表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/1120

第98話 秘密旅の計画

「ザックがどのようなかたちでファータの里に行くか、か。ウォルターは何か考えがあるのか?」

「はい、まずはこの話、ここにいる者以外には秘密にしなければなりません。よろしいでしょうか、子爵様」


「う、うん、そうだな。それは重要だ。余計な噂が流れるのは避けなければな」

「それもありますが、ことはファータの里の機密に関わるのです」

「それは、隠れ里の場所ということか、ウォルター」

「そうですよ、クレイグ。話を進めて行けば、自ずと隠れ里の在処ありかのことになります」


 そうだよね。俺たちの行程や日数の具体的な計画には、隠れ里がどこに在るかがポイントになる。

 この話が洩れてしまえば、長年に渡って秘匿して来たファータの隠れ里に綻びが出始めるだろう。



「ミルカ、そういうことでいいですね」

「はい、そうしていただけると。これから話し合われる内容は、今のところこの場にいる皆様だけに留めてください」

「ネイサン副騎士団長には話していいかね?」

「そうですね。騎士団は、まずは副騎士団長までということで。それから、この件はアプサラの準男爵には話しておりませんし、今後もお話することはないと思います。それでよろしいですか? 子爵様、ウォルター様」


 護衛の問題が出てくるだろうから、副騎士団長は知る必要があるだろう。

 ミルカさんが常駐している港町アプサラの代官、モーリス・オルティス準男爵はウォルターさんのお兄さんなんだよね。

 でもあの人、凄くおしゃべりだし。まあ、事後に話すのだろうな。



「それでいいだろう。では話を進めてくれ」

「はい子爵様。では、まずは私どものファータの里の場所です。ご想像されている方もいらっしゃるかと思いますが、リガニア地方の南部になります」


 やはりそうだった。

 昨年に俺が想像していた通り、セルティア王国から東に北方山脈の峠を越えた先、リガニア地方にあるんだね。


「これはあくまで、私どもの、ということであとはお察しください」


 ファータの里は複数あると、これも以前に聞いた覚えがある。

 しかしその里の数も、もちろんどこに在るのかも、ファータ人以外は誰も知らない。



「それで、私どものファータの里への道筋ですが、王国のエイデン伯爵領から北方山脈を越える峠道の頂点より、徒歩で普通に行けば4日から5日、早駈けで走り続ければまる1日の距離とお考えください」


 グリフィン子爵領から王都方向に南に行くと、隣はアン母さんの実家であるブライアント男爵領だ。

 そこから東に、子爵領をひとつ挟んで次にあるのがナサニエル・エイデン伯爵の伯爵領。

 この伯爵領は北方山脈の麓の貴族領のひとつであり、峠道を通って山脈を越えリガニア地方に至る起点でもある。

 ほかにも山脈を越える街道の起点はいくつかあるそうだが、エイデン伯爵領がグリフィン子爵領からいちばん近い。


 ここから峠を越える山道の街道を行き、その最も標高の高い地点から徒歩で4日、早駈けでまる1日の距離か。

 時速4キロで、こちらの人は長ければ1日10時間は歩くから、4日だと160キロぐらい。

 時速18キロで走り続ければ、正味9時間弱ということか。

 走って行くかな。



「なるほどな。それでウォルターの考えはどうなのだ?」

「はい、これは今ざっと考えたものなのですが、まずはザカリー様に目立たぬようにごく少数の護衛を付け、エイデン伯爵領から峠の街道まで行っていただきます。お隣のブライアント男爵領までは良いのですが、その先は旅の商人を装うのがよろしいかと」


 今ざっと考えたとか言ってるけど、これ絶対に前から考えてるでしょ、ウォルターさん。


「そして山道に入りましたら、途中で馬車を降りていただきます。昨年からのリガニア地方での紛争により、現在、峠の国境は監視が強化されている状態ですので、万が一に備え間道を抜けて峠を越えます。降りた後の馬車の回収は別の者にさせ、また間道とその先の里までの道案内は、ここにいるミルカにして貰いましょう」


