表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/1120

第100話直前特別回 グリフィン子爵家のクリスマスツリー(前編)

今回と次回は、第100話直前記念で特別回です。

 話は昨年の暮れに遡る。

 12月に入ったある日、俺はある計画を閃き、夜中に身近な3人の者を呼び出すことにした。

 それも男ばかり3人。


 ひとり目は、長年に渡り子爵館で庭師に従事し、庭園だけでなく広い果樹園まで一手に世話をしている庭師のダレルさん。

 彼は熊のような大男だが、土魔法の使い手で樹木や花を愛する心優しい人だ。年齢不詳。


 次は、騎士団従士でベテラン斥候職の元冒険者のブルーノさん。

 冒険者時代には、疾風はやてのブルーノとか遠耳とおみみのブルーノなどの二つ名で呼ばれ怖れられていた。年齢不詳。


 最後は、うちのアシスタントコックのトビーくん。

 料理の腕はなかなかのもので、港町アプサラで覚えたソルベートをはじめ、特にお菓子づくりが得意だ。年齢はもう20歳代だが、現在独身。誰かいないの?



 俺はダレルさんに話をして、夜遅くに屋敷の裏庭にある彼の作業小屋に集合することとし、トビーくんには声を掛け、ブルーノさんには伝言カラス・クロウちゃんを飛ばした。

 クロウちゃんに伝言を頼む場合には、あの大森林探索以来、エステルちゃんに作って貰った小さな伝言袋を首から下げさせる。


 そのエステルちゃんには、今回はまだ言っていない。

 いつも子爵家の夕食とお片づけが終わり、彼女が自分の夕食も済ませると、しばらくは食堂や2階のラウンジか俺の部屋でしばらくは側にいるけど、その後は自室に下がる。

 俺は今回の集合に、エステルちゃんが自室に下がった後の夜遅くの時刻を指定した。



「本日はお集りいただき、ご苦労さまです」

「なんすかザカリー様。こんな夜中に集めて。ここ寒いし、屋敷の中じゃダメすか」

 トビーくん、静かにしてなさい。


「アプサラで一緒だったから、ブルーノさんはトビーくんを知ってるよね。ダレルさんは初めてなのかな?」

「へい、それがダレルと自分は、じつは古い馴染みでやして」

「へー、そうなんだ。昔からの知り合い?」

「そこのところは、また別の機会にお話するということで」


 冒険者時代だよね、きっと。ダレルさんも土魔法の使い手だし、ガタイも凄いし。まぁまた今度聞くか。


「それで、男ばかり4人で集まったのはなんすか?」

「僕は年末にある計画を考えています」

「なんすか、ある計画って」

 トビーくん、静かにしてなさい。


「冬至祭の夜に、クリスマスイヴをすることにしました」

「????」



 この世界には当然クリスマスやそのイヴは無い。

 年末の12月27日が冬至の日で、その前日の26日と2日間、月と夜の神様であるヨムヘル様に1年の無事を感謝し、冬を越して春に向かう祝いをする冬至祭が行われる。

 ひと月が27日のこの世界では、クリスマスと大晦日を合わせたような2日間だ。


「えーと、26日の冬至祭の夜に、例年とはちょっと趣向の違うイベントをしてみたい、ということなのです」

「いつもお屋敷でパーティーをするじゃないすか。それとは別にすか?」

「ザカリー坊ちゃんが何をしたいか分かりませんが、それを私たちに手伝えってことで?」


 黙って聞いていたダレルさんが、そう質問する。

 ダレルさんは、幼児の頃から俺のことをザカリー坊ちゃんと呼ぶんだよね。


「そう、ぜひみなさんの協力を仰ぎたいのです。みなさんのお力無くして、この計画は遂行できません」

「あの、ザカリー様、いつまでその口調を続けるんすか? なんか気持ち悪いんで、いつものように喋って貰えないすかね」




「屋敷の庭園に、大きなクリスマスツリーを飾りたいんだ」

「クリスマスツリー??」

「えーとね、でっかいモミの木に飾り付けをして、華やかに演出する、かな」

「夏至祭の時に、アマラ様に捧げる花飾りのポールみたいなものでやすかね」

「そうそうブルーノさん。あれの冬至祭版、かな」


 夏至祭りの時には、太陽と夏の女神アマラ様に捧げるため、カラフルに色とりどりの花で飾られた樹木のポールが立てられる。

 中央広場には、毎年15メートルもの高さのポールを中心に何本も立てられるんだよね。


「でも、今は冬ですから、ほとんど花はありませんよ、坊ちゃん」

「うん、だから、葉が茂った大きな針葉樹を庭園に立てて、色んな飾り物を作って飾るんだ。その前でみんなを集めてパーティーをしたいんだよ。来年は、姉さんたちがふたりとも王都に行っちゃうから、その前にね」

