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プロローグ1 〜俺は二度死ぬ

 明け方のまどろんだ半覚醒の意識のなかで夢?を見た。


 塀に囲まれたそこそこの面積がある広場のような場所。俺は、その広場を目の前にして、背後の建物の広縁に取付けられたきざはしに膝を立てて腰掛けている。

 ん、広縁にきざはしって何だ?

 あぁ、武家屋敷にあるような部屋の外の縁側に、庭に降りる階段ってことか。

 ってことは、ここは広い中庭のようなところか。そういえば、目の前の向こう側にこの中庭に入れる扉の閉まった門があるな。


 何だか、遠くから獣の咆哮をいくつも重ねたような音が聞こえてくる。

 そんな大勢の人間の怒号が近づく。

 するとその門の扉から、外からなにか大きな道具で叩かれているように、ドンドンと音が響き出す。

 あー、これは扉が破られるな。こりゃいかんなー。魔のものでも来たかなー。いや人間だなー。敵なんだよなー。

 座っている俺の両側を、ばらばらと何人かの若い侍が扉に向かって走り抜ける。手には抜き身の刀や槍を持って。何人だ、7人か。少ねーな、そりゃここにいるのは俺の近習と小姓だけだもんな。

 ん、近習と小姓? あー、俺の直近の部下ことだよ。

 部下たちは門扉と少し距離を空け、刀や槍を構えて半円に囲んだ。


 突然、どーんと扉が破られ、槍を手にした足軽どもが雪崩れ込んで来た。

 俺の近習たちも、防衛のためにそいつらに武器を向ける。

 さて、俺もそろそろ行くか。

 俺が右前方の空間に目を向けると、そこにインベントリのリストが現れる。そう、俺には誰の目にも見えないインベントリがあるんだよ。たぶんこの世界で俺だけの? 持ち主の数少ない不思議な能力。仮想化された収納空間は無限で、時間の概念もない。

 いや、この切迫した時に詳しい説明はいいか。


 さて、どれにしようか。まずはこいつかな。

 空間に投影されているように頭の中に浮かんだリストに表示されたのは、何本もの太刀や刀の名前だ。どれも名のある逸品。いわゆる名刀ってやつ。それが俺のインベントリに大量に収納されている。

 そのうちの1本を頭の中で念じると、瞬時にその刀が俺の右手の前に現れ、俺はその柄を握る。

 大典太光世おおてんたみつよ。平安時代後期に刀工、初代典太光世によって鍛えられた太刀。刃長は約65センチメートル。身幅も広く頑丈。俺の家に伝わる宝刀だ。

 このあと持ち主が豊臣秀吉、前田利家と移り、未来へと受け継がれていくが、実はあれはコピーだ。偽物ではないよ。いま俺が手に持っているものとまったく同じコピー。これが真実。だって俺がコピーしたから。

 なんでそんなことができて、未来のことも知っているのかって。いやいや、ホントに事態は切迫してきていて、その詳しい説明もあとだ。


 もう抜けて来やがった。

 中庭に入って来る足軽よりも、当然ながら俺の部下たちの方が遥かに強いのだが、なにせ人数が違う。

 敵を倒すたびに倒れた足軽によって前の足場が塞がれ、それを踏み越えるように押し寄せる敵の圧力で、部下たちは少しずつ後ずさりするしかない。なにせ7人しかいないから、敵を囲む間隔が広がり、その間を勢いで突破して抜けて来たのだ。

 ふーん、では行くか。

 大典太光世の柄を握り直すと、俺の方に走って来る何人かの足軽に向かってダッシュする。その距離は20メートルほどか。しかし辿り着くのは一瞬だ。

 驚いたように目を見開く何人かの敵を払い、突き、あっと言う間に8人ほどを倒した。


「あっ、大樹!!」

 部下たちの声とその瞬間の弛みに、さらに何人かの敵が中庭に踊り込む。こんどは武者か。距離を空けた俺に向かって散開しながら、囲むように奔り寄って来る。

 なるほど正面からぶつかることしかできない足軽と違って、俺の横や後ろを取ろうということか。しかし、まだまだ余裕だな。

 正面に槍2人、左右に刀2人、後ろに回り込もうとする刀のひとり。瞬間に5人を感知し同時に動きを把握する。そして俺に向かって動き出そうとする奴を順番に、後の先でそれぞれ一刀に斬り捨てる。