 ウォルターさんの計画に、それぞれが考えを巡らせた。



「セルティア国内は治安が良いが、それでも何が起こるかは分からない。ましてや峠を越えた先は。ウォルターは少数の護衛と言ったが、具体的にどの程度なんだ?」

「ザックとエステルさんだったら、盗賊とかぐらいなら、ふたりでれちゃうわよねー」

「そう言うがな、母さん」


「はっはっは、確かに奥様の言う通りですな。ですが多人数や不意を衝かれてなど、ふたりでは対処出来ない場合もあり得ますので、少なくとも2、3人は付けておかないと」

「そうすると、一昨年の大森林での探索に付けたメンバーが良いかな、クレイグ」

「そうだなウォルター。彼らならザカリー様たちとの連携もうまいと聞いているしな」


 おじさんふたりで、どんどん話を進めます。

 阿吽の呼吸なのか、ある程度相談済みなのかは分からないけど、ホントに食えないおじさんたちだ。

 まぁ俺には、異存は全然ないんだけどね。

 あの時の臨時パーティ名レイヴンで行けるならベストだ。

 剣士に斥候職に魔法職とバランスがいいし、なかでもブルーノさんがいれば安心感が高まる。



「あの、ミルカさん。ちょっと質問ですが、2、3人とはいえ、騎士団から護衛が一緒に里まで行くのは問題ないんですか?」

「そのことですね。その点については里長さとおさも里の主立った者たちと協議したようです。ザカリー様がいらっしゃるのなら、当然に護衛がいるだろうと」

「そうですよね」


「それで、護衛がいるのはいたしかたないが、極力少数にして、絶対他言無用を誓わせ、すべての責任を子爵家と騎士団で持ってくれと」

「それは尤もな話だ。すべての責任は騎士団長の名にかけて私が持つ。よろしいですか、子爵様」

「そうだな、秘匿や現地での行動の責任は、私と騎士団長ですべて持つ。それでいいな?」

「はい、充分です子爵様、クレイグ様」



 そうやって具体的な話が進んで行く。

 俺の隣に座っているエステルちゃんは、緊張したりほっとしたり、驚いたり喜んだりと、話の進み具合を黙って聞きながら、くるくると表情を変えていた。

 しかし途中からは、何か真剣に考える表情で、いつの間にか俺の手を強く握っていた。


 それに気がついた母さんが、話が一段落したところで声を掛ける。


「どうしたの、エステルさん。大丈夫?」

「は、はい、奥さま。もとはわたしの帰省の話だったのに、わたしがひとりで帰るのをウンて言わなかったから、どんどん大事おおごとみたいになって、それでちょっと怖くなって……」

 そう言いながら、エステルちゃんの大きな両目からは、ぽろぽろと大粒の涙が溢れて出てきた。


「あらあら、泣き虫のアビーがいなくなったら、今度はあなたが泣き虫さんになっちゃったのね。これはね、始まりはあなたの帰省の話だけど、もうあなたとザックの話なのよ。ザックが生まれて初めて、大きな旅をするの。あなたと一緒にね。だからふたりで、何があっても強い気持ちで、力を合わせなければいけないのよ」

「はい、わかりました。ありがとうございます、奥さま」



「それと、ザック」

「え、なに?」

「あなた、ハンカチぐらい持ってないの? 隣で女の子が涙を流してるのに、なぜすぐハンカチが出て来ないのかなぁ」


 えーと、たしかエステルちゃんが、ズボンのポケットにハンカチを入れてくれてたよね。

 それから、そっちのおじさんたち。笑いを堪えてるんじゃないですよ。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エステルちゃんが主人公の短編「時空渡りクロニクル余話 〜エステルちゃんの冒険①境界の洞穴のドラゴン」を投稿しています。

彼女が隠れ里にいた、少女の時代の物語です。


ザックがザックになる前の1回目の過去転生のとき。その少年時代のひとコマを題材にした短編「時空渡りクロニクル外伝(1)〜定めは斬れないとしても、俺は斬る」もぜひお読みいただければ。


それぞれのリンクはこの下段にあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