「…………」



「でっかい針葉樹の木っすか? どこから手に入れるんすか」

「ダレルさん、ブルーノさん、そういう木ってどこにあるか知ってますか?」

「なんだ、ザカリー様はノーアイデアっすか」

 静かにしてなさい、トビーくん。


「そうですな、坊ちゃん。枝を落としたものならともかく、枝葉が茂ったままの大きな木というと、大森林から伐採するしかないですかね。どう思う、ブルーノ」

「そうでやすな。アラストルトウヒなら割と近場にありますぜ」


 アラストルトウヒか。前にいた世界の、確かドイツトウヒという木に似た常緑針葉樹だね。あれならでっかい。


「いいねそれ。それで行こう」

「でも、どうやって伐採して来やすかね」

「倒すだけなら私ひとりでも出来ますが、問題はどう運搬するかですぞ」

「それは、僕に考えがあるよ」


 俺が考えている木の大きさを伝え、ブルーノさんが大森林で探してくれることになった。

 ダレルさんには、伐採とツリーを立てる場所を確保して貰う。

 トビーくんは、そうだな、デザートやお菓子をたくさん作って貰おうか。



 あと、この計画は家令のウォルターさんを巻き込まないと成功しないと3人が主張したので、俺が話をすることになった。


「ウォルターさん、という計画ですが、どうでしょうか?」

「ふむふむ、ヴァネッサ様とアビゲイル様のためにですね。いいでしょう、ご協力します。それで、その大きな木にどんな飾りをするのですか?」

「えーと、キラキラしたもの、かな」

「ふーむ、よく分かりかねますが、それならば侍女たちに作らせましょう。エステルにちゃんと話をして、彼女にどんな飾りを作ればいいか伝えておいてください」


 エステルちゃんには怒られそうだったから内緒にしておいていたのだが、ウォルターさんも巻き込んだことだし、当然彼女も参加させます。


「これは、僕が前にいた世界で、年末のお祭りのシンボルみたいなものなんだけど……」

 本当は前々世なんだけどね。

 エステルちゃんだけは俺が転生したことを知っていて、ファータ人の間では流転人るてんびとという伝承があるそうだ。


「わかりました。お姉さま方のために、わたしも頑張ります」

 と、凄く張り切ってしまった。



 ブルーノさんが、手頃なアラストルトウヒの木を大森林で見つけて来た。

 森林に入ってすぐの場所にあったそうだ。

 なので、彼とダレルさんが伐り倒しに行くのだが、俺も運搬のためもあってこっそり付いて行く。マントに頭からフードを被って顔を隠すよ。


 城壁東門で、門を管理している見張りの騎士団員がブルーノさんに声を掛けて来る。

「ブルーノ、探索か? ダレルさんも一緒か」

「ちょっと植物の採取でやす」

「その後ろにいるちっこいのは?」

「誰もおりやせんぜ」


「そうか? なんだかマントにフードの小柄な……」

「誰もおりやせん」

「あっ。あー、たとえザカリー様みたいな背格好の人がいたとしても、誰もいない。何も見ていない」


 バレバレだった?

 どうも大森林探索以来、騎士団員たちの俺を見る目が違うんだよね。

 まあいいか。



「こいつでやすよ」

「おっ、いいねー。ダレルさん、サクっとやっちゃってください」

「またそんな簡単に言わんでください、坊ちゃん。いいでしょう、行きますよ」


 高さは10メートルほどだろうか。なかなか枝振りが良い。

 ダレルさんは巨大な斧を手に、そこにキ素力を込めて振りかぶる。

 土魔法の達人である彼ならではの伐り倒し方らしい。


 ふん、と斧を振るい、アラストルトウヒの幹の根元に鋭く当てると、なんと半分近くまで伐ってしまった。

「こんなもんでしょう。次でひと皮残して倒します」


 再び斧を当てると、彼が言った通り樹皮をひと皮残してアラストルトウヒは倒れて行った。

 達人というのは凄いもんだね。


「昔は森大熊の首とか、一撃で刈ってやしたな」

「若気の至りさね」


 倒れた木を見ながら、なんだか物騒な話をしてます。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