 俺の刀には武者鎧の固さなど関係ないが、それでも血糊や脂はつくんだよなぁ。

 それを拭う余裕もなく奮戦する部下たちの方を見ると、すでに迎え討つ位置取りは崩れてバラバラになり、何人もの敵に囲まれていた。


 俺は大典太光世をインベントリに収納すると、別の刀を取り出す。今度は童子切安綱どうじきりやすつながいいかな。

 刃長80センチメートルの太刀で、平安時代に源頼光が大江山の鬼、酒呑童子の頸を斬り落としたものだという。これも我が家の宝刀で、やはり秀吉から徳川家、松平家、そして博物館行きとなるわけだが、それがやっぱり俺の作ったコピーなのは……。

 まーともかく、大典太よりも長さのある童子切で、部下たちを囲む敵の武者や足軽を薙ぎ払って行く。


 しかし、門から次々に敵が湧いて来るなぁ。

 うーん、俺ひとりじゃ手数に限度があるし、7人の部下たち、俺の近習と小姓は全身に無数の切り傷を受けてもう限界が近い。

 その後、血糊と脂で童子切安綱の斬れ味が鈍ってくるとインベントリに収納して、再び別の新たな刀を出して敵を斬り伏せ、更に新しい刀に替えて斬り払いを繰返す。もうきりがないよ。これ、敵NPCの無限湧きイベント??

 後世の伝承だと、畳に何本もの名刀を突き刺しておいて、斬れ味が鈍ると引き抜いて替えながら敵を斬ったというものがあるそうだけど、いま俺がやっていることが真実だよ。うまく間隔を空けて部屋中の畳のあちこちに、抜き身の刀を刺して回るヒマなかったし。


 どんな出来事にも終わりの時間は来る。終息のない無限に続くイベントなんてないんだよ。

 俺の周囲には誰も踏み入れがたい空間ができているが、その向うでは奮戦空しく7人の部下たちが倒れている。

 そして槍や刀を構え、俺を伺うように見つめる何十人もの敵NPC、いや敵の武者や足軽ども。

 武将らしき者の大音声の掛け声が聞こえ、それを合図に全員が俺に向かって突進を始める。

 そろそろか。

 俺は背後の建物の中に飛び込む。屋敷の者たちは、もう逃がし終えていて誰もいない。大広間の奥に走り込み、振り向いて刀を構え屋敷内に突進する敵に相対する。

 足軽どもが俺の立つ周囲の畳を床から立ち上げ、盾のようにして、これで刀を振るえまいと俺の四方を囲む。まーそうなんだよね。畳1枚ぐらいなら普通に両断できるけど、2枚重ねて厚くしてるし。それに畳を両断したとしても、今さら切所を断てるわけでもないし。



 四方の畳の盾の外側から何人かの槍武者が隙間を狙って、あるいは畳を刺し抜こうと同時に槍を突き揮う。何本もの槍の穂先が交差したであろう、畳に囲まれた俺のいる小さな空間。やがて血塗られた槍が引き抜かれ畳の盾が取り払われると、まるで箱の中から人が消失するイリュージョンのように、そこには誰もいなかったのだった。

 ぽつんと落ちていたのは短刀。おそらくは護り刀。それはよくあるお話での迷宮の魔物からのドロップ品のように、血の跡もないきれいな畳の上に置かれていた。

初投稿です。

お読みいただき、ありがとうございます。

よろしかったら、この物語にお付き合いいただき、応援してやってください。

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