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第25話 南の国へ出発します

 ヒセラさんから渡された文書を読んでみると、今回のセバリオ行きの旅程は次のように記されていた。


 1日目:セルティア王国王都フォルスよりヘルクヴィスト子爵領領都ヘルクハムンへ移動。ヘルクハムンで1泊。

 2日目:早朝、アヌンシアシオン号に乗船、出航。

 4日目:ミラジェス王国王都ミラプエルトに寄港。ミラプエルトで1泊。

 5日目:ミラプエルトを出航。

 8日目:商業国連合セバリオ到着

 8日目以降:セバリオにご滞在

 セバリオご滞在時の予定については、到着後にご相談させていただきます。

 帰路は往路と同様の日程を予定しております。


 つまり、まずはこの王都からヘルクヴィスト子爵領の港のある領都まで陸路を行き、そこで1泊する。

 ヘルクヴィスト子爵領の領都はヘルクハムンという名称なんだね。あまり気にしていなかったので知りませんでした。

 カァカァ。え? ずいぶんと昔に誰かに教えて貰った筈だし、地理の勉強でも習うでしょうがって、まあそうかもだけどさ。


 それで翌早朝に乗船して出航。今回乗せて貰う高速帆船というのは、アヌンシアシオン号と言うのですな。なんだかおごそかそうな名前です。


 まずは2泊3日の日程で航行し、ミラジェス王国の王都ミラプエルトに寄港するのか。

 ミラプエルトは内陸にあるここセルティア王国の王都フォルスと違って、港湾都市なんだよな。フォルスと異なり、魚介類の料理が豊富にありそうだ。


 そこで陸に上がり1泊して、翌日に出航。今度は船に3泊4日でようやくセバリオに到着という予定になっている。

 船に乗りっぱなしで行けば5泊6日のところを、途中にミラプエルト寄港を挟んだ訳ですな。


 これは船に慣れていない俺たちに配慮してくれたのかなと思って聞くと、やはりそういうことらしい。

 高速船なので、要所要所で風魔法も遣って急げば4泊5日でも行けるのだそうです。


 先日に今回の旅の件を協議した時に、風魔法を遣うということで巡航速度は10ノットぐらい、時速18.5キロメートルと俺は想定した。

 つまりその想定であれば、1日27時間フルで航行して500キロ程度の距離を進めることになる。


 ヘルクハムンからミラプエルトまでの距離が1,000キロぐらいで、ミラプエルトからセバリオまでが1,300キロぐらいと推定すると、前者が2泊3日で後者が3泊4日の旅程となっているから、多少は時間的余裕を見ているということですかね。



「なるほど、わかりました。8日後にセバリオに到着で、もし4日か5日ぐらい滞在すると、20日間程度の日程となる訳ですね」

「そうですね」


 旅程表の記された文書は、俺からエステルちゃん、そして同席している皆へと回されて「ほぉー」とか「ひょー」とかその日程を見ながら皆が反応している。


「それで、エルフ側の予定も整っているということですよね」

「あ」「それは」


 ん? 俺の質問にヒセラさんとマレナさんの反応が変だけど、どうしましたか?


「あの、じつは、先に船がこちらに来てしまいまして」

「エルフ側とは同時に調整している筈ですので、この予定に合うと思います。いえ、必ず合わせます」

「あー。そうですか」


 要するに、セバリオからの船の到着が早かったのは、エルフ側との調整の結果が出るのを待たずにこちらに来たからなのですな。

 所謂見切り発車、いや見切り出航ということですか。

 これは大丈夫なのかな。セバリオで長期間、エルフ側が到着するのを待つとか嫌ですよ。


「セバリオでは、ザカリー長官とエステルさまご一行を飽きさせるようなことなどさせませんので」

「お食事は美味しいですよー」


 ああ、これはヒセラさんとマレナさんもそんな事態を想像していると言うか、結局のところ確実なことは彼女らも分かっていませんな。まあ、食事が美味しいのは大切なことだけどさ。


