」

「カァ、カァ」


 ダレルさんはすぐに、根元を埋めた土を硬化させて基礎を固める。

 そして、木の周りを囲って人が歩ける土壁を立てた。これは飾り付けを行う足場用だ。

 さあ、5人で飾り付けだよ。



 飾り物は、どんなものがいいか俺がなんとかエステルちゃんに伝え、ウォルターさんから指示を受けた侍女さんたち総動員で作ってくれたものだ。

 ツリーに付き物のオーナメントボールは、俺が本物のりんごを「写し」の劣化コピー能力で、表面がツヤツヤの飾り物に仕上げていくつも作ったよ。

 なにせ知恵の樹の実のシンボルだからね。


 根元近くの枝は払い、かたちを整えて深く埋めたので、ツリーの高さは8メートルぐらい。

 皆の手が届く範囲しか飾れないので枝全体にという訳にはいかないが、それでもかなりの装飾はできた。

 あとはてっぺんにこの星を飾りたいんだけど、どうしよう。


「カァカァ」

「え、クロウちゃん、できるの?」

「カァ」


 星飾りは、木の真上に被せて設置できるようにしてある。

 それでクロウちゃんが銜えて飛べるように紐を付け、頂点の真上から静かに落として貰った。

 やったね。完成だ。


 最後に明日の晩までどう隠すかだが、全体を覆う大きくて軽い布を侍女さんたちに用意して貰っているので、これもクロウちゃんが空からふわっと落として広げ、エステルちゃんが風魔法で調整しながら全体を覆う。

 ついでに見えづらくする結界も張っておこう。


「あれ、布を被せた途端、なんだか見えなくなったすよ」

「トビー、何も見ていない、何も質問しない、喋らない、だ」

 ダレルさん、ありがとね。




 冬至祭の夕方から、中央広場に行っていた俺たち家族も屋敷に戻り、例年のごとく大広間で招待客も交えてパーティーだ。

 レジナルド料理長が腕を振るった料理の数々に舌鼓を打ち、皆も大満足。

 さて、そろそろかな。


「本日、ご出席のみなさーん」

「なんだザック」

「どうしたの?」

「ちょっと聞いてください。すでに王都に行っているヴァニー姉さん、それから来年に王都に行くアビー姉ちゃんの姉ふたりに、屋敷のみんなと僕から、ちょっとしたプレゼントがあります」


「そうなのか? ザック」

「あらあら、なにが始まるの?」

「はい、寒いので大変申し訳ありませんが、屋敷の前の庭園に用意してありますので、みなさんもお付き合いいただけませんでしょうか」


 そうして俺を先頭に、パーティー出席者がぞろぞろと玄関ホールを出て、屋敷前の庭園に行く。

 庭園前には、騎士団で非番の団員や内政官事務所で残っていた人も集まっていた。

 ブルーノさんも来てるね。

 年に2回の祭の時はみなさん忙しいので、申し訳ありません。



 エステルちゃんが近寄って来て、「では始めますか?」と聞いてくる。

 それじゃ、始めようか。まずはクロウちゃんとエステルちゃん頼むね。


 クロウちゃんが、ツリーを覆っていた布の頂点に付いている紐を銜え、同時にエステルちゃんが風魔法で布を下からふわっと広げて浮かせる。

 クロウちゃんが高く飛んで覆い布が取られたが、まだツリーは良く見えないだろう。

 ダレルさんが、ツリーの周囲に篝火かがりびの用意を多めにしてくれている。

 俺はツリーを隠していた結界を解除すると、その篝火かがりびに遠隔魔法でひとつひとつ火を点けて行く。


「おおーっ」「でかい木だなー」「キラキラしてる」「キレイだわー」


 クリスマスツリーならぬ冬至祭ツリーの姿が、たくさんの篝火かがりびの灯りに浮かび上がり、枝葉の飾りがキラキラと輝く。

 電気がないので飾り自体は発光しないけど、たくさんの炎の揺らめきが反射して、なかなか美しいよね。

 周囲に集まって皆から、感嘆の声が上がった。



 ツリーが姿を現したのを合図に、トビーくんが大量に作ってくれたデザートやお菓子を、侍女さんたちが運んで来てくれる。

 料理長もトビーくんも来てるよね。領主館で来れる人は全員集まったようだ。


「姉さんたち、来て」

「ザック、すごいわねー」

「あんた、いつこんなの用意したのよ」

「これは、アビー姉ちゃんが見事合格して、姉さんたちが王都で無事に暮らせるよう、ヨムヘル様に願いと感謝を込めて用意したんだよ。屋敷のみんなと、それからブルーノさんも協力してくれて作ったんだ」


「ザック……」

「ザック、それから屋敷のみなさん、ブルーノさんまで、ありがとう」



 夜も更けて、かなり寒くなって来たけど、ツリーの前のダレルさんが作ってくれた臨時の広場では、楽器が弾ける侍女さんたちの奏でる音楽に合わせて踊ったり、トビーくんのデザートとお菓子を楽しんだりと、楽しい時間を過ごす。

 姉さんたちもとても楽しそうに踊ってる。


 ギルド長たちや騎士団長、料理長などおじさんたちは、お酒を酌み交わしながら、来年の冬至祭では中央広場にこれを立てよう、などと話している。

 あ、ブルーノさんもその輪に引っ張り込まれてるんだね。ダレルさんとトビーくんもか。

 この大きな木をどうやって用意して立てたかなど、ギルド長たちから追求されていて困ってるね。



 そんな様子をエステルちゃんと眺めていると、父さんと母さんが近寄って来た。


「ザック、凄いことしたな。おまえが考えたんだろ」

「えーと、夏至祭の花飾りのポールをヒントにして……」

「冬至祭は今まで大焚き火と篝火かがりびだけだから、こういうのもあるといいわよねー」


「ダレルやブルーノさん、屋敷のみんなに手伝って貰ったにしても、どうやって短期間で作ったのか。まぁそれは、詳しくは聞かんが……」

「あなた、いいじゃないの。ザックがヴァニーとアビーのためにしてくれたんだもの」

「そうだな。今回は俺たちからも、ありがとうと言うしかないな」

「ザック、それからエステルさんも、ありがとね」



「ところでザック。これ、明日まではここにあるといいと思うわ。でもそのあとは、ちゃんとお片付けするのよね」

「そうだな、明日までが冬至祭だが、あさっては新年だ。冬至祭でどんなに騒いでも、新年までにはすべて片付けて、新しい年を迎えるのが慣らいだからな」

「うん……。頑張ります」


 撤去と後処理作業を考えてなかった。はい、明日の晩は徹夜決定です。

 このアラストルトウヒの大木はどうしよう。庭園も元に戻さないとだよね。

 ダレルさん、ブルーノさん、トビーくん。もう少し手伝ってください。


 あ、雪が降って来た。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


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エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

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