「(エルフどもがグズグズしてたら、わたしに乗ってこっちから乗り込んじゃえばいいですよ)」

「(それはそうだけど、でも、滞在が飽きちゃったらよ、カリちゃん)」

「(そーかー。その手があったのねー)」


 先日から念話にライナさんが加わったので、まだ彼女の出力は小さいとはいえ、より一層暢気で賑やかなんだよなぁ。


「まあ良いでしょう。では、明後日に出発といたします。いいよね、エステルちゃん。ミルカさんもいいですか?」

「はい。それで行きましょう」

「承りました。子爵様にはその日程でご報告いたします」


「じゃあ、ジェルさん。明後日出発で準備をお願いします」

「承知しました」

「いよいよ、船旅に出発よー」


「確認ですが、ヒセラさんとマレナさんもご同行されるということですよね」

「はい、オネルさん。わたくしどももお供させていただきます」

「ヘルクハムンまでは、こちらも馬車で向かいますので、向うでお会いするということで」

「了解しました。では、待ち合わせ場所は……」


 実務面はオネルさんが居れば安心だよな

 彼女を中心にお姉さん騎士の3人が、ヒセラさんマレナさんと詳細を詰め始めた。

 ここは彼女たちに任せておけば良いだろう。




 その日の夕食後、屋敷の全員がラウンジに腰を落ち着けてミーティングとなった。

 議題はもちろん明後日に出発と決まったセバリオ行きの件だ。

 まずはオネルさんがセバリオ側から提示された旅程と、本日に詰めた詳細を説明してくれた。


「旅程としてはこうなるそうです。よろしいでしょうか、ケリュさま」

「行きで8日間だな。おう、了解したぞ。これは楽しみだ」

「全体の日程で、少なくとも20日間以上なのね。あなた、大人しくしていられる?」

「何を言ってるのだシルフェは。我は20年でも200年でも平気だぞ」


 平気かどうかじゃなくて大人しくしていられるか、要するに人間たちの間でちゃんと我慢出来るのかとか、妙な我侭を言わないでいられるのかですよ、ケリュさん。

 そりゃあなたなら、200年でも2000年でも平気そうですけど。


「お願いね、エステル」

「大丈夫ですよ、お姉ちゃん。わたしは長い間、ザックさまで慣れてますから、もうひとり増えるぐらいは何とも無いです」

「そうね。あなた、もしエステルを困らせたりしたら、帰ってからこのお屋敷は出入り禁止ですからね」


「心配は無いぞ、エステル。我はザックみたいに手が掛からんからな」

「わたしも居ますから大丈夫ですよ、シルフェさま。エステルさまと手分けしてふたりの面倒を見れば大丈夫ですよ」

「カリちゃんもお願いね」


 えーと、いろいろ反論したいところですが、ミーティングが進まないので止めて置きます。

 ただ少なくとも俺とケリュさんは、面倒を掛けるかどうかという点において同列に見られているということだけは、この場でもあらためて確認されています。カァ。


「わたしたち4人も居ますので、安心してください、シルフェさま」

「オネルちゃんたちもお願いします。このひとが何かしたら、ザックさんと一緒で遠慮なく叱ってね」

「はい、承知しました」


「それで、明後日のヘルクハムンへ移動ですが、こちらはヒセラさん、マレナさんとは別々に行って、向うで合流することになります。こちらは当家の馬車を出して、あとは騎馬ですね。御者役はフォルくんとユディちゃん。リーアさんは馬車に同乗。騎乗はジェル姉さん、ライナ姉さん、わたしに、ブルーノさんとティモさんも同行して貰います」


 つまり俺とエステルちゃん、ケリュさんとカリちゃんにリーアさんが馬車に乗り、レイヴンの初期メンバー5人が騎乗で行くということだ。

 その馬車とジェルさんたちが乗って行く馬は、ブルーノさんたちに王都まで戻して貰うことになる。


 ヘルクハムンでの合流場所は当地の宿で、そこはセバリオ側で予約して貰えるそうだ。もちろんブルーノさんたちも1泊する。

 王都からヘルクハムンまでは、早朝に出立してほぼ丸一日の行程。明後日は朝7時出発予定で、途中休憩を入れながら夜の7時到着なのだね。



「以上です。ジェル姉さん、確認漏れは無いですよね」

「うむ。ありがとう、オネル。あとは、いまのオネルからの説明にあったように、セバリオに到着してからの予定がどうもまだ不確かなのだ。主に先方のエルフの方だな。なので、最少限の日程は20日間だが、それよりも長くなることが予想される。従って、留守を預かる皆はそのことを心得ていてほしい。頼みますぞ、ブルーノさん、ユルヨ爺」


「了解でやすよ」

「承知ぞ。遠国への旅では、何があるかわからんしな」


「それから、シルフェさま方はいつご出発になられますか?」

「そうねぇ。あなたたちが行って、2、3日様子を見てからかしら。戻りはいちおう、あなたたちが帰る20日後ぐらいを目安にして。あと、シモーネは残して行くわ」


 シルフェ様とシフォニナさん、アルさん、クバウナさんの4人は、俺たちが旅に出ている間は風の精霊の妖精の森に行く予定にしている。


「はい、シルフェさま。シモーネも皆さんとお屋敷の留守を預かります」

「お願いね、シモーネちゃん」

「心配ないですよ、エステルさま。エディット姉さんとアデーレさんと3人で、お屋敷の方はお任せください」


 いやあシモーネちゃん、年々しっかりして来てるよなぁ。

 エディットちゃんとフォルくん、ユディちゃんのお兄ちゃんお姉ちゃんたちもそうだけど、うちの子たちはずいぶんと成長して来ました。


「ザックさま、旅の間はエステルさまや姉さんたちにご迷惑を掛けちゃダメですよ」

「はいです」


 皆が大笑いしているけど、そこで一緒に笑っているケリュさん、あなたもですからね。




 3月15日の早朝、20日間以上の旅の準備を整えた俺たちは朝食を終えて屋敷の玄関前に出た。


 20日間以上の旅の準備とは言っても、出掛ける8人と1羽の荷物はすべて2つのマジックバッグの中に納められている。

 そのマジックバッグはカリちゃんとオネルさんの肩から提げられていて、あとのメンバーはほぼ手ぶらだ。


 ほぼというのは、女性たちはそれぞれに小さな普通のバッグを持っているし、お姉さん騎士の3人は帯剣しているからね。

 ちなみにケリュさんもいつもの騎士の平時服だけど、帯剣はしていない。

 エステルちゃんとカリちゃん、それから侍女役のリーアさんは貴族女性の旅装だ。


 俺ですか? 俺はわりと普段着ですよ。いちおう春らしい衣装を着せられていますけどね。

 それから、南の国に行くということで夏服を中心に多めに用意して貰っています。これは女性陣も同様でしょう。

 このように旅の荷物の量や重さを気にしなくて良いのは、まさにマジックバッグならではですな。


 あと、クロウちゃんはいつも通りだね。カァ。まあ仕方無いじゃありませんか。

 アルさんの洞窟の甘露のチカラ水の予備を大量に、俺の無限インベントリにストックして持って行くのでそれで勘弁してください。

 マジックバッグに入れている以外のお菓子の予備もありますよ。カァ。



「ザックさま。何かあったら直ぐに、エステルちゃんが風の便りを出すか、クロウちゃんに報せに飛んで貰うか、あるいはキ素力通信をわしに向けて撃つのじゃぞ」

「カリ、最後はザックさんとエステルさんと皆さんを、あなたがお護りするのよ」


 アルさんが言った風の便りは風の精霊同士が風そのものにして送る手紙で、エステルちゃんはシルフェ様からしっかり伝授されている。これの送信先はシルフェ様かシフォニナさんだね。

 シルフェ様はニュムペ様ともこの方法でやり取りしているので、真性の精霊同士なら出来るのかも知れない。


 またキ素力通信とは、アルさんが俺たちと暮らす以前にやっていた俺とアルさんとの通信方法で、キ素力の塊に伝えたい内容を込めて撃ち出し、相手にぶつけて届けるという方法だ。

 これは強力なキ素力が必要なことと、受けるときに強い衝撃があるので、取りあえず俺とアルさんの間でしか出来ないよな。


 そのほかの遠方からの通信方法としては、ケリュさんも何か持っているのかも知れないが、天界を経由して特定の誰かに託宣を届けるとかですかね。

 この辺のことは聞いていないので分かりません。


「師匠、お婆ちゃん、わかっているから心配しないで。それに、このメンバーで対処出来ないことなんて無いわよ」

「そうじゃな、おそらくは地上最強メンバーじゃろうから。じゃが、無闇に破壊とかはせんようにな」

「あなたはどちらかと言うとザックさんやケリュさま寄りの性格だから、そこを自重するのよ」

「はーい」


 エンシェントドラゴンの爺さんとお婆ちゃんと曾孫娘の会話は、取りあえず聞いていなかったことにしましょう。


 ケリュさんとシルフェ様、そしてシフォニナさんの3人も何か話していたけど、あちらの方は良く聞こえなかった。

 最後にケリュさんの「わかっておるって」という返事が聞こえたので、また何か言われていたのですな。


 俺はユルヨ爺とミルカさんに留守中のことを頼んだ。

 ミルカさんは俺たちが出発したことを報せるため、直ぐにでもグリフィニアに戻る筈だ。


「ご留守中は何ごともブルーノさんと相談しますで、ご心配はいりませんぞ」

「グリフィニアでの調査外交局の諸事はお任せください」


 それから同じく留守を護ってくれるアルポさんとエルノさんとも言葉を交わし、アデーレさんとエディットちゃん、シモーネちゃんにも声を掛けると、いよいよ馬車に乗り込む。


「それでは行って来ます。留守をよろしくね」

「行ってらっしゃいませ」


 春の暖かな太陽が朝の王都を照らす中、俺たちは南の国へと出立した。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

引き続きこの物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